人生は旅だ

よもやま話に花が咲く

欧州発の小型車!FIAT 500とスマート・フォーフォーを比較

道路を走る銀色の初代スマート・フォーフォー

国産車には最小の自動車枠として軽自動車があるが、欧州でこれに相当するのが「Aセグメント」ことスモールカーである。イタリア発FIAT 500については度々触れてきたが、今回はドイツのAセグメント「スマート・フォーフォー」に話題を集め、比較をしてみたい。

2018年4月6日:用字用語の整理。

波乱万丈の自動車「スマート」

町中に停車されている黒色と黄色のツートンカラーのスマート・フォーツー

2001年ころから見慣れない外国製の2人乗り軽自動車が、日本の町中を走り始めている。その「スマート」と記された車はベンツ系列とうわさされていた。ただし、ベンツにしては奇抜な色使いだし、毛色が一風変わっている。そんなちょっとした違和感を覚えながらも見過ごしていた。実はこれが初代「フォーツークーペ」の全幅を45ミリ削り、日本の軽自動車規格に合致させた「スマートK」と呼ばれる車種であった。

スマートの発案者はスイス*1の時計会社「スウォッチ」による。スウォッチといえば、プラスチック製の腕時計を連想するだろう。しかし、スウォッチグループとして企業を鳥瞰(ちょうかん)した場合、カルバン・クライン・ウォッチ、ラドー、オメガ、ブランパンなど20近い時計ブランド*2を展開する世界最大の時計屋である。

このスウォッチが時計ブランドとしてのスウォッチの醸す、「かわいい小型車」をつくろうとした。これがスマートの幕開けで、自動車会社である「MCC(Micro Car Corporation)」が設立されたのが1994年のことであった。

自動車製造の経験がないスウォッチは、ダイムラー・ベンツ(現ダイムラーAG)と提携し、MCCを立ち上げた。しかし、1998年に市販化した第1弾が転倒を不安視され大幅赤字となり、発案者のスウォッチが事業から撤退する事態に陥った。2004年登場の初代スマート・フォーフォーは三菱・コルトの姉妹車であり、三菱製MIVECエンジン搭載のFF*3車であった。しかし、残念ながら販売不振で2年ほどで姿を消してしまった経緯がある。

スマートは2人乗りのスモールカーが原点である。ただし、車名の変遷が少々ややこしく、1997年11月に初代が「シティクーペ」として発表され、以下のように車名が二度変更されている。フォーツークーペはいわば超小型車の開拓者である。なぜならば、日本においてもこの潮流に触発され、2005年にスバル・R2が、2007年にトヨタ・iQなどが相次いで発売されたからだ。

スマートの車名の移り変わり

  1. シティクーペ
  2. スマートクーペ
  3. フォーツークーペ

今回ご紹介するフォーフォーは2006年に初代が生産中止になってから、8年後の2014年に現行モデル*4となる2代目が登場している。

FIAT 500とフォーフォーの比較

斜め前方から見た赤色のスマート・フォーフォー ターボ

現行の2代目フォーフォーは2014年10月に欧州で登場し、日本国内向けには2016年1月から正規導入された。さらに、同年8月にはターボ*5エンジン搭載車も発表されている。

フォーフォーはその名の通り「4人乗りのスマート」となる。初代フォーフォーは三菱と提携したコルトの姉妹車であったが、2代目フォーフォーおよびフォーツーはルノーとの共同開発品である。そのため、構成部品の約70%をルノー・トゥインゴと共用化ししている。フォーフォーについては、トゥインゴとともにスロベニア*6にて生産されている。

ここでFIAT 500とフォーフォーの抜粋した諸元表をご紹介する。

  FIAT 500 Pop ツインエア フォーフォー・ターボ
ボディタイプ 3ドアハッチバック*7 5ドアハッチバック
乗車定員 4名 4名
全長 × 全幅 × 全高 3,570 × 1,625 × 1,515mm 3,550 × 1,665 × 1,545mm
ホイールベース 2,300mm 2,495mm
トレッド前・後 1,415mm・1,410mm 1,445mm・1,435mm
車両重量 1,010kg 1,060kg
エンジン 875cc直列2気筒 8バルブ*8 ・インタークーラー*9付きターボ 897cc直列3気筒DOHC12バルブ・ターボ
ボア × ストローク 80.5 × 86.0mm 72.2 × 73.1mm
圧縮比 10.0:1 9.5 : 1
最高出力 63kw(85PS*10)/ 5,500rpm*11 66kw(90PS)/ 5,500rpm
最大トルク 145Nm(14.8kgm*12)/ 1,900rpm 135Nm(13.8kgm)/ 2,500rpm
駆動方式 FF RR*13
トランスミッション 5速AT*14デュアロジック 6速ATデュアルクラッチ
サスペンション前輪 ストラット ストラット
サスペンション後輪 トーションビーム トーションビーム
ブレーキ前・後 ディスク・ドラム ディスク・ドラム
タイヤサイズ 175 / 65R14 185 / 50R16・205 / 46R16
JC08モード燃費 24.0km / L 22.0km / L

