人生は旅だ

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減少の一途をたどる球児の数?野球離れを食い止めろ!

間一髪でベースに滑り込む少年

高野連が発表した調査によると、加盟校の部員数が15年ぶりに16万人を割り込んだ。さらに、高校野球の下支えとなる中学校の軟式野球部員も減少し続けているそうだ。一方、プロ野球の観客動員数は好調を維持している。この相反する状況の背景を探りたい。

野球に接する環境の減少

野球をする子どもが減っていると聞いて思い当たる節があった。それは近年親子でキャッチボール*1する姿をてんで見掛けなくなったことだ。

私が子どもの頃は野球帽をかぶった子どもが父親と軒先の道路や公園で投げ合うのが日常的な光景だった。また、それは当たり前のこととして気にも留めない状況であった。それが今現在ではめったに目にしない。確かに一昔前と違い、規制が増えて公園でボール遊びが禁止されるようになった。そもそも自由に遊べる空き地も減っている。

家の前でキャッチボールをしようとしても近所迷惑にならないかを念入りに気にしなくてはならないご時世だ。核家族化も進み、近所付き合いが希薄で「隣は何をする人ぞ」が普通になりつつある昨今。この環境が野球にかかわらず、諸悪の根源であるような気がしてならない。そして、「野球の入り口」ともいえるキャッチボールに興じる親子の激減にも影を落としている。

他のスポーツに比べて費用のかかる野球

財布のひもを握っている母親からよく聞かれるのが、「野球はお金がかかる」という声だ。比較のために一例を挙げると、サッカー*2もユニホーム*3一式やスパイク*4が必要だ。あとは練習用のボールさえあれば、参加できるスポーツ*5である。ところが、野球ではそれらに付け加えてバット*6やグローブ*7も必須となる。

つまり、一般的に普及しているスポーツと比べ、費用がかかってしまうのだ。また、運営側に回れば負担額はもっと跳ね上がる。ベース*8やキャッチャー*9道具一式は必ずなくてはならないし、ボールもすぐに摩耗するので短期間で交換しなければならない。さらに、野球場が不足している現状では練習場の確保も大変だ。

野球が子どもたちの話題の中心にあった頃は応援しているチームが負ければ本気で悔しがったものだ。テレビをつければナイター*10がいつものように中継放送されていた。しかし、現代ではインターネット*11の普及により、テレビの野球放送にスポンサー*12が就きにくくなっている。さらに、そこに少子化問題が追い討ちをかける形となっているのだ。そのため、子どもたちが野球に接する機会を尾垂れにしてしまっている。このまま対策を講じなければ、子どもたちの選択肢から野球が抹消されるのも必然であろう。

容易に入手できるスポーツ情報

インターネットの普及や衛星放送の充実などにより、飛躍的に野球以外のスポーツ情報が手に入るようになったのも野球離れが進んだ要因の一つだろう。

もちろん大リーグ*13の中継や日本プロ野球の各試合も目にする機会が増える。しかし、これまで日常的にテレビ中継されてきた野球には「真新しさ」という逆風があった。一方、サッカーやバスケットボール*14などは追い風となり、注目を浴びるようになった。また、音楽をはじめとするアニメ*15やゲーム*16などの娯楽分野も急速に発展した。

つまり、子どもたちの楽しみが多様化しているのだ。何も野球だけが楽しみなのではなく、たくさんの「方角」があってしかるべきだ。子どもの可能性を広げる観点からは豊富な情報が有益だと考える。ただし、殊に野球だけに着目すれば、決して積極的には選ばれていない。並み居る強豪の中から野球が勝ち残る魅力を放たなければならないのだ。

ゆがむ野球のエンターテインメント化

特にサッカーのプロ*17リーグ*18であるJリーグ*19が開幕してから少年野球に打ち込む子どもの数は年々減少傾向である。

ただし、日本のプロ野球関係者も指をくわえて見ているだけでない。野球人口の減少に相当の危機感を覚えて対策を練ってきた。そして、セパ交流戦*20やクライマックスシリーズ*21の導入、土日昼間の試合開催など打開を図ってきた。

