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取りを飾る日産・フィガロの大要とパイクカー3兄弟の総括

斜め前方から見たペールアクア色の日産・フィガロ

これまで日産パイクカー3兄弟のうち、1987年の「Be-1」と1989年の「パオ」をご紹介してきた。今回は1991年登場の最後のパイクカーであるフィガロが一体どのような車種だったのかを捉えてみよう。加えて、パイクカー3兄弟を総括したい。

日産パイクカー三兄弟の長男Be-1の記事はこちら
個性的な日産・Be-1を振り返る!パイクカー三兄弟の長男

パイクカー3兄弟と活気を帯びていた日産

日産・フィガロのインテリア

そもそもパイクカーの定義は曖昧で、端的に「物珍しい車」や「人目を引く車」と表現するのがふさわしいだろう。台数限定あるいは車量産車が問わないので、フィアット・500などもパイクカー的な要素によって人気を博したといえる。

1980年代後半から1990年代の初めの日産は国内消費者の心を強力に引き付ける車づくりをしていたのは間違いない。1989年の8代目R32型スカイラインを筆頭に、1986年の初代WD21型テラノ、1988年の初代A31型セフィーロ、1988年の初代FPY31型シーマ、1990年の初代P10型プリメーラなど枚挙にいとまがない。

これらの後継車種はいずれも肥大化し、設計思想もぶれてしまったのは残り多い。ご存じのようにスカイラインが好例で、2002年まで製造販売された10代目R34型までは何とか「らしさ」を保っていたが、今や見る影もなくなってしまった。

この当時の日産はシャシー*1性能に優れた硬派な車種に恵まれていた。そんな中にあって異端児として展開されたのが「Be-1」、「パオ」、「フィガロ」のパイクカー3兄弟である。この3車種はいずれも生産側が優位に立つ限定車として発売された。また、年代的にも1987年から1992年までと名車が次々に輩出された時期と完全に一致している。

このパイクカー3兄弟の三つの共通項は1982年発売の初代K10型マーチを原型にしていること、同一の社内デザイナー*2が企画・デザイン*3を担当したこと、限定車であったことである。いずれの車種も、後年スバル・インプレッサ22B・STiなども手掛けた神奈川*4の高田工業株式会社で委託生産された。国内のバブル景気*5は1986年末から1991年2月までとされている。それを裏付けるかのように、3兄弟最後のフィガロが最も豪華な車種だった。

3兄弟の当時新車価格と現在のフィガロ中古車価格

後方から見たペールアクア色の日産・フィガロ

フィガロは先述したようにBe-1とパオ同様に初代K10マーチを原型として設計された。質素そのものであったBe-1と対照的に、フィガロは豪華な内容となっている。まずはBe-1およびパオとの大きな相違点に注目してみよう。

  1. 2ドアクーペ*6スタイル*7
  2. ターボ*8エンジン搭載
  3. AT*9車のみの設定
  4. 本革シート*10

Be-1とパオには5MT*11と3ATの設定があったが、フィガロはターボ付きエンジン搭載で3ATのみが用意された。また、屋根は後部窓部分も含めて手動開閉が可能である。トランク*12部分を備えたクーペスタイルから外観上から2名乗車と間違われがちだが、狭小ながら後席も存在する4名乗車仕様である。これらの仕様からも分かる通り、当時の新車価格も3兄弟の中でフィガロがいちばん高価であった。

  1. Be-1:129・3~134・8万円
  2. パオ:138・5~154・0万円
  3. フィガロ:187・0万円

ちなみに、原型となった当時の初代K10型マーチは1982年から1992年まで製造販売され、最後期のもので60・4~116.9万円の価格帯であった。

フィガロは現在でも比較的に中古車が流通しているので、参考までに情報を拾っておきたい。現時点での中古車流通台数は全国で55台である。車両本体価格は25・9万円から驚愕(きょうがく)の290・0万円までとなっている。最高値を付けた車両は走行距離1・3万キロの上玉のようではあるが。

フィガロは発売から27年ほど経過した車種であるため、最安値のものは内装の目減りも当然ながら、屋根の雨漏りや配線の劣化などにも要注意だ。従って、喉から手が出るほど欲しい場合の除き、定価を上回ったものを購入する必要はないだろう。ただし、安心快適に普段使いをしたいなら、当時の新車価格の187・0万円の近似を狙うのが得策かもしれない。

唯一ターボを搭載したフィガロのエンジン

日産・フィガロのエンジン

フィガロは先述の通り、3兄弟で唯一ターボエンジンを搭載している。Be-1とフィガロに搭載されていた987ccのMA10S型SOHC4気筒エンジンにターボを装着したもので、型式はMA10ETとなる。MA10S型が電子制御キャブレター*13を採用していたのに対し、MA10ETはインジェクション*14仕様である。

MA10ETといえば、初代K10マーチに設定されていた「マーチターボ」が有名だ。マーチターボは1985年に発売され、MA10Sの52PS(ネット)に対し、76PS(ネット)まで出力が向上している。

  MA10S(自然吸気) MA10ET(ターボ)
エンジン仕様 987cc*15直列4気筒SOHC8バルブ*16
ボア × ストローク 68.0 × 68.0mm
圧縮比 9.5 8.0
最高出力(ネット*17値) 52PS*18 / 6,000rpm*19 76PS / 6,000rpm
最大トルク*20(ネット値) 7.6kgm / 3,600rpm 10.8kgm / 4,400rpm

