全面改良の新型ジムニーを評価!正当な着眼点で見極める
いよいよ新型ジムニーが満を持しての発表だ。2018年6月18日に予告サイトを公開し、7月5日が発売日となっている。20年ぶりの完全刷新だが、評価するに当たって予防安全装備が付いたうんぬんは二の次でいい。発売直前にジムニーの核心を突いてみたい。
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新型ジムニーJB63の続編記事はこちら
2018年7月登場の新型ジムニーが魅する!車づくりのお手本
2018年7月17日:リンクの追加。
新型ジムニーの外観から察するもの
1998年に軽自動車は現行規格となり、合わせて発売されたのが現行JB23型ジムニーだ。それから、早くも20年が経過した。そして、いよいよ通算4代目の新型ジムニーが2018年7月5日に発売となる。
20年前にJB23型ジムニーが発売された当時は随分へんてこな形になったものだと感じた。新型ジムニーは側方から見た場合のウインドー*1下部の線に当たる「ウエストライン」が相当高めに見える。全体が角張っている上、ヘッドライト*2の下端を斜めにデザイン*3したり、ドア*4下のサイドシル*5を斜めに持ち上げたりしたことが印象を一層強調している。
サイドシルは先代SJ30型からJA12型ジムニーで不整地走行をしたときの泣き所でもあった。ここを大きなこぶや急坂を登り切ったときに打ち付け、強度に難のあるサイドシルはあっさりへこんでしまうものだった。
この4代目ジムニーも「へんてこ」には違いないが、極限まで角張っている故に、車体の見切りは抜群であろう。JB23型と同様にサイドシルもフレーム*6より高い位置にある。加えて、薄くつくられているため、容易には打ち付けないで済みそうだ。
過去のジムニー屈指のデザインは初代ジムニーの最終形態であるSJ10型だと思う。その中でも愛好家が「垂れ目」と称する後期型が見た目のバランス*7も秀逸だ。後期SJ10型は当時の550cc*8軽自動車規格ながらも、今のジムニー・シエラのようにオーバーフェンダー*9を備えていた。斜め後ろからの形状は車体に埋め込まれた4灯丸目の尾灯ともぴったり合っていて絶妙の格好良さだった。
新型ジムニーは角張ったことで表面積が増え、一回り大きくなったような印象を受ける。しかし、軽自動車規格は変わっていないので、JB23型ジムニーから「全長 × 全幅」の変更は皆無だ。初代LJ10型から軽自動車枠の中で大径16インチ*10タイヤ*11を一貫して採用するジムニーはホイールベース*12もこれ以上伸ばす余地がない。つまり、ホイールベースは長いほど直進安定性が高まるが、悪路走破性を低くしてしまう。そのため、ジムニーは現状のホイールベースが適切といえる。
期待できるのは最近のスズキ各車種が大幅な軽量化を行なっている点だ。新型ジムニーも少なからず、この恩恵を受けたものになっていると予想する。つまり、JB23型からの軽量化であり、動力性能の向上につながる。この「軽自動車枠」の「たが」はジムニーらしさの引き立てに大きく寄与する。基本構造は次項で触れるが、まず「これぞジムニー」がしっかり継承されたことは賞賛に値する。
継承されるジムニーたる構造
新型ジムニーに関して「モノコック*13やセミ*14モノコックが採用」「フルタイム4WD*15になる」などの巷説も一部で飛び交った。しかし、実際にそうなっていたら、ジムニーもついに終息していたのは間違いない。
方向性がぶれているトヨタ・ランドクルーザーやレンジローバーなどを尻目に、新型ジムニーは見事に伝統を継承してくれた。予告サイトにも大々的に記載されている以下の構造である。
これらをかみ砕いて説明すると「JB23型ジムニーと同一」となる。さらに、(4)を「板ばねリジッドアクスル式」に置き換えると、1942年の元祖ウイリスMB、フォード・GPWジープと全く同じ基本構造でもある。つまり、悪路走破性を第一に考えた構成なのだ。
最近のスポーツタイプ多目的車(SUV)は電子制御で「漠然とした悪路走破性」を宣伝する手合いであふれている。しかし、ジムニーは贋作(がんさく)ではない質素や頑丈を兼ね備えた「質実剛健*22」を地で行ける、世界中を見渡しても希少な車種である。
過去のジムニーで野山を走ったことがあれば、美点にぴんと来るはずだ。しかし、新型ジムニーの購入を検討したり、優位性が見いだせなかったりしている方のために、前述の新型ジムニーの構造(1)~(4)が意味するところを次項で迫っていきたい。
ジムニーらしい質実剛健
前項で触れた(1)~(4)の真意を解説しよう。
(1)ラダーフレーム
上に載せられるボディー*23は「飾り」で、ラダーフレームが車体強度保持の全てを担っている。つまり、仮に横転や接触事故に遭遇し、ボディーが相当屈しても走行に支障が出ない。
(2)エンジン縦置きFRレイアウト
本格スポーツタイプ多目的車(SUV)に共通した構成だと暗に語っている。かつて兄貴分だった同社のエスクードも同方式だったが、今ではエンジン横置きFF*24の「ただの乗用車」に落ち着いてしまっている。
(3)副変速機付きパートタイム4WD
