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ジャパンタクシーに見える近未来の自動車像と日本の底力

正面から見た深藍色のトヨタ・ジャパンタクシー

ジャパンタクシーは車名の通り、タクシー専用車としてトヨタが発売した新型車である。第一印象は「随分大胆な車名付けたものだ」と感じた。なぜなら、国名が入る車種は初めてだからだ。普通の新型車登場とは違った雰囲気に、何か底知れぬ意気込みを感じた。

UDタクシー制度の下に生まれたJPN TAXI

斜め後方から見た深藍色のジャパンタクシー

トヨタのタクシー専用車としては、1995年以降に製造・販売されてきたトヨタ・コンフォートおよびトヨタ・クラウンコンフォートの後継となる「ジャパンタクシー(JPN TAXI)」である。新世代のタクシーとなるべく、これまでのクラウンを上に引き伸ばしたような独特なデザインとなっている。これにより、トヨタ車として初の「ユニバーサルデザイン*1(UD)タクシー」認定と相成った。

UDタクシーとは2012年3月に創設された国土交通省の認定制度である。「ユニバーサル」とは「万人共通の」といった英語である。老若男女、障害者の方など、全ての人にとって快適なタクシーを意味するのだろう。

UDタクシーの定義としては車椅子で乗降できることが大前提になっている。そのため、この認証を受けるにはミニバン*2型などにする必要がある。従来のセダン*3型タクシーではやはり厳しい。

UDタクシー認定の第1号は日産・NV200タクシー、第2号が同じく日産・セレナタクシーだ。そして、第3号にトヨタ・ジャパンタクシーが続いたことになる。

タクシー業界は2001年には全国で19・4万人ほどの利用者があったが、年々下降線をたどってしまっている。2013年の利用者は15万人である。業界の活性化の手段として、優良タクシーなどの専用乗り場設置、育児・妊婦支援、観光タクシーなどの取り組みが行なわれている。UDタクシーもこの一環であるが、2020年開催の東京オリンピックも確実に視野に入っている。

ジャパンタクシーの概要

斜め前方から見た黒色のトヨタ・コンフォート

ジャパンタクシーの先代に位置付けられるトヨタ・コンフォートは、1988年登場の6代目トヨタ・マークIIを基に開発された車種で、FR*4駆動の質実剛健な造りを持っていた。タクシー向けのトヨタ・コンフォートは113馬力の1TR-FPE型1998cc直列4気筒エンジンを搭載(2008年以降)、燃料にはLPG*5を用いる。トランスミッション*6は5MT*7と4AT*8の設定があり、新車価格は2013年で180万2000円から244万2000円となっていた。

トヨタにとってジャパンタクシーはコンフォート登場以来、22年ぶりのタクシー専用新型車となる。全高が高くなった他、その構造も大きく変わった。駆動方式はFF*9となり、エンジンはLPG燃料のエンジンにモーターを組み合わせたハイブリッドカー*10である。トヨタ・シエンタが土台となっており、左型後席は電動スライドドア*11が採用された。また、全車に衝突回避支援パッケージ*12の「Toyota Safety Sense C」を標準装備する。

ちなみに、LPGとは「Liquefied Petroleum Gas・液化石油ガス」の略で、プロパンガスとも呼ばれる。LPGの特徴はガソリン*13よりも価格が大幅に安く、排気ガス中の有害物質が少ないという利点がある。一方、欠点としては出力が少々低くなることが挙げられる。営業用に距離を走るタクシーには最適の燃料である。

ジャパンタクシーのエンジンは74馬力を発生する1NZ-FXP型1496ccが搭載される。トヨタ・コンフォートに比べエンジンは小型化されており、61馬力の電動モーターが付加されたハイブリッドカーとなる。新車価格は327万8000円から349万9000円とかなり高くなっている。いずれにしても、簡素で古典的なトヨタ・コンフォートと比較すると、ジャパンタクシーは隔世の感がある。

ジャパンタクシー誕生の背景にあるもの

トヨタ・ジャパンタクシーの内装

2017年10月13日、東京でジャパンタクシーのお披露目が行なわれた。ここに出席したのは石井啓一国土交通大臣、トヨタ自動車の豊田章男社長、全国ハイヤー・タクシー連合会会長・日本交通株式会社代表取締役会長として川鍋一朗氏などであった。

2020年の東京オリンピックまでに自動運転タクシーを実用化すると政府は目標設定している。そんな中、川鍋氏は同年までに1万台のジャパンタクシーを導入、都のタクシー3台に1台をジャパンタクシーにするとも述べた。

