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東南アジアで散見される「ハイエースもどき」を検証する!

斜め前方から見た白色のジンベイ・Haise 2

東南アジアにおいてもトヨタ・ハイエースは商用だけでなく、コミューターとして大活躍している。ところが、目をこらすとトヨタではないエンブレムを付けたハイエースも多い。これは果たして本物なのか偽物なのか。その背景とともに真実に迫りたい。

世界の中における中国自動車市場

レンジローバー・ランドウィンド X7 イヴォークの盗用モデル

日本はもとより東南アジア*1でもトヨタ・ハイエースは商用や乗り合いのコミューター*2として昔から需要がある。日本では普通免許で10名までだが、車内が広く10名以上も人を乗せることができる上、頑強であるのが俗受けする理由であろう。

東南アジアではハイエースに混在して外観はうり二つなのだが、トヨタのエンブレム*3を装着していない車両を頻繁に目撃する。これは一体どういうことなのだろうか。

まず結論から述べると「ハイエースもどき*4」の正体は中国製の車両であった。中国*5といえば最近ドラえもん*6を盗作しようとして、中国の裁判所が待ったをかける出来事が記憶に新しい。中国の知的権侵害には枚挙にいとまがなく、自動車界も例外ではない。アウディ、ポルシェ、レンジローバーなどが明らかに盗用されており、大いに物議を醸した。

現在100社以上の自動車製造会社が中国国内にはあり、独自のものから明らかに盗用されたものまで雑多な車種が存在している。近年の中国の自動車市場は拡大基調により世界最大となっている。

中国は人口がそもそも多いだけに、市場としての伸びしろは計り知れないほど大きい。20世紀に人類は人口爆発を経験した。大ざっぱな数値になるが、世界人口は1900年に16億人、1950年に25億人、2012年前後に70億人を突破したところである。現在は73億人を超える世界人口だが、その中で中国は1位の13億8000万人となる。ちなみに、それに続くのはインドの13億2000万人、3位は米国の3億2000万人、日本は11位で1億3000万人だ。

話題を自動車に戻すが、人口の増加と経済発展により、自動車の登録・販売台数でも中国は現在1位である。日本貿易振興機構ジェトロによる2016年自動車登録・販売の上位国名と台数をご紹介しよう。100万台以上は四捨五入とする。

各国の自動車登録・販売台数(2016年)

登録・販売台数順位 国名 台数
1位 中国 2800万台
2位 米国*7 1790万台
3位 EU*8 1700万台
4位 日本 500万台
5位 インド*9 370万台

(出典:日本貿易振興機構ジェトロ

台数を大きく引き離されているが、日本も第4位となっている。日本にはこれだけの需要があるものの、最近では「海外仕様のお裾分け」の依存度が膨れ上がる一方だ。すわなち、昨今の自動車づくりが大きな市場に傾倒しているのがうかがい知ることができる。

トヨタやフォルクスワーゲンなども中国市場での販売拡大に尽力している。しかし、中国国外からの輸入車には重い関税が課せられるので、どうしても競争力が弱くなってしまう。それを回避すべく中国国内で現地企業を立ち上げることになる。ところが、そこにも規制が敷かれており、外国企業は中国国内の自動車製造会社と折半出資の合弁会社の設立が義務付けられているのだ。それでは、ハイエースもどきはどのような経緯で生まれたのだろうか。その真相は次項でご紹介したい。

中国製ハイエースはトヨタとの契約により誕生?

