アンリトンルールとは?野球で知っておくべき暗黙の了解!
アンリトンルールは野球のルールに記載されていない選手間の「不文のおきて」だ。特に大リーグでは日本プロ野球と比べて厳格に守られている。相手チームの誇りを無視し、敬意を欠いたプレーには容赦ない報復が待っている。そんな野球の不文律をご紹介したい。
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大リーグに存在するアンリトンルール(Unwritten Rules)
大リーグ*1の選手たちは特に相手チーム*2に敬意を払ってプレー*3することを大切にしている。例えば得点差のついた試合でバント*4をしたり、盗塁したりして追い討ちをかけるのは良しとしない。同じく点差が開いた展開のボールカウント*53 - 0からバット*6を振るような行為はご法度だ。なぜなら、相手を顧みず、個人記録に執着するプレーは殊更に忌み嫌われるからだ。これらはアンリトンルールとして選手間に存在する暗黙の了解だ。
大リーグのアンリトンルールの一覧
大リーグでは相手チームへの侮辱と見なされた行為に、死球やファースト*7の足を走者がわざと蹴ったりするなどの報復がなされることがある。だから、選手にとっては知らないでは済まされないのだ。そんな大リーグの暗黙の了解を見ていきたい。
- 大差がついた試合で勝っているチームはボールカウント3 - 0から打ちにいってはならない。
- 大差がついた試合で勝っているチームは盗塁をしてはならない。
- ピッチャー*8のノーヒットノーラン*9や完全試合*10が継続中にバントヒットを狙ってはならない。
- ピッチャーは死球をぶつけても謝ってはならない。
- ピッチャーが打者を抑えたとき、派手なガッツポーズ*11をしてはならない。
- 打者がホームラン*12を打ったとき、塁間をゆっくり走ってはならない。
- 打者がホームランを打ったとき、派手なガッツポーズをしてはならない。
- 連続本塁打の直後の打者は初球を打ってはならない。
以上が米国大リーグで主に挙げられるものだ。「大差の試合」の基準がはっきりしないが、総じて5~6点差がそれに該当するようだ。満塁ホームランでも追いつけない点差と覚えておけばよいだろう。
日本では大差がついても手を緩めない。それこそが敬意とする考え方も根強く残っている。だから、その慣習を短期間で一変させるのは難しくもあるだろう。
アンリトンルールを破るとどうなる?
2001年にニューヨーク・メッツに在籍していた新庄剛志選手が、このアンリトンルールを知らずに痛い目に合っている。11対3とリード*13した展開でボールカウント3 - 0からから強振して空振り。翌日の試合で死球の報復を受けているのだ。
2012年に当時シアトル・マリナーズの川崎宗則選手も苦い経験をしている。完全試合を継続中のピッチャー*14からバントヒットを狙った。あいにく報復を受けることはなかったが、観客や選手からブーイング*15を受けて非難ごうごうだった。
ボストン・レッドソックスに所属していた松坂大輔投手も不慣れなおきてに戸惑った。それは打者に死球を与えた際、日本と同じように帽子を取ってこうべを垂れた。しかし、首脳陣から「相手に弱みを見せるな」と注意され、以後はぶつけても堂々と振る舞うようになった。帽子を取り謝意を評する行為は日本では美徳とされており、礼節にかなった行為だと思うが、郷に入っては郷に従えだ。
主なアンリトンルールの趣旨は相手に対して敬意を持つことである。つまり、勝敗を決した試合で、弱り目に攻撃を加えることは不名誉な行為と捉えられているのだろう。
だから、大リーグでは大差がついた試合でリードするチームが手加減をするため、大味な試合になりがちだ。まれに大逆転を喫するような試合も見られる。日本であれば気が抜けているとして一喝されるところだが、これも文化の違いと受け止めるべきなのだろう。
日本プロ野球のアンリトンルールの一覧
日本プロ野球にも同様の不文のルール*16が存在する。日本では相手を敬う気持ちよりも礼儀を重視し、空気を読む意味合いが強いように思える。もちろん例外はあるものの、大リーグのように大差がついた試合でも手心を加えるとは限らない。最後まで油断せずに戦うのが基本的な考え方だ。では、日本プロ野球の暗黙の了解はどのようなものがあるのだろうか。
- 大差がついた試合で勝っているチームは盗塁をしてはならない。
- 大差がついた試合でピッチャーが打者のとき、打席の後ろに立ち三振しなくてはならない。
- イニング*17途中に交代されたピッチャーはイニングが終わるまでベンチ*18裏に引っ込んではならない。
- 引退試合のときには引退する打者にストレート勝負をしなくてはならない。
- 引退試合のときには引退するピッチャーから三振しなければならない。
- キャッチャーからピッチャーへのサイン*19を見て、二塁走者が打者に球種など教えてはならない。
- アウトになった走者がマウンド*20を横切ってベンチに戻ってはならない。
