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好一対のMT車フィアット・500S マヌアーレの全貌をつかむ

斜め前方から見たアルペングリーンのフィアット・500S マヌアーレ

フィアット・500(チンクエチェント)の魅力を目いっぱい引き出せるのが、0・9LツインエアのエンジンとMTミッションの組み合わせだ。待望の仕様で限定車「500S Manuale(マヌアーレ)」が100台限定で2018年6月9日に発売された。その全貌をお伝えしたい。

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フィアット・500S マヌアーレの装備をはじめとする特記事項

斜め前方から見たイタリアブルーのフィアット・500S マヌアーレのバンパー

フィアット・500の限定車で0・9L*1ツインエアのエンジンと5速MT*2ミッション*3を組み合わせた「フィアット・500S マヌアーレ」が登場だ。この組み合わせの限定車としては2017年12月2日に90台限定で発売された「フィアット500S デチベル(Decibel)」以来約半年ぶりとなる。「フィアット・500S マヌアーレ」は日本国内100台限定で、2018年6月9日の発売されている。

フィアット・500S マヌアーレやフィアット・500S デチベルのベース*4車両となっている「フィアット・500S」は本国イタリア*5において常時設定されているスポーティー*6な仕様のMT車を指し、「ポップ(Pop)」の上級グレード*7として位置付けられている。

「フィアット・500S」の標準装備品としては前後専用バンパー*8、専用サイド*9スカート*10、ルーフ*11エンド*12スポイラー*13、「ラウンジ(Lounge)」と同様の185 / 55R15*14などが装着される。当然これらはフィアット・500S マヌアーレにも標準装備だ。

それでは、フィアット・500S マヌアーレだけが持つ、特別な部分に注目したい。それは専用の外装色とシート*15カラー*16となる。今回は以下の2色の外装色が用意されている。

  1. 車体:アルペン*17グリーン*18(マット*19メタリック*20
    座席:ホワイト*21 / ブラック*22
    60台限定
  2. 車体:イタリアブルー*23(メタリック)
    座席:ブルー / ブラック
    販売台数:40台限定

ちなみに、「マヌアーレ」とはイタリア語で自ら操ることを意味する「マニュアル*24」だそうだ。フィアット・500Sは全車マニュアルであるため、この命名は当たり前といえば当たり前であり、そこに深く触れることはしないでおこう。特筆すべきなのはボディー*25カラーである。派手さを抑えた落ち着きのあるアルペングリーンと鮮やかなイタリアブルーが実に洗練されており、「スポーツ」を絶妙に意識させてくれる仕上がりだ。

「フィアット・500S」が定期的に日本国内に導入されているのは大変歓迎すべきである。なぜなら、フィアット・500の運転を楽しむ意味で、ツインエアとマニュアルの組み合わせが最良であるからだ。

2気筒を最新かつ懐旧的に仕上げたツインエアエンジン

フィアット・500S マヌアーレのシフトレバー

フィアット・500は2007年に登場し、世界中で好評を博してフィアットの業績を大きく底上げする車種となった。日本では2008年3月に販売が開始されてから、さまざまな限定車が矢継ぎ早に投入されて新鮮さを表現してきた。中でも最も好意的に迎えるべきなのが、2011年3月に国内投入された2気筒875cc*26にインタークーラー*27付きターボ*28を装着した「ツインエア」であった。

ダウンサイジング*29が褒めそやされる時代とはいえ、それまでフィアット・500の最上級エンジンであった4気筒1・4Lエンジンの後継がツインエアになったのは恐れ入った。日本では安っぽいと消費者に毛嫌いされた2気筒エンジンである。国内の各自動車製造会社が昭和の時代に捨ててきた「過去の産物」となりつつあった。

しかし、このツインエアには吸気側に通常のカムシャフト*30ではなく、油圧でバルブ*31を押す新機構が採用されている。それによって従来機械的な制限を受けてきたバルブ開閉の頃合いを細やかに制御できるようになっている。その利点を生かし、通常スロットル*32バルブで制御している吸気量も、吸気バルブの制御により制御されている。1気筒当たり4バルブを持つため、通常なら「DOHC*338バルブ」と表現されるところだ。

しかし、「D:ダブル」に相当するカムシャフトを1本しか持たないツインエアは特別なエンジンといえる。2011年にツインエアは「インターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤー2011」で1000cc未満の最優秀賞の他に計4賞を受賞している。

先代に当たるヌォーヴァ 500も2気筒エンジンであった。ツインエアは2気筒エンジンの回転ががさつなのをはなから十分認識した上で、バランサーによって不快な振動と感られる部分のみを消している。それ以上は意図的に2気筒のがさつで古めかしさを残した節も感じられなくもない。それでいて1・4Lよりも小型・軽量化を果たし、ハイブリッド*34化にも対応できる。

第一印象は「こんなに古臭いエンジンをよくも」と思われがちだが、実は奥深さや計算高さが包み隠されている。そして、何よりも「感性に訴えかける」エンジンとなっているのだから、侮っては損をする。

