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トヨタ新興国向け車!アバンザは小型FRスポーツの原石か?

斜め前方から見た青色のトヨタ・アバンザ

トヨタが東京モーターショー2015で発表した小型版86ことS-FR。手が届きやすい小型FRスポーツという参考出品車だったが、どうも専門家がのたまうほどに興味が湧かない。真実の小型FRスポーツの原石となり得る、新興国向け世界戦略車のアバンザをご紹介したい。

2018年2月1日:用字用語の整理。

トヨタ・アバンザとは一体何者か?

斜め後方から見た青色のトヨタ・アバンザ

「トヨタ・アバンザ」という車種名を聞いてぴんと来る方は余っ程の車好きのはずだ。なぜなら、このアバンザは日本国内では販売されていないからだ。

アバンザは2004年に初代が誕生したトヨタの新興国向け戦略車である。俗にいう「5ナンバー」サイズに収まる7人乗りの小型SUVで、5ドアハッチバック*1の車だ。トヨタの看板を背負っているものの、主にダイハツが開発した車種である。日本ならばパッソもダイハツ製の車種で、同じような関係にある。

現行型は2011年に販売を開始した2代目で、2015年に前後の外板変更を伴う小規模な変更がなされた。この後に搭載されるエンジン*2もダイハツ製で、日本向け車種には搭載されていない1・3Lと1・5LのVVT機構付き4気筒DOHC*3エンジンとなっている。

アバンザの外寸を紹介すると、全長4140mm、全幅1695mm、全高1695mmだ。トランスミッション*4には5MT*5と4AT*6が用意される。そして、冒頭で述べた「アバンザが小型スポーツに相応しい」との発言であるが、この車が後輪車軸式の古典的FR*7車の構成になっている故である。

トヨタ・アバンザの背景と詳細

トヨタ・アバンザの内装

「グローバル*8プラットフォーム*9」については別途ご紹介するが、簡単に述べれば車を各部で切り分けて共用化し、製造費を抑えながら多くの車種を生み出す取り組みである。トヨタは新興国販売向けに「IMVプロジェクト」を2002年に発表した。これも一つのプラットフォームから複数車種を生み出す取り組みである。

「IMV」とは「Innovative International Multi-purpose Vehicle」の略称で、直訳すると「革新的な国際多目的車」となる。文字通り多目的車とは「丈夫なトラック」のことを指している。具体的には新興国でフォーチュナーに改名して販売されているハイラックスサーフ、ハイラックスピックアップ、日本未発表のイノーバが挙げられる。過日日本で復活したハイラックスピックアップはIMVプロジェクトの「お裾分け」である。

さらに、新興国でのIMVプロジェクトの相乗効果を狙ったのが「Under Innovative International Multi-purpose Vehicle」こと「U-IMV」プロジェクトである。IMVが2・0Lから2・7Lエンジン搭載車であるのに対し、U-IMVはより小型の1・3L、1・5Lエンジンを積む車種が該当し、これがアバンザを指している。

新興国では積載量や定員に制限があっても無視され、非常に過酷な使用条件にさらされているのが実情だ。また、経済的状況からも、1台で幅広い用途に活用できる車種が好まれる傾向がある。

このような条件に適する構造の車種は突き詰めればトラックやジープになるのだが、それでは客員を乗せるには乗り心地が悪すぎる。トラックやジープの乗り心地を悪くしている要因は前後車軸であり、板ばね式サスペンション*10である。

そこで、妥協点として前席の乗り心地は前輪のサスペンションが大きく影響するので、耐久性には劣るがコイル式ばねを使用した左右独立式サスペンションとする。後輪は重量物に耐える必要があるので、耐久性を重視した車軸と板ばねより乗り心地が良くなるコイル式ばねを組み合わせる。

駆動方式としてはFF*11に比べて耐久性と整備性の良さを併せ持つ、FR駆動が最適である。

これらの構造を採用したSUVがアバンザである。お気づきかもしれないが、下回りの構造、外寸、エンジンの排気量、5MTなど、どれもが以前の名車AE86レビン・トレノに酷似しているのである。

トヨタ・アバンザから小型FRスポーツは造れるか?

トヨタ・アバンザのU-IMVプラットフォーム

アバンザを基にした車種は日本でも既に販売実績がある。トヨタ・キャミとダイハツ・テリオスの後継車として2006年から2016年まで販売されたトヨタ・ラッシュとダイハツ・ビーゴである。そして、2017年11月に刷新された新型ラッシュとテリオスがインドネシア*12で発表された。これら一連の車種はアバンザよりオフロード*13SUV*14に近い雰囲気を演出したデザインとなっている。

アバンザのU-IMVプラットフォームは「ビルトイン*15ラダー*16フレーム*17式モノコックボディ*18」と呼ばれる「はしご型フレーム」を車体に溶接したものだ。これは三菱・パジェロなどにも採用されている、強度と軽量化を両立したプラットフォームである。

IMVは完全なはしご型ラダーフレームを持っており、やや背の高い車種にしか向かない。U-IMVはビルトインラダーフレーム式モノコックボディにより、上から被せるボディをセダンくらいまでなら置き換えられると推測できる。

アバンザの諸元表を以下にご紹介する。

  アバンザ1.5G 5MT
全長 × 全幅 × 全高 4,190mm × 1,660mm × 1,695mm
ホイールベース 2,655mm
トレッド前・後 前輪:1,425mm
後輪:1,435mm
重量 未公表
エンジン 2NR-VE型1,496cc直列4気筒16バルブVVT-i機構付き
ボア × ストローク 80.5mm × 86.0mm
圧縮比 10.0:1
最高出力 104PS / 6,000rpm
最大トルク 13.9kgm / 4,200rpm
トランスミッション 5速MT
サスペンション前輪 マクファーソンストラット
サスペンション後輪 4リンクコイルリジッド
ブレーキ前・後 前輪:ディスク
後輪:ドラム
タイヤサイズ 185 / 65R15

