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選手の人心を掌握するアレックス・ラミレス監督の求心力

手と手をつなぎ合わせてできた星印

近年は低迷が続いていた横浜DeNAベイスターズ。しかし、2016年にラミレス監督が就任するや2季連続で3位、今季は19年ぶりの日本シリーズ進出を果たした。その躍進の原動力は選手の力を引き出すラミレス監督の意思・感情・思考の伝達能力にありそうだ。

2018年2月25日:用字用語の整理。

強い信頼関係がチーム力を強化する

ラミレス監督が東京ヤクルトスワローズに入団し、来日したのは2001年。スカウト*1がラミレス選手の当時所属していたマイナーリーグ*2を視察したときのことだ。

ベネズエラ*3出身で、ラテン系の明るい性格のラミレス選手は、誰にでも友好的であり、見ず知らずの日本人スカウトにも自ら笑顔で話し掛けてくる。もちろん大リーグ*4にも有望株として嘱望される実力を持っていたが、それ以上にその「性格」がスカウトの印象に残った。

いざ獲得に向けて動くとなったとき、スカウトはラミレス選手ともう一人の選手の獲得を迷う。その選手は長打力が魅力の長距離打者。どちらも欲しい選手だが一方に絞らなければならない。

そのときに、いつも笑顔で人懐こい性格のラミレス選手なら日本野球にも即刻適応できると考え、契約に至ったそうだ。ちなみに悩んだもう一人は、後に埼玉西武ライオンズに入団したアレックス・カブレラ選手である。

DeNAの監督に就任後は「選手より目立つことは控えるべき」と現役時代のようなパフォーマンス*5は封印し、監督業に専念しているが、その根底にあるざっくばらんな性格は何も変わっていない。

積極的にコーチ陣と話し合いを積み重ね、意見を取り入れながら采配を振るう。選手一人一人に目を配り、会話を欠かさない。時には一対一で話し合い、助言を送ったり自らの考えを直接伝えたりする。コーチや選手たちからは「このチームの信頼関係は十二球団一」との声が聞かれるほど、強固かつ良好な関係を築き上げている。

気持ちを前向きにさせる声掛け

選手にとって監督からの信頼を感じることは何よりの励みになることだろう。ラミレス監督は選手の気持ちを前向きにさせる言葉を的確に伝えている。今季抑えを務めた山崎康晃投手は4月の阪神タイガース戦で連続してリリーフ*6に失敗する。ラミレス監督は抑えをスペンサー・パットン投手に交代、山崎投手へは中継ぎへの転向を伝えた。

抑えから中継ぎへの配置転換は、降格と受け止められて当然だ。しかし、ラミレス監督は山崎投手と時間をかけて理由と改善点を説明している。以下は山崎投手の見解だが、納得した上で試合に臨めているのがよく分かる。

「ラミレス監督からはこの状況をしっかりと説明してもらっていますし、自分に足りない部分を気づかせてもらっている。そこをクリアできればさらにいいピッチャーになれるんだなとも考えています。」

(出典:ベースボールチャンネル

配置転換後、中継ぎでは15試合を投げて防御率0.00。見事に復調した山崎投手は再び抑えに返り咲き、26セーブを挙げる。野球日本代表の侍ジャパンの抑え投手としても選出されるまでに至った過程には、この中継ぎでの経験が大きくものをいったはずだ。

貴重な中継ぎの左投手として4年目の砂田毅樹投手は、今季のオープン戦*7で結果を出すことができず、自信を喪失していた。一軍と二軍の当落線上にある選手にとっては、この状況がさらに精神的重圧となり、ますます力を発揮できない悪循環に陥りやすい。ラミレス監督は砂田投手に左の中継ぎとして必ず「最高級の投手になれる」、「全幅の信頼を寄せている」ことをしっかり伝達して自信を取り戻させ、本来の実力を発揮させることに成功している。

「『これまでの結果は気にしていない。君が公式戦になったらやってくれるのはわかっている』と声をかけてくれたのが自信になっています。だからこそ思いっきり自分の投球ができている」

