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初心者でもマニュアル車を楽しめる!上手な操作方法とは?

スバル・WRX STIの内装

MT車は国内で100台中1台程度しか売れていないご時世。しかし、FIAT 500SやAbarth(アバルト)、スズキ・スイフトスポーツ、スバル・WRX STIなど、楽しそうなMT車も健在だ。MT車に興味はあるが、踏み出せない。そんな方々に楽しみ方の基本をご紹介したい。

まずは練習台となるMT車選び

前方から見た黒色のトヨタ・ヴィッツ RS

先に挙げたスバル・WRX STIなどの新車で購入できるMT車*1たちは魅力的であるものの、安くはない。WRX STIは消費税込み386万6000円から、Abarth 595は293万8000円から、2017年11月発売のFIAT 500S Decibel(フィアット チンクエチェントエス デチベル)も238万7000円と値が張る。

初めて乗るMT車の場合、高価な車種は「もったいない」の一言に尽きる。高評価の新型スズキ・スイフトスポーツは183万6000円からと、この中では最も安価である。

MT車を楽しむには価格が安く、願わくは車重1トン未満の軽い車種を選んでほしい。ここでは絶対的な速さは求めず、「操る楽しさ」を重視すべきだ。例えばトヨタ・ヴィッツや日産・マーチはもとより、軽トラック*2でその楽しさに気付くことすら少なくない。軽自動車であれば、ターボ*3付きなら十分に楽しめるはずだ。

試しに「車両本体価格50万円以下」「MT車」で中古車を検索してみた。そこへ出てきたのは2009年式トヨタ・ヴィッツRS、2009年式ホンダ・フィットRS、2008年式スズキ・アルトラパンSS、2006年式スズキ・Keiワークスなどだ。最初から走りに特化した車種でなくても、サスペンション*4くらいを変えてやれば格段に良くなってくれる。

他にもVolkswagen(フォルクスワーゲン)・Polo(ポロ)GTI、Peugeot(プジョー)・207GTなどもあったが、これらは故障の際の修理費がかさみそうなので、特別な思い入れがないのなら避けた方が賢明だろう。日産・エクストレイル、マツダ・アテンザスポーツワゴンなども50万円以内で購入できるが、2・0L以上のエンジン搭載車は車体が重く、時として危険もはらんでいるのでお勧めしない。

駆動方式としてはFR*5が最適だが、軽量なFR車は今や皆無である。強いて言うならばスズキ・ジムニーくらいである。ただし、ジムニーや軽トラックは実用車的要素が強く、長靴を履いてもペダル操作に不具合がないようになっている。つまり、アクセル*6ペダル*7とブレーキ*8ペダルには大きな段差があり、次項でご紹介するヒール&トゥができない。

フルタイム四輪駆動*9は路面をかむ力が強過ぎるため、練習台としてはふさわしくない。よって現状では先に挙げたヴィッツ、フィット、ラパンSS、Keiワークスなどが最良の選択ではないだろうか。

MT車で初心者が街乗りをするコツ

斜め前方から見ただいだい色ホンダ・フィットのコンセプトカー

まず運転席の座席調整だが、クラッチ*10を踏み切った際に足がほぼいっぱいに伸び切る位置に座面自体を調整する。次に背もたれはハンドル*11の頂点に腕を真っすぐ伸ばし、手首がちょうどハンドルの上に乗る位置が最適である。この辺りの調整をおろそかにしていると、両手両足を駆使するMT車だと操作自体に不具合が出てしまう。片足あぐらを組んでも運転できるAT車*12とは根本的に異なるが、AT車でも正しい座席調整は本来同じである。

MT車の街乗りで一番多用するのは2速と3速ギア*13であろう。MT車の最大の利点は運転者の思考で手足を動かせば、時間差なく車が反応してくれる点である。AT車でもマニュアル*14モード*15付きであれば、自分の意志でギアを選択できるものの、時間のずれや運転手が予測しきれない作動を微妙に感じてしまう。また、エンジン回転数許容範囲を上回ると、勝手に変速比の小さい方へシフトアップが行なわれてしまうので、本来のマニュアル操作の意義も半減以下となってしまう。

排気量にもよるが、加速させる際は交通の流れに乗れる最小限を意識したシフトアップを行なっていく。巡航速度に乗れば、4速あるいは5速まで上げてよい。ただし、AT車の操作でも触れたが、前方がやや込み合っていたり、先行車などで先の交通状態が見渡せなかったりすれば、1段もしくは2段低いギアを選択するのが正しい。それによってアクセルから足を離せば瞬時にエンジンブレーキ*16が利く状態となり、予防運転につながる。

