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ピッチャーの二段モーション解禁によって恩恵に浴すること

大きく足を上げる投球フォームのピッチャー

2006年に「ルールの国際化」を理由に禁止された二段モーション。それまで慣れ親しんだ投球フォームの修正を余儀なくされ、調子を崩す投手も少なくなかった。ところが、突如解禁となった二段モーション。投手たちにどのような影響をもたらすのかに注目だ。

二段モーションが解禁された理由

そもそも二段モーション*1が禁止となったのは「ルール*2の国際化」が理由であった。野球のルールブック*3には以下のように記されている。

打者への投球に関連する動作を起こしたならば、中途で止めたり、変更したりしないで、その投球を完了しなければならない。[野球規則5・07「投手」]

この規則にのっとって考えた場合、一度上げた足を2回上下させたり、途中でフォームを静止させたりする「二段モーション」が抵触すると考えられたわけだ。投球フォームは少しも静止せず、一定のリズム*4で投球しなければならない。ところが、この「少しも」の判断が審判に一任されている。つまり、判断の幅が審判によって曖昧であり、明確な線引きがされていなかったのだ。

しかし、これは大リーグ*5などの海外でも基準がはっきりしていない。むしろ二段モーションに関しては違反を取られない方が多く、故意に投球動作を止めて打者を欺く行為のみを違反として捉えているのだ。

ロサンゼルス・ドジャースのエース*6であるクレイトン・カーショー投手も上げた足を止める投球フォームで有名だが、ボーク*7はとられていない。国際化に準拠するためのルール改正だったはずが、海外との認識に隔たりが生じてしまう結果に陥ったのだ。その議論は後述するとして、かくして二段モーションの禁止は始まった。

二段モーション禁止に翻弄された投手たち

二段モーション禁止によって苦しんだ投手は数知れず。埼玉西武ライオンズの菊池雄星投手もその一人であった。菊池投手は昨季8月17日の東北楽天ゴールデンイーグルス戦と24日の福岡ソフトバンクホークス戦で二段モーションに対し、合わせて3回のボーク判定を受けている。特にソフトバンク戦ではボーク判定後に3回7失点で降板している。菊池投手の投球フォームの問題は春のキャンプ*8から審判団が注意していたそうだが、それならば開幕までに解決しておくべきで、公式戦半ばの8月に指摘するのは理解に苦しむところだ。西武も球団として日本プロ野球組織*9に抗議している。

最終的には菊池投手がフォームを修正して事態は落ち着いた。しかし、公式戦の最中に投球フォームを変え、一流の打者としのぎを削る難しさは誰が見ても明白だ。しかし、そのような逆境を跳ね返し、菊池投手は16勝6敗、防御率1・97の好成績を残した。他球団を見渡せば、東京ヤクルトスワローズの小川泰弘投手や千葉ロッテマリーンズの涌井秀章投手なども二段モーションが疑われたものの黙認された。審判の基準の線引きが不可解なため、野球ファンは大きな疑問を抱いたのだ。

二段モーション解禁がもたらしたもの

懐疑的に見られながらも、二段モーションは再び「ルールの国際化」を理由に今季から解禁された。元々禁止になった理由が明確でなかったので、元通りになっただけとも取れる。しかし、ルール変更によって躍らされた投手たちの野球人生を考えると、心中は察するに余りある。何はともあれ、解禁によって生まれる利点を次項で考えてみたい。

若手投手の成長のきっかけ

二段モーション解禁で今季飛躍を遂げた選手の筆頭格が広島東洋カープの大瀬良大地投手ではないだろうか。昨季から二段モーションに近い、足を上げて胸の前で一瞬止める動作で投球を行ない、10勝を挙げる活躍を見せていた。

そして、今季から二段モーションが解禁となり、晴れてしっかり足を胸の前で止める投球フォームを取り入れている。投球フォーム変更により、球速や変化球の切れ味が格段に上がったかは素人目で判別できない。ただし、上げた足を止め、しっかり軸足に体重を乗せることで、「自分の間」をつくって投球できる「気持ちのゆとり」が良い結果につながっているのは確かだ。つまり、精神的な面での効果が好循環しているはずだ。

その観点からだと、精神的な重圧から伸び悩む若手投手が、二段モーションを取り入れることで飛躍のきっかけになる可能性も考えられる。例えば阪神タイガースの藤浪晋太郎投手のように投球フォームに悩む投手も、二段モーション導入によって何か復調のきっかけをつかめるかもしれない。

投手のけがの防止につながる

二段モーションの最大の利点は上げた足を一度止められ、軸足に十分な「ため」をつくれることだ。それにより投げ急ぎや過剰な力みを抑制でき、余裕を持って投球できる。ひいては肩・肘の負担が軽減され、故障の危険が軽減される利点も考えられている。

一年一年が勝負の選手は結果が出せないと、なおのこと力が入ってしまうものだ。投手であれば、壁に突き当たったときに二段モーションを模索することで、復調に結び付くだけでなく、けがの少ない投球フォームを見つけられる副次的な効果も望めるのだ。

まとめ

二段モーションはさまざまな物議を醸しながらも解禁となった。審判によって解釈が異なるため、公式戦の真っただ中で投球フォームをいじらざるを得なかった菊池投手のような例がなくなるのは「一つの前進」と捉えるべきだと思う。

見方を変えれば、投球スタイルに二段モーションが加わったことで、埋もれていた力を発揮する投手も出てくるはずだ。疑惑の眼差しでみられていた投手も新ルール制定により、正々堂々と投げられる。それらの副次的な効果によってプロ野球の投手力が底上げされ、より高いレベルでの熱戦を観戦できるとするなら、プロ野球ファンはもろ手を挙げて歓迎する。

「ルールの国際化」という名目で解禁された二段モーションが国際化よりも独自性を発揮できるものになってもらいたい。つまり、今回の解禁で選択肢が増え、個性的かつ魅力的な投手が現れるきっかけとなってほしいのだ。大リーグには一見するだけでも個性的な投球フォームで魅する投手がたくさん存在する。日本でも画一的ではなく、個性あふれる投手が増え、世界に進出していくことが「真の国際化」でなければならないはずだ。

ちなみに、女性に対する二段モーションを解禁しているが、一向に結果に結び付かない問題については他稿に譲りたい。

*1:【motion】野球で、投手の投球動作。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*2:【rule】規則。通則。準則。例規。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*3:【rule book】スポーツやゲームなどの規則をまとめて記した本。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*4:【rhythm】周期的な動き。進行の調子。律動。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*5:(major league)アメリカ二大プロ野球リーグのこと。アメリカン‐リーグとナショナル‐リーグで構成。メジャー‐リーグ。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*6:【ace】スポーツで、チームの主力選手。特に、野球チームの主戦投手。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*7:【balk; baulk】(失策の意)野球で、走者のある場合に投手のおかす反則行為。打者に対する投球動作を途中で止めるなど。審判員の宣告によって、塁上の全走者は一つだけ進塁できる。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*8:【camp】スポーツ選手などの練習のための合宿。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*9:〔Nippon Professional Baseball〕セントラル-リーグ・パシフィック-リーグの各加盟球団から構成される任意団体。野球協約を締結する。その運営には日本野球機構があたる。日本プロフェッショナル野球組織。NPB。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)