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13年ぶりにハイラックス復活!歴史とサーフの動向も探る

斜め前方から見た青色の8代目トヨタ・ハイラックス

2017年10月16日に日本で13年ぶりにトヨタ・ハイラックスが発売された。通算8代目となる新型はタイからの帰国子女である。実用車からレジャー用に、プラドへの吸収。そして、グローバル戦略車化など七色の変遷を遂げてきたハイラックスをご紹介したい。

記憶に残る過去のハイラックス

斜め前方から見た白色の初代トヨタ・ハイラックス

過日三菱・デリカについてご紹介した。これと同じく「トヨタ・ハイラックス」と言えば、1980年代から1990年代に人気を博した4WD*1仕様とハイラックスサーフが代表格であろう。まずは初期のハイラックス4WDの登場から現在に至るまでの経緯をざっと追ってみたいと思う。

ハイラックス自体の登場は1968年までさかのぼる。初代は1・5Lから1・6Lのエンジンを搭載する小型ボンネット*2トラック*3であり、駆動方式は後輪駆動である。この初代ハイラックスは印象が薄いかもしれないが、テレビドラマ「北の国から」で田中邦衛氏が扮(ふん)する黒板五郎が愛用していたモデル*4である。

ハイラックスに4WDが登場したのは2代目となった翌年の1979年である。この初代ハイラックス4WDは人気に火が付く次期モデルまで、前後板ばね式リジッド*5サスペンション*6が用いられていた。これにより、特にショート*7ボディー*8・シングル*9キャブ*10のモデルは三菱・ジープやスズキ・ジムニーといった本格4WDと遜色のない悪路走破性を備えていたことが印象深い。

ハイラックス4WDの人気を決定的にしたのが、1984年に発売された「ハイラックスサーフ」である。1982年に登場し、当時の4WDブーム*11に火を付けた三菱・パジェロを猛追する形での登場であった。パジェロやいすゞ・ビッグホーンがジープ型4WDから派生したのに対し、ハイラックスサーフはボンネットトラックからの派生であり、外観上の差別化は随分大きかった。

初期のハイラックスサーフは2ドアのハイラックス4WDの荷台部分にFRP*12シェル*13を架装して5人乗りとし、リア*14ゲート*15は下ヒンジ*16で開閉、リアウインドー*17は電動で上下開閉するものであった。4ナンバーおよび5ナンバー枠ながら躍動感のあるデザイン*18で、今なお色あせない。初めから乗用車的感覚の強かったハイラックスサーフは1985年に乗り心地向上のため、やや駆け足で前輪リジッドサスペンションを捨て、ダブルウィッシュボーンとなっている。

当時トヨタの本格4WDの陣容はランドクルーザー60系と70系があったが、いずれも「トラック然」としたもので、維持費や税金の面でも一般受けはしていなかった。ランドクルーザー70系にはハイラックスサーフと同じ2・4Lディーゼル*19を搭載し、パジェロの追い上げを狙った「ランドクルーザーワゴン」も1984年から販売された。しかし、デザインはあか抜けしない70系そのものであり、人気は出なかった。当時トヨタ本格4WDで一番の立役者はハイラックスサーフであった。

1990年代のハイラックスと販売中止まで

斜め前方から見ただいだい色の初代トヨタ・ハイラックスサーフ

1982年ごろから始まった「4WDブーム」をひもとくと、購買者の大部分は当時のお父さんたちであった。4WDで子どもを連れてキャンプ*20をするが憧れの的となった。しかし、お父さんたちは特段車に詳しいわけでもなく、ジープやランドクルーザーでは敷居が高過ぎる上に、家族を乗せるには快適さに欠ける。そこへ登場してきたのが、当時としての「ライトクロカン」なるパジェロやハイラックスサーフであったと言えるだろう。

4WDブームは若者にも飛び火した。幅広タイヤ*21に車高を上げる改造を施し、都内を走るのが一時期流行した。これに製造元であるメーカー*22がなびいたのが当時の風向きである。1989年には法改正され3ナンバー枠でも税金が割安となったことも手伝い、メーカー自身が幅広タイヤをこぞって採用していくこととなる。元来ハイラックスやハイラックスサーフも5ナンバー枠に収まる215ミリ幅の15インチ*23タイヤを装着していた。これが有用性のない流行に追従したため、265ミリ幅程度の16インチタイヤをオーバーフェンダー*24で覆う仕様が一般的となっていってしまったのである。