アクセル操作についてはMT車でもAT車でも同様である。ただし、アクセルペダルが「オン・オフのスイッチ*17ではない」ことを念頭に置いておきたい。アクセルはスイッチではなく繊細なコントローラー*18であり、むやみに踏んだり離したりを繰り返さず、可能な限りは一定を保つように操作すべきだ。

曲がる交差点が近づいたら、3速から2速へとシフトダウン*19、曲がるときは即刻停止できる状態にしておく。停止する必要がなければ、曲がる手前で2速に入っているので、直ちに加速状態に入ることもできる。

中級者によるMT車操作のコツ

斜め前方から見た白色のスズキ・アルト ラパンSS

車は重力、路面抵抗、慣性力、荷重移動、旋回力など、様々な要素を発生しながら走行している。しかし、この視点で陳述すると小難しくなるため、できる限り「運転感覚」を基準として話題を進めたい。

MT車を操る際の最重要点は「ブレーキング」にあると言っても過言ではない。足2本に対してペダルが三つ付いているため、早く走らせるには慣れを要する。その最たるものが、右足のつま先でブレーキを踏みつつかかとでアクセルをあおる「ヒール&トゥ」である。無論自動車教習所で教えられる技術ではないので、ご了承いただきたい。

例えばMT車で4速走行中から減速する場合、フットブレーキ*20だけを踏んでの減速は可能である。それでは、なぜ減速速度に応じてギアも下げていくのか。第1の理由はエンジンブレーキを併用させることにある。第2の理由としては減速後に即座に加速できる状態を生じさせるためである。

下り坂でのフットブレーキのみによる減速は「ベーパーロック現象」が起こり、ブレーキが効かなくなることがある。そのため、エンジンブレーキを併用すべきだと、教習所でも習ったはずだ。例えば標準装着のブレーキパッド / シューなら、平たんな道であっても時速80キロ程度からの急激なブレーキングで、5、6回の連続操作でペーパーロック現象が起きる。これを回避させつつ安全かつ速く走らせるため、ヒール&トゥを使用する。

実際のコーナリング*21であるが、減速を行ないつつコーナーに差し掛かることで重心が前輪により多くかかる。そして、前輪の接地力を最大限に高めながら曲がっていくことができる。フットブレーキをコーナー*22序盤まで少し残すのがコツである。

その時に接地力が弱くなっている後輪は遠心力に負けると横滑りを始める。「テールスライド」と呼ばれる現象である。ここで意図的にアクセルを踏んで後輪を空転させながらFR車の車体を制御するのが、俗に言う「ドリフト*23」となる。余談になるが、重心を前輪にかけずにハンドル操作だけのコーナリングを行なえば、最悪前輪から滑り始めてしまう。もはや制御不能となり、ガードレール*24に一直線である。

トヨタ・AE86の後継車であるAE92が出た頃はFRからFF*25に移行してしまったことで、落胆の声が多分にあった。それを弁護するためか、「FF車でもスライドはできるのか」の類いの企画も自動車雑誌で見られた。スライド状態を作り出してはいたが、FF車で再び後輪が接地力を取り戻した瞬間に発生する「振り戻し」を制御が至難の業である。故に、FF車では後輪を滑らせないところがコーナリングの限界である。

コーナーを間もなく抜ける。要はハンドルを戻し始める段階になったら、すでに加速に入ることができるギアが選択されているので、大きくアクセルを踏み込んでいく。そして、再びシフトアップするが、タコメーター*26のみを過信せず、エンジンの出力が最大限になる回転数を体感で見極めてシフトアップを行なう。このコンマ)何秒でAT車は勝手にシフトアップがされてしまうことがあるため、不満がたまってくる。

この基本操作ができたら、最適な「ライン取り」をつかむことである。そして、これらの運転技術を習得することは一般道での危険を低減させることにも間違いなく貢献している。

まとめ

斜め前方から見た白色のスズキ・Keiワークス

今年は日本各地が大雪に見舞われている。ブリヂストン社の資料によると、乾燥した舗装路に比べ、積雪路では3分の1、つるつるの凍結路では8分の1にまで路面の摩擦抵抗が減ってしまうそうである。降雪の翌日は日なたの雪解けに反して、日陰では凍結が続いていることがよくある。そこへ舗装路のつもりで速度を落とさず入っていけば、即座に滑ってしまうのは明々白々である。

