FIAT 500C 解放感あふれるキャンバストップの美点とは?
FIAT 500には屋根を開閉することができるキャンバストップのFIAT 500Cも設定されている。若干値が張るのだが、伸びやかな雰囲気と青空の対比は相当に魅力的だ。限定発売のFIAT 500C Ivory Topにも当てはまるキャンバストップについてご案内したい。
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2018年3月29日:用字用語の整理。
FIAT 500Cの価格とキャンバストップの意義
まずは現行FIAT 500とFIAT 500CならびにFIAT 500C Ivory Topの車種構成をご紹介しよう。
FIAT 500 | FIAT 500C | FIAT 500C Ivory Top | |
---|---|---|---|
1.2 Pop | 1,998,000円 (税込み) | 2,527,200円 (税込み) | - |
TwinAir Pop | 2,289,600円 (税込み) | - | - |
TwinAir Lounge | 2,592,000円 (税込み) | 2,797,200 円 (税込み) | 2,824,200円 (税込み) |
普通の鉄板の屋根を持つFIAT 500の方は、1・2 POP、ツインエア POP、ツインエア・ラウンジという3種類の設定がある。価格的には最も廉価な1・2 POPの税込み199万8000円からツインエア・ラウンジの259万2000円までとなっている。
一方、キャンバス*1トップを備えるFIAT 500Cは、1・2 POP、ツインエア・ラウンジ、の2種類であり、価格はそれぞれ、252万7200円と279万7200円である。さらに、去る7月8日に限定60台で販売開始されたアイボリー・トップは282万4200円となっている。
500と500Cの価格差はPOPが約53万円となる。だが、ラウンジになると約23万円となり、かなり差額は縮まる。とは言え、庶民にとっては決して安くはない価格差である。
2代目マツダ・デミオ以来は衰微して、絶えて久しい国産車のキャンバストップである。しかし、完全ほろのオープンカー*2と照らし合わせても、「盗難に対する予防」「気軽な開閉」「おしゃれ」と三拍子そろった魅力を備えている。
マツダ・ロードスター、ホンダ・S660、ダイハツ・コペンなどもほろの屋根を持つ国産車だが、FIAT 500Cのキャンバストップとは種別が違ってくる。また、現在の国産オープンカーも独自性は高いが、全て2人乗りであるため、実用性を犠牲にしていると言わざるを得ない。一方、キャンバストップであっても4人乗りハッチバック*3となるFIAT 500Cは、利便性が高くなる。
キャンバストップの定義や利点について
そもそもキャンバストップの定義や利点は何であろうか。
ハッチバック車を例にして車体を側面から見ると、屋根を支える骨組みがある。ドアミラーから屋根に向かっている骨組みをAピラー*4、前席・後席の間のものがBピラー、車体後方のものをCピラーと呼ぶ。
既述したように国産オープンカーの場合、BピラーとCピラーがなく、Aピラー、つまりフロントガラス部分を残して完全にオープンになる形式であり、オープンカーやカブリオレと命名されているのだ。
乗用車はおしなべてモノコックボディー*5と呼ばれる。要は卵のようにボディー全体で強度を出す構造になっている。オープンカーの場合だと、この卵の上半分がない状態のため、下半分で強度を保てる特別な設計がされているのだ。
オープンカーの利点としては開放感があり、季節を存分に体感できる。バイクに比肩する楽しみを味わえるのだ。仮に雨降りになれば、ほろを立ててしのぐことができる。その代わり生産費も高くなるため、趣味としてのやや高価なスポーツカーなどに採用される前例が多い。
ちなみに、往年のジープやスズキ・ジムニーには完全なオープンカーがある。しかし、これらの車種は、はしご型フレーム*6が支えている。そのため、ボディーは強度を出すための役割をほぼ担っていない。だから、どんな形状のボディーでも載せられるが、フレームとボディーを足すため、頑丈ではあるが、重量級になってしまう欠点も併せ持つ。
それに対して、FIAT 500Cのようなキャンバストップの場合は、ABCピラーを全部残しつつ、屋根の部分だけを可能な限り大きく開放することができる。そのため、丸い卵としての強度を容易に維持したまま、サンルーフ*7よりも閉塞(へいそく)感から解き放たれる利点がある。
FIAT 500Cが持つキャンバストップの特徴
閑話休題。FIAT 500Cは、このようなキャンバストップの屋根を持った車であり、スイッチ一つによって任意の位置での開閉ができるようになっている。加えて、標準として天井のみを開ける停止位置と、リア*8ガラス部分までを折り畳む二つの選択肢がある。
リアガラス部分までが折り畳めるのは、国産キャンバストップでは未だかつてなかったスタイルだ。前述したように国産車で最後に発売されたキャンバストップのマツダ・デミオも天井部分のみを開けられるタイプであった。