副変速機は悪路走破に欠かせない構造である。副変速機ロー*25はハイ*26に比べ2倍以上低いギア比*27となり、登坂性能を飛躍的に押し上げる。
パートタイム4WDはFRとの選択肢を取り置いているわけだ。センターデフ*28を持たないため、駆動系に対する若干の知識が必要となる。しかし、選択肢のない機械任せのフルタイム4WDに比べ、考えて操る楽しさと高い自由度がある。
(4)3リンクリジッドアクスル式サスペンション
前輪のサスペンション*29形式は乗り心地に直結するため、どうしても具合が悪くなるリジッドアクスル式を採用する車種は減少傾向だ。リジッドアクスル式はサスペンションストローク*30を長く取りやすい上、路面に対して常時最低地上高が変化しないので悪路走行に適している。前輪に独立懸架式を採用したスポーツタイプ多目的車(SUV)は足の短い「ダックスフント*31」と皮肉を込めて呼ばれたほどに悪路走破性が低くなる。
さらに、(1)~(4)の売り文句を前面に押し出したことには含みがあり、「ギア比も悪路走破に適した設定である」と告知しているのも読み取れる。
まとめ
今回軽自動車規格の新型ジムニーに的を絞ってご紹介してきた。1954年に360ccの軽自動車規格が定まって以来、その時代ごとに幾つもの流行があった。1976年のスズキ・アルトをきっかけとしたボンネット*32バン*33人気、1985年からのダイハツ・ミラTR-XXに始まる第2次パワー競争、1993年のスズキ・ワゴンRに端を発するハイト*34系人気などである。
2011年にはダイハツ・ミライースからエコ*35競争が誘発されたこともある。しかし、栄枯盛衰は世の常であり、ハイト系の燃費が向上したことで終焉(しゅうえん)を迎えた。直近では室内空間の広さと燃費を集約したハイト系が俗受けしている。そして、集約されるにつれて個性を押し殺したような似たり寄ったりの車種ばかりとなってしまっている。
そんな中ジムニーは1970年の発売以来、徹頭徹尾オフロード*36性能を追求してきた。昨今の電子デバイス*37のまやかしに寄り掛かることなく、優れた基本構造をずっと継承している。すなわち、他の軽自動車と決して一緒くたにしてはいけない。
新型ジムニーは軽自動車の異端児であるばかりでない。世界的に見たとしても、大きさも含めてウイリスMBやフォード・GPWの流れをくむ正統派ジープとして存在感を放ち続けている。日本が誇るべき1車種であることに疑いの余地はないのだ。
日本国内や先進国の公道上においてはジムニーの本領を発揮できる状況はもはや数えるほどだろう。それ故、中途半端さが際立つクロスオーバー*38型SUVなどが氾濫する契機となったはずだ。
新型ジムニーを購入する場合、外観・内装や安全装備だけにとらわれず、ぜひとも真っ先に下回りをのぞき込んでほしい。なぜならば、そこにこそジムニーの真価が隠されているからだ。新型ジムニーにはXC、XL、XGの3グレード*39が設定されるようだ。お薦めは叙述してきた観点からも、最廉価版のXGとなる。
無駄なぜい肉はそぎ落とし、大ざっぱさを楽しむのが「硬骨の士ジムニー」にお似合いである。
(出典:スズキ株式会社)
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*1:【window】窓。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*2:【headlight】電車・自動車・艦船などの前部につけて前方を照らす明り/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*3:【design】意匠計画。製品の材質・機能および美的造形性などの諸要素と、技術・生産・消費面からの各種の要求を検討・調整する総合的造形計画。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*4:【door】(洋風の)戸。扉。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*5:【side sill】自動車の側面開口部を構成する強度メンバーのなかのひとつで、ドア下に位置する部材である。シルとは敷居のこと。乗降性のうえからはあまり高くないことが望ましいが、低く設定すると地面の障害物と接触して損傷する機会が増えるので、必要な剛性強度を確保するための断面積を保ちながら、適度な寸法を設定するのに苦心している部材である。/出典:大車林(三栄書房 2004年)
*6:【frame】自転車・自動車などの車体枠。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)