ジンベイ・Haise2の内装

冒頭に挙げたドラえもんをはじめとして中国製は「安かろう悪かろう」の印象が強い。プラスチック製品や縫製の甘い衣類など、一度使えば壊れてしまうものや、耐久性の面で劣るものが大多数であった。しかし、最近になって品質も向上し、「なんとか事足りる」くらいの水準まで進歩したのではないだろうか。

東南アジアにも中国製のバス*10が多く出回っているが、やはり品質と耐久性では日本製が群を抜いて優れている。東南アジアでは中国製バスのエンジンが壊れてしまうと、日本製に載せ換えるとよく耳にする。

中国はもとより、東南アジア各国でもよく見掛ける車種に「ハイエースもどき」があり、車好きなら異なるエンブレムに違和感を覚えたはずだ。これは盗作ではなく、トヨタが正式に技術提供して製造された車種だったのだ。道理でプレスラインに至るまで、寸分違わないように見えたわけである。

中国製ハイエースは華晨汽車集団有限公司ことブリリアンス・オート・グループ(Brilliance Auto Group)が製造・販売を行なっている。その商用車ブランドは金杯ことジンベイ(Jinbei)と銘打たれる。そのジンベイが送り出すハイエースには「Haise」「Haise 2」の2種類が代表的な車種のようで、これらは日本でいう新旧ハイエースである。「Hiace」のアルファベットを並べ替えたような、いかにも疑惑を招く命名である。

先述したように海外企業が中国現地で自動車販売をするには合弁会社の設立が必須である。しかし、ブリリアンス・オート・グループの場合はトヨタとの合弁会社ではなく、「ライセンス契約・提携(Licensing arrangements and alliances)」による合意である。つまり、過去の日本における日野自動車のルノー4CV、三菱自動車のジープ製造と酷似した形態であると換言できる。

中国製ハイエースの相違点

砂浜を走る斜め前方から見た銀色のジンベイ・Haise

トヨタ・ハイエースといえば商用・乗用だけでなく、モトクロス*11バイク*12などのトランスポーター*13からキャンピングカー*14に至るまで使用できる日本が誇る多目的実用車である。海外でもハイエースは人気車種で、日本からの盗難車を海外に転売する犯罪も多発するほどだ。

国産のハイエースとジンベイが生産するハイエースは全く同じなのだろうか。ジンベイのホームページをのぞいてみると、驚くほどに情報が少ない。最近では国産乗用車の諸元表でも容易にたどりつけないようなホームページの構成が増えている。ただし、探し当てることさえできれば、内容はしっかりとしたものだ。ところが、ジンベイのそれは国産車の諸元表から得られる情報の10分の1程度しかない。中国人は果たして車のどこを見て購入を決めるのか不思議である。

先代ハイエースベース*15のHaise諸元表にエンジンの型式をようやく見つけることができた。そこには「4G19型 2・0L」との記述がある。最高出力73・5kW*16 / 4200~4600rpm*17、最大トルク178Nm / 2800~3200rpmとなっている。それ以上のエンジンに関する情報は皆無である。日本車であれば、圧縮比、ボア × ストローク値、燃料供給装置などの情報も明記されているところだ。4G19型エンジンは三菱が同名のものを製造していたが、これは1・3Lだったので別物だ。もちろん当時のハイエースのものでもない。ガソリン*18かディーゼル*19かすらも不明だが、2・0Lでこの最高出力と発生回転数であれば、ディーゼルターボ*20車であろうか。

中国本土では新旧ハイエースの各ボディタイプから旧トヨタ・レジアスと思われる車種まで多彩にそろっている。ブリリアンス・オート・グループ全体で見ると、独自のセダン*21、クロスオーバー*22SUV*23、小型商用バン*24、小型トラック*25、大型トラックまで製造販売を行なっている。2003年以降は合弁会社のBMWブリリアンスを設立し、3シリーズ、5シリーズ、X1などを中国国内市場向けに製造販売している。BMWは中国国内専用だが、Haiseに関しては東南アジア各国にも輸出されている状態だ。

過去には欧州への市場開拓も行われたが、自社セダンの「BS6」が衝突安全性能で低得点となってしまった。2009年には欧州の輸入業者が破産し、自社での販売で巻き返しを図ったが、衝突安全性能の低さのレッテルを貼られたのが尾を引いた。加えて、車両価格も安くなかったことから、撤退せざると得なくなったそうだ。

