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100年で迎えた自動車の大変革期?前途の風向きを占う!

斜め前方から見た完全自動運転のフォルクスワーゲン・セドリック

自動車業界が100年に一度の大変革期の到来と騒がれている昨今。日本においてはAT車の普及にはじまり、若者の車離れやエコの波を経験した。そして、車自体のモビリティ化の流れから現在に至っている。現代の車を鳥瞰(ちょうかん)し、語ってみたい。

生産販売だけでは生存できない自動車会社の未来

トヨタが発表したe-パレット・コンセプト

「自動車業界が迎えている100年に一度の大変革期をチャンス*1として捉える」として、トヨタがさまざまな試みを開始している。過日お伝えした「トヨタ・ジャパンタクシー」も一連の系譜である。

2018年4月にトヨタがカーシェアリング*2サービス*3「タイムズカープラス」を運営するパーク24と業務提携をした。これはトヨタが提唱する「モビリティ*4サービス・プラットフォーム(MSPF)」の一環であり、今後一層モビリティ・マネジメントを強化していく意向だ。

なんだか横文字ばかりで複雑怪奇な展開を見せている近頃である。要は従来自動車会社は個性豊かな優れた車種を開発し、消費者がほしがる車を世に送り出せばよかった。

しかし、日本国内の若者の車離れに象徴されるような、消費を嫌ったり恐れたりする状況が2000年代初頭から続いている。一方、地球温暖化を機に環境保護への機運が高まり、公害発生源の一つであった自動車は一気にエコ*5化の道を突っ走ることになる。

そこで、大手自動車会社が思い知ったのが「自動車をつくって売る」だけでは生存競争から脱落してしまう危機感である。「人々の移動手段をより快適・効率的にしていく」意味のモビリティ・マネジメントの強化が必然となったのだ。

小売店、ホテル、カジノ*6、カーシェアリングなど、多方面で活躍が期待される次世代電気自動車「e-パレット*7・コンセプト*8」をトヨタ自動車が発表したのは、2018年1月のことであった。

車は「賢い」選択肢として「他人と共有する時代」だ。そして、他業種と相互依存を図り、利益を生む活用を断じる時代へ容赦なく突き進んでいる。並行して電気自動車化も猛威を振るっている。そこにあるべきは個性豊かな車種ではなく、誰もが簡単に運転できる車種がふさわしい。さらに、ハンドル*9さえ握らなくても目的地まで運んでくれるの理想型となる。

90年以降の車の進化がカーシェアリング普及の礎

一台の自動車を複数の人が共同で使用するカーシェアリング

「カーシェアリング」は日本にも定着しつつある車の利用手段だ。横文字で聞こえはいいが、突き詰めると「他人と車を共有する」ものだ。

レンタカー*10との区別がつきにくい。カーシェアリングは会員登録をしておけば、スマートフォン*11もしくは会員カード*12とクレジットカード*13だけで、深夜も含めて好都合な時間に車を借りられるシステム*14である。

レンタカーと比べた場合のカーシェアリングの利点を羅列すると以下のようになる。

  1. 窓口で賃借契約をする手間が省ける。
  2. 10~15分刻みで借りられ、短時間だと安上がり。
  3. コインパーキング*15など身近な場所から借りられる。
  4. ガソリン*16代などもあらかじめ料金に含まれている。

一方、レンタカーは1日以上借りた場合に安価となる傾向だ。また、A地点で借りてB地点で乗り捨てられるのも利便性が高い。

カーシェアリングを利用すれば、車を所有した場合にかかる維持費をはじめ、車検や駐車場代が不要になる。そして、転居しても登録変更などの煩雑さから解放される。いわば未来型の気軽に自動車が利用できる手段である。

ただし、カーシェアリングは普段乗り慣れていない車をいきなり運転することになる。これが可能となったのは1991年のAT*17車限定免許が設定され、AT車の比率が大幅に上がったことだ。加えて、運転免許証の男女保有比率に占める割合も粗方50%ずつとなったのが布石になっていると感じる。

自動車の運転は自らの責任と技量で公道を走らせるため、必ず危険が付きまとう。その危険をできるだけ車に負担させようとしている。それが近年の衝突抑制機能であり、横滑り防止機能であり、バック*18モニター*19などの「先進安全装備」である。

80年代前半くらいまでの乗用車は個々に癖があったり、パワステ*20も付いていなかったりした。だから、特定の車を円滑に運転できるまでの「慣れる時間」が求められた。つまり、当時の車種ではカーシェアリングが普及できる土台が弱い。

そして、90年代に突入してからの自動車は完成期となり、みるみる運転がしやすくなっていった。現在では80年代前半くらいまでの旧車を運転する機会になかなか恵まれないはずだ。しかし、今も旧車に乗っている方であれば、以下のような点が現代車で向上している点だと共感頂けるのではないだろうか。

