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連続出場記録が途切れても異彩を放つ鳥谷敬選手のすごみ!

地面に寝そべる虎

阪神タイガースの鳥谷選手の連続試合出場記録が5月29日のソフトバンクホークス戦で途絶えた。今季は開幕スタメンこそ果たしたものの、打撃不振からベンチを温めることが多い。しかし、若返りの過渡期であるチームにとって、今こそ彼の力が不可欠なはずだ。

鳥谷選手が達成した1000四球の偉大さ

昨季鳥谷選手は打者にとって一流の証しでもある「2000本安打」を見事に達成している。鳥谷選手を含めて現在の達成者は51人。これだけでも逸出した記録であるのだが、2000本安打よりも殊更難関なのが1000四球なのである。昨季の最終戦に到達した鳥谷選手を含め、過去15人しか成し遂げていない。

さらに、大卒*1選手に絞れば、元広島東洋カープの山本浩二氏、阪神の現監督である金本知憲監督。そして、鳥谷選手のたった3人しか遂げられていない金字塔なのだ。

鳥谷選手の能力を際立たせる記録

1000四球という大記録の中で特に注目すべきは彼がホームラン*2バッター*3ではない点だ。長打のある強打者となれば、ピッチャー*4は警戒を高めて勝負を避けるなど、敬遠を含めた四球が増えるのが必然だ。つまり、1000四球の記録に限れば、長距離打者が有利であるのは間違いない。しかし、鳥谷選手は1000四球を記録した15人の中で最小の通算本塁打数なのである。

プロ野球の四球数ランキング(2018年6月3日現在)

順位 氏名 四球 本塁打
1 王貞治 2390 868
2 落合博満 1475 510
3 金本知憲 1368 476
4 清原和博 1346 525
5 張本勲 1274 504
6 門田博光 1273 567
7 野村克也 1252 657
8 福本豊 1234 208
9 山本浩二 1168 536
10 谷繁元信 1133 229
11 立浪和義 1086 171
12 榎本喜八 1062 246
13 山内一弘 1061 396
14 中村紀洋 1030 404
15 鳥谷敬 1014 137

王氏は2390もの四球で出塁したが、敬遠数が427も占めており、四球数全体の17・9%に上る。他の選手についても多くの選手が100以上の敬遠四球を含めた数字である中、2018年6月3日現在の鳥谷選手は22の敬遠しかなく、全体のわずか2・17%しかない。ピッチャーは長打を浴びる可能性が低いため、強気で勝負を挑んでくる。その中での記録達成は他の強打者とは明らかに意味合いが異なる。つまり、鳥谷選手の群を抜いた「選球眼*5」の良さを示しているのだ。

加えて、1000四球以上を記録している歴代選手の本塁打数を四球数で割った独自の指標を算出し、低い順に並べてみた。すると上位には選球眼の優れた選手が並んでいるのが分かる。鳥谷選手が中距離打者でありながら長年にわたって活躍している理由の一つが選球眼であるのは間違いなさそうだ。

プロ野球の本塁打に占める四球の割合ランキング(2018年6月3日現在)

順位 氏名 四球 ÷ 本塁打
1 鳥谷敬 13.51%
2 立浪和義 15.75%
3 福本豊 16.86%
4 谷繁元信 20.21%
5 榎本喜八 23.16%
6 落合博満 34.58%
7 金本知憲 34.8%
8 王貞治 36.32%
9 山内一弘 37.32%
10 清原和博 39.0%
11 中村紀洋 39.22%
12 張本勲 39.56%
13 門田博光 44.54%
14 山本浩二 45.89%
15 野村克也 52.48%

鳥谷選手は先発だからこそ生きる

鳥谷選手は球界屈指の出塁率を誇っている。年齢から来る守備範囲の狭さや打撃面の力強さに若干の衰えを見せつつも、昨季はサード*6でゴールデングラブ賞を獲得し、熟練の技と経験で十二分に補って結果を残した。打率に関しても2割9分3厘、出塁率もセ・リーグ*74位の3割9分0厘を記録している。

そして、先ほども触れたが、鳥谷選手のボール球を見極める選球眼の高さは衰え知らずだ。昨季両リーグの打者のボール球を見逃した数をボール球の総数で割った割合で算出されている「ボール球の見極め率」上位を見ると、2位以下を大きく引き離して最高記録を残しているのだ。

プロ野球のボール球見極め率のランキング(2018年6月3日現在)

順位 チーム名 氏名 ボール球見極め率
1 阪神 鳥谷敬 87.68%
2 日本ハム 西川遥輝 83.01%
3 ヤクルト 中村悠平 82.98%
4 ソフトバンク 中村晃 81.54%
5 ヤクルト 山田哲人 81.49%