日本へ導入されているツインエアの諸元は最大出力63kW*35(85PS*36)/ 5500回転、最大トルク*37145Nm(14.8kgm*38)/2000回転となっている。

イタリア本国などではツインエアを最大出力77kW(105PS)/ 5500回転まで向上させ、6MT*39を与えた仕様もある。これだけ最高出力が向上していながらも、トルクの値に変更のない不思議なエンジンである。イタリア仕様も気になるところではあるが、国内導入されている85PS仕様でも、快活な走りを披露してくれる。6MTなどはアバルトに任せておき、フィアット・500Sはあくまで肩の力を抜いたものがしっくりいくと思うのだ。

ご参考までにイタリア本国仕様エンジンの公表データを比較する形式で以下にご紹介する。

エンジン 最高速 時速100キロまでの加速
0.9Lツインエア
(85PS仕様)
173km / h 11.0秒
0.9Lツインエア
(105PS仕様)
188km / h 10.0秒
1.2L直列4気筒
(69PS)
163km / h 12.9秒

フィアット500Sマヌアーレの足回り

フィアット・500S マヌアーレのペダル

フィアット・500S マヌアーレを含めたフィアット・500Sは5MT仕様となっているのが最大の特徴だ。これによって先述のツインエアエンジンを余すところなく堪能することができる。「今更MT」と思われる向きもあるかもしれないが、欧州の小型車は今でも6割以上を占めているのだ。

「MTの良さ」を問われたなら、一番の利点は「何かと融通が利く」と答えたい。ギター*40などの楽器の楽しさと似ているのかもしれない。半クラッチ*41、サイドブレーキ*42、ヒール&トゥなどを駆使しながら、その時々の気分に車が寸分違わず応えてくれる。それこそがMTの楽しさといえる。

足回りはセミ*43オートマ*44となる5AT フィアット・500ツインエア ポップと共通となっている。初期のモデル*45では後輪の接地感に粗さも見られたが、補強バー*46追加などで年々完成度が高められている。

「MT = スポーツカー」の変な固定概念が定着した日本だが、フィアット・500S マヌアーレは等身大で運転を楽しむことができる希少な存在だ。スポイラー*47などに表れる変にスポーツカー*48らしさをあおる付属品が無ければ、非の打ち所がなくなる。

まとめ

フィアット・500S マヌアーレのペダル

今回はフィアット・500のMT仕様とフィアット・500S マヌアーレについてご紹介してきた。日本国内仕様としては2011年3月に初めてツインエアを投入し、翌2012年6月に「ツインエア・スポーツプラス」で初めてツインエアと5MTの組み合わせが実現した。2013年4月にはフィアット・500Sが正式に通常販売モデルに格上げされたのだが、2016年1月に行われた小変更の際に、再びフィアット・500Sが通常販売モデルから除外となってしまった。

以降ツインエアと5MTを組み合わせたフィアット500Sは約半年ごとに限定車として発売され、この度のフィアット・500S マヌアーレに至っている。どの限定車も基本的な構造に変更点などはなく、車体色や細部のデザイン*49のみに違いが見られる。それ以外にもフィアット・500には幾つもの限定車が順次設定されている。フィアット・500の愛嬌(あいきょう)のある外観とともに運転も心ゆくばかり味わえるツインエアと5MTの組み合わせは間違いなく「買い」の1台であろう。

最後に2016年1月以降に登場したフィアット・500S国内仕様の発売時期および新車価格などをご紹介する。

車名 販売日 新車価格 限定数
フィアット・500S 2016年12月10日 234万3,600円 150台
フィアット・500S プラス(Plus) 2017年7月8日 236万5,200円 100台
フィアット・500S デチベル(Decibel) 2017年12月2日 238万6,800円 90台
フィアット・500S マヌアーレ(Manuale) 2018年6月9日 239万円 100台

通常設定されているセミオートマのフィアット・500 ツインエア ポップは232万2000円となっている。ポップの上級モデル扱いとなるフィアット・500Sだけに、若干高めの価格設定だ。しかし、この「操る楽しさ」を7万円弱で手に入れられるなら、お釣りが来るのではないだろうか。

新型登場がささやかれているフィアット・500であり、現行モデルとしては成熟の域に達している。現行モデルでツインエアと5MTの組み合わせに魅力を感じているのであれば、そろそろ買い時かもしれない。

ツインエアとマニュアル車の「化学変化」が格別で、かわいらしさとがさつさの繊細な調合が個性を一層際立たせることに成功している一台だ。加えて、上品で落ち着いた色使いの緑色と生き生きとした青色の「隠し味の色使い」がさらに磨きをかけている。