  1. 走行安定性の飛躍的な向上。
  2. ミラー*21とカメラ*22による視野が広く、車線変更やバック*23走行が安全にできる。
  3. 燃焼効率とターボ*24など補器類の技術向上により、小さな排気量のエンジンでも力感に優れる。
  4. 癖がなく、すぐさま円滑に動かすことができる。

走行安定性が指し示すシャシー*25の剛性とサスペンション*26の円滑な動きが驚くほど高まっている。つまり、不安なく速度を出せるから、あくせく走らせている旧式スポーツカー*27の横を、なんの変哲もない最近の小型車があっさり抜き去っていけるのだ。

視界もサイドミラー*28が昔より大きくなっている上、鏡面を湾曲させる技術によって視野が旧車よりも広角になっているのだ。さらに、後方を確認できるバックモニターを備えた車種も漸増しており、車線変更や車庫入れなどのバック走行が手軽になっている。

現代の乗用車は女性でも軽くハンドルをさばけ、個々の車種が持っていた「個性」が排除されてきた感がある。これらがレンタカーやカーシェアリングで乗ったばかりの車種でも恐怖感や戸惑いのない運転を可能としている。

しかし、逆説的に考えれば「つまらない車ばかり」ともなる。これが次項で触れる「若者の車離れ」の一因にもつながっているはずだ。

対話が難しくなった画一的な乗用車

側方から見た赤色のトヨタ・AE86レビン

車を所有する一番の美点は何かと問われれば、万人に共通するのは「自分専用の空間を保持したまま移動ができる」ことだと思う。スピーカー*29からお気に入りの音楽を聴いてもいいし、デート*30のときには邪魔されない時間を作り出せるだろう。ライブ*31やバーゲンセール*32のすし詰め状態と比較すれば、快適さは天と地ほどの差がある。また、カーシェアリングではなく自分の車であれば、車内に好きな小物を置いたり、子どもがいればチャイルドシート*33を常備したりできる。

しかし、これらの自家用車の良さがそろっても「若者の車離れ」は食い止められないようだ。趣味の多様化や公共交通機関の充実などが理由として挙げられている。一方、「魅力的な車種がなくなったから」とずばっと指摘する声もある。

車を所有するもう一つの喜悦とは「操る中で車と対話する」ことであった。その実現のために別にスポーツカーを選択する必要はない。なぜなら、極端に速さを誇示するスポーツカーだとしても時速100キロ以上を出せる場所は日本の公道にはなく、伝家の宝刀を抜く機会はそうそうないからだ。だから、実用速度域で楽しく対話させてくれる車が特出しているように映る。

殿堂入りともいえるトヨタ・AE86型カローラレビン/スプリンタートレノの魅力がこれに合致する。ノーマル*34状態では必要最小限の速さしか備えていない。加えて、雨天の交差点などでは意図しない後輪の横滑りもあるため、現代では「危険な車」と酷評されてしまうかもしれない。しかし、それを自身の手でどのように対処していくかが、操ることを無性に楽しませてくれる車なのである。

このような練習台となるような車種も絶滅してから久しい。だから、車好きを芽生えさせる機会すら失い、「若者の車離れ」に拍車を掛けている気がしてならない。

まとめ

斜め前方から見た未来の燃料電池自動車トヨタ・FCV PLUS

モビリティ・マネジメントやカーシェアリングなどを時代の最先端として世の中が捉えている。しかし、果たして本当なのかと問いたい。大義名分の下、われわれは車だけでなく、自らの自由度をそぐ方向に進んではいないだろうか。かつては自動車を操って無茶をやっていた大人たちも「無条件に同調」し、「AE86型のような車は時代錯誤」と専らの「安全・エコ・リスク低減」の至上主義だ。

現況では若者が車に興味を持つ時代はやって来ないだろう。そして、「三度の飯より好き」の車愛好家にとっては「つまらない時代の到来」に落胆のため息すら漏れているのが実情だ。

世界情勢を見越し、各自動車会社は生き残りに躍起になっている近頃である。国産車とは名ばかりで、軽自動車以外は既に海外需要重視・国内市場無視の大柄な車種ばかりではびこっている。それでも肯定的に評価する専門誌があるが眉唾物である。

何が正解かは複雑怪奇で結論付けするのが難しい。新車登録から13年を経ると自動車税も有無を問わずに高くなり、エコカー*35への買い換えを暗黙の了解としている行政である。そして、見えざる手によって新車に買い替え、壊れてもいない車を粗大ごみにする。これが環境に配慮されているのかは甚だ疑問である。