*7:【balance】つりあい。均衡。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*8:(cubic centimetre)立方センチメートルを表す記号。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*9:【overfender】標準車のフェンダーに対して、さらに外側へはみ出して取り付けられた追加フェンダーをいう。多くの場合、メーカーが完成車として出荷したあとに取り付けられるが、メーカーまたはメーカーの協力会社が標準車の派生車型として製造する場合もある。後付けした場合は全幅が増加するので改造車両としての届け出が必要である。幅広タイヤやオフセット違いのホイールを装着すると、タイヤなどの回転体が最外側より飛び出し危険なので、はみ出し部分をカバーすること、トレッドが増えた場合は軸強度や操縦性にも影響があるので、技術検討書を添えて改造届けを提出しなければならない。/出典:大車林(三栄書房 2004年)
*10:【inch・吋】ヤード‐ポンド法の長さの単位。1フィートの12分の1。2.54センチメートル。記号 in/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*11:【tire; tyre】車輪の外囲にはめる鉄またはゴム製の輪。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*12:【wheelbase】自動車の前車輪と後車輪の中心間の距離。軸間距離。軸距。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*13:【monocoque】自動車などで,車体とフレームが一体になった構造。単体構造。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)
*14:【semi】「幾分」「半」「準」の意。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*15:【full-time 4WD】4輪駆動方式には、常時4輪駆動走行方式のフルタイム4輪駆動と、通常は2輪駆動走行で、必要なときだけ4輪駆動走行する方式のパートタイム4輪駆動がある。フルタイム4輪駆動は、4輪が常に駆動系を介して結ばれているシステムで、前後軸への駆動トルク配分を制御して各4輪の回転差を吸収することが必要となる。その駆動トルク配分方式には、センターデフと各種の差動制限装置を用いて、前後軸への駆動トルク配分を一定比率で行う固定配分方式と、電子制御の摩擦クラッチやビスカスカップリングを用いて、トルク配分が路面や走行状態で変わる可変配分式がある。/出典:大車林(三栄書房 2004年)
*16:【ladder type frame】フレーム型式のなかでトラック、バス用としてもっとも代表的なもので、左右2本のサイドメンバー(サイドレール、縦通材)を前端から後端にわたって通し、その左右間を複数のクロスメンバー(横材)で結合して、はしごの足掛けのかたちにしたフレーム。単純な形状と構造から曲げ、ねじりの強度計算と実勢値が近似しており、製作も容易である。サイドメンバーは大型プレス機で成形されるが、大型トラック用は平面形状が直線でも、側面形状では応力の低い前後オーバーハング部分は断面形状が絞り込まれている。小型トラック用は車両寸法とレイアウトの制約から、エンジンやサスペンション、リヤボディなどの架装に適するように曲面成形のものが多い。/出典:大車林(三栄書房 2004年)
*17:【FR】(front engine rear drive)自動車で、車体前部にエンジンを置き、後輪を駆動する方式。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*18:【layout】配列。配置。特に、新聞・雑誌などの紙面の割付け。洋裁では型紙の配列。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*19:主変速機の前あるいは後ろに2段程度の変速部を直列に設けたもの。主が5速や6速変速機であれば、副の高低2段の組み合わせにより、10段や12段などの多段化ができる。副変速機部は、例えばスプリッターギヤ付きと呼ばれる方式では、主変速機の前側にスプリッターギヤセットが主軸と副軸に装着され、それがレバーでシフトできる仕組みになっている。トラックやトラクター(トレーラー牽引車)に使用され、乗用車では逆回転軸を利用して三菱が初代ミラージュに採用したことがある。高速の燃費低減やエンジン騒音の低減、低速では駆動力増強がはかられている。変速は自動化されており、スプリッター用アクチュエーター、ギヤシフトユニット、クラッチブースターなどがあり、Dレンジにシフトすれば電子制御部から指令を受けて自動変速される。/出典:大車林(三栄書房 2004年)
*20:【part-time 4WD】普段は後2輪駆動か前2輪駆動で、必要なときに4輪駆動に切り替えて使う駆動方式。フルタイム4駆と対比した呼び名。ジープタイプのオフロード車やトラックなどで使われる。悪路に入る車なので、4駆にしたうえでさらにロー、ハイの2段に切り替えられるものもある。トランスミッションと駆動輪の間にトランスファーケースと呼ばれるギヤボックスをもち、2輪駆動と4輪駆動の切り替え、ロー、ハイの切り替えを行う。切り替えは手動式のレバーやスイッチで行う。/出典:大車林(三栄書房 2004年)