アバンザの製造国であるインドネシアでは1・3Lの5MT・4ATで標準車「E」と上級版「G」、1・5Lには「G」5MTのみが設定されている。日本円に換算した価格帯は157万2000円~182万1000円である。

まとめ

斜め前方から見た赤色の現代版ダイハツ・コンパーノ

アバンザの下回りに関する構造は日本車でいうところの80年代までの構造となっている。日本を含む先進国では道路も整備され、無理な積載もされないため、耐久性や堅固さよりも乗り心地を優先した車づくりが行なわれる。

冒頭で述べたコンセプトカー*19のS-FRや2018年春に150台限定発売となるスーパーチャージャー*20搭載のヴィッツGRMNなどは力みを感じられなくもない。しかも、ヴィッツGRMNは新車価格で400万円もするのだ。

現在もスポーツモデルは各車存在している。しかし、どれも過剰性能で、趣味で楽しむ向きには素人がその性能を引き出しきれるとは思えない。つまり、付加価値によって販売価格の維持あるいは上昇させることを重視し、実用性の低いものが多いように感じられる。

一般的な青年が400万円もする車を全開で走行できるのだろうか。最も庶民の味方となってくれているのはスズキのスイフト・スポーツであろう。しかし、美点も随所に見られるが、どこか物足りなさもあるFF車である。

ここでお伝えしたいのは現代の横並びで肩肘張ったスポーツカー*21だけではなく、あえて「運転の技術磨き」に必要な手軽に楽しめる車種が待ち遠しいことである。

5ナンバー、FR駆動、5MT、それに必要最低限の加速を与えてくれるエンジン。それだけで上出来である。これに後席や荷物収納部分があれば、1台で何役もこなせるはずだ。日産・シルビアS13も優れたデザインで人気となったが、他のプラットフォームがなかったのでFR駆動になった。ところが、それが大きな副産物となり、さらなる需要を引き出したのだ。

東京モーターショー2017には1960年代の「ダイハツ・コンパーノ」現代版が出品されていたが、これなら4人乗れて荷物収容部分もあり、日常使用にも活躍してくれること請け合いだ。こんな「懐旧の情にかられる小型セダン」に、アバンザのU-IMVプラットフォームを組み合わせて、FR駆動方式も再現してみてはいかがだろうか。

見た目は普通のセダンだが、実はスポーツ走行もこなす可能性を秘めている。そのようなパトカー*22も一驚を喫するような自動車が日本を元気にしてくれると思うのだ。

ルパン三世がFIAT 500から日本車に乗り換える日もそう遠くはなさそうだ。

(出典:トヨタ自動車ダイハツ工業株式会社

*1:【hatchback】ファーストバック形式の乗用車のうち,後背部に船のハッチのようなはね上げ式のドアが付いているもの。リフト-バック。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*2:【engine】種々のエネルギーを機械的力または運動に変換する機械または装置。機関。発動機。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*3:【double overhead camshaft】自動車エンジンのバルブ開閉装置の一。バルブの開閉を行う二本のカムシャフトがシリンダーの上部に位置する構造のものをいう。ツイン-カム。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*4:【transmission】自動車などの歯車式変速装置。トランスミッション。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*5:【manual transmission】自動車の手動変速機。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*6:【automatic transmission】自動車の自動変速装置。エンジン回転数,アクセル開度,車速によって自動的に変速装置の変速段数が選択される。ノー-クラッチ。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*7:【和製語front-engine, rear-drive】自動車の前部にエンジンがあり,動力を後方に導いて後輪を駆動する方式。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*8:【global】世界的な規模であるさま。国境を越えて,地球全体にかかわるさま。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*9:【platform】自動車生産で,異なった車種の間で共通に用いる車台。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*10:【suspension】自動車などで,車輪と車体をつなぎ,路面からの衝撃や振動が車室に伝わるのを防ぐ装置。懸架装置。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*11:【和製語 front-engine, front-drive】自動車のエンジンの動力が,後輪にではなく前輪に伝わる方式。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*12:【Indonesia】赤道直下の,マレー諸島などから成る共和国。主な島はジャワ・スマトラ・カリマンタン島の大部分・スラウェシ・ニューギニア島西半分など。石油・天然ガス・ボーキサイト・スズ・ゴムなどを産する。旧オランダ領東インド。1602年からオランダの植民地支配を受けたが,1949年独立。首都ジャカルタ。住民の多くはイスラム教徒。面積189万平方キロメートル。人口2億3800万(2010)。正称,インドネシア共和国。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*13:【off-road】舗装されていない道。また,公道でない脇道。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*14:【sport utility vehicle】スポーツタイプ多目的車の総称。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*15:【built-in】(機械やシステムなどの中に)内蔵されていること。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*16:はしご/出典:ウィズダム英和辞典 第三版(三省堂 2013年)

*17:【frame】自転車・自動車などの車体枠。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*18:【monocoque body】自動車などの,車体とフレームとが一体化した構造。フレームレス-ボディー。単体構造。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*19:【concept car】デモンストレーション用に製作される,量産や市販を前提としない自動車。自動車メーカーの技術的・デザイン的な方向性を体現したもの。モーター-ショーなどで参考出品される。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*20:【supercharger】圧縮して密度を高めた空気を内燃機関内に吹き込み,効率を上げる装置。50~100パーセントの出力増が得られる。過給機。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*21:【sports car】運転すること自体を楽しむために作られた車。実用車に比べ車高が低く,加速性能にすぐれている。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*22:パトロール-カーの略。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)