人生は旅だ

よもやま話に花が咲く

食通王国タイの「昆虫食」の不思議に迫ってみたい!

タイにある虫の油揚げの屋台

タイの町中には食用の昆虫を売る屋台を目にする。現代において日本人が昆虫を常食とするのは難しいかと思われる。むしろ苦手ならば、目を背けたくなるはずだ。飽食の時代にあってタイ人がなぜ昆虫を食すのだろうか。また、その頻度はどの程度なのだろうか。

2018年2月6日:画像の変更。

食べる昆虫の種類

お皿に盛られたカニ入りソムタム

昆虫*1食の屋台をのぞいてみると蚕*2の幼虫のような虫の素揚げが山積みになっている。成熟していないパパイア*3のサラダであるソムタムを売る屋台にも、タガメ*4のような大きめの昆虫がカニ*5と並んで置かれていることがある。他には市場にて食材としてアリ*6が売られているのをたまに見掛ける。

タイ人は昆虫食を好むのか?

一般論になるが、地域と世代に左右されるそうだ。タイ国内のイサーン(タイ東北部)や北部、東部では虫食にあまり抵抗がないようだ。一方、南部地方などは昆虫食の習慣が根付いておらず、毛嫌いされることが多いようだ。世代的にも高齢者は昆虫食に抵抗はなく、若年者ほど遠のいているように見受けられる。

日本でもイナゴ*7が食べられていたそうだ。だから、タイも日本と同様に食生活の劇的な変化により昆虫食が今後逓減していくかもしれない。

昆虫食の歴史は何を語る?

われわれが容易に想像できるのは貧困に起因していや応無しに昆虫を食べていたことである。それはタイの歴史を振り返ると当てはまるのだろうか。

今から40数年前のタイの隣国カンボジア*8ではポルポト*9で有名なクメールルージュ*10の独裁支配から逃れるため、住民が密林に身を忍ばせた。その際飢えをしのぐため、ありとあらゆる「栄養源」を根こそぎ食べ、大型のクモ*11タランチュラ*12すら辺りから一掃された逸話がある。

タイは東南アジア*13で唯一欧米からの植民地化を逃れている。また、農業計画も充実しており、「貧困あれど飢饉(ききん)なし」と称されるタイの現状とは相いれず、貧困故に昆虫食が始まった説は決定力不足になる。

しかし、タイの人口の3割強を占めるイサーン(タイ東北部)だが、国内総生産*14は約1割にしか満たないので、少なからずの影響はあったはずだ。前述したソムタムに使われている素材をイサーン(タイ東北部)と南部で比較してみても格差が明々白々なのだ。興味のある方は一度食べ比べをしてみると良いだろう。

タイ人にとっての昆虫食の位置付け

バンコクのカオサン通りにある虫の油揚げの屋台

タイの街路で興味深い光景を見ることがある。それはコンビニエンスストア*15の前に昆虫を売る屋台が陣取っているのだ。観察していると客足は結構あり、若年層も買いに来ている。

なぜコンビニエンスストアで中食や菓子ではなく、わざわざ昆虫を選んでいるのだろうか。特に安価でもないので、「おいしさ」をはかりに掛けた上で顧客は昆虫を購入していることになる。つまり、昆虫食は嗜好(しこう)品の一つとして受け入れられているのだろう。

昆虫の素揚げ以外の調理法

タイ人は昆虫を調味料として使うために購入することもあるようだ。実際にアリのぎ酸*16は酢の代わりとして高値で取引されている。高級食材としてアリを使うタイ料理は確かに存在する。

タイ通に言わせればタガメを入れたソムタムは酷が出て、うまみが増すそうだ。化学調味料が一般化した現代において、究極の「自然食」になりそうだが、味については各自でお試しいただきたい。

まとめ

さなぎの油揚げ

カンボジアでは飢えからの急場しのぎに昆虫を食べ、中国*17では食への追求から「四つ足は机以外全て食べる」と伝えられている。それでは、タイはどうだろうか。イサーン(タイ東北部)では空気も乾燥しており、他の地方と比較して不毛の地であることは否めない。そのような背景からも昆虫食が根差していったのは予想できるが、他にも理由があるはずだ。

また、海外の食文化の受け入れにも寛容なタイ社会。日本食をはじめとして、アジアから欧州まで幅広くそろっている。それらの浸透と比例して急速に昆虫食が淘汰(とうた)されていきそうなものだ。しかし、その速度は明らかにゆったりしており、根強い愛好者がいるためか、今もなお食べ続けられている。

