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自動車とバイクの価格が上昇している本質を考察する

側方から見た黒色のホンダ・モンキー・50周年スペシャル

過日ホンダ・モンキーが50年の歴史に幕を閉じた。その記事を読んで目を疑ったのが「新車で40万円以上」の部分だ。軽自動車でも総額が200万円前後になり、どれもこれも高根の花となっている。限定的な切り口にはなるが価格上昇について探ってみたい。

ホンダ・モンキーの新車価格の古今

側方から見た白色のホンダ・モンキー・50周年アニバーサリー

ホンダ・モンキーは1967年に発売された第1種原動機付自転車である。もともと遊園地である多摩テックの遊具として開発された異色のバイクなのだ。その名の通り大人が股がると猿のように愛嬌(あいきょう)のある姿となる。余談になるが、かの有名なロックバンドのザ・ブルーハーツがこのバイクを題材にした「MONKEY」という歌を作っている。

モンキーの49cc*1空冷4ストローク*2OHC単気筒エンジンをはじめとした各部の構造は非常に単純なものであった。それにより所有者自身が手を加えるには最適の1台となり、愛好家も数多く生まれた。

同社の実用的なバイクであるカブと対照的なレジャーバイクとしてのモンキーは50年もの長きにわたって親しまれた。2017年7月から8月に最終の「モンキー・50周年スペシャル」を抽選販売し、その歴史に終止符を打ったのである。

さて、そのモンキーだが「50周年スペシャル」の税抜き新車価格は40万円にも上る。最終型にふさわしい渋いクロム*3めっき*4のため、高くついたとも取れる。しかし、半年ほど前の2月に発売された「50周年アニバーサリー*5」でも32・6万円であった。

ここで歴代モンキーの新車価格を振り返ってみよう。1974年は7・9万円、1985年には11・9万円、1995年になると18・9万円であった。もう少し見てみると、2001年は19・4万円、2012年では27・6万円となっていた。

歴代のホンダ・モンキーの新車価格(税抜き)

  新車価格
1974年 79,000円
1985年 119,000円
1995年 189,000円
2001年 194,000円
2012年 276,000円
2017年 400,000円

1989年4月1日には消費税制度が導入されているが、比較のために全て消費税抜きの各新車価格を記している。1974年式と2017年式では32・1万円の差、406%もの上昇になる。1985年式と比べても、28・1万円の差で236%に上る。

この間のモンキーの大きな変更点は1992年の電装6Vが12Vに、2009年の気化器*6が電子制御燃料噴射装置になったくらいのもので、基本的な構造や装備に大きな変化はなかった。

スズキ・アルトの新車価格の古今

斜め前方から見た白色のスズキ・アルトバンの外観

スズキ・アルトは2014年12月に現行の8代目モデルとなり、約15年ぶりにアルト・ワークスを復活させたことでも話題となった。ワークスは別格として、アルトは今も昔も「軽自動車らしさ」を最も有している車種ではないだろうか。

アルトは1979年に初代が登場した。47万円という破格の安値と商用車登録による物品税の免除で爆発的な人気となった。最安値のグレード*7で、その後の新車価格における変遷を追ってみよう。

1988年の2代目は53・8万円だった。1989年に物品税*8の廃止と消費税の導入がなされ、翌1990年には550ccから660ccへと軽自動車の規格が変更された。アルトは2代目の途中でエンジンを660ccに載せ替え61・1万円となる。その後1995年は64・3万円、1998年には再び軽自動車の規格変更があり、660ccを維持しながら外寸を拡大して現在の規格に落ち着いている。特筆すべきは2001年から2017年まで、据え置き価格の69・7万円にとどまっている点だ。

歴代のスズキ・アルトの新車価格(税抜き)

  新車価格
1979年 470,000円
1988年 538,000円
1990年 611,000円
1995年 643,000円
2001年 697,000円
2017年 697,000円

先述のモンキーとの違いが歴然ではないだろうか。アルトは最安値のグレードでも1979年式と2017年式の中身が大幅に異なる。価格差は22・7万円で48%の上昇となるが、ディスクブレーキ*9、パワーステアリング*10、エアコン*11、AM・FMラジオ、13インチタイヤなどが追加装備されたに等しい。だから、実質の価格上昇は10万円程度の21%と言い換えられるだろう。

消費者物価指数と自動車・バイクの価格上昇

1950年から2017年までの国内の消費者物価指数

1950年から2017年までの消費者物価指数*12の表を拝借した。1980年が「6」、2017年では「8」なので、その間の物価は33%ほど上昇したことになる。1950年から1990年までの間は高度経済成長などがあり、大きなインフレ*13傾向を示した。1990年以降から現在までは、あらかた横ばいだ。年によっては僅少なデフレ*14にもなっている。

素人目線で恐縮だが、モンキーはこの消費者物価指数に沿わずに大きく価格が上昇したことになる。一方、アルトは消費者物価指数よりも価格が上方に伸びずに抑制されていた。日本自動車工業会の統計によると、バイクは国内販売台数が1980年の237万台に対して、2016年には34万台程度に落ち込んでいる。これが価格の上昇に影響している要因の一つだろう。

現行アルトの価格が高騰していない結果には一安心だ。しかし、業務用でなければ、この最廉価版のアルト「VP」に食指を動かすかは甚だ疑問である。商用車登録のため、リアシート*15は直角に立っており、車体の色も白のみで、69・7万円なのは5MT*16である。1979年当時の「軽自動車でも手が届く価格で、いっぱしに走れば満足」と考えられていた時代背景と現代は大きく異なる。

