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タイ北部発!タムルアン洞窟の遭難事故が衝撃の結末?

今にも垂れ落ちてきそうな鍾乳洞の天井

2018年6月23日にサッカーチームに所属するタイ人の少年たちがタイ北部のチェンライ県郊外に位置するタムルアン洞窟に入り、浸水のために出られなくなる事故が発生した。後に世界的なニュースとなり、多くの関心や援助を集めた。果たしてその結末はいかに。

少年たちが洞窟に入った理由

川辺でサッカーをして遊ぶタイ人の子どもたち

タムルアン洞窟近辺には鍾乳洞が点在し、タイ*1国内外からの観光客でにぎわう人気の観光地だ。地元住民にとっては観光産業に関わる重要拠点の一つ。地元の子どもたちにとっては絶好の遊び場として頻繁に訪れる場所ともなっている。

タムルアン洞窟入り口には「立ち入り禁止」の看板があるものの、冒険心で洞窟の深奥まで足を踏み入れることも絶えずあるようだ。2018年6月23日は地元少年サッカー*2チーム*3「ムーパー」の一員の誕生日とあって、チーム全体で洞窟内に入り込んで祝うことを計画していた。

少年たちの遭難と発見までの経緯

いずれにせよ、地元の人間がタムルアン洞窟に入ることは日常茶飯だったわけだ。しかし、異例だったのは少年たちとコーチ*4が洞窟に入った後、豪雨の影響で大量の浸水が起きたことだった。一同は帰路をふさがれ、奥へ奥へと退避せざるを得なかった。そして、最終的には入り口より相当進んだ地点にとどまることを余儀なくされてしまった。

地上では何日も家路に就かない息子を心配した家族が警察に通報。すぐさま捜索隊が結成された。そして、一同の自転車がタムルアン洞窟入り口付近にあるのを発見された。当初は洞窟内の捜索を行ったが、浸水により洞窟内部への侵入が不可能だと判断された。そこで、周辺の捜索が重点的に行われたそうだ。しかし、発見には至らず、タイ国内外から集結した潜水士による洞窟内捜索に切り替わった。

そして、少年とコーチたちが洞窟に侵入してから9日後に当たる7月2日夜。英国人の潜水士2人によって全員の無事が確認された。最終的な発見場所は洞窟の入り口からなんと約5キロ*5も離れた場所であった。

洞窟内で直面する危機

鍾乳洞の内部は急勾配だったり、稲妻形だったりしているので、往来の際に滑落する危険も伴っていた。加えて、洞窟には継続的な浸水の可能性をはらんでおり、水位が増すと救出どころか救助隊の二次災害も懸念された。

そもそも洞窟内の救助は真っ暗闇の中で実行されるため、方向感覚を失いかねない。進行方向どころか上下左右さえ分からなくなってしまう命懸けの任務である。

要救助者も長時間にわたって暗闇の中に閉じ込められた結果、絶望や恐怖から来る精神的な重圧とも戦い続けなければならない。さらに、洞窟内は低酸素状態に苦しむだけでなく、外気より低い気温による低体温症やコウモリを媒体とした病原菌から感染症罹患(りかん)も有り得る。そのため、救出隊の救出方法に関しては多角的な議論が行われた。

至難の業である救出と潜水士のご逝去

外光が差している鍾乳洞の入り口

当初地質学の専門家の見解ではタムルアン洞窟は石灰岩*6でできており、進入口とは別に出入り口があるはずだと予想された。従って、浸水している入り口まで戻るのではなく、別に空いている穴からの脱出を促す計算だった。ところが、広大無辺の森林に覆われた山腹でタムルアン洞窟への新たな「非常口」を発見するのに困難を極めた。

そして、7月6日に洞窟内で継続的に救出活動を行っていた元特殊部隊員の潜水士サマン・グナン氏が、洞窟内の少年たちに酸素ボンベ*7を運搬する任務を果たし、戻る最中に酸素不足で命を落としてしまった。血へどを吐くような過酷な訓練をも突破してきた元特殊部隊出身者の落命。それは熾烈(しれつ)を極める環境下での救助がいかに困難かを改めて浮き彫りにする形となった。

この痛ましい事故を受け、救出チームは酸素不足に備え、移動経路にボンベを常設するなどの改善を加えた。さらに、詳細な作戦を練り直して実行することになった。人員も増強されて最終的に作戦本部はタイ海軍の特殊部隊員や国外の潜水士らの総勢90人体制に拡大された。勇敢なサマン・グナン氏の殉職は決して無駄にならなかったのだ。

念願の救出

雨期のタイは雨量が激増するため、速やかな救出計画の決行が議論された。そして、7月8日から3日間にわたり、大規模な救助作戦が実施され、サッカーチームのコーチを含む全員が無事に生還した。当局によると、救助隊に発見されるまでの9日間、生存者たちは洞窟の壁面から落ちる水で生き延びていたそうだ。