実は健康面でも優れており、以下のような特長が認められるそうだ。

  1. 必須のアミノ酸が適度に摂取できる。
  2. 燃焼しやすいオメガ脂肪酸*18がたっぷりと含まれている。
  3. 牛肉の2倍以上のタンパク質*19が含まれている。

ただし、火を通していない昆虫には寄生虫*20が混入していることがあるので、くれぐれも用心してもらいたい。寄生虫にはそれぞれの潜伏期間があるので症状がすぐに表れないこともあるそうだ。体に異変を感じたら直ちにお医者さまにご相談されたい。

インドシナ*21のように突き出たお腹の男性は「昆虫食」について一考の価値がありそうだ。

*1:(insect 「昆」は「多い」意)節足動物門の一群。約95万種が知られ、全動物種の約3分の2を占める。体は頭・胸・腹の3部分に分かれ、頭部に各1対の触角・複眼と口器、胸部に2対の翅(はね)と3対の脚とがある。翅は1対のもの、また無いものもある。大部分は陸生。発育の途中で顕著な変態をする。旧分類では六脚亜門全体を指したが、現分類ではそのうちの外顎綱を指す。六脚虫。六足虫。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*2:(「飼い蚕(こ)」の意)チョウ目カイコガの幼虫。孵化した時は黒く見える(毛蚕(けご)・蟻蚕)が、第1回の脱皮後灰色となる。多くは暗色の斑紋を具え、13個の環節がある。通常4回の眠(みん)を経て、脱皮して成長。糸を吐いて繭をつくり、中で脱皮して蛹(さなぎ)となる。羽化したカイコガは、繭を破り外に出て交尾・産卵する。繭から絹糸を取る。家蚕(かさん)。御蚕(おこ)。おしら。〈 春 〉/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*3:【papaya・蕃瓜樹】パパイア科の高木。熱帯アメリカ原産で、熱帯地方で広く栽培される果樹。幹は柔軟で分岐せず、葉は枝先に集まる。ヤツデに似るが軟質。雌雄異株。果実は楕円形で、長さ約10~30センチメートル。黄色で芳香があり、内部に大量の種子がある。食用。また酵素パパインを含み、食肉を軟らかくし、ビール・醬油の清澄剤とする。ちちうりのき。パパヤ。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*4:【田鼈・水爬虫】カメムシ目コオイムシ科の水生昆虫。体長約6センチメートル。体は扁平で、前肢は捕獲肢となる。成虫・幼虫とも水生昆虫などを捕らえて体液を吸う。小魚をも捕らえ、養魚上有害。成虫は夜、水中から出て飛び、灯火にも集まる。ミズガッパ。コウヤヒジリ。カッパムシ。ドンガメムシ。〈 夏 〉/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*5:【蟹】エビ目(十脚類)カニ下目(短尾類)の甲殻類の総称。体は1枚の頭胸甲(甲あるいは甲羅と呼ばれる)で覆われた頭胸部と、7節から成る腹部に分かれ、頭胸部は扁平で横に広くなり、腹部は小さくなって一般に頭胸部の下面に折り畳まれている。頭胸部の5対の歩脚のうち第1対は鋏脚(はさみ)となる。横向きに歩行するのが一般的であるが、前向きに歩く種も少なくない。雌は産んだ卵を腹肢に着け、孵化まで保護する。世界に約6000種、多くが海産であるが、500種あまりが淡水産。日本には約1200種。食用として重要なガザミ・ケガニ・ズワイガニなどがある。〈 夏 〉/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*6:【蟻】ハチ目アリ科の昆虫の総称。胸腹間に甚だしいくびれがある。触角は「く」の字形に屈曲。多くの種は地中または朽木の中に巣をつくる。雌である女王と、雄と働き蟻(生殖能力のない雌)とがあり、多数で社会生活を営む。新しく羽化した女王と雄には翅があり(羽蟻)、女王は交尾後に翅を失う。〈 夏 〉/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*7:【稲子・蝗】バッタ科イナゴ属(またはイナゴ科)の昆虫の総称。体長約3センチメートル。稲の害虫。体は緑色、翅は淡褐色。鳴かない。夏・秋に田圃・草原に多く、秋、土中に産卵する。ハネナガイナゴ・コバネイナゴなど。〈 秋 〉/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*8:【Cambodia・柬埔寨】インドシナ半島南東部の国。1世紀以来扶南、7世紀以来真臘(しんろう)と称した。1863年フランスの保護国。1953年立憲王国として独立。75年国名を民主カンプチアと改称。78年以来の内戦ののち、93年カンボジア王国が成立。面積18万1000平方キロメートル。人口1339万6千(2008)。住民の大部分はクメール人で仏教徒。言語はカンボジア(クメール)語。首都プノンペン。カンプチア。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*9:【Pol Pot】(本名Saloth Sar)カンボジアの政治家。クメール‐ルージュの指導者。