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アルファロメオ・ステルヴィオからSUVを新たに例証する

前方から見た赤色のアルファロメオ・ステルヴィオ

アルファロメオ初のクロスオーバーSUVであるステルヴィオが2018年6月25日に国内発売となる。月並みなせりふだが「お前もか」である。クロスオーバーSUVながら舗装路での走りに注力したステルヴィオ。その特徴を「SUV感」とともにご紹介したい。

ステルヴィオの特徴

雪山を走る斜め前方から見た白色のアルファロメオ・ステルヴィオ

赤い十字架に大蛇のエンブレム*1を持つアルファロメオ。1910年を起源にイタリア*2で設立された自動車製造会社である。フィアットを改造してレース*3に挑んだアバルト同様に、アルファロメオもレース畑出身であるが、アバルトよりも歴史は一層古い。創業の翌年に当たる1911年からレースに参戦してきた経緯がある。その後経営不振にも陥ってしまったアルファロメオだが、1986年にフィアットが買収した。

以降フィアットのブランド*4として存在するアルファロメオは「高級感を併せ持つ硬派なスポーツ車」なる路線で市場を開拓している。マツダとの協業により2016年に発表されたロードスターのシャシー*5を持つ「124スパイダー」も話題となった。当初アルファロメオの1車種としての発売が計画されていたが、最終的にフィアット名での発売に落ち着いた。

アルファロメオ初となるクロスオーバー*6SUV*7「ステルヴィオ」は同社のスポーツセダン「ジュリア」と共通のシャシーを用いて開発された。ジュリアには1962年~1977年までの初代モデルに加え、2015年に復活した2代目がある。ステルヴィオのベース*8は言わずもがな後者となる。

国産車に半ば強引に当てはめるなら、初代ジュリアは「いすゞ・ベレット1600GT」で、2代目ジュリアは「スバル・WRX S4」のようなスポーツセダン*9の味付けとなる。ただし、車体外寸はジュリアの方がWRX S4よりも一回り大きい。

ジュリアをベースとしたステルヴィオは全高が245ミリ高くされ、それに伴って運転席の着座位置も190ミリ高い。クロスオーバーSUVの雰囲気を演出するため、サスペンション*10もジュリアより長くされている。国産クロスオーバーSUVにはない特徴を持つステルヴィオだが、特記事項を下記に挙げてみよう。

  1. 縦置きエンジンによる4輪駆動車
  2. 2・0L*11直列4気筒 マルチ*12エア 16バルブ*13 インタークーラー*14付きツイン*15スクロール*16ターボ*17エンジン搭載
  3. 2・9Lターボガソリン搭載のクアドリフォリオは市販SUV世界最速

このように舗装路での高い動力性能が特長のイタリアの峠道を車名としたステルヴィオ。4輪駆動システム「アルファ ロメオ Q4」は最大で前輪50%、後輪100%のトルク*18配分を自動制御する。通常走行時は後輪駆動で、空転を感知すると前輪にも駆動力を配分していくシステム*19だ。2・9Lエンジンのクアドリフォリオなどは後述するが、ドイツ*20のニュルブルクリンクサーキット*21を7分51秒70で回る性能を備える。

このコース*22の世界最速はポルシェ911 GT2 RSの6分47秒25で、国産車最速が日産・GT-R NISMOの7分8秒679となっている。ステルヴィオが首位に躍り出ることはないが、2008年にノーマルのGT-Rが出した7分54秒よりも速いのだ。

ステルヴィオとジュリアの諸元比較

側方から見た青色のアルファロメオ・ステルヴィオ

ここまでご紹介したように、「走り」に主眼を置いたというステルヴィオだが、実際のところベース車のジュリアと諸元上はどれくらい違いがあるのか比較してみよう。

共に日本国内向けモデル*23の諸元を元にするが、ジュリアはステルヴィオと同じ馬力と4輪駆動システムを備える「ヴェローチェ」から数値を取った。ちなみに、「ヴェローチェ」はイタリア語で「俊足」を意味する。

ジュリアとステルヴィオの諸元表

  ステルヴィオ ジュリア ヴェローチェ
全長 × 全幅 × 全高(mm) 4,690 × 1,905 × 1,680 4,655 × 1,865 × 1,435
ホイールベース(mm) 2,818 2,820
車両重量(kg) 1,660 1,670
エンジン 1,995cc直列4気筒マルチエア 16バルブ インタークーラー付きツインスクロールターボ
最高出力 206kW*24(280PS*25)/ 5,250rpm*26
最大トルク 400Nm(40.8kgm*27) / 2,250rpm
トランスミッション*28 電子制御式8速オートマチック*29
サスペンション(前輪) ダブル*30ウィッシュボーン
サスペンション(後輪) マルチリンク*31
ブレーキ*32 ベンチレーテッドディスク(前・後)
タイヤ*33サイズ*34 255 / 45R20 225 / 45R18