諸元表に記した各車種のグレード*15の選択としては、FIAT 500の中でもお勧めのツインエアPopを選んでみた。それに対するフォーフォーは日本国内向けは受注生産となっているものの、力強い走りが期待できるフォーフォー・ターボとした。

車体の外寸は驚くほど酷似している。FIAT 500はFF、フォーフォーはRRの駆動方式を取っているのが根本的な違いだ。前輪の重量配分が軽いフォーフォーは高速道路等での横風に若干弱さがあるようだ。しかし、RRである希少価値はそれを補って余りあるだろう。

先に登場していた自然吸気エンジンのフォーフォーは1010~1040キロの車重に0・9Lエンジンの組み合わせのため、その動力性能は国産軽自動車とさほど変わらなかった。しかし、ここにターボが装着されたことで出力が14PS上がり、過不足ない性能を獲得するに至っている。

諸元表を見ても分かるとおり、フォーフォーはターボ搭載に当たり、エンジンのシリンダー径が8・2ミリ小さくされている。それにより排気量も自然吸気エンジン車が998ccのところ、897ccまで下がっている。開発に際してフォードにも技術的な相談を持ち掛けたようだ。FIAT 500の2気筒に対し、3気筒エンジンを搭載するフォーフォー。ターボ化に加え、あらかた正方形の「ボア × ストローク」となり、円滑に高回転まで回せるエンジンに仕上がっている。

FIAT 500とフォーフォーの新車価格

斜め前方から見た白色の英国版フィアット・500

共に日本国内向けモデルで話を進める。FIAT 500は上記でご紹介したツインエアPopが232万2000円である。全体の価格帯を見ると、1・2LのFIREエンジン1・2 Popが199万8000円から、キャンバストップ*16のツインエア・Lounge (ラウンジ)の284万1000円までとなる。

FIAT 500の新車価格(2018年4月3日現在)

  1. FIAT 500 Pop(FIREエンジン1・2):199万8000円
  2. FIAT 500 Pop(ツインエア):232万2000円
  3. FIAT 500 Lounge(ツインエア):284万1000円

一方、フォーフォーは自然吸気エンジンのパッション216万円から、高出力ターボエンジンを搭載するブラバス・エクスクルーシブ312万円までの設定だ。フォーフォー・ターボは257万円となっている。価格的にも両者の中核まではかなり似通っている。FIAT 500では高性能モデルに別格のアバルトを用意しているのに対し、フォーフォーは上級グレードとしてブラバスを設定している。

スマート・フォーフォーの新車価格(2018年4月3日現在)

  1. スマート・フォーフォー(パッション):216万円
  2. スマート・フォーフォー(ターボ):257万円
  3. スマート・フォーフォー(ブラバス・エクスクルーシブ):312万円

ちなみに、フォーフォーの姉妹車となっているルノー・トゥインゴの価格もお伝えしておく。トゥインゴはMTを前面に押しており、5速MTのZEN171万円からGT*17の6速AT239万円までとなっている。トゥインゴは突出した価格設定なのが分かる。トゥインゴGTには5速MT229万円も設定されており、車好きが興味をそそられる1台かもしれない。

ルノー・トゥインゴの新車価格(2018年4月3日現在)

  1. ルノー・トゥインゴ(5速MT・ZEN):171万円
  2. ルノー・トゥインゴ(6速AT・GT):239万円
  3. ルノー・トゥインゴ(5速MT・GT):229万円

フォーフォーに設定されているBRABUS(ブラバス)について少し触れておこう。ブラバスは1977年に設立されたドイツ*18のチューニング*19メーカー*20で、ベンツ各モデルのチューニングを手掛けている。FIATのアバルトと同様の関係性だが、レース畑出身のアバルトに対し、ブラバスは豪華で馬力の大きなエンジンを搭載するようなチューニングを得意としている。

フォーフォー ブラバスの場合は、エンジン自体は0・9L直列3気筒DOHC12バルブ・ターボのままだが、最上級のブラバス・エクスクルーシブでは出力が80kw(109PS)/ 5750rpm、トルクが170Nm(17.3kgm)/ 2000rpmまで高められている。2人乗りのスマート・フォーツーにも同様にブラバスが設定されている。そして、フォーツーのオープンカー*21仕様であるカブリオでは、逆にブラバスのみの設定となっている。

まとめ

夜の町を疾走する黒色のスマート・フォーフォー ブラバス・エクスクルーシブ

フォーフォーはダイムラーAG直系の車種だけあって、Aセグメント*22に当てはまる最小の小型車枠ながら、高級感にあふれる1台である。一方、FIAT 500は同価格帯ながら、敷居が低く感じる付き合いやすさがある。