(出典:データで楽しむプロ野球

この数字が表しているのは四球に直結する能力なのだが、相手投手に与える精神的重圧も計り知れない。例えば失点につながりやすいアウトカウント*8がない場面で鳥谷選手を迎えたなら、ボール球は振ってくれない上に、粘られた揚げ句に歩かれては痛恨の極みだ。ましてや押し出し*9の恐れがある満塁で迎えたくないのは言うまでもない。

これらの鳥谷選手の特長を分析していくと、最適なのは出塁率が特に生かせる1、2番といった打席が多く回る打順のはずだ。今季阪神が全く固定できていない弱点の一つでもある。どうしても1、2番に俊足を並べたいのなら、鳥谷選手をつなぎ役の6番に据え、7番に一発のあるバッターが入れると戦略的に面白い。

そして、代打の1打席勝負ではなく、先発出場で打席の機会を多く与えた方が、より彼の能力が生きるのは明々白々だ。仮に試合終盤の好機で鳥谷選手を迎え、長打による圧迫を相手チームにかけたいなら代打を出せばいい。適材適所の戦力を余すところなく使い切る観点からも一考の余地はあるはずだ。

若手と競わせる環境を整備すべきだ

金本監督は春のキャンプ*10で、当初は鳥谷選手をサードで起用する計画で開始している。もちろん昨季のゴールデングラブ賞の選手なのだから当然である。

しかし、セカンド*11にコンバート*12した大山悠輔選手に守備面で不安が残った。そのため、鳥谷選手をセカンドに回し、大学時代から守っていたサードに大山選手が就いた経緯がある。

さらに、そもそもの鳥谷選手の定位置はショート*13であり、守備面の不安や若手の北條史也選手を起用するため、昨季はサードにコンバートされているのだ。チーム方針も当然あるだろうが、結果を残した鳥谷選手の守備位置を矢継ぎ早に移す采配は拙速だった言わざるを得ない。競争によって勝ち取ったのではなく、守備位置を譲渡された両若手選手が、どれだけの成績を残しているかも鑑みるべきだろう。

鳥谷選手はまだ老け込む年齢ではない。若手の壁となって立ちはだかり、競争原理を働かせることがチーム全体のかさ上げにもつながる。引いてはそれこそが鳥谷選手の力を最大限に引き出す最良の起用法なのではないだろうか。

まとめ

鳥谷選手の残してきた記録はどれも偉業と評されるものばかりだ。中でも記録達成の支柱となった精神面の強靱(きょうじん)さは無視できない。闘争心を前面に押し出してきた現役時代の金本監督とは対照的である。鳥谷選手は常に平常心を保つプレー*14に終始し、感情を表出することなく一連の動作を堅実にこなす。

野球に対する姿勢が対照的な金本監督からすれば、もどかしさもあるはずだ。就任当初から節目節目に鳥谷選手の変化とチームの変革を等号で結んできた。しかし、かっかくたる実績を挙げてきた野球のプレー形式を急変させるのは容易ではない。案の定裏目に出てしまい、阪神の野手キャプテンを務めた2016年は過去最低の打率2割3分6厘を残してしまった。

1000四球の功績は冷静沈着な状況判断が必須になってくる。鳥谷選手ならではの持ち味をいかんなく発揮できたから、成し遂げられたはずだ。だから、これまで通りの「不変」によって若手に範を示すべきなのだ。そして、その「動かざること山のごとし」を乗り越えていくのが若手の使命でなければならない。

甲子園が勝利に沸く光景を鳥谷選手はベンチからではなく、グラウンド*15から見てもらいたい。そして、六甲おろしが吹き下ろす先にある「優勝」の二文字を目指して再び歩み出す。

*1:大学卒業の略。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*2:【home run】野球で、本塁打のこと。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*3:【batter】野球で、打者(だしゃ)。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*4:【pitcher】野球で、打者にボールを投げる人。投手。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*5:野球で,打者の選球する能力。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*6:【third】(サードベースの略)野球で、三塁。また、三塁手。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*7:【Central League】日本のプロ野球リーグの一つで、6球団が所属。1949年結成。正式にはセントラル野球連盟。セントラルリーグ。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*8:(和製語 out count)野球でアウト数のこと。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*9:野球で、満塁のときに打者が四球または死球で出塁し、三塁走者がホームインすること。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*10:【camp】スポーツ選手などの練習のための合宿。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*11:【second】(セカンド‐ベースの略)野球で、二塁。また、二塁手。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*12:【convert】(「変換する」の意)野球で、選手の専門のポジションを転向させること。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*13:【shortstop】野球で、遊撃手のこと。ショートストップ。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*14:【play】競技。また、競技での動作。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*15:【ground】運動場。野球などの競技場。グランド。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)