(出典:スポーツブル

砂田投手は今季中継ぎとしてチーム2位の62試合に登板。チームに欠かせない存在へと成長した。ラミレス監督の言葉がなければ、ここまでの貢献はなかったはずである。

積極性を失わない限り選手は代えない

今季のプロ野球で開幕から1試合も打順を変えず全試合出場を果たした選手が一人だけいる。DeNAの桑原将志選手である。桑原選手は1番センターとして、年間を通じてチームの切り込み隊長として打席に立ってきた。しかし、シーズン序盤は不振にあえぎ、結果を残せない状況が続いていた。コーチからも交代の進言を受けるも、ラミレス監督は頑なに桑原選手を代えなかった。

ラミレス監督はストライクを初球から打っていく姿勢や練習に積極的に取り組む姿が見られるうちは絶対に選手を代えない。普通の監督であれば、調子の良しあしによって選手を抜てきしていくのが通例だ。

しかし、ラミレス監督は試合や練習に臨む姿勢に積極性を失っていないか、そこを基準にしているのだ。シーズン序盤で同じく不振に陥った筒香嘉智選手に対しても、桑原選手同様に下を向かない姿勢を買って、先発から外すことは決してなかった。

監督からの信頼を感じることで、選手たちは間違いなく意気に感じるはずだ。そして、期待に応えようとさらに努力を重ね、チームに貢献しようとする。結果チーム全体に前向きに練習や試合に臨む土台が作られ、チーム力が底上げされる。DeNAの躍進の大きな要因だ。

まとめ

二年連続でCS*8出場、今季は日本シリーズ*9に進出。DeNAは敗れはしたものの、福岡ソフトバンクホークスを追い詰める試合展開を見せた。勝敗にもこだわりながら、若手選手を我慢して起用し、レギュラー*10に育て上げる。長期的にも常勝チームを築き上げようとしている。

勝負と育成という相反する中心課題をしっかり両立させ、万年最下位争いをしていたチームの変革に成功しているのだ。就任当初は人気先行で監督としての力量には疑問符が付いていたラミレス監督。しかし、低迷していたチームの雰囲気を変え、信頼関係を礎に一歩ずつ着実に実力をつけ、結果を残すことができている。

今季のCSや日本シリーズでの戦いっぷりは選手たちの自信を深め、更なる成長を促すだろう。その中心にはラミレス監督がいる。その人心掌握術で選手たちが本来の力を発揮している限り、日本一への道のりはそう遠くはないはすだ。

浜の夜空に瞬く星たちが照らしているのは監督と選手の固い絆かもしれない。

*1:【scout】有能な人材を探し出し,誘って引き入れること。また,それを仕事とする人。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*2:【minor league】アメリカのプロ野球で,大リーグの下位の連盟の総称。AAA(スリー A )・ AA(ツー A )・ A ・ルーキーの四階級に分かれる。小リーグ。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*3:【Venezuela】南アメリカ北部,カリブ海に面する共和国。石油の輸出が盛ん。1811年スペインから独立。住民の大半はメスティソ。ほとんどがカトリック教徒。主要言語はスペイン語。首都カラカス。面積91万2050平方キロメートル。人口2860万(2009)。正称,ベネズエラ-ボリバル共和国。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*4:アメリカのプロ野球で,最上位の連盟。ナショナル-リーグとアメリカン-リーグの二つがある。メジャー-リーグ。ビッグ-リーグ。MLB。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*5:【performance】身体を使って表現する行為。特に現代芸術で,演劇やダンスなどのジャンルを超えて行われる肉体を用いた表現形態。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*6:【relief】野球で,救援すること。また,救援投手。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*7:プロ野球などで,公式戦の開幕前に調整のため行う非公式試合。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*8:〔和製語 climax+series〕プロ野球セパ両リーグで行う,日本シリーズ出場権を争う試合。ペナント戦の上位 3 球団が出場して,2 位・3 位球団が 3 回戦制で対戦,その勝者と 1 位球団(アドバンテージ 1 勝)が 6 回戦制で対戦する。ただし両リーグの優勝球団はペナント戦の勝率 1 位の球団とする。2007 年(平成 19)より実施。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*9:日本のプロ野球のセントラル・パシフィック両リーグのその年度の優勝球団が,選手権をかけて争う試合。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*10:【regular】〔レギュラー-メンバーの略〕常に出場する選手。正選手。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)