*21:【three link type suspension】リンク式リジッドアクスルサスペンションのもっともシンプルな構造で、3本のリンクを用いてアクスルの位置決めを行う方式をいう。リンクは前後方向のロワリンク2本と横方向規制のラテラルロッド1本。あるいは左右リーフスプリングとトルク吸収ロッド1本などの形式である。軽自動車のリヤサスペンションに多く用いられている。/出典:大車林(三栄書房 2004年)
*22:飾り気がなく真面目で、強くしっかりしていること。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*23:【body】車体。機体。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*24:(front engine front drive)自動車で、車体前部にエンジンを置き、前輪を駆動する方式。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*25:【low】低いさま。劣ったさま。安いさま。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*26:【high】高いこと。高度。高級。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*27:歯車を利用して動力を伝える装置において、原動機側の軸の回転数と伝達先の軸の回転数との比。変速比。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*28:【center differential】4WD車のトランスファー内で前輪と後輪に駆動トルクを与えながら、前後輪回転差を許容する装置。フロントデフとリヤデフの中間に位置することからこの名がある。4WDで、前輪と後輪の差動を吸収できないと、タイトコーナーを最大舵角で旋回するときに大きなブレーキがかかったような現象が発生する。これを解消するためセンターデフが装着され、前輪と後輪の差動を行う。センターデフの方式には、ベベルギヤ式やプラネタリーギヤ式があり、前者の前後トルク配分は50:50となり、後者はギヤ比変更で30:70など、自由に設定することができる。1車輪の空転で全輸の伝達トルクが0となるので、差動制限装置やデフロックが必要である。/出典:大車林(三栄書房 2004年)
*29:【suspension】車輪に車体を載せ付ける装置。路面の凹凸を吸収し、車体の安定性、乗り心地をよくする。懸架装置。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*30:(stroke)蒸気機関・内燃機関など往復機関で、シリンダー内でピストンが一端から他端まで動く距離。衝程。行程。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*31:【Dachshund(ドイツ)】イヌの一品種。体高は20センチメートルほどだが、体長は50センチメートル以上あり、短足で胴長。耳は垂れ、尾は細い。毛色は茶色・褐色など。本来はアナグマ(ドイツ語でダックス)狩に用いたが、今は愛玩用。ドイツ原産。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*32:【bonnet】自動車の前部の機関部のおおい。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*33:【van】屋根付の貨物運搬用自動車。一般には箱型。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*34:【height】高さ。高度。海抜。また,身長。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)
*35:【eco】(エコロジーの略)環境に配慮すること。「生態」「環境」「環境保護」を意味する接頭辞。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*36:【off-road】野山や砂浜など、道路から外れている所。また、舗装していない道路。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*37:【device】電子回路を構成する基本的な素子。トランジスター・ICなど。また、コンピューター‐システムで、特定の機能を果たす装置。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*38:【crossover】在来の種々の要素を組み合わせて新たなものを作り出すこと。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*39:【grade】等級。段階。品等。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)