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進境著しい大谷翔平選手が突破すべき難関と功績を探る!

本塁に置かれたぼろぼろになったボール

右肘の靱帯(じんたい)損傷で離脱しながらも、バッターとして復帰を果たした大谷選手。ピッチャーとしてもブルペンでの投球ができるまでに回復し、相変わらずの打撃で相手チームの脅威となっている。さらに、奮闘を重ねながら感動を与えてくれそうだ。

依然として好調を持続する打撃

怪物と評される大谷選手といえど、オープン戦*1ではピッチャー*2への対応に四苦八苦した。特に大リーグ*3に挑戦した日本人のバッター*4が共通してぶち当たる壁はツーシームやカットボールと呼ばれるバッターの手元で変化する球だ。もちろん日本のピッチャーも投げているのだが、大リーグのピッチャーはスピードが速い上に曲がりが大きい。これは大リーグのボールは日本のものより縫い目が高く、空気抵抗が高まるために変化もより大きくなるからだ。

大谷選手も例外なくこのボールの対応に追われ、動くボールを過剰に意識することで、速いストレート*5に振り遅れてしまっていた。なかなか外野へも打球が飛ばない状態に、マスメディア*6からはマイナーリーグ*7への降格や実力不足などの雑音も聞こえ出していた。

そこで大谷選手は大きな決断を下す。開幕の3日前にもかかわらず、大胆な打撃フォーム*8の変更に踏み切ったのだ。それまでピッチャーが投球する際に上げていた右足をすり足打法であるノーステップに切り替えたのだ。この打法は大リーグでは決して珍しくないが、フォームの変更を開幕直前に決断したことに周囲はあっと驚かされた。さらに、変更したフォームで、すぐさま結果を出したのだ。

打撃フォームの変更は同僚のスター*9選手であるアルバート・プホルス選手を参考にしたとされている。何より変更直後に新天地で結果を残せる才能のなせる業としかいいようがない。

滑るボールにも対応!日本と変わぬ投球を披露

大リーグに挑戦したピッチャーの誰もが苦しむ滑るボール。大谷選手も「滑るボールの障壁」に辛酸をともにした。キャンプ*10では投球の生命線となるスライダー*11やフォークボール*12の制球に苦しみ、ストレートでさえも抑えが利かないほどであった。また、ロサンゼルス・エンゼルスのキャンプ地であるアリゾナ*13は気候が乾燥しており、なおさらボールが滑りやすくなる傾向がある。普通のピッチャーであれば「アリゾナだから」と諦めるところだ。しかし、大谷選手はアリゾナで制球力を付けられるなら、どこでも対応できると、滑るボールから逃避せずに向き合った。

オープン戦の登板ではストレートを中心に投げたり、フォークボールを多投したりして試す試合もあるなど、周囲の騒がしさをよそに自らの課題や主題を明確に掲げて調整をしてきた。とても弱冠23歳とは思えない地に足の付いた行動に大器であることをうかがわせる。

そして、開幕を迎えた。あわや完全試合の快刀乱麻を断つ好投を含め、4勝1敗、防御率3・10の好成績を残す、スタートダッシュ*14に成功している。特に印象的なのは大リーグ1年目から日本プロ野球の時と遜色ない投球ができていた点である。ストレートの平均球速は大リーグ先発ピッチャーの中でも最上級である。加えて、特にスライダーやフォークボールといった変化球も低めに集められており、1年目としては申し分なかった。

しかし、やはり環境の異なる海外での生活や大リーグのボールやマウンド*15への適応には予想以上の負荷を心身にかけていたはずだ。右肘靱帯(じんたい)損傷の診断を受けて離脱を余儀なくされた。なんとか手術を回避できたものの、しばらくはリハビリ*16中心の調整となった。

9月2日に復活登板を果たしたが、調整過程であるのは明らかだ。今回損傷した靱帯(じんたい)は昨秋に治療を行なった部分とは違うようだ。しかし、新たな箇所を故障しているのなら、靱帯(じんたい)そのものに問題がある疑いもある。大谷選手の長期の活躍を考えれば、根治のために原因を特定したい。大リーグに渡った日本人投手の多くがけがをしてしまうように、過去の投球過多から来ているけがなのか一野球ファン*17として非常に気掛かりである。

いずれにせよ、今季のピッチャーとしての登板の回避が大方の意見であったが、きっと大谷選手は自ら「行く」と言ったはずだ。なぜなら、大谷選手は二刀流だから大谷選手だと自身も認識しているはずだからだ。「投打に活躍する姿」をファンに見せたい一心が大谷選手の大きな原動力になっているのは間違いなさそうだ。

投打ともに浮かび上がる課題

大リーグ1年目であり、二刀流という過酷な挑戦をしているのを加味すれば、投打ともに十分な成績を残しているといえる。しかし、大谷選手自身が「発展途上」と語るように課題も見えてきた。

バッターとしては低めの球が得意な大谷選手に対し、高め中心の配球が増えている。高めのストレートに対して振りにいき、ファウル*18もしくは空振りが目立つ。そして、外角低めの釣り球である変化球だ。このコースは抜群のバット*19コントロール*20で打ち返すも、打球はショート*21が二塁後方に守備位置を取る「大谷シフト*22」に阻まれてしまう。

開幕当初は内角のストレートに弱点があると指摘されていたが、ニューヨーク・ヤンキースの剛腕ルイス・セベリーノ投手の内角ストレートを物の見事にに振り抜いて弾丸ライナー*23でライト*24スタンドにホームラン*25を放ってから各チームの攻め方は変わっている。