ステルヴィオの変種

アルファロメオ・ステルヴィオのインテリア

日本向けとしては400台が「ファースト*35・エディション*36」として2018年6月25日に発表される。その売れ行きにより、今後の展開を考察する目的であろう。2016年11月のロサンゼルス*37モーターショー*38で発表されたステルヴィオは2017年1月から欧州・中東で販売が開始された。海外で展開されているステルヴィオの変種をご紹介しよう。

  • 2・2L直列4気筒ターボディーゼル*39(FR*40駆動 180PS)
  • 2・2L直列4気筒ターボディーゼル(4輪駆動 210PS)
  • 2・0L直列4気筒ターボガソリン(4輪駆動 200PS)
  • 2・0L直列4気筒ターボガソリン(4輪駆動 280PS)

上記が英国のステルヴィオの顔触れである。これらに加えて前述したステルヴィオ最強の2・9Lターボガソリン搭載のクアドリフォリオが、2017年11月にイタリアで販売を開始した。搭載されるエンジンはフェラーリがアルファロメオのために開発したものである。1920年代からアルファロメオのレース参戦で総指揮を執っていたのがエンツォ・フェラーリ氏であり、両社の関係性は深い。

日本でも「ファースト・エディション」の売れ行き次第ではクアドリフォリオ導入の可能性も高まるはずだ。

まとめ

斜め後方から見た赤色のアルファロメオ・ステルヴィオ

1990年台の日本ではトヨタ・RAV4あたりを皮切りに、クロスオーバー型SUVが人気を博すようになった。世界中を見渡せば、いつの間にかクロスオーバー型SUVが俗受けしている状況だ。2017年のSUVは全世界の販売台数で見ると、約12%もの伸びだったそうだ。一過性だと高をくくっていたが、どうやらこの時勢はまだまだ衰えそうにない。

この流行に根差して今までクロスオーバー型SUVに無縁だった自動車製造会社までもが大きくかじを切るようになった。ポルシェ・マカンやランボルギーニ・ウルスなども例外ではない。そして、今回ご紹介したステルヴィオもである。

冷めた見方をすれば、クロスオーバー型SUVは非常に中途半端な成果物である。セダンを改造して押しの強い外観を与え、それに見合うように全高をかさ上げしただけの車種とも換言できる。

過去にはクロスオーバー型SUVでも、スバル・レオーネのように副変速機と長いサスペンションストローク*41を持ち、本格SUVにあわや迫らんとする車種もあった。しかし、最近では「なんとくすごそう」を電子制御デバイス*42というだまし絵よって付加することで、消費者は感嘆してしまっている。

ステルヴィオを詳しく観察すると、レース畑出身のアルフェロメオらしさは確かに持っている。そして、クロスオーバー型SUVの中では俊足な車種となろう。しかし、245ミリ全高が高いステルヴィオは重心が高くなることによる走行性能悪化を犠牲にし、力強い外観と少々広い室内空間を手に入れただけの車と形容せざるを得ない。装着タイヤを見ても、悪路は視野に入っていないことが分かる。45%扁平(へんぺい)のタイヤで大きめの石でも踏めば、うん十万円はしそうな20インチ*43ホイール*44がすぐさまゆがんでしまうだろう。

企業上層部からの「売れ筋だからつくれ」とする意思決定に、開発者はやむを得ずつくった。そんな図式が見え隠れしてしまう昨今のクロスオーバー型SUVである。無論これはステルヴィオに限ったことではない。ちなみに、ステルヴィオとジュリアの二者択一を迫られたら、どちらにするだろうか。私見を述べれば間違いなくジュリアを選択する。

二人乗り車種は動力性能に優れていたとしても、実用性の低さが顕著だ。一方、本格SUVでもないのに擬態した車種では存在意義を捉えきれない。4、5人で乗車でき、実用性にも優れた「最速の箱」は現代受けしないようではあるのだが。

