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6代目フォルクスワーゲン・ポロとFIAT 500を比較

海沿いに駐車しているだいだい色の新型6代目フォルクスワーゲン・ポロ

2017年6月にドイツ・ベルリンで発表された6代目新型ポロが、2018年3月20日に日本でも販売を開始した。愛嬌(あいきょう)のある小型車であるFIAT 500にも通ずる印象を持っていたポロ。しかし、今回は少しばかり勝手が違うようだ。

2018年4月21日:誤りの訂正。

ポロの歴史を振り返る

正面から見た初代フォルクスワーゲン・ポロ

フォルクスワーゲン(Volkswagen)といえば、何といっても知名度抜群なのが初代のワーゲンである。初代ワーゲンは1938年、和暦の昭和13年に誕生し、以後2003年まで販売された車種だ。65年間の歴史において2152万台を生産し、4輪車としては他の追随を許さない圧倒的な存在であった。

そんな初代ワーゲンだが、既に1960年代には設計の古さが目立っていたそうだ。そのため、初代ワーゲンの後継車として開発されたのがゴルフ(Golf)である。各時代の大衆車としての役割を担うフォルクスワーゲンはゴルフにおいて駆動方式をRR*1からFF*2へと改めた。これが「世界的な車市場の方向付け」となったともいえる。

ポロの後継者と目されるゴルフが発売されたのは1974年のことである。そして、意外にも翌年の1975年にポロは新登場している。日本では1994年に登場した3代目ポロから本格的に販売が始まったため、「ゴルフの弟分」としてポロが新規で加わったと誤解されている節もある。

初代ポロを改めて見てみると、やはり当時の初代ゴルフに酷似している。初代ゴルフが1・5L*3から1・8Lのエンジンを搭載していたのに対し、初代ポロは0・9Lから1・3Lであった。全長で約20センチ*4、全幅で約5センチ小さな外寸を持っていた初代ポロ。ゴルフよりも一段とかわいらしい風采を持っている。初代ポロの外寸は全長3512 × 全幅1559 × 全高1344ミリ*5であり、日本の「5ナンバー車」が全幅1700ミリ以下である事実と比較すれば、それがいかに極小なのがよく分かる。

歴代ポロとFIAT 500の外寸を比較してみる

斜め前方から見た青色の英国版FIAT 500

かわいらしい小型車として始まったポロの歴史であるが、このたび発売された新型ポロで6代目を数える。これまではFIAT 500より若干大きめの車種として捉えていたポロであったが、今回の新型はぐっと横幅が広がっている。末っ子には「アップ!(up!)」もいるため、新型ポロを思い切って太らせてみたといったところだろうか。

新型ポロはフォルクスワーゲンが得意とする構造骨格を共用させる「MQB」が用いられることとなった。要はゴルフやアウディ(Audi)Q2などと姉妹車の関係になったと換言できる。ただし、この製造方法は今や各社こぞって採用しているので、「姉妹車」という概念は間もなく至極当然のこととなっていくはずだ。同じ箱を伸ばしたり縮めたりして異なる外観を演出し、サスペンション*6などが個性を生み出すための味付けとなる。それが「昨今の自動車づくり」の主流なのだ。

ポロの中から初代、日本で正式販売を開始した3代目、先代の5代目、新型6代目を抜粋し、FIAT 500(チンクエチェント)の外寸と比較してみよう。

歴代ポロと500の外寸比較

車名 外寸(全長 × 全幅 × 全高)
初代ポロ 3,512 × 1,559 × 1,344mm
3代目ポロ 3,715 × 1,660 × 1,435mm
5代目ポロ 3,995 × 1,685 × 1,475mm
新型6代目ポロ 4,060 × 1,750 × 1,450mm
現行FIAT 500 3,570 × 1,625 × 1,515mm

ポロは今までずっと5ナンバー枠に収まってきたが、このたびの新型で初めて全長が4メートル、全幅が1・7メートルを超えたこととなる。

一方、FIAT 500は全高のみポロよりも長く、こぢんまりとした体形であることが分かる。FIAT 500の外寸は初代もしくは2代目のポロと同じくらいの小さな車体を持っている。

新型ポロの走行性能はいかなるものか?