タイ北部という山岳地帯も手伝ってか、ダイビング*8経験はおろか水泳も得意でない少年たち。2人1組の潜水士に体をくくり付けて水中を移動し、歩行ができる場所は担架で搬送されたという。その後県内の県庁所在地があるチェンライ市内の病院で回復処置を受けた。

タイ人の世論

山積みにされた新聞紙

タムルアン洞窟関連のニュースは連日報道され、地元のチェンライ市でもたくさんの人々が固唾(かたず)をのんで見守った。そして、7月10日の全員脱出の吉報が届いたとき、市内に往来する四方八方の車からクラクション*9を鳴らして喜びを表したのだ。

子どもたちが病院に搬送された際には集まっていた人たちに拍手で歓迎された。さらに、タイ国内の会員制交流サイト(SNS*10)では「#Heroes」や「#Thankyou」などのハッシュタグ*11を使い、大部分が一同救出の報を興奮気味に語っていたようだ。行方不明者全員の生還と救援チームの知勇ある救出劇にタイ中がわき踊ったのだ。

批判的な意見

一方、洞窟には「立ち入り禁止」の看板があり、救助隊に死亡者が出たため、会員制交流サイト(SNS)やウェブサイトに一部批判的な意見も見られた。自己責任を詰問する向きや税金と時間の無駄遣いなる批判的な意見も散見された。しかし、それらの意見を述べたのは全体的に見ればごく少数派だったようだ。

まとめ

ぽっかり口を開けてる洞窟

ほとんどの地元タイ人が災害の被害者を想像できずに日常生活を送っていたはずだ。ある意味知り尽くした近所の洞窟で、命を脅かす危険に見舞われるとはゆめゆめ予想しなかったはずだ。

数々の支援や応援によって「13人の命」は救われた。人々は救出劇に高ぶり、洞窟から生きて帰ってきた少年たちを歓待した。周囲の対応からタイ人の気質として語られる「寛容さ」をここかしこで感じさせられる一連の遭難事故でもあった。

非命の死を成した潜水士サマン・グナン氏。自らの身命を賭して救援の手を差し伸べた姿勢に強い感銘を受けた。この誉れ高き犠牲がなければ奇跡の救出はなかったかもしれない。われわれは「14人の命」から「尊い命は何物にも代え難い」ことを学ばされたはずだ。

サマン・グナン氏のご英霊に心よりご冥福をお祈り申し上げたい。

九死に一生を得た13名は玉砕した勇士サマン・グナン氏の分まで大切に命を生きてもらいたい。

*1:【Thai・泰】(Thailand)インドシナ半島中央部にある王国。旧称シャム。13世紀以後タイ人の国が起こり、先住のモン人・クメール人などを合わせ、1782年現ラタナコーシン王朝が成立、1932年立憲君主制。面積51万3000平方キロメートル。人口6598万2千(2010)。国民の大多数が仏教徒。首都バンコク。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*2:【soccer】フットボールの一種。11人ずつの二組が、ゴール‐キーパー以外は腕や手を使わずに、ボールを蹴り、また頭で打って、相手方ゴールに入れて、一定時間内での得点を争う。蹴球(しゅうきゅう)。ア式蹴球。アソシエーション‐フットボール。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*3:【team】二組以上に分かれて行う競技のそれぞれの組。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*4:【coach】競技の技術や戦術などを指導すること。また、それをする人。コーチャー。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*5:【kilo】(1000の意のギリシア語から)キログラム・キロメートル・キロリットル・キロワットなどの略。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*6:堆積岩の一種。炭酸カルシウムから成る動物の殻や骨格などが水底に積もって生じる。主に方解石から成り、混在する鉱物の種類によって各種の色を呈する。建築用材または石灰・セメント製造の原料。石灰石。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*7:【Bombe(ドイツ)】圧縮された高圧の気体を入れておく円筒形容器。普通、圧力計が装置され、内部の圧力を示す。液体の貯蔵用ともする。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*8:【diving】水中にもぐること。潜水。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*9:【klaxon】(製造会社名クラクソンに由来)電磁石の作用で鳴らす自動車などの警笛。クラクソン。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)」

*10:(social networking service)インターネット上の会員制サービスの一種。友人・知人間のコミュニケーションを円滑にする手段や、新たな人間関係を構築する場を提供する。企業や政府機関でも情報発信などに活用される。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*11:【hash tag】〔ハッシュは #(番号記号)のこと〕ツイッターにおいて,特定の話題であることを示すためにコメントに追記する目印(# で始まる文字列)のこと。これを検索すると,話題に関連するコメントのみ閲覧できる。今聞いている曲の話題を示す「#nowplaying」など。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)