大差がついた試合での盗塁は2007年4月19日の「東京ヤクルトスワローズ」対「横浜ベイスターズ」戦でも企図された。11対0と横浜が大量リードしていたにも関わらず盗塁を仕掛けたため、当時選手兼任監督であった古田敦也選手が激高。次打者内川聖一選手と続く村田修一選手にも2者連続で死球を与え、乱闘騒ぎになっている。
2001年5月22日の「読売ジャイアンツ」対「ヤクルトスワローズ」戦ではヤクルトの藤井秀悟投手が7点リードの9回に打席に立ち、ショートゴロを打ち一塁へ全力疾走。打たずに三振することが習わしであったため、巨人ベンチからすさまじいやじが飛んだ。相手を挑発する意図はなく、全力でプレーした藤井投手は涙した。その裏の投球は集中できず、江藤智選手に本塁打を浴び、3連続四死球を与えて降板している。藤井投手は試合後「プロのおきてを知らなかった」と発言をしている。
また、引退試合では打者にはストレート*21勝負、ピッチャーであれば三振して花を持たせるのが日本独特の素晴らしい文化である。ところが、その場面で本塁打をかっ飛ばしたのが当時横浜ベイスターズの村田選手だ。
2007年10月6日の「広島東洋カープ」対「横浜ベイスターズ」戦。10対0とリードした広島は9回表2死から引退を表明した佐々岡真司投手をマウンドへ送った。本来であれば空振り三振をして花道を飾るところだが、村田選手は豪快に本塁打を放つ。佐々岡投手は真剣勝負した村田選手に感謝していたが、周囲から冷たい目で見られたのも事実である。しかし、当時本塁打王を争っていた村田選手は「その一本」で本塁打王を獲得することになったことから、本人も苦渋の選択だったに違いない。
それを裏付ける一場面がある。前述の2日前の試合である2007年10月4日の「東京ヤクルトスワローズ」対「横浜ベイスターズ」戦。この日はヤクルトの鈴木健選手の引退試合だった。横浜の横山道哉投手は思いやりのストレート一本勝負。ところが、それに対して鈴木選手がなかなか前に打球を飛ばすことができず、ファウル*22ばかりのため、打席から横浜バッテリー*23と横浜ベンチにわびを入れている。
13球目を打ち損ね、打球は平凡なサード*24のファウルフライ*25。鈴木選手をはじめ、誰しもが凡退を確信した瞬間だった。しかし、村田選手はフライを追うそぶりは見せつつも、意図的に捕球しなかったのだ。その粋な計らいに神宮球場は歓声に包まれ、横浜の大矢明彦監督も満面に笑みを浮かべた。
ついに15球目を華麗にセンター前に運んだ鈴木選手。一塁ベース上でベースコーチと固い握手を交わした後、涙がどっとあふれ出した。ファーストの吉村裕基選手も鈴木選手をたたえて、さりげなく帽子を取って一礼している。鈴木選手がベンチに下がるまで、球場全体からは惜しみない拍手が贈られ続けた。
敵味方関係なしに一選手の引退を彩った一連の流れ。「日本プロ野球の良さ」がぐっと凝縮されており、思わず目頭が熱くなる名場面だ。
まとめ
相手への敬意を重んじるアンリトンルール。大リーグでは特に厳格に守られている印象だ。しかし、最後まで気を抜かない文化が残っている日本。そこでプレーをしてきた選手が戸惑いを覚えるのは無理もない。
一方、日本では大リーグと共通するアンリトンルールはあるものの、どちらかといえば、相手に失礼のないように振る舞う「礼儀作法」の意味合いを色濃く感じる。
しかし、その暗黙の了解を結果的に破ってしまい、「ベースボール*26」の洗礼を受けた新庄選手や川崎選手。図らずも日米の文化の違いを示すことになり面白くもある。無論死球を受けたり、罵詈(ばり)雑言を浴びさせられたりした本人はたまったものではないはずなのだが。
藤井投手の事例がごとく、全力プレーを否定するアンリトンルールは賛否両論分かれるところだろう。ただし、野球観戦をする上での予備知識として覚えておくことで、楽しみの幅はより広がるはずだ。
ちなみに、野球観戦に行った際には少し待ってでも、かわいい売り子さんにビール*27を注文する。これは日米共通のアンリトンルールかもしれない。
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*1:(major league)アメリカ二大プロ野球リーグのこと。アメリカン‐リーグとナショナル‐リーグで構成。メジャー‐リーグ。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*2:【team】二組以上に分かれて行う競技のそれぞれの組。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*3:【play】競技。また、競技での動作。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*4:【bunt】野球で、バットを振らず軽くボールに当てて内野にゆるく転がす打ち方。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*5:(和製語 ball count)野球で、一つの打席でのボールとストライクの数。