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ダルビッシュ有投手のトレードに見る日米の違いとは?

ロサンゼルスにあるドジャー・スタジアム

テキサス・レンジャーズのダルビッシュ投手のトレードが発表された。移籍先であるロサンゼルス・ドジャースとレンジャーズの間には、独特の思惑が交錯している。この大リーグならではのトレードを掘り下げ、日本プロ野球との相違点に注目してみたい。

2018年2月16日:用字用語の整理。

日本プロ野球と大リーグのフリーエージェント制度の違い

大リーグ*1では、自軍のポストシーズンゲーム*2の進出が至難になると、11月のオフシーズン*3にフリーエージェント*4権を取得した選手を中心にトレード交渉が一気に加熱する。マイナーリーグ*5を含めると、毎年100件ほどのトレードが成立しているようだ。

一方、2016年のNPB*6におけるトレード成立件数は、フリーエージェント移籍に伴う人的補償の2件を除くと、たった5件にとどまっている。大リーグの30球団に対して日本プロ野球は12球団である。それを押さえて、トレード成立件数に対する球団数を除すると「約8倍」も大リーグの方がトレードが活発に行われていると分かる。

日本プロ野球はフリーエージェントを取得した選手が、権利行使を宣言しなくてはならない。それに対して大リーグでは自動的にフリーエージェントとなるため、自軍を含め交渉のテーブルに着きやすく移籍が活性化するのだ。

日本の制度では、フリーエージェント宣言後の残留を認めない球団もあり、自身の実力に自信がある選手でなければ、なかなか表明しづらい現状がある。また、フリーエージェントで選手が移籍した場合、日本では人的補償あるいは移籍金の支払いが発生する。他方、大リーグではドラフト1巡目の指名権が付与されるなど、現有戦力に対する出血が少なくてすむ。

そのため、大リーグの球団は、フリーエージェント権を取得する選手はシーズン中に放出してしまい、傘下のマイナー*7で結果を残している若手有力選手などを獲得することで、翌シーズンに備える事例が多い。この仕組みの違いも、トレードが積極的に実行される要因になっている。

ポストシーズン進出ために、手段を選ばないメジャー球団

仮に獲得しても、シーズン後にフリーエージェントで流出する危険をはらむ選手を欲しがる球団はあるのか。挙手するのはポストシーズン進出を狙っているチームだ。今回のダルビッシュ投手の移籍も、19年ぶりのワールドシリーズ*8進出を虎視眈々(たんたん)と狙うドジャースが、喉から手が出るほどほしい「エース級の投手」の思惑と完璧に一致したものだ。表面上はトレードだが、実質は今季のみの「レンタル移籍」の意味合いが強いはずだ。なぜなら、ダルビッシュ投手は今オフにレンジャーズへの復帰も十分にあり得るからだ。

昨年には同じくポストシーズンを逸するのが濃厚になったニューヨーク・ヤンキースが、シーズンオフ*9にフリーエージェントを取得するアロルディス・チャップマン投手を放出し、若手有力選手を獲得した実例がある。チャップマン投手を獲得したのが、108年ぶりの米国の頂点である「ワールドチャンピオン」を目指すシカゴ・カブスであった。抑え投手の補強を企図していたカブスは、トレードにより戦力を整え、見事にワールドチャンピオンを達成する。気になるチャップマン投手の去就だが、シーズンオフにヤンキースに復帰している。

毎年トレード期限である7月31日には、有力選手のトレードが成立する。この時期が近づくと、ポストシーズン進出が難しくなった チームは早々に見切りをつけ、フリーエージェントになる選手や有力なベテラン選手をトレードに出し、チーム再建に乗り出す。このあくまでもビジネスとしての球団運営は、大リーグならではである。

日本プロ野球における移籍の活性化は?