モビリティ・マネジメントやカーシェアリングなど、けむに巻くような横文字には疑いの余地が大いにある。すなわち、要領よく「自動車の大変革期」とする大義名分が先進各国で振りかざされがちだ。だから、時として消費者はさい疑の目で見る必要もありそうだ。

しまいには「引き籠もり」が究極のモビリティ・マネジメントなんていわれる時代にならなければいいのだが。

(出典:フォルクスワーゲン グループ ジャパン 株式会社トヨタ自動車株式会社

*1:【chance】機会。好機。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*2:【car sharing】事前に登録した会員が自動車を共同で利用すること。利用時間や走行距離に応じて料金を支払う。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*3:【service】物質的生産過程以外で機能する労働。用役。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*4:【mobility】可動性。移動性。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*5:【eco】(エコロジーの略)環境に配慮すること。「生態」「環境」「環境保護」を意味する接頭辞。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*6:【casino(イタリア)】(小邸宅の意)ルーレット・カード・ダイスなどを備えた公認の賭博場。もと、ダンスなどの娯楽設備のある集会所。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*7:【palette】水彩画または油絵を描く時に、絵具を調合するための板。一端に親指をかける孔がある。調色板。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*8:【concept】企画・広告などで、全体を貫く統一的な視点や考え方。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*9:【handle】手で機械を操作するための握り。特に、自動車・自転車などの方向操縦用のもの。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*10:【rent-a-car】賃貸し自動車。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*11:【smartphone】様々な情報処理機能を具えた携帯電話。オペレーティング‐システムを持ち、アプリケーションを追加して機能を拡張でき、多くタッチパネルで操作する。スマホ。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*12:【card】厚紙を小形の四角形に切ったもの。紙票。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*13:【credit card】 クレジット‐カード会社が会員に信用を保証・供与するために発行するカード。サインなどをするだけで、カード会社の加盟店から一定限度内の買物が可能。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*14:【system】複数の要素が有機的に関係しあい、全体としてまとまった機能を発揮している要素の集合体。組織。系統。仕組み。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*15:(和製語 coin parking)料金徴収器を設置した駐車場。利用時間に応じて代金を支払う。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*16:【gasoline】沸点がセ氏25~200度の石油留分および石油製品の総称。ガソリン機関の燃料や、溶剤などに用いる。原油の分留により得る直留ガソリンはオクタン価が低い。自動車用の高オクタン価ガソリンは、重質ナフサの接触改質や重質軽油の接触分解(触媒の存在で行う熱分解)などにより製造される。揮発油。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*17:(automatic transmission)自動車などで、自動的に変速段の切替えを行う装置。自動変速装置。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*18:【back】背。背中。背後。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*19:【monitor】機械などが正常な状態に保たれるように監視する装置。また、その調整技術者。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*20:【power steering】ハンドルを軽く操作できるように、油圧・空気圧などによる補助動力機構を備えた自動車のかじ取り装置。パワーステアリング。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*21:【mirror】鏡。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*22:【camera】針穴・レンズ・反射鏡などの光学系を用いて、被写体の映像を暗箱内のすりガラス・紙・感光材料・撮像素子などの面上に結ばせる装置。カメラ‐オブスキュラ・写真機・撮影機・テレビ‐カメラ・ビデオ‐カメラ・デジタル‐カメラなど。キャメラ。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*23:【back】後退。後進すること。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*24:【turbo-charger】過給器の一種。排ガスのエネルギーを利用する過給器。排気タービン過給器。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*25:【châssis(フランス)・chassis(イギリス)】自動車などの車台。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*26:【suspension】車輪に車体を載せ付ける装置。路面の凹凸を吸収し、車体の安定性、乗り心地をよくする。懸架装置。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*27:【sports car】運転を楽しむために作られた娯楽用乗用車。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*28:(和製語 side mirror)自動車の車体の両側に取り付けた、後方を見るための鏡。側鏡。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*29:【speaker】振動電流を膜の機械的振動に変えて音波を出す装置。音響への変換原理によってマグネチック型・クリスタル型・ダイナミック型などの別があり、また、平たい円錐形のコーン型と、らっぱのようなホーン型とがある。ラウド‐スピーカー。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*30:【date】日時や場所を定めて異性と会うこと。あいびき。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*31:【live】生放送。劇場・コンサートなどでの生演奏。また、音楽をその場で録音したもの。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*32:(和製語 bargain sale)安売り。見切品販売。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*33:(和製語 child seat)幼児を自動車に乗せるとき、安全のため座席に固定させる装置。2000年より6歳未満の幼児への装着が義務付けられた。幼児用補助装置。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*34:【normal】正常。普通。標準的。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*35:(和製語 eco car)低燃費・低公害車の通称。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)