1976~79年、民主カンプチア首相。粛清や都市住民の農村での強制労働などの政策のため、百万人以上の死者を出した。(1925?~1998)/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*10:【Khmer Rouge】カンボジアの政治勢力。1976年民主カンプチアを樹立、空想的な共産主義建設を強行、自国民を大量に虐殺した。79年ベトナムの軍事侵攻により政権崩壊。ポル=ポト派。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*11:【蜘蛛】クモ綱クモ目の節足動物の総称。体は頭胸部と腹部とに分かれ、どちらにも分節がない。頭胸部に8個の単眼と6対の付属肢(鋏角・触肢・歩脚)がある。鋏角は上顎を形成し牙の先端から毒を出す。書肺または書肺と気管の両方で呼吸し、腹部にある糸疣(いといぼ)から糸を出す。網(あみ)(いわゆる「くものす」)を張るものと張らないものとがある。卵は一塊にして産み、糸で包んで卵囊を作る。子ぐもは糸を流して風に乗って飛行し、散らばる。ジョロウグモ・オニグモ・ハエトリグモ・キムラグモ・ハナグモなど。世界に約4万5000種、日本だけでも1500種以上ある。ささがに。〈 夏 〉/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*12:【tarantula】大形で毛むくじゃらのクモ、特にオオツチグモ科の俗称、ペット名。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*13:アジアの東南部。ベトナム・ラオス・カンボジア・タイ・ミャンマー(ビルマ)・フィリピン・ブルネイ・マレーシア・シンガポール・インドネシア・東ティモールを含む。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*14:(gross domestic product)一定期間(通常1年間)に国内で新たに生産された財・サービスの価値の合計。国民総生産から海外での純所得を差し引いたもの。GDP/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*15:【convenience store】食料品・日用品を中心にした小型セルフ‐サービス店。適地立地・無休・深夜営業など便利さを特徴とする。コンビニ。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*16:【蟻酸】(formic acid)(アリを蒸留して得たからいう)最も簡単なカルボン酸。示性式 HCOOH アリやハチの毒腺中、植物・細菌などの生体中にある。無色透明な液体。刺すような臭気がある。皮膚に触れると激痛を感じ水疱を生じる。蓚酸(しゅうさん)製造・染料工業・鞣革(なめしがわ)工業などに用いる。メタン酸。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*17:東アジアの国。きわめて古い時代に黄河中流域に定住した漢民族の開いた国で、伝説的な夏王朝に次いで、前16世紀頃から殷王朝が興り、他民族と対立・統合を繰り返しつつ、周から清までの諸王朝を経て、1912年共和政体の中華民国が成立、49年中華人民共和国が成立。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*18:炭素原子が鎖状に結合しカルボキシ基を1個もつカルボン酸の総称。酢酸・パルミチン酸・ステアリン酸・オレイン酸などの類。高級脂肪酸はグリセリン‐エステルとして脂肪を構成、またアルコール‐エステルすなわち蠟(ろう)として存在する。低級のものも遊離酸・塩・エステルとして広く生物界に分布。生体内で、クエン酸回路で酸化されエネルギー源となる。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*19:【蛋白質】(protein)生物体の構成成分の一つ。複雑な構造の含窒素有機化合物。基本構造は、鎖状につながった数十個以上のアミノ酸から成る。酵素をはじめ生命現象に密接な関係をもつ。動物の重要な栄養素の一つであり、工業的にも重要。単純蛋白質と複合蛋白質がある。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*20:(parasite)他の生物に寄生し、それから養分を吸収して生活する小動物。シラミ・ダニ・条虫・回虫・十二指腸虫など。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*21:【印度支那】(Indo-China)アジア大陸の南東部、太平洋とインド洋の間に突出する大半島。インドと中国の中間に位置するからいう。狭義にはベトナム・ラオス・カンボジア3国(旧仏領)を指し、広義にはタイ・ミャンマーをも含む。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)