このアルト「VP」も、オートマチックを選択した上、先進安全技術のレーダーブレーキサポート装着車となると12・9万円高くなり、82・6万円の新車価格となる。これでもリアシートは直角、燃費向上技術なども付いていないため、上級グレードの「X」113・4万円などが視野に入ってくる。

さらに、車内は広々している方がよくなり、ワゴンRに目が行く。そして、ワゴンRは車体が大きく重たいのでハイブリッドカー*17の燃費の良さに引かれる。加えて、ターボ*18の動力性能にも有用性を感じる。はっと正気に返ると、ワゴンRスティングレー「HYBRID T」の165・9万円などを選択しているかもしれない。

まとめ

スズキ・アルトバンの内装

今回、モンキーとアルトを引き合いに出したのは、どちらも国内向けに開発された車種だからである。車の方は世界で4000万台以上も販売されたトヨタ・カローラの方が妥当かもしれない。しかし、アルトは国内の「軽自動車規格」がなければ誕生しなかった車種である。国内の消費者物価指数とも相関性がより深いと思われたため、これらの2車種を選んでみた。

普通車の方は軒並み「グローバル化*19」し、性能の向上と価格上昇がより顕著だ。1989年に16年ぶりの復活となったR32スカイラインGT-Rは454万5000円~529万円の新車価格だった。現行のGT-Rは別物ではあものの、996万1000円~1870万円となり、2倍~4倍まで価格が膨れ上がっている。

昨今のバイクや車の風潮として「ブランド化」および「近未来的嗜好(しこう)」が見受けられる。「FIAT」「GT-R」「ブレンボ」などのブランド*20が持つ「響き」で、消費者は価値を判断する。「自動運転」や「危険回避」なども「車頼み」で、安全を保障してもらいたい受け身の思考である。

バイクは販売減によって製造費用も増しているので、高価格化は避けられない。これは新興国向けに少気筒化・単純化されたものを、国内にもお裾分けする形式でしか打開策はなさそうだ。モンキーも、その基準に合わせて125ccで復活するようである。

一方、車の方は消費者の判断次第で、掘り出し物をまだまだ見つけることができる。いやが応でも電動の自動運転車に乗る時代がやって来るだろう。いまだ発展途上の自動運転の車に飛び付くのか、単純で良い車を買うのかは、個々の判断基準に委ねられている。

いつか「運転技術を磨く方がよっぽど安上がりだ」と人工知能(AI)に忠告されるかもしれない。

(出典:本田技研工業株式会社ガベージニューススズキ株式会社

*1:〔cubic centimeter〕立方センチメートルを表す記号。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*2:【stroke】行程に同じ。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*3: 【ドイツ Chrom】〔chrome〕6 族(クロム族)に属する遷移元素の一。元素記号 Cr 原子番号24。原子量52.00。主にクロム鉄鉱として産する。銀白色で光沢ある硬い金属。強磁性。常温ではきわめて安定で,空気中や水中では酸化されないなど耐食性が強く,めっき用・合金材料として用いられる。クローム。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*4:〔「めつきん(滅金)」の転〕 金属または非金属の固体表面に金属の薄膜を強固に密着させること。また,それを施したもの。装飾・防蝕・表面硬化のため行う。電気めっき・真空蒸着など。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*5:【anniversary】記念日。記念祭。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*6:ガソリン機関に供給する燃料と空気の混合気をつくる装置。燃料の霧化・気化,空気との混合,および燃料・空気の計量を行い,最適の空気と燃料の比を設定する。キャブレター。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*7:【grade】階級。等級。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*8:物品税法(1940年制定)により,貴石・毛皮や自動車・電気器具等,一定の物品について課されていた個別消費税。89年(平成1)消費税の導入に伴って廃止。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*9:【disk brake】車輪と一体となって回転する円板の両面を摩擦材で挟んで制動するブレーキ。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*10:【power steering】自動車で,エンジンで駆動されるオイル-ポンプの油圧や電動モーターを利用してハンドル操作にかかる力を軽減する装置。ハンドル操作が軽くなる。パワステ。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*11:エア-コンディショナー(空調設備)・エア-コンディショニング(空調)の略。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*12:〔consumer price index〕消費財の価格の変動を示す指数。基準時に対する価格の比率を各品目ごとに求め,消費支出額に基づいて加重平均した数値。CPI。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*13:特定の経済部門の価格上昇にとどまらず,一般的な物価水準が継続的に上昇し,貨幣価値が下落すること。発生原因や物価上昇の速さなどによって種々に分類される。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*14:貨幣および信用供給の収縮によって,貨幣供給量が流通に必要な量を下回ることから生ずる一般的物価水準の下落のこと。生産水準の低下と失業の増加が起こり,景気後退や不況に結びついてゆく。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*15:【rear seat】自動車の後部座席。バック-シート。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*16:【manual transmission】自動車の手動変速機。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*17:【hybrid car】複数の動力源を用いて走行する自動車。排気ガス規制地域を電気で,規制緩和地域をガソリン-エンジンで走る自動車など。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*18:【turbo】排ガスを利用してタービンを回し,混合気を強制的にシリンダー内に送り込んで圧力を高める,エンジンの補助装置。出力・トルクを高め,併せて燃費向上に役立つ。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*19:世界的規模に広がること。政治・経済・文化などの諸領域の仕組みや制度が,国を越えて地球規模で拡大することをいう。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*20:【brand】自己の商品を他の商品と区別するために,自己の商品に使用する名称や標章。銘柄。商標。 特に優れた品質をもつとして知られている商品の名称や標章。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)