各球団でも広島東洋カープを筆頭に、横浜DeNAベイスターズや楽天ゴールデンイーグルスなどが、家族で観戦できる観客席や遊園地の併設した。また、女性が関心を持てるグッズ*22の開発やカフェ*23の設置などの企業努力を重ね、「カープ女子」なる言葉も誕生した。これらの改革によって野球ファン*24の掘り起こしに一定の成果を出したといえよう。

その結果各球団はプロ野球の「エンターテインメント*25化」を図り、これまでの「がちがちの野球ファン」以外の客層も取り込むことに成功したわけだ。各球団の観客動員数は好調に推移し、両リーグ全体で見れば年々上昇している。

ところが、問題が「エンターテイメント化」に潜伏しているのだ。なぜなら、右肩上がりの観客数は子どもが野球を見る機会を増やすことにつながっているのに、少年野球の人口増加に反映されていないからだ。

もう一歩踏み込んだ改革が必要

これまでの日本プロ野球の取り組みや各球団の努力を否定する気は全くない。むしろ実行していなければ、野球の急激な衰退は避けられなかっただろう。しかし、ここからは「円陣を組む」必要がある。つまり、ばらばらに行動するのではなく、少年野球から高校野球や大学野球にとどまらず、社会人野球やプロ野球までが一枚岩となって問題解決の糸口を探るべきである。

一例を挙げれば、星野仙一氏が腹案として持っていた「野球くじ」の導入である。娯楽だけでなく、収益による野球場の建設費や少年野球の運営費補助の意味を持っていた。また、災害時の義援金の確保による社会貢献も視野に入れられていたのだ。

さらに、野球界全体での議論を深める上で、立ちはだかるのが各年代の野球連盟が複数存在し、統括が困難なことだ。少年野球と一口にいっても、各地域の軟式野球には独立した連盟が散在し、日本軟式野球連盟が全体を管理しているわけではない。中学では学校の部活以外にもシニア*26リーグやボーイズリーグなどのクラブチーム*27も存在している。それぞれが独自の方針によって個別に運営されている。そのため、「野球の改革」を断行するには意思決定をつかさどる統一組織の存在が不可欠だ。しかし、散り散りばらばらの連盟をまとめるのは至難の業であろう。

だから、まずは最上部である日本プロ野球連盟が主導し、アマチュア*28の各野球組織との垣根を取っ払い、連携を深めていくべきだ。その端緒としてプロ野球選手もしくは元プロ野球選手によるアマチュア野球の指導を全面解禁する方向で議論をしてはいかがだろうか。

言わずもがな、統率力のある長期的な視野で、危機感を持って問題に取り組める人材が必要だ。中長期的な視野から野球の全体の成長を勘案できる人選をしなければならない。また、先導者に丸投げではなく、充実した支援体制が築けるかも鍵になるはずだ。

まとめ

野球はわれわれの生活の中に浸潤し、あってしかるべきものであった。しかし、時代の大勢は次第に変化を遂げ、娯楽の中の一つに成り下がってしまった感がある。そんな状況下でありながら、野球は日本人としての個性と美徳を体現し続けている。

野球が内包しているのは「自己犠牲の精神」や「一球入魂の集中力」だけでない。役割が多彩だからこそ生まれるチームへの帰属意識や相手に敬意を表す美しさ。挙げれば切りがないほどの「日本人らしさ」を野球は余すことなく現しているのだ。

時代は情報化社会を迎え、子どもたちは手短に内容や様子を知ることができるようになった。子どもたちが将来への選択肢を劇的に増やしたことは素晴らしい。しかし、価値観の多様性は本来保守すべき旧来の風習・伝統までもを誤って駆逐してしまうことがあり、日本人としての独自性を失ってしまいかねない。