1980年代の車種に今の感覚で乗ると、やはりボディー*21剛性の貧弱さが目立つ。コーナリング*22や何かに乗り上げたときには車体がよれているのを感知してしまうほどだ。これにターボエンジンを装着したマーチターボは5MTであれば、過激な面白さを堪能できるはずだ。今なら方向転換時にトルクコントロール*23機能がフル*24稼働していることだろう。

ただし、翌1986年には「韋駄天(いだてん)ターボ」の異名を取った1300ccで105PS(ネット)を発揮するトヨタ・3代目スターレットターボが登場しており、こちらは一段と「どぎつい性能」を持っていた。

閑話休題。これらのスポーツカー*25モデル*26と同じターボエンジンを搭載している。しかし、マーチターボより100キロ増しの810キロ車重と3ATのみとの組み合わせによって、せっかくの強烈さが鳴りを潜めている。要は重量増しによる加速性能の低下をターボによって帳消しにした形となっている。

まとめ

日産・フィガロの運転席

フィガロはシンガー・ソングライター*27のエリック・クラプトン氏も買い求めたように、英国でも相当な人気を博したそうだ。もちろんフィガロは国内専用車だったので、日本から輸出された。総生産台数2万台のうち約半数が英国に渡ったとする未確認情報もあるようだ。

当時国内の自動車事情を振り返ると、1987年のBe-1が圧倒的人気で社会現象を巻き起こし、パオやフィガロも後に続いた。パイクカー3兄弟の末弟となったフィガロ。1991年から翌年までの間に2万台限定で販売された。3期に分けて抽選販売された際、初回8000台の割り当てに対し、21万件もの応募が殺到したほどの白熱ぶりを見せた。

初代K10マーチもすっかり旧車の部類に入り、町中ですっかり見掛けなくなった。K10マーチは当時の典型的な小型車であり、質素以外の何物でもなかった。そこに魅力的なボディーを仮装し、見事に見よい格好を演出できたのは、当時の日産のなせる業であった。

それらの大前提があるので、今からフィガロに300万円近く出すのは妥当ではないとするのが個人的な所感である。しかし、現代の小型車は総じて面白味を失いがちなので、相対的にK10マーチの希少価値も向上しているように見受けられる。

「パイクカー」+「80年代の走行性能」の組み合わせは現代の消費者に、ある種新鮮な「ぱっと行くカー」という魅力を放っているはずだ。

(出典:日産自動車株式会社

*1:【châssis(フランス)・chassis(イギリス)】自動車などの車台。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*2:【designer】衣服や器物・建築物などのデザインの考案を職業とする人。図案家。設計者。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*3:【design】意匠計画。製品の材質・機能および美的造形性などの諸要素と、技術・生産・消費面からの各種の要求を検討・調整する総合的造形計画。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*4:関東地方の県。武蔵国の一部及び相模国全部を管轄。県庁所在地は横浜市。面積2416平方キロメートル。人口912万6千。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*5:経済の実態とかけ離れて生じる好況。特に,1986 年(昭和 61)から 91 年にかけての好況をいう。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*6:【coupé(フランス)】二人乗り4輪の箱馬車。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*7:【style】様式。型。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*8:【turbo-charger】過給器の一種。排ガスのエネルギーを利用する過給器。排気タービン過給器。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*9:(automatic transmission)自動車などで、自動的に変速段の切替えを行う装置。自動変速装置。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*10:【seat】席。座席。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*11:【manual transmission】自動車の手動変速機。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*12:【trunk】乗用車の後尾にある荷物入れ。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*13:【carburetor】内燃機関で、燃料と空気を程よく混合して爆発性の混合気をつくり、シリンダー内に供給する装置。揮発器。気化器。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*14:【injection】おもに燃料の噴射を表す用語。燃料をジェット状に噴出する部品をインジェクターと呼んでいる。電磁式バルブが使われるが、旧型のディーゼルエンジンにおいては高圧の燃料により単純にバルブを押し上げて噴射する機械式インジェクションノズルもある。電子制御式燃料噴射システムと電磁式インジェクターとの組み合わせにより、精密な燃料流量制御が可能になった。また、燃料噴射に必要な加圧力を発生させるポンプをインジェクションポンプという。インジェクターによる噴霧特性はエンジンの燃費、排気、出力性能を大きく左右する。シリンダー内に燃料を直接噴射する場合は、噴霧状態が燃焼特性に大きく影響するため、インジェクターの精度や分解能がきわめて高くなるようにつくられている。また、プラスチックなどを射出により成形する場合も、インジェクションという言葉を使う。/出典:大車林(三栄書房 2004年)

*15:(cubic centimetre)立方センチメートルを表す記号。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*16:(valve)管の途中や容器の口にとりつけ、気体または液体の出入りの調節をつかさどる器具。弁体を指すこともある。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*17:【net】正味。純益。掛値なし。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*18:(Pferdestärke(ドイツ))(horsepower)動力(仕事率)の実用単位。1秒当り75重量キログラム‐メートルの仕事率を1仏馬力といい、735.5ワットに相当する。記号 PS 1秒当り550フート‐ポンドを1英馬力(746ワット)という。記号 HP,㏋,hp 日本では1999年以来仏馬力だけが特殊用途にかぎって法的に認められている。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*19:【revolutions per minute】エンジンやタービンなどの毎分回転数。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*20:【torque】原動機の回転力。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*21:【body】車体。機体。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*22:【cornering】スケートや自動車などで、コーナーを曲がること。また、その技術。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*23:【control】制御すること。うまく調節すること。統制。管理。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*24:【full】いっぱいであるさま。全部。十分。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*25:【sports car】運転を楽しむために作られた娯楽用乗用車。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*26:【model】型。型式(かたしき)。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*27:【singer-songwriter】ポピュラー音楽で、自作を自演する歌手。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)