もちろん家族で乗るにはハイラックスサーフの2ドアは不便であった。よって、1989年の全面改良の際に4ドア版も登場し、屋根はFRPではなく通常の鉄パネル*25となった。5ナンバーボディーも残されたものの、人気はこの出で立ちに例の幅広タイヤである。ランドクルーザーワゴンも1990年に初めて「プラド」と名乗り、こちらも1996年に前輪がダブルウィッシュボーン化されている。

このようにハイラックスサーフはボンネットトラックからライトクロカンへ、ランドクルーザープラドもジープからライトクロカンへと双方が歩み寄った。揚げ句の果てには購入希望者から「双方の違い」を尋ねられる始末だった。

そして、2009年にハイラックスサーフはランドクルーザープラドに吸収される形で国内販売を終了した。ベース*26モデルであったハイラックスはひと足早く2004年に一旦終止符が打たれている。

13年ぶり国内復活のハイラックス

後方から見た青色の8代目トヨタ・ハイラックス

13年ぶりとなる2017年10月16日に国内で復活したハイラックスが話題となった。ハイラックスは日本国内で幕引きした後も海外では販売が継続されてきた。7代目としてのハイラックスは2004年に登場しているが、この代から存在意義が変わっている。トヨタが2002年に発表した新興国向けのIMV(Innovative International Multi-purpose Vehicle)プロジェクト*27の主軸となる車種に据えられたのだ。IMVに関しては別途触れたのでここでは割愛するが、このIMVの2世代目となる8代目ハイラックスが、日本へ帰国子女として戻ってきたことになる。

国内市場を無視して開発された新型ハイラックスは何しろ大きく重い。初代ハイラックスサーフが登場したころの4代目ハイラックスと外寸を比べると一目瞭然である。

  8代目新型ハイラックス(Z) 4代目ハイラックス(SRショートボディー)
全長 × 全幅 × 全高 5,335 × 1,855 × 1,800mm 4,435 × 1,690 × 1,765mm
ホイールベース 3,085mm 2,605mm
車両重量 2,080kg 1,320kg

実はこの新型ハイラックスの外寸はトヨタ・FJクルーザーより70センチも長く、5センチだけ幅が狭いサイズ*28になっている。国内では駐車場の白線をはみ出てしまうような新型ハイラックスであるが、新興国では依然として高い人気だ。新興国では専ら過酷な実用向けと思いきや、ファッション*29性重視の乗用車として使用する向きが圧倒的多数となっている。

IMVプロジェクトは一つのシャシー*30から複数の車種を作り出すことが趣旨であるが、新型ハイラックスの架装車であるハイラックスサーフに相当する「フォーチュナー」という車種も先代から存在する。特に先代のフォーチュナーに至っては外観にハイラックスサーフっぽさすら色濃く出している。

まとめ

斜め前方から見た白色のタイ版トヨタ・フォーチュナー

ハイラックス4WDは元々実用的なトラックであった。ハイラックスサーフが登場した1983年当時には181万7000円(2・4Lディーゼル)の新車価格だったハイラックスサーフに対し、ハイラックスならダブルキャブでも30万円も安い152万1000円(2・4Lディーゼル)で購入できたのも魅力の一つとなっていた。

余談になるが、この2・4Lディーゼルは自然吸気が2L型、ターボ*31が装着されたものが2L-T型と名付けられていた。国産初の乗用車用ディーゼルの発展形であるが、ターボ付きであっても競合車に対して非力感があり、当時から世評は高かったとは言えない。1993年に3・0Lの1KZ-TE型インタークーラー*32付きターボに換装し、一気に動力性能が高まった。

この度発売された新型ハイラックスであるが、旧型を作業目的で現在も使用している人が約9000人おり、そこから新車販売への要望が挙がったそうだ。しかし、いざふたを開けてみると、初月の受注は30代、60代の富裕層が主だった。

心待ちにしていた人たちの期待を新型ハイラックスが裏切ってしまった感は否めない。なぜなら、13年間日本を離れていたハイラックスはすっかり変わっていたからだ。作業目的であったとしても、日本の山間部において、ここまで大柄な車体に利点を見いだせるだろうか。