斜め前方から見た青色の3代目フォルクスワーゲン・ポロ

このような小型車では痛快に走らせるため、車重の軽さが重要な要素となる。その目線で見ると、初代ポロは685キロ*7、5代目ポロは1130キロ、新型ポロは1160キロ、FIAT 500は990キロから1040キロという数値である。初代ポロは圧倒的な軽さであるが、安全性能が必須の条件ではなかった1975年の産物といっていいだろう。

新型ポロに搭載されるエンジンは1種類で、999cc*8の直列3気筒DOHC4バルブ*9インタークーラー*10付きターボ*11だ。最高出力は70kW*12(95PS*13)/ 5000~5,500rpm*14、最大トルク*15は175Nm(17・9kgm*16)/ 2,000~3,500rpmとなる。ダウンサイジング*17コンセプト*18の基に2005年からフォルクスワーゲンが採用を始めたTSI(Turbocharged Direct Injection)エンジンの一種だ。TSIとは直噴エンジンに過給機を取り付けたものである。

先代のポロも同様にTSIエンジンであったが、こちらは1197ccの直列4気筒DOHC4バルブにインタークーラー付きターボを装着していた。新型ポロでは排気量は下げられたものの、逆に最高出力で5PS、最大トルクで1・6kgm上乗せされている。

新型ポロに搭載されたエンジンをさらに掘り下げてみると、ピストン*19の内径 × 行程は74・5ミリ × 76・4ミリで若干ロング*20ストローク*21となっている。1・0Lに過給機装着で95PSなので、無理に馬力を引き出したようなエンジンではない。最高出力の中でも特に最大トルクの発生回転数を見ると、実用域での使いやすさに焦点を当てたものであることが読み取れる。

FIAT 500のツインエアは気筒数二つ、インタークーラー付きターボである。こちらは新型ポロよりも排気量は小さく、875ccから63kW(85PS)/ 5500rpmの最高出力と145Nm(14・8kgm)/ 1900rpmの最大トルクである。FIAT 500の排気量はポロより小さいが、冒頭で述べたように車重が軽いことが活発な走りに作用している。

新型ポロの足回りはドイツ車らしくかちっとしたもので、ダンパー*22を利かせて腰のある走りを実現させている。車幅が広がったことの大きな利点は安定性が高まることだ。その点では新型ポロの走りは向上したものとなった。

まとめ

後方から見たチェコ生まれの電気自動車ルカEV

カワイイだけで、生き残れる時代じゃないから。は新型ポロの宣伝文句である。確かに最近はむやみに押しの強い面構えの車種が多い。もう一つ言葉を借りるとワイド*23&ロー*24のスタイリッシュ*25なプロポーション*26の新型ポロである。良しあしは別として、新型ポロは従来とは違う次元の車に転生したようである。かわいらしかった車種から、アウディにも匹敵する高級感と存在感を前面に押し出してきた。

車は代を追うごとに肥大化していったのは、はるか昔から「例外なき事実」である。例えばホンダであれば、シビックが同じ車種と思えないほど大型化し、代わりにフィットが受け皿になっている。

しかし、昨今の肥大化は日本で使用する度をもはや超えた水準となってしまっている。そして、環境保護を声高に唱えているにもかかわらず、車体を大きくしてタイヤもどんどん大きくなってきている。これが「突然変異」ではないだろうかと小首をかしげる向きも少なくない。

本来の意味の「正常進化」を考えれば、初代ポロに近い外寸のままで直噴エンジンやプリ*27クラッシュ*28ブレーキ*29システム*30「Front Assist」をはじめとした安全装備を実現させたら、どれだけ環境性能のよい車をつくることができるだろうか。現代の安全性能を隠れみのにし、車体寸法をむやみに広げるとするなら愚の骨頂ではないだろうか。

その観点からはFIAT 500が全体の釣り合いを壊すことなく、正道を進んでいるように思われる。ただし、この車も先代はご多分に漏れず、ぐんと小さな479ccのエンジンを搭載していた車種だった。そこまで遡上(そじょう)すると、やはり例外ではないことが分かるのだ。

見た目のかわいさに高級感を加味し、安全性の向上とともに広々とした車内空間を実現した新型ポロ。大人の魅力を醸し出すこの車の出来栄えは恐らく「過去最良」の太鼓判を押されるはずだ。

しかし、この類の進化は若干見飽きたとする意見もある。これからは中身は最新なのに、外観が「いかさま物」ではないレトロ*31なデザイン*32が愛好される時代が到来するのかもしれない。例えばチェコ*33で発表された電気自動車ルカEV(LukaEV)のように。