三菱・コルトと姉妹車であった初代フォーフォーに続き、ルノーとの協業で生まれた2代目の現行フォーフォーである。先代の面影を全く残さないほどに大きく変貌を遂げており、魅力も以前より格段に高まっている。FIAT 500の肩肘張らない雰囲気は特別だが、フォーフォーも4ドアハッチバックの野暮ったさが際立ちかねない車種を、物の見事に演出している。

フォーツーの小さくまとまった高級感は魅力的だが、2名の乗車定員はどうしても用途が限らてしまう。そこに満を持してやって来たのが、好印象はそのままに、活躍の場を広げたフォーフォーだ。小さくてかわいらしい小型車を世に送り出すという「始発駅」から旅だったスマートカー計画。そして、24年ほど過ぎた現在でも、ベンツの血脈である小さな高級車スマートは元気よく走り続けている。

自動車との化学変化が期待された計画者であるスウォッチだったが、初代スマートが登場を待たずして、撤退してしまった。

しかし、初代スマートがスウォッチとするならば、現在のスマートはカルバン・クライン・ウォッチかミドーまで格上げされている。スウォッチだけに「素見*23」していた車ファンも無視できない存在に浮上してきたに違いない。

(出典:メルセデス・ベンツ日本株式会社Fiat Chrysler Automobiles

*1:【Suisse(フランス)・瑞西】中部ヨーロッパにある連邦共和国。アルプス山脈が南部を走り、風光明媚な観光地が多い。国民はドイツ系(65パーセント)・フランス系(20パーセント)・イタリア系(8パーセント)などから成る。公用語はドイツ語・フランス語・イタリア語・ロマンシュ語。1648年神聖ローマ帝国から独立。永世中立国で、赤十字国際委員会・国際労働機関など多くの国際機関の本部がある。精密機械工業・金融・牧畜・観光産業が発達。面積4万1000平方キロメートル。人口803万5千(2011)。首都ベルン。ドイツ語名シュヴァイツ。イタリア語名ズヴィッツェラ。英語名スイッツァランド。公用語が四つあるため1語で表記する場合はラテン名のヘルヴェティア(Helvetia)を用いる。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*2:【brand】(焼印の意)商標。銘柄。特に、名の通った銘柄。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*3:(front engine front drive)自動車で、車体前部にエンジンを置き、前輪を駆動する方式。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*4:【model】型。型式(かたしき)。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*5:【turbo】過給器の一種。排ガスのエネルギーを利用する過給器。排気タービン過給器。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*6:【Slovenia】バルカン半島の北西端部を占める共和国。西端部のみアドリア海に臨む。北はオーストリアと国境を接する。電気機器・金属加工・繊維などの工業が盛ん。1991年ユーゴスラビアから分離・独立。住民はスロベニア人。カトリック教徒が多い。首都リュブリャナ。面積2万273平方キロメートル。人口200万。正称,スロベニア共和国。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*7:【hatchback】乗用車のボディー‐スタイルの一つ。車体後部にはね上げ式のドアが付いているもの。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*8:【valve】弁(瓣)/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*9:【intercooler】中間冷却器。流体を加熱する過程で冷却する装置。特に,気体の連続圧縮過程の冷却装置。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*10:(Pferdestärke(ドイツ))馬力。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*11:【revolutions per minute】エンジンやタービンなどの毎分回転数。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*12:【フランス kilogrammètre】エネルギーまたはトルクの重力単位キログラムメートルを表す記号。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*13:【和製語rear-engine, rear-drive】後部エンジン後輪駆動。自動車の後部に搭載したエンジンによる後輪駆動方式。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*14:自動車などで、自動的に変速段の切替えを行う装置。AT/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*15:【grade】等級。段階。品等。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*16:〔和製語 canvas+top〕屋根がキャンバス地で張られ,折り畳みや取りはずしが可能な自動車。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*17:【grand touring car】走行性と居住性にすぐれ,高速で長距離を走行できる乗用車。グランド-ツーリング-カー。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*18:【Duits(land)(オランダ)・独逸】(Deutschland(ドイツ))中部ヨーロッパのゲルマン民族を中心とする国家。古代にはゲルマニアと称した。中世、神聖ローマ帝国の一部をなしたが、封建諸侯が割拠。16世紀以降、宗教改革・農民戦争・三十年戦争・ナポレオン軍侵入などを経て国民国家の形成に向かい、1871年プロイセンを盟主とするドイツ帝国が成立。のち第一次大戦に敗れて(ワイマール)共和国になったが、1933年ナチスが独裁政権を樹立して侵略政策を強行、第二次大戦を誘発、45年降伏、49年東西に分裂。90年ドイツ連邦共和国として統一。言語はドイツ語で、プロテスタントがカトリックよりやや多い。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*19:【tuning】音響機器や自動車など機械類の調整をすること。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*20:【maker】製造者。特に、名の知られた製造業者。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*21:(和製語 open car)屋根のない自動車。屋根が折りたたみ式の幌になった自動車。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*22:【segment】分節。区分。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*23:見るばかりで買わないこと。また、その人。ひやかし。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)