価格面でも復活を遂げた新型ハイラックスは326万7000円~374万2000円までとなっている。1983年当時と比べると、2倍以上の新車価格となっている。

新興国で販売中である新型ハイラックスの姉妹車「フォーチュナー」をハイラックスサーフの名の下に日本国内へ導入は可能だ。しかし、このフォーチュナーにしても、現行のランドクルーザープラドに対し、差別化した魅力を発掘できるかは疑問である。

日本車でありながら、その思想はグローバル*33な基準で設計されており、既に日本の国土にはそぐわないのは明白である。歯にきぬ着せぬ物言いをすれば、このようなモデルに対して「復活した」と大げさに歓迎すべきではないはずだ。なぜなら、国内で磨き上げた「純良な製品」を世界に発信していくのが最良だからだ。海外からのお裾分けを消費者が手招きして依存度を漸増させるようなら、日本の自動車市場が軽視される危機意識を忘れてはいけない。

小柄なのに完成度が高く、燃費も使い勝手も抜群。こういった魅力を武器に、かつて世界を席巻した日本車に自信を持って成長させてほしかった。つまり、実用車であるハイラックスは4ナンバー枠に収まってしかりなのだ。

札束は財布に収まりきらないくらいに、いくらでも膨らんでほしいものだが。

(出典:トヨタ自動車株式会社

*1:(4 wheel drive)前後4輪すべてに駆動力を配分する構造。また、その機構を持つ自動車。高速走行・悪路走行に適する。四駆(よんく)。四輪駆動。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*2:【bonnet】自動車の前部の機関部のおおい。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*3:【truck】貨物自動車。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*4:【model】型。型式(かたしき)。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*5:【rigid】固定していること。動かないこと。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*6:【suspension】車輪に車体を載せ付ける装置。路面の凹凸を吸収し、車体の安定性、乗り心地をよくする。懸架装置。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*7:【short】短いこと。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*8:【body】車体。機体。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*9:【single】単一。一人用。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*10:【cab】機関車・トラックなどの運転室・運転席。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*11:【boom(アメリカ)】ある物事がにわかに盛んになること。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*12:(fiber-reinforced plastics)繊維強化プラスチック。ガラス繊維・炭素繊維などをプラスチック中に分散させて強化・軽量化した材料。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*13:【shell】(建物・車・船などの)骨組み, 外壁./出典:ウィズダム英和辞典 第三版(三省堂 2013年)

*14:【rear】後ろ。後部。リヤ。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*15:【gate】門。出入口。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*16:【hinge】開き戸・蓋などに用いる金具。両片から成り、一片は枠に、他片は戸などにうちつけて開閉できるようにするもの。ちょうばん。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*17:【window】窓。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*18:【design】意匠計画。製品の材質・機能および美的造形性などの諸要素と、技術・生産・消費面からの各種の要求を検討・調整する総合的造形計画。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*19:【diesel】ディーゼルが発明した内燃機関。空気をシリンダー内でピストンにより急激に圧縮して高温とし、そこへ燃料を細孔から噴射して、自然に点火爆発させる。空気噴射式と無気噴射式とがある。船舶用・車両用・航空機用・発電用などに広く使用。重油機関。ジーゼル機関。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*20:【camp】野営。テントの仮小屋。また、テントを張って泊まること。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*21:【tire; tyre】車輪の外囲にはめる鉄またはゴム製の輪。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*22:【maker】製造者。特に、名の知られた製造業者。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*23:【inch・吋】ヤード‐ポンド法の長さの単位。1フィートの12分の1。2.54センチメートル。記号 in/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*24:【fender】自動車の泥よけ。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*25:【panel】鏡板。羽目板。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*26:【base】土台。基礎。基本。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*27:【project】企画。研究計画。開発事業。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*28:【size】大きさ。寸法。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*29:【fashion】はやり。流行。特に、服装・髪型などについていう。また転じて、服装。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*30:【châssis(フランス)・chassis(イギリス)】自動車などの車台。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*31:【turbo】過給器の一種。排ガスのエネルギーを利用する過給器。排気タービン過給器。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*32:【intercooler】中間冷却器。流体を加熱する過程で冷却する装置。特に,気体の連続圧縮過程の冷却装置。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*33:【global】世界全体にわたるさま。世界的な。地球規模の。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)