こんなときにも、日ごろの修練が役に立つ。「路面が光っている」「凍っている」と察知したら、まず直線状態で軽くフットブレーキを踏んで実際に滑るかどうかを確認してみる。どのくらいで滑るかを把握したなら、先ほどご紹介した運転技術を細心の注意をもって発揮させよう。

積雪・凍結路面ではフットブレーキに頼っての減速が非駆動輪のタイヤをロックさせ、姿勢を崩しやすい。一度ロックしてしまえば、タイヤの縦横に関係なく、真後ろからの慣性力によって車体が真っすぐ押し出されてしまう。そこで有効なのがエンジンブレーキである。これだとタイヤには駆動力が伝わり続けている状態なので、エンジンが停止してしまわない限り、物理的にタイヤもロックしないで済む。

後は先ほどの路面摩擦抵抗を思い出し、ブレーキを踏むときも、ハンドルを切るときも、コーナリングするときも8分の1以下にすることである。もちろんスタッドレスタイヤ*27を履くことで、この数値は改善される。

このような運転技術はMT車もAT車も同じである。加えて、MT車はサイドブレーキを組み合わせての姿勢制御、エンジンを高回転にした状態での発進などもできる場合がある。これらの奥深さがなんとも魅力的である。

車をうまく操るのに極めて大切なのは繰り返し走り込んで、自分の感覚を磨くことである。愛車の癖、サスペンションの沈み込み、タイヤの食付き状態、エンジンの力の出具合などを五感で把握する。ぜひともMT車で車本来の「操る楽しさ」を実感してみてはいかがだろうか。

自分の言うことしか聞かない「猛獣のような車」を好きになるかもしれない。

(出典:株式会社SUBARUトヨタ自動車株式会社本田技研工業株式会社スズキ株式会社

*1:変速装置が手動式の自動車。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*2:軽自動車の規格で製造されたトラック。軽トラ。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*3:【turbo】過給器の一種。排ガスのエネルギーを利用する過給器。排気タービン過給器。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*4:【suspension】車輪に車体を載せ付ける装置。路面の凹凸を吸収し、車体の安定性、乗り心地をよくする。懸架装置。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*5:(front engine rear drive)自動車で、車体前部にエンジンを置き、後輪を駆動する方式。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*6:(アクセレレーター(accelerator)の略)自動車の、足でふむ加速装置。これをふむと気化器の絞り弁が開き、機関の回転数や出力が増す。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*7:【pedal】自転車・ピアノ・オルガン・ミシンなどで、操作のために足で踏む部分。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*8:【brake】車両その他機械装置の速度・回転速度などを抑えるための装置。手動ブレーキ・真空ブレーキ・空気ブレーキなどがある。制動機。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*9:前後4輪すべてに駆動力を配分する構造。また、その機構を持つ自動車。高速走行・悪路走行に適する。四駆(よんく)。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*10:【clutch】自動車のクラッチを動かす踏み板。クラッチ‐ペダル。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*11:【handle】手で機械を操作するための握り。特に、自動車・自転車などの方向操縦用のもの。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*12:オートマチック-トランスミッションを装備した自動車。オートマ車。ノークラッチ車。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*13:【gear】歯車。また、歯車の組合せによる動力の伝動装置。ギヤ。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*14:【manual】「手の」「手動の」の意。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*15:【mode】方法。様式。特に、複数の機能をもつ機械などで、その運転方式。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*16:【engine brake】自動車の運転で、アクセル‐ペダルを放したとき、エンジンの圧縮抵抗やピストンの重みなどで加わる制動作用。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*17:【switch】交替すること。切り換えること。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*18:【controller】機械の制御装置。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*19:【shift down】自動車の運転で、駆動力を上げるために低速ギアに切り換えること。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*20:【foot brake】自動車などの走行時に用いる足踏み式のブレーキ。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*21:【cornering】スケートや自動車などで、コーナーを曲がること。また、その技術。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*22:【corner】かど。隅。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*23:【drift】自動車が曲がるときに横滑りさせる走行方法。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*24:【guard rail】道路で、車の車道逸脱防止や歩道との仕切りのためにつける防護柵。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*25:(front engine front drive)自動車で、車体前部にエンジンを置き、前輪を駆動する方式。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*26:【tachometer】回転体の各瞬間速度または一定時間内における平均速度を計る機械。回転数は直接指針または数字で示される。回転計。回転速度計。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*27:【studless tire】スノー‐タイヤの一種。自動車が雪道や凍結路で滑らないよう、ゴムの材質と表面の溝の形を工夫したもの。スパイクレス‐タイヤ。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)