タクシーの自動運転開発は、ともすると「運転手が不要」になる可能性もある。ウーバー(Uber)に対抗する配車アプリの充実も含め、タクシー業界は大きな変化を迎えている。

ジャパンタクシーの開発自体に東京都も予算を拠出したとのことだが、車両導入時にも国から補助金が出るようになった。「ハイブリッドカー」と「ユニバーサルデザインタクシー」の条件を満たせば、最大60万円の補助金となるそうである。

ジャパンタクシー登場に当たっての背景には、このように従来と一線を画する、官民一体の動きを強く感じさせられた。

まとめ

日本の町中を走るジャパンタクシー

ジャパンタクシーは、車体の造りとしては後輪に車軸式サスペンション*14を用いるなど、頑強さを重視したと見受けられる。タクシーは30万キロ、40万キロと使用され、それに耐えうるハイブリッド技術やCVT*15を導入した点は評価に値するだろう。

しかし、ジャパンタクシーの本質はインターネットへの常時接続を完全に備えている「コネクテッドカー」技術の本格活用にある。これが配車速度や一般の車両にも活用できる道路情報などにも展開される。

ジャパンタクシーのうたい文句である「日本を象徴する伝統色の深藍(こいあい)をまとったボディ」であるが、どれほど一般的に浸潤していた知識なのだろうか。また、いきなり2017年度グッドデザイン賞を受賞したが、果たして一目して魅力的に映るのか、いささか疑問ではある。ジャパンタクシーを「日本を代表するタクシーだ」と有無を言わせず仕立て上げるような空恐ろしさのようなものを感じてしまうのだ。

一方、ジャパンタクシーには綿密に計算された勝算や底力も十二分に感じることができる。日本の先進技術の高さを改めて世界に発信できる絶好機でもある。

このジャパンタクシーの場合、一つの自動車としての評価うんぬんは的を射ていないはずだ。ものがインターネットのようにつながるIOTや自動運転技術などの「近未来車の現実化」。そんな大波が押し寄せるのをひしひしと感じさせられるのであった。そして、日本のお家芸である「組織力」によって唯一無二の自動車を生み出してほしいものだ。

大相撲の行司や聖徳太子が制定した冠位十二階にも見られるように紫色は高貴な色として日本人に認知されてきたはずだ。だから、富士山と掛けて藤色*16のジャパンタクシーはいかがだろうか。

(出典:トヨタ自動車株式会社

*1:【universal design】障害の有無に関係なく,すべての人が使いやすいように製品・建物・環境などをデザインすること。1974年,アメリカのメースによって提唱された。UD。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*2:【minivan】貨物兼用の箱型の乗用車。ステーション-ワゴンより少し大きなものをいう。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*3:【sedan】自動車の型式の一。四~六人乗りで,座席は前向きに二列。乗用車の中で最も一般的なもの。箱型自動車。サルーン。リムジン。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*4:【和製語 front-engine, rear-drive】自動車の前部にエンジンがあり,動力を後方に導いて後輪を駆動する方式。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*5:〔liquefied petroleum gas〕常温常圧下で気体の低級炭化水素(炭素数三ないし四)を,冷却または加圧して液化したもの。主成分はプロパン・プロピレン・ブタン・ブチレンなど。家庭用・工業用・自動車用燃料,化学工業の原料に用いる。液化石油ガス。LP ガス。〔プロパンガスはプロパンを主成分とする液化石油ガスの一つ〕/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*6:〖transmission〗自動車などの歯車式変速装置。トランスミッション。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*7:【manual transmission】自動車の手動変速機。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*8:【automatic transmission】自動車の自動変速装置。エンジン回転数,アクセル開度,車速によって自動的に変速装置の変速段数が選択される。ノー-クラッチ。オートマチック-トランスミッション 。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*9:【和製語 front-engine, front-drive】自動車のエンジンの動力が,後輪にではなく前輪に伝わる方式。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*10:【hybrid car】複数の動力源を用いて走行する自動車。排気ガス規制地域を電気で,規制緩和地域をガソリン-エンジンで走る自動車など。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*11:【slide door】横に滑らせて開閉するドア。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*12:【package】商品としてひとまとまりにセットしたもの。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*13:【gasoline】比較的低沸点(摂氏30~200度)の炭化水素の混合物。ガソリン-エンジンの燃料などに使われる。揮発油。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*14:【suspension】自動車などで,車輪と車体をつなぎ,路面からの衝撃や振動が車室に伝わるのを防ぐ装置。懸架装置。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*15:【continuously variable transmission】無段変速機。ギアを用いずに無段階で車のスピードを変えることができる。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*16:藤の花のような色。薄い紫色。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)