わくわくを抑制する大蛇の血清*45を打つ必要は有りや無きや。

(出典:Fiat Chrysler Automobiles

*1:【emblem】標章。紋章。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*2:【Italia・伊太利】ヨーロッパの南部、地中海に突出した長靴形の半島およびシチリア・サルデーニャその他の諸島から成る共和国。面積30万2000平方キロメートル。人口5943万4千(2011)。ローマ時代以来、ギリシアとともに西洋文明の源流をなした。中世以降、諸州・諸都市が分立したが、1861年イタリア王国成立。1922年以後、ムッソリーニを首領とするファシスト党が独裁。36年エチオピア併合以来帝国と称し、ドイツ・日本と三国同盟を結んで第二次大戦に参加、43年降服、内戦とレジスタンスを経て46年より共和制。宗教は主にカトリック。首都ローマ。イタリー。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*3:【race】競走。また特に競技においてゴールを目指してタイムを競い合うこと。競走・競泳・競漕(きょうそう)。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*4:【brand】(焼印の意)商標。銘柄。特に、名の通った銘柄。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*5:【châssis(フランス)・chassis(イギリス)】自動車などの車台。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*6:【crossover】在来の種々の要素を組み合わせて新たなものを作り出すこと。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*7:【sport utility vehicle】スポーツタイプ多目的車の総称。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*8:【base】土台。基礎。基本。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*9:【sedan】前後2列の座席を持つ箱型乗用車。サルーン。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*10:【suspension】車輪に車体を載せ付ける装置。路面の凹凸を吸収し、車体の安定性、乗り心地をよくする。懸架装置。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*11:(litre; liter)リットルの略号(L かつてはl)。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*12:【multi】(接頭辞として)「多数の」「複数の」「多面的」の意を表す。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*13:(valve)管の途中や容器の口にとりつけ、気体または液体の出入りの調節をつかさどる器具。弁体を指すこともある。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*14:【intercooler】中間冷却器。流体を加熱する過程で冷却する装置。特に,気体の連続圧縮過程の冷却装置。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*15:【twin】対(つい)になっていること。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*16:【scroll】(巻物の意)コンピューターなどの表示画面上の文字や画像を、巻物を読むように上下または左右に動かしながら表示すること。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*17:【turbo-charger】過給器の一種。排ガスのエネルギーを利用する過給器。排気タービン過給器。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*18:【torque】原動機の回転力。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*19:【system】複数の要素が有機的に関係しあい、全体としてまとまった機能を発揮している要素の集合体。組織。系統。仕組み。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*20:【Duits(land)(オランダ)・独逸】(Deutschland(ドイツ))中部ヨーロッパのゲルマン民族を中心とする国家。古代にはゲルマニアと称した。中世、神聖ローマ帝国の一部をなしたが、封建諸侯が割拠。16世紀以降、宗教改革・農民戦争・三十年戦争・ナポレオン軍侵入などを経て国民国家の形成に向かい、1871年プロイセンを盟主とするドイツ帝国が成立。のち第一次大戦に敗れて(ワイマール)共和国になったが、1933年ナチスが独裁政権を樹立して侵略政策を強行、第二次大戦を誘発、45年降伏、49年東西に分裂。90年ドイツ連邦共和国として統一。言語はドイツ語で、プロテスタントがカトリックよりやや多い。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*21:【circuit】自動車・オートバイのレース用の環状コース。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*22:【course】競走・競泳・競漕・ゴルフなどで、定められた競技路。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*23:【model】型。型式(かたしき)。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*24:【kilowatt】仕事率・電力の単位キロワットを表す記号。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*25:(Pferdestärke(ドイツ))(horsepower)動力(仕事率)の実用単位。1秒当り75重量キログラム‐メートルの仕事率を1仏馬力といい、735.5ワットに相当する。記号 PS 1秒当り550フート‐ポンドを1英馬力(746ワット)という。記号 HP,㏋,hp 日本では1999年以来仏馬力だけが特殊用途にかぎって法的に認められている。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*26:【revolutions per minute】エンジンやタービンなどの毎分回転数。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*27:【フランス kilogrammètre】エネルギーまたはトルクの重力単位キログラムメートルを表す記号。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*28:【transmission gear】自動車などの変速装置のギア。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*29:(automatic transmission)自動車の変速装置が自動式であること。AT/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*30:【double】2重。2倍。複。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*31:【link】連結すること。関連すること。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*32:【brake】車両その他機械装置の速度・回転速度などを抑えるための装置。手動ブレーキ・真空ブレーキ・空気ブレーキなどがある。制動機。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*33:【tire; tyre】車輪の外囲にはめる鉄またはゴム製の輪。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*34:【size】大きさ。寸法。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*35:【first】第一。最初。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*36:【edition】書物などの、版。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*37:【Los Angeles】アメリカ合衆国南西部、カリフォルニア州南部の大都市。北西に隣接してハリウッドがある。人口397万2千(2015)。羅府。ロス‐アンジェルス。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*38:【motor show】新型自動車などを一堂に集めて発表・展示する会。自動車見本市。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*39:(diesel car)ディーゼル機関を原動機とする客貨車。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*40:【FR】(front engine rear drive)自動車で、車体前部にエンジンを置き、後輪を駆動する方式。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*41:(stroke)蒸気機関・内燃機関など往復機関で、シリンダー内でピストンが一端から他端まで動く距離。衝程。ストローク。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*42:【device】電子回路を構成する基本的な素子。トランジスター・ICなど。また、コンピューター‐システムで、特定の機能を果たす装置。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*43:【inch・吋】ヤード‐ポンド法の長さの単位。1フィートの12分の1。2.54センチメートル。記号 in/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*44:【wheel】輪。車輪。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*45:血液が凝固する時に血餅(けっぺい)から分離する黄白色透明の液体。血漿からフィブリノゲンを除いたもので、アルブミン・グロブリンなどの蛋白質(血清蛋白質)を含む。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)