まとめ

ジンベイ社製の自動車一覧

当初はHaiseについて深く掘り下げていく予定であった。しかし、メーカーが詳細を開示していないため、踏み込むことさえも難しくなってしまった。一方、驚かされたのは「これっぽっちの車両情報」で自動車の購入に踏み切る人が大勢いることである。

ブリリアンス・オート・グループは2009年に中国国内で第8位の自動車会社となり、23万台を国内販売した。2011年には52万台まで販売が伸びたが、依然第8位だそうである。それだけ中国市場が膨れ上がってきたことの裏付けであろう。

トヨタ・ハイエースは、今も昔も「使える車」の筆頭格である。1993年に新型3・0Lターボディーゼルエンジンを搭載して以降、動力性能も大幅に向上し、トラックの派生車種から脱却できた感もある。ハイエースのみならず日本車全般に共通しているのが、走行距離20万キロ超えもざらにある東南アジアで、不具合知らずで走れるのが日本車最大の強みである。

われわれは慣れ親しみ過ぎているので、実感として湧きにくいものの、日本車の性能と信頼性は今も世界一であると断言できる。Haiseの存在意義はハイエースと同じ外観を持ちながら、価格を本物より抑えている点に間違いない。他車種の盗作も含め、突き詰めればそういうことである。同じ見た目で廉価にするのであれば、エンジンや駆動系をはじめ、各材料を安上がりにするほかない。設備費や人件費の要素もあるが、そこは年間1000万台以上を製造するトヨタに肩を並べるられるはずもあるまい。

こうして順序立てて考察すると、Haiseの品質はハイエースの劣化版であることが濃厚になってくる。新車状態であれば横並びのように思えるかもしれない。しかし、3年、5年と長期にわたり使用し続けていくうちに、間違いなく経年劣化の格差が明確になってくるはずだ。ハイエースという「走る箱」は様々な場面で重宝するだろうが、「丈夫な車」を大前提に成り立っていることを、今回の調査で再認識させられた次第である。