日本でもトレード期限の7月31日、北海道日本ハムファイターズの谷元圭介投手が金銭トレードで中日ドラゴンズに移籍した。もし、今回の金銭トレードが実現せずに、谷元投手がフリーエージェント権を行使してトレードが成立した場合、日本ハムは金銭あるいは人的補償の権利を得る。恐らく日本ハムはそれよりも高額の金銭を条件に、中日とのトレード交渉をしたと考えるのが妥当な線だろう。

中継ぎ投手の補強を図りたい中日との思惑が合致し、トレードが成立した。どうやらこのトレードは、日本ハムが大リーグのような意図を持って実行したようだ。

肝心なのはトレードに対するファンの反応であるが、言わずもがな罵詈(ばり)雑言を浴びされたのは想像に難くない。主に「中継ぎ投手」としての活躍が目覚ましく、チームへの貢献度も高かった谷元投手。それに対する粗末とも言える球団の扱いに、ファンがため息を漏らすのは無理もない。

やはり日本には日本の「文化」が存在するはずだ。所属した球団で選手生活を全うすることを良しとし、一人一人の選手を熱心に応援するのがそうだろう。ある意味「からっとした」大リーグの経営方針はなかなか甘受できない。となると、先述したフリーエージェント制度の見直しやトレード移籍を活発にさせる議論も難しいのかもしれない。

まとめ

大リーグでは選手契約が細部まで決められている。選手会がストライキ*10を盾に、何度も交渉を重ねて権利を獲得してきた経緯もあり、仕事と割り切った感覚が色濃い。

それに対して日本プロ野球では、今回の谷元投手の金銭トレードでさえ、ファンのアレルギー*11反応が非常に強く見られた。

日本では大リーグほど積極的に行われないこともあり、トレード移籍による成功例は多くはない。だが、最近では巨人から日本ハムへ移籍した大田泰示選手の活躍を見ると、環境が変わることで力を発揮する選手も存在する。

大リーグのような活発なトレードは受け入れられないであろうが、その反面、移籍によって開花する選手を認める土壌はある。それならば、若手選手を中心とした「期限付きレンタル移籍」などの導入によって、選手の入れ替えを推進してはどうだろうか。選手の出場機会の向上、引いてはプロ野球の発展につながるため、検討の余地はあるはずだ。

大リーグの右へ倣えば、トレードのルール*12を制定するのはたやすいに違いない。しかし、日本人には特有の「組織力」を支える「美徳」がある。それらの特長を破壊することなく、日本式のルールが築かれることを、一プロ野球ファンとして切望している。

*1:アメリカのプロ野球で,最上位の連盟。ナショナル-リーグとアメリカン-リーグの二つがある。メジャー-リーグ。ビッグ-リーグ。MLB。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*2:【postseason game】プロ-スポーツで,公式戦(リーグ戦)の終了後に行われる試合。多くの場合,公式戦の上位チームによる順位決定トーナメント戦となる。アメリカ大リーグにおける,地区プレーオフ,リーグ-プレーオフ,ワールド-シリーズなど。ポストシーズン。PSG。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*3:【off-season】シーズン外。季節外れ。シーズン-オフ。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*4:【free agent】プロ野球などで,在籍期間などの一定の条件を充たし,所属チームとの契約を解消し,どのチームとも自由に契約を結ぶことができる選手。自由契約選手の権利を得た選手。FA。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*5:【minor league】アメリカのプロ野球で,大リーグの下位の連盟の総称。AAA(スリー A )・ AA(ツー A )・ A ・ルーキーの四階級に分かれる。小リーグ。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*6:〔Nippon Professional Baseball〕セントラル-リーグ・パシフィック-リーグの各加盟球団から構成される任意団体。野球協約を締結する。その運営には日本野球機構があたる。日本プロフェッショナル野球組織。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*7:【minor】マイナー-リーグの略。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*8:【World Series】アメリカのプロ野球選手権試合。毎年,ナショナル・アメリカン両リーグの優勝チームの間で行われ,七回戦中,四回先勝したほうを勝ちとする。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*9:〔和製語 season+off〕物事が盛んに行われる時期以外の時。季節はずれ。オフ-シーズン。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*10:【strike】労働者が労働条件改善などを要求し,団結して業務を停止する行為。同盟罷業(どうめいひぎよう)。同盟罷工。スト。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*11:【ドイツAllergie】ある物事を頭から拒否する心理的反応。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*12:【rule】規則。きまり。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)