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国産最後のRR乗用車!スズキ・セルボが放つ魅力とは?

赤色の初代スズキ・セルボ

スズキ・セルボは、2006年から2009年にも製造された軽自動車だ。セルボの初代SS20型は、軽自動車ながらクーペボディー、NUOVA(ヌオーヴァ)500と同じRR駆動の高級車であったのをご存じだろうか。今回は、この初代セルボについてご紹介したい。

2018年3月29日:用字用語の整理。

国産最後の乗用車系RR車

初代スズキ・セルボのユーティリティー

私は1970年代以前の乗用車に乗車した経験がない。軽自動車は当初360ccの排気量であったものが、1976年1月に規格改定され550ccになった。同時に外寸も大型化され、これまでと比較して0・2m長く0・1m幅広の、長さ3・2m、幅1・4m、高さ2・0mになった。

この550ccへの規格変更後の1977年10月に登場したのが、初代スズキ・セルボである。今の軽自動車にはない2ドアクーペ*1ボディーの後部にT5A型水冷2サイクル直列3気筒539ccエンジンを搭載、小さな後席も設けた4人乗りの構成であった。

最後まで残り続けたRR*2国産車は、スバル・サンバーが知名である。しかし、乗用車としては、スバル・360や日野・コンテッサなどの時代を経過する。そして、この初代セルボ以降は、完全に消滅してしまった。

初代セルボの前身には、セルボの外寸を一段階小ぶりにした360ccのフロンテ・クーペが存在した。フロンテ・クーペの時代をご存じの方からすると、初代セルボは「メタボ*3」になった印象を覚えるようである。また、フロンテ・クーペがスポーツカーとしての素質を備えていたのに対し、初代セルボは女性向けの車種へと方向転換した。それもファンが落胆した訳合いの一つのようである。

しかし、フロンテ・クーペを引き合いに出さなければ、初代セルボの内外装は十分に格好良く、とても女性向けだとは感じられない。日本産の乗用車で「後部エンジン後輪駆動」は、初代セルボが最後のはずだ。

RR駆動車の利点とは?

初代スズキ・セルボの装置

車の駆動方式は種々さまざま存在するが、現在において大部分を占めているのは、エンジンを車体前部に配置したものだ。

エンジンを車体前部に配置し前輪を駆動するものをFF*4、後輪を駆動するものをFR*5と称する。この配置によってAWDや4WDは、四輪を駆動させている。これらの方式は室内空間の確保を最大限に実現し、効率的なものとして生まれ、現在に至っている。

対して、エンジンを車体後方に配置した車種もある。国産車の有名どころでは、ホンダ・NSXやS660。そして、かつてはトヨタ・MR-2やMR-Sなどという車種もあった。しかし、これらの車種はエンジンを後軸より前方に配置した「ミッドシップ」なる形態である。つまり、通常後席のある位置にエンジンが鎮座するため、全て2人乗りとなるのだ。

ミッドシップの目標は、前後重量配分を「50:50」に設定することである。これが「走り」にそぐわしく、最も均衡が維持さているとする一説もあるため、スポーツカーに採用される。

そして、RR駆動は、後軸より後ろにエンジンを搭載している。重量物のエンジンが最後部に置かれるので操作感は機敏だが、後輪が滑ったときの修正はミッドシップよりも困難を極める。

ご参考までに、フロンテ・クーペの前後重量配分は「39・5:60・5」だったそうだ。しかし、RR駆動は4人乗りの室内空間を保持することができ、今となってはミッドシップに次ぐぜいたくな配置だろう。

スバル・サンバーは背高の車種だったので、このRRを床下にうまく収納することができた。だが、初代セルボは背丈が低く、相対的にエンジンが少々高い位置まで占有することになった。そのため、後開口部はガラスハッチしか開けない。

初代セルボの走りはどうだったか?

初代スズキ・セルボの内装

初代セルボの走りに注目したとき、RR駆動の構成と先に触れたT5A型水冷2サイクル直列3気筒539ccエンジンが鍵であろう。2サイクルエンジンは、構造上4サイクルエンジンよりも高出力が得られ、構造も単純である。それ故、軽自動車には最適なエンジンであったが、オイルもガソリンと一緒に燃焼・未燃焼ガスも排出するため、有害ガスも多くなってしまう。550cc規格への変更は、4サイクルエンジン化しても同等の出力を獲得するための対応策であった。

T5Aエンジンは、そんな過渡期のスズキの主力エンジンであった。1977年5月に登場し、47万円の低価格に加えて、4ナンバー税制の利点を活用した初代アルト。その他にはエブリィやジムニーにも搭載された。ただし、FF用はT5B、縦置き用の型式はLJ50となり、構造は大きく異なる。グロス*6表示で28PS*7の最高出力は特筆に値しなかったが、5・3kgmのトルクは後の4サイクル550ccエンジンより20%は高い値である。