「もっとかわいくなりたかった」とぽろっと本音を漏らしたとか漏らさなかったとか。

(出典:フォルクスワーゲン グループ ジャパン 株式会社Fiat Chrysler Automobiles

*1:【和製語 rear-engine, rear-drive】後部エンジン後輪駆動。自動車の後部に搭載したエンジンによる後輪駆動方式。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*2:(front engine front drive)自動車で、車体前部にエンジンを置き、前輪を駆動する方式。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*3:【litre(フランス)】体積の単位。1立方デシメートルのこと。かつては純水1キログラムの1気圧における最大密度(セ氏約4度)の体積をいった。記号L かつてはl/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*4:長さの単位。1メートルの100分の1。CGS単位系の基本単位の一つ。センチメートル。記号 cm/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*5:【millimètre(フランス)・粍】長さの単位。1メートルの1000分の1。記号 mm/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*6:【suspension】車輪に車体を載せ付ける装置。路面の凹凸を吸収し、車体の安定性、乗り心地をよくする。懸架装置。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*7:【kilo】キログラム・キロメートル・キロリットル・キロワットなどの略。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*8:(cubic centimetre)立方センチメートルを表す記号。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*9:(valve)管の途中や容器の口にとりつけ、気体または液体の出入りの調節をつかさどる器具。弁体を指すこともある。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*10:【intercooler】中間冷却器。流体を加熱する過程で冷却する装置。特に,気体の連続圧縮過程の冷却装置。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*11:【turbo-charger】過給器の一種。排ガスのエネルギーを利用する過給器。排気タービン過給器。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*12:【kilowatt】仕事率・電力の単位キロワットを表す記号。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*13:(Pferdestärke(ドイツ))(horsepower)動力(仕事率)の実用単位。1秒当り75重量キログラム‐メートルの仕事率を1仏馬力といい、735.5ワットに相当する。記号 PS 1秒当り550フート‐ポンドを1英馬力(746ワット)という。記号 HP,㏋,hp 日本では1999年以来仏馬力だけが特殊用途にかぎって法的に認められている。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*14:【revolutions per minute】エンジンやタービンなどの毎分回転数。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*15:【torque】原動機の回転力。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*16:【フランス kilogrammètre】エネルギーまたはトルクの重力単位キログラムメートルを表す記号。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*17:【downsizing】規模を縮小すること。小型化すること。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*18:【concept】企画・広告などで、全体を貫く統一的な視点や考え方。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*19:【piston】シリンダーの中にあって往復運動できる栓状の部材。往復動機関または往復動ポンプのシリンダー内を内壁に密着しながら往復運動する筒形の盤。シリンダー内に吸入された流体の圧力によって運動を起こし、その力を外部に伝え、また逆に外力によって運動し、シリンダー内の流体に圧力を伝える。喞子(しょくし)。活塞(かっそく)。吸鍔(すいつば)。ラム。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*20:【long】長いさま。長距離。長期間。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*21:(stroke)蒸気機関・内燃機関など往復機関で、シリンダー内でピストンが一端から他端まで動く距離。衝程。ストローク。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*22:【damper】振動を吸収する装置。自動車・鉄道車両・航空機・構造物などに付けて、粘性抵抗・摩擦などを利用して熱エネルギーの形で吸収する場合が多い。また、ピアノの弦の振動を止める消音器。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*23:【wide】 広いさま。幅広いさま。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*24:【low】低いさま。劣ったさま。安いさま。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*25:【stylish】粋(いき)で恰好(かっこう)のいいさま。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*26:【proportion】均整。釣合い。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*27:【pre】(接頭辞として)「それ以前」「その前」の意を表す。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*28:【crash】衝突。崩壊。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*29:【brake】車両その他機械装置の速度・回転速度などを抑えるための装置。手動ブレーキ・真空ブレーキ・空気ブレーキなどがある。制動機。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*30:【system】複数の要素が有機的に関係しあい、全体としてまとまった機能を発揮している要素の集合体。組織。系統。仕組み。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*31:【rétro(フランス)】復古調。懐古的。ある時代の様式を真似たさま。また、それを好むこと。

*32:【design】意匠計画。製品の材質・機能および美的造形性などの諸要素と、技術・生産・消費面からの各種の要求を検討・調整する総合的造形計画。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*33:【Czech】中部ヨーロッパに位置する共和国。ボヘミアとモラヴィアの両地方から成る。住民は主に西スラヴ系のチェコ人。1939年スロヴァキアと分離してドイツに合併、45年再びスロヴァキアと合併。93年独立。2004年EU加盟。面積7万9000平方キロメートル。人口1043万7千(2011)。首都プラハ。狭義にはボヘミアを指す。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)