そして、PM2.5*26のニュースを耳にしたら、教訓である「安物買いの銭失い*27」を思い出すべきだ。

(出典:トヨタ自動車株式会社

*1:アジアの東南部。ベトナム・ラオス・カンボジア・タイ・ミャンマー(ビルマ)・フィリピン・ブルネイ・マレーシア・シンガポール・インドネシア・東ティモールを含む。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*2:【commuter】短距離路線で用いられる数人から数十人乗りの小型旅客機。また,それを用いた航空輸送。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*3:【emblem】象徴。表象。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*4:【擬き・抵牾・牴牾】他の物に似せて作ること。また、作ったもの。まがいもの。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*5:東アジアの国。きわめて古い時代に黄河中流域に定住した漢民族の開いた国で、伝説的な夏王朝に次いで、前16世紀頃から殷王朝が興り、他民族と対立・統合を繰り返しつつ、周から清までの諸王朝を経て、1912年共和政体の中華民国が成立、49年中華人民共和国が成立。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*6:藤子F.不二雄(1933~1996)作の漫画。1969年連載開始。未来から来たネコ型ロボットのドラえもんと小学生たちとの交流を描く。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*7:【アメリカ合衆国】〔United States of America〕北アメリカ大陸の中央部(四八州)とアラスカ・ハワイなどを領土とする連邦共和国。五〇の州・コロンビア特別区(首都)から成り,ほかにプエルトリコ・グアム・サモア・ウェーク島などの海外領土がある。1607年からイギリスの植民地経営が始まったが,1776年東部の一三植民地が独立を宣言,83年パリ条約でイギリスが独立を承認。以後,西へ領土を広げ,一九世紀半ばに太平洋岸に達した。世界最大の工業国・農業国で,資本主義が高度に発達している。首都ワシントン。面積962万8千平方キロメートル。人口3億875万(2010)。USA。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*8:(European Union)欧州連合。ECの経済統合の深化・拡大に加え、外交・安全保障・司法などの面で統合を進めるための組織体。1993年、マーストリヒト条約により成立。欧州理事会・欧州委員会・欧州議会・欧州司法裁判所などをもつ。原加盟国はアイルランド・イギリス・イタリア・オランダ・ギリシア・スペイン・デンマーク・ドイツ・フランス・ベルギー・ポルトガル・ルクセンブルクの12カ国。加盟28カ国(2017)。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*9:【印度】(India)南アジア中央部の大半島。北はヒマラヤ山脈を境として中国と接する。古く前2300年頃からインダス流域に文明が栄え、前1500年頃からドラヴィダ人を圧迫してアーリア人が侵入、ヴェーダ文化を形成。前3世紀アショーカ王により仏教が興隆。11世紀以来イスラム教徒が侵入、16世紀ムガル帝国のアクバル帝が北インドの大部分を統一。一方、当時ヨーロッパ諸国も進出を図ったが、イギリスの支配権が次第に確立、1858年直轄地。第一次大戦後、ガンディーらの指導で民族運動が急激に高まり、1947年ヒンドゥー教徒を主とするインドとイスラム教徒を主とするパキスタンとに分かれて独立。古名、身毒・天竺。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*10:【bus】(omnibus の略)大型の乗合自動車。通常、一定の路線を運行し、一定の運賃で乗客の輸送をする。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*11:【motocross】オートバイ競技の一つ。荒地や不整地に周回コースを設け、順位を競う。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*12:【motorbike(アメリカ)】オートバイ。原動機付き自転車。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*13:【transporter】(「運び手」の意)生体膜を超えてイオンや低分子化合物を輸送する蛋白質。能動輸送するポンプや受動輸送するチャンネルなどがある。輸送体。膜輸送体。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*14:(和製語 camping car)キャンプ用に寝起きや炊事などの設備を備えた自動車。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*15:【base】土台。基礎。基本。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*16:【kilowatt】仕事率・電力の単位キロワットを表す記号。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*17:【revolutions per minute】エンジンやタービンなどの毎分回転数。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*18:【gasoline】沸点がセ氏25~200度の石油留分および石油製品の総称。ガソリン機関の燃料や、溶剤などに用いる。原油の分留により得る直留ガソリンはオクタン価が低い。自動車用の高オクタン価ガソリンは、重質ナフサの接触改質や重質軽油の接触分解(触媒の存在で行う熱分解)などにより製造される。揮発油。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*19:ディーゼルが発明した内燃機関。空気をシリンダー内でピストンにより急激に圧縮して高温とし、そこへ燃料を細孔から噴射して、自然に点火爆発させる。空気噴射式と無気噴射式とがある。船舶用・車両用・航空機用・発電用などに広く使用。重油機関。ジーゼル機関。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*20:【turbo-charger】過給器の一種。排ガスのエネルギーを利用する過給器。排気タービン過給器。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*21:【sedan】前後2列の座席を持つ箱型乗用車。サルーン。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*22:【crossover】在来の種々の要素を組み合わせて新たなものを作り出すこと。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*23:【sport utility vehicle】スポーツタイプ多目的車の総称。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*24:【van】屋根付の貨物運搬用自動車。一般には箱型。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*25:【truck】貨物自動車。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*26:【微小粒子状物質】浮遊粒子状物質のうち,粒子の直径が 2.5μm 以下のもの。呼吸器疾患への影響がより大きいとされる。自然界にはほとんど存在せず,ディーゼル排気粒子や工場の煤煙など人為的に作り出されるものが中心。大気中微小粒子状物質。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*27:安物を買うことは金を失うことである。安い物は品も粗悪で長持ちしないから、かえって高いものにつく、ということ。/出典:故事ことわざ・慣用句 第二版(三省堂 2010年)