いつの間にか「自分で操る」どころかフィアット・500S マヌアーレのとりこになっていることに気付かされるはずだ。

(出典:Fiat Chrysler Automobiles

*1:(litre; liter)リットルの略号(L かつてはl)/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*2:【manual transmission】自動車の手動変速機。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*3:【transmission】(自動車などの)歯車式変速装置。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*4:【base】土台。基礎。基本。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*5:【Italia・伊太利】ヨーロッパの南部、地中海に突出した長靴形の半島およびシチリア・サルデーニャその他の諸島から成る共和国。面積30万2000平方キロメートル。人口5943万4千(2011)。ローマ時代以来、ギリシアとともに西洋文明の源流をなした。中世以降、諸州・諸都市が分立したが、1861年イタリア王国成立。1922年以後、ムッソリーニを首領とするファシスト党が独裁。36年エチオピア併合以来帝国と称し、ドイツ・日本と三国同盟を結んで第二次大戦に参加、43年降服、内戦とレジスタンスを経て46年より共和制。宗教は主にカトリック。首都ローマ。イタリー。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*6:【sporty】スポーツ向き。服装・形などの軽快で活動的なさま。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*7:【grade】等級。段階。品等。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*8:【bumper】自動車などの前後両端部に取り付けた緩衝器(かんしょうき)。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*9:【side】横。側(がわ)。脇。側面。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*10:【skirt】物の下部につける、保護または装飾用の覆い。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*11:【roof】屋根。ビルの屋上。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*12:【end】端。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*13:【spoiler】自動車で、車体周囲の気流を整えて走行を安定させたり、下向きの揚力を発生させてタイヤのグリップ力を高めたりするための翼。エア‐スポイラー。空力的固定板。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*14:【tire; tyre】車輪の外囲にはめる鉄またはゴム製の輪。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*15:【seat】席。座席。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*16:【colo(u)r】色。色彩。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*17:【Alpen】アルプスのドイツ語名。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*18:【green】緑。緑色。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*19:【matte】〈色・表面・写真などが〉光沢のない, つや消しの/出典:ウィズダム英和辞典 第三版(三省堂 2013年)

*20:【metallic】光沢が金属的であるさま。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*21:【white】白。白色。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*22:【black】黒いさま。黒色。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*23:【blue】青色。藍色。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*24:【manual】「手の」「手動の」の意。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*25:【body】車体。機体。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*26:(cubic centimetre)立方センチメートルを表す記号。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*27:【intercooler】中間冷却器。流体を加熱する過程で冷却する装置。特に,気体の連続圧縮過程の冷却装置。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*28:【turbo-charger】過給器の一種。排ガスのエネルギーを利用する過給器。排気タービン過給器。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*29:【downsizing】規模を縮小すること。小型化すること。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*30:【camshaft】ガソリン機関などの、カムが取り付けられた軸。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*31:(valve)管の途中や容器の口にとりつけ、気体または液体の出入りの調節をつかさどる器具。弁体を指すこともある。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*32:【throttle】流量を制限・調整する弁。内燃機関の気化器に取り付けて吸入空気量を加減するもの、蒸気機関に取り付けて蒸気量を加減するものなど。絞り弁。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*33:ダブル‐オーバーヘッド‐カムシャフトの略。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*34:【hybrid car】ハイブリッド‐エンジンにより走行する自動車。効率の良い回転数域だけで内燃機関を利用したり、回生ブレーキで得た電力を電気モーターで利用したりできるので燃費が良い。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*35:【kilowatt】仕事率・電力の単位キロワットを表す記号。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*36:(Pferdestärke(ドイツ))(horsepower)動力(仕事率)の実用単位。1秒当り75重量キログラム‐メートルの仕事率を1仏馬力といい、735.5ワットに相当する。記号 PS 1秒当り550フート‐ポンドを1英馬力(746ワット)という。記号 HP,㏋,hp 日本では1999年以来仏馬力だけが特殊用途にかぎって法的に認められている。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*37:【torque】原動機の回転力。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*38:【フランス kilogrammètre】エネルギーまたはトルクの重力単位キログラムメートルを表す記号。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*39:【manual transmission】自動車の手動変速機。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*40:【guitar】撥弦楽器。木製で、8の字形の共鳴箱と桿(さお)から成り、ふつう6弦を張り、指先やピックで弾いて演奏する。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*41:【clutch】一直線上にある二つの軸の一方から他方へ動力を任意に断続して伝える装置。咬合(かみあい)式・円板式・円錐(えんすい)式などがある。連軸器。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*42:(和製語 side brake)自動車で、運転席の横にある手動のパーキング‐ブレーキ。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*43:【semi】「幾分」「半」「準」の意。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*44:【automatic】(automatic transmission)自動車の変速装置が自動式であること。AT/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*45:【model】型。型式(かたしき)。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*46:【bar】棒。横木。スポーツで、高跳びの横木やゴールポストの横木など。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*47:【spoiler】自動車で、車体周囲の気流を整えて走行を安定させたり、下向きの揚力を発生させてタイヤのグリップ力を高めたりするための翼。エア‐スポイラー。空力的固定板。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*48:【sports car】運転を楽しむために作られた娯楽用乗用車。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*49:【design】意匠計画。製品の材質・機能および美的造形性などの諸要素と、技術・生産・消費面からの各種の要求を検討・調整する総合的造形計画。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)