残念ではあるが、初代セルボを運転したことがない。しかし、LJ50エンジンを搭載したSJ10型ジムニーに乗った経験があるので、そちらを参考に考察していきたい。2サイクル550ccエンジンは、スズキらしく高回転までよく回り、独特の「ぽんぽん」と響く音色が面白いエンジンであった。

ジムニーの場合、700kgの重量ながらもトルク*8の太さと高低2段変速のトランスファーを組み合わせることで、当時の三菱・パジェロなどと比べ物にならないほど、きついオフロード*9を走破する性能を有していた。オフロードでは驚愕(きょうがく)の走破性を見せつけたが、忌憚(きたん)なく言うと、一般路では亀のように鈍足だった。だが、初代セルボの車重は、ジムニーの3分の2ほどで550kgという軽さである。それを加味すると、非常に活発な動力性能を有していたことは間違いない。

このエンジンはよく回るのが美点でもあったが、回し過ぎには要注意である。ジムニーでもアクセルを踏み続けると90km/hを超えられたが、その際のエンジン回転数は許容域以上になってしまう。そして、間もなくディストリビューター*10のポイントが焼き付いてエンジンが停止してしまう。その場合はポイントの接点を紙やすりで研磨してやると、復活するはずだ。

念のため、このエンジンの不名誉を払拭(ふっしょく)するために補足しておきたい。ジムニーは雨降りの日であれば、横溝しかないオフロードタイヤでなら、後輪を滑らせて走らすことも決して難しくはなかった。

まとめ

初代スズキ・セルボの顔触れ

RR駆動でサスペンション*11は前輪がウィッシュボーン、後輪がセミトレーリングアームの四輪独立式。このシャシー*12の上に全高1・395mmの低いクーペボディーが与えられ、室内には6連メーターを装備。この構成だけを耳にしたら、どうして軽自動車と思えようか。これが、冒頭で初代セルボは「高級車である」と記したゆえんだ。

現行の軽自動車の標準は、初代セルボより20cmも長く、8cm広い。当時の小さな規格にもかかわらず、初代セルボは見た目の良さが重視された。RR駆動はセルボ専用ではなく、先代のフロンテ・クーペ、フロンテがRRだったことに由来している。この辺は当時の縛りからおのずと誕生したのが、奏功したと言える。

近年、スポーツ軽自動車として登場しているダイハツ・コペンやホンダ・S660も悪くはない。ただ、なんと言っても「二人乗り」が欠点に一変することがあるのを、頭に入れておきたい。つまり、趣味の車としては素晴らしいが、「実用性」に目をつぶることができるかだ。

その点でスズキ・アルトワークスが頭一つ抜けているが、残念ながら高級車としての素質はない。2006年から2009年の5代目セルボも、あまり変哲のない5ドアのトールワゴンに過ぎなかった。この時代にあえて「2+2」で初代セルボのような車を、150万円以下で復刻させてはどうだろう。それなりの需要はあるはずだ。

そして、米国のテレビドラマ「ナイトライダー」に登場した「ナイト2000」モデルもお忘れなく。

(出典:スズキ株式会社

*1:【フランスcoupé】〔箱型の馬車の意〕ツー-ドアで,セダンよりやや屋根が小さく,前席主体のスポーティーな乗用自動車。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*2:【和製語rear-engine, rear-drive】後部エンジン後輪駆動。自動車の後部に搭載したエンジンによる後輪駆動方式。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*3:俗に,太っていること。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*4:【和製語front-engine, front-drive】 自動車のエンジンの動力が,後輪にではなく前輪に伝わる方式。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*5:【和製語front-engine, rear-drive】自動車の前部にエンジンがあり,動力を後方に導いて後輪を駆動する方式。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*6:【gross】〔グロースとも〕正味(ネット,net)ではなく,総計ないし総額のこと。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*7:【ドイツ Pferdestärke】馬力を表す記号。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*8:【torque】回転軸のまわりの,力のモーメント。棒をよじる力や原動機の回転による駆動力を示すのに用いる。ねじりモーメント。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*9:【off-road】舗装されていない道。また,公道でない脇道。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*10:【distributor】配電器。分電器/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*11:【suspension】自動車などで,車輪と車体をつなぎ,路面からの衝撃や振動が車室に伝わるのを防ぐ装置。懸架装置。

*12:【chassis】〔シャーシ・シャーシーとも〕自動車・電車などの車台。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)