高めのストレートの見極めや「大谷シフト」への対抗策も興味深い。もしかしたら名だたる強打者がそうしてきたように、シフトが意味をなさないような長打を狙っていくかもしれない。発展途上の大器が新たな壁をどのように超えていくのかに注目だ。

一方、ピッチャーとしては離脱するまでは及第点を与えられる投球だった。しかし、好調時の投球の感覚を取り戻すには時間が必要であろう。日本プロ野球の時から、責任感の強さ故に「投げられるなら投げたい」のが大谷選手だ。投球イニング*26や登板間隔を首脳陣がどれだけなだめられるかも完全復活までの重要な要素となりそうだ。

ピッチャーとしての改善点を挙げるなら、他チームのエース*27級のピッチャーと比較して、平均球速は上位であるのに、ストレートの回転数が少ないことだろう。回転数が多いほど「伸び」があり、空振りを奪える「球質の良いストレート」とされる。大リーグのストレートの平均回転数は2300~2500に対し、大谷選手は2000回転ほどだ。

スピードに加えて回転数が上がればどのように化けるのだろうか。けがが心配であるが、まだまだ進化が止まらない大谷選手の「克服の過程」が実に楽しみである。

まとめ

日本から大リーグに舞台を移しても、大谷選手はこれまでと変わらず野球ファンをうならせている。かつて二刀流についても罵詈(ばり)雑言を浴びせられたこともあったが、努力と才能でひっくり返して予想を上回る活躍を見せてきた。

ところが、そんな怪物であっても、けがをしてしまっては持てる力を発揮できない。二刀流を追い求めるが故に、体の酷使は避けられない。しかし、われわれは期待してしまう。大谷選手がベーブルース*28氏などの伝説的な人物と比較され、肩を並べるだけにとどまらず、世界一の野球選手となることを。

やりたいことをたくさん持ったり、両立したりするのを毛嫌いするのが日本社会の常識であったように思う。しかし、そこに「可能性を信じる価値」を生み出したのは間違いなく大谷選手のはずだ。

荒れる海を越え、羅針盤は「世界の常識を変える」方向を指している。ここまで「夢」を見せてくれる野球選手はもう二度と現れないかもしれない。大谷選手が栄枯盛衰の階段を登っていく姿を見失うことなく追っていきたい。

「ビッグ・ドリーム大谷さん」の夢が迫り来る困難に打ち勝ち、かなえられるのが野球ファンの夢であるのだ。

*1:プロ野球などの非公式試合。オープンゲーム。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*2:【pitcher】野球で、打者にボールを投げる人。投手。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*3:(major league)アメリカ二大プロ野球リーグのこと。アメリカン‐リーグとナショナル‐リーグで構成。メジャー‐リーグ。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*4:【batter】野球で、打者(だしゃ)。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*5:【straight】野球で、カーブなどの変化球に対して直球。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*6:【mass media】マス‐コミュニケーションの媒体。新聞・出版・放送・映画など。大衆媒体。大量伝達手段。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*7:【Minor League】大リーグの下位にあるリーグの総称。AAA・AA・ルーキー‐リーグなどがある。小リーグ。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*8:【form】運動の動きや姿勢の型。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*9:【star】特に人気のある役者・歌手・運動選手。花形。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*10:【camp】スポーツ選手などの練習のための合宿。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*11:【slider】野球で、投手の投球の一種。投げた腕と逆の側にすべるように水平に曲がる変化球。カーブと違ってあまり落ちない。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*12:【fork ball】(球を挟む指の形がフォークに似るからいう)野球で、投手の投球の一種。人差指と中指との間にボールを挟んで投げる。回転がほとんどなく、打者の手もとで鋭く落ちる。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*13:【Arizona】アメリカ合衆国南西部の州。鉱業が盛んだったが、近年IT産業が発展。州都フェニックス。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*14:(和製語 start dash)競走で、スタート直後の全力疾走。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*15:【mound】野球で、投手が投球を行う場所。土を盛って高くしてある。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*16:【rehabilitation】障害や後遺症を持つ人に対して、医学的・心理学的な指導や機能訓練を施し、各種の代償手段も併用して社会参加をはかること。リハビリ。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*17:【fan(アメリカ)】スポーツ・演劇・映画・音楽などで、ある分野・団体・個人をひいきにする人。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*18:【foul】野球で、ファウル‐ラインの外方へ打球が出ること。また、その球。ファウル‐ボール。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*19:【bat】野球・ソフトボール・クリケットなどで、球を打つ棒。また、卓球のラケット。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*20:【control】制御すること。うまく調節すること。統制。管理。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*21:(shortstop)野球で、二塁と三塁との間を守る内野手。ショート‐ストップ。遊撃手。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*22:【shift】球技・ボクシングなどで、選手が位置を変えること。例えば野球では、打者に応じて守備位置を移動する。また、そのような特殊な態勢。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*23:【liner】野球で、低い弾道で、一直線に飛ぶ強い打球。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*24:【right】右。右側。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*25:【home run】野球で、本塁打のこと。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*26:【inning】野球で、両チームが攻撃と守備を一度ずつ行う試合の一区分。回。インニング。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*27:【ace】スポーツで、チームの主力選手。特に、野球チームの主戦投手。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*28:【Babe Ruth】(本名 George Herman R.)アメリカのプロ野球選手。1927年、年間本塁打60本の記録を樹立。通算714本の本塁打記録を残す。36年野球殿堂入り。(1895~1948)/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)