野球人口の減少から生ずる野球衰退を食い止めること。それは「日本人としての個性を取り戻す旅」と言い換えられるのかもしれない。

*1:(和製語)野球で、二人、もしくはそれ以上が互いにボールを投げたり受けたりしあうこと。送球・捕球の練習。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*2:【soccer】フットボールの一種。11人ずつの二組が、ゴール‐キーパー以外は腕や手を使わずに、ボールを蹴り、また頭で打って、相手方ゴールに入れて、一定時間内での得点を争う。蹴球(しゅうきゅう)。ア式蹴球。アソシエーション‐フットボール。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*3:【uniform】揃いの運動服。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*4:【spiked shoes】底にスパイクの付いた運動靴。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*5:【sport(s)】陸上競技・野球・テニス・水泳・ボートレースなどから登山・狩猟などにいたるまで、遊戯・競争・肉体的鍛錬の要素を含む身体運動の総称。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*6:【bat】野球・ソフトボール・クリケットなどで、球を打つ棒。また、卓球のラケット。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*7:【glove】野球の捕球用革手袋。5本指のもので、捕手・一塁手以外の者が用いる。グラブ。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*8:【base】野球で、塁(るい)のこと。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*9:【catcher】野球で、本塁の後方にいて、投手の投球を受け、また本塁の守備に当たる人。捕手。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*10:(和製語 nighter)夜間試合。主に野球や競馬などでいう。ナイトゲーム。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*11:【internet】世界規模のコンピューター‐ネットワーク。複数のネットワークを相互接続するもので、これに繫がるすべてのホスト‐コンピューターは固有のIPアドレスで識別され、ネットワーク間を中継する仕組みによって全世界での通信が可能。アメリカ国防総省が構築した実験的な軍事用ネットワークから発展した。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*12:【sponsor】放送番組の提供者。広告主。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*13:(major league)アメリカ二大プロ野球リーグのこと。アメリカン‐リーグとナショナル‐リーグで構成。メジャー‐リーグ。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*14:【basketball】球技の一つ。5人ずつ(選手の交替は何度でもできる)の2組が、規定時間内におのおの相手方のバスケットにボールを入れ合い、その得点によって勝敗を決めるもの。米国で始まる。籠球(ろうきゅう)。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*15:【animation】少しずつ動かした人形、または少しずつ変化させて描いた一連の絵などを一こまごとに撮影し、これを連続映写して動きの感覚を与える映画・テレビ技法。漫画・劇画映画・テレビ番組の制作に使用。また、その映画・テレビ番組。動画。アニメ。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*16:【game】遊戯。勝負事。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*17:プロフェッショナルの略。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*18:【league】同盟。連盟。連合。特に、スポーツの競技連盟。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*19:〔和製語 J League〕日本プロ-サッカー-リーグの通称。1991 年(平成 3)設立。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*20:日本のプロ野球で,セントラル-リーグとパシフィック-リーグの球団が対戦する試合のこと。プロ野球改革の一環として,2005 年(平成 17)から公式試合に取り入れられた。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*21:【Climax Series】プロ野球で、日本シリーズへの出場権を争う短期間の試合。ペナント‐レースの上位3チームで行う。2007年開始。CS/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*22:【goods】(商品・品物の意)小物。雑貨。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*23:【café(フランス)】(コーヒーの意)主としてコーヒーなどの飲み物を供する店。日本では幕末の横浜に始まり、東京では1888年(明治21)上野で開店した可否(カッヒー)茶館が最初。珈琲店。喫茶店。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*24:【fan(アメリカ)】スポーツ・演劇・映画・音楽などで、ある分野・団体・個人をひいきにする人。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*25:【entertainment】(エンターテイメントとも)娯楽。演芸。余興。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*26:【senior】同種のものの内で上位の意を表す。上級の。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*27:【club team】 企業や地域などを背景としたスポーツ愛好者が組織するクラブが運営するスポーツのチーム。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*28:【amateur】職業としてでなしに、趣味や余技として携わる人。素人(しろうと)。愛好家。アマ。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)