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*6:【bat】野球・ソフトボール・クリケットなどで、球を打つ棒。また、卓球のラケット。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*7:【first】(ファースト‐ベースの略)野球で、一塁。また、一塁手。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*8:【pitcher】野球で、打者にボールを投げる人。ピッチャー。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*9:(和製語 no hit no run)野球で、先発ピッチャーが相手チームに対して無安打無得点のまま1試合を投げきること。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*10:野球で、ピッチャーが相手チームを無安打に抑え、無失点・無四死球・無失策で一人の走者も許さずに勝った試合。パーフェクトゲーム。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*11:(和製語 guts pose)試合に勝ったり物事がうまくいったりしたときに示す動作で、胸の前でこぶしを握ったり腕を頭上に突き上げたりするしぐさ。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*12:【home run】野球で、本塁打のこと。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*13:【lead】競技で、試合進行中相手より得点の多いこと。距離・時間などで相手に先行していること。また、その差。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*14:【pitcher】野球で、打者にボールを投げる人。ピッチャー。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*15:【booing】観客・聴衆などが不満・不服の意を表すこと。また、その時の声。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*16:【rule】規則。通則。準則。例規。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*17:【inning】野球で、両チームが攻撃と守備を一度ずつ行う試合の一区分。回。インニング。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*18:【bench】野球場やサッカー場などで、監督・選手の座る控え席。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*19:【sign】野球などで、味方どうしで交わす手振りなどによる指示。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*20:【mound】野球で、投手が投球を行う場所。土を盛って高くしてある。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*21:【straight】野球で、カーブなどの変化球に対して直球。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*22:【foul】野球で、ファウル‐ラインの外方へ打球が出ること。また、その球。ファウル‐ボール。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*23:【battery】野球で、投手と捕手との組合せ。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*24:【third】(サードベースの略)野球で、三塁。また、三塁手。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*25:【fly】野球で、打者が打ち上げたボール。飛球。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*26:【baseball】野球。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*27:【bier(オランダ)・麦酒】醸造酒の一つ。麦芽を粉砕して穀類・水とともに加熱し、糖化した汁にホップを加えて苦味と芳香とをつけ、これに酵母を加え発酵させて造る。発酵過程で生ずる炭酸ガスを含む。ビア。ビヤ。〈 夏 〉。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)