500Cのキャンバストップは、後席に乗車している状態では、開ききれば後席の人もその開放感の恩恵にあずかることができる。ただし、全開では車内ミラーの後方視界が皆無になってしまうので、1、2名乗車であれば天井のみを開けた方がより良いだろう。
FIAT 500の通常の開き方に対し、FIAT 500Cのハッチバックの開け方も、小じゃれている。リアガラスから下の部分だけが上ヒンジ*9で開く形になる。もちろんその内側には十分な収納空間も確保されている。
まとめ
現行のFIAT 500と500Cは、約50年前の先代FIAT 500ことNUOVA(ヌォーヴァ)500のデザインが踏襲されていることは有名だろう。
そのNUOVA 500も、ふと見てみるとキャンバストップであった。しかも、全車に標準装備となっていたのだ。しかし、当時のNUOVA 500にキャンバストップが取り付けられた理由は、現在とは異なる。それは車内の騒音を外部に逃がすためだったからだ。そんな逸話ですら進化過程における自動車づくりを物語るものとして、実に面白く興味深い。
日本の小型車の名車であるスバル・360なども、徹底した軽量化を図ろうとし、当時は珍しかったFRP*10樹脂を屋根に採用したのだ。その「こだわり」にどこか通ずるものを感じずにはいられない。
アバルトなどは似て非なるものだが、FIAT 500や500Cは、決して「速さ」を追求する車ではないだろう。アバルトにはとっとと追い抜いてもらい、のんびりと景色を見ながら走らせるのが、最良の乗り方ではないか。そこにキャンバストップは非常になじむ。さらに、0・9Lツインエア・エンジンの新しくも懐かしい「やかましい美音」を混ぜ合わせたら、最高の褒め言葉である「ぽんこつ感」が誕生する。そして、それはいい意味で期待を次々と裏切ってくれるのだ。
つまり、FIAT 500と500Cの中で一番お勧めしたいのは、キャンバストップを備えた「FIAT 500C ツインエア・ラウンジ」である。もし、ボサノバ*11・ホワイト、パソドブレ*12・レッド、ブルー・ヴォラーレの車体にアイボリーの屋根がぴんと来たなら、約3万円をプラスしてFIAT 500C Ivory Topの限定車にすべきだろう。
必然的に300万円近い最も高価なグレードになってしまうので、費用面では目をつぶらなくてはならない。しかし、中古で購入する手段などもあるので、ぜひFIAT 500を夢見ている方は選択肢に入れてみてはいかがだろうか。
大人になって幾つかの天井を渋々閉じてきただろう。でも、FIAT 500Cのキャンバストップを開いて見上げてみたら、空と太陽が何か思い出させてくれるかもしれない。
(出典:Fiat Chrysler Automobiles)
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*1:【canvas】綿・麻などの太い糸で密に織った厚地の織物の総称。種類が多く,帆布・テント・画布・手芸用基布などに使用される。カンバス。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)
*2:【open car】屋根のない,あるいは屋根が折り畳み式になっている自動車。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)
*3:【hatchback】ファーストバック形式の乗用車のうち,後背部に船のハッチのようなはね上げ式のドアが付いているもの。リフト-バック。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)
*4:【pillar】柱。支柱。また,柱状のもの。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)
*5:【monocoque body】自動車などの,車体とフレームとが一体化した構造。フレームレス-ボディー。単体構造。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)
*6:【flame】自転車・自動車などの車体枠/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)
*7:【sunroof】開閉できる天窓付きの屋根。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)
*8:【rear】他の外来語の上に付いて,「後ろの」の意を表す。リヤ。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)
*9:【hinge】上下左右には動かないが,回転は自由であるような材と材の接点または支点の状態。また,そのための機構。ちょうつがい。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)
*10:【fiberglass reinforced plastic】繊維強化プラスチック。ガラス繊維や炭素繊維などを補強材として埋め込んだ合成樹脂複合材料。軽くて機械的強度・耐食性・成形性にすぐれる。小型船舶の船体,航空機の機材,浴槽・波板・保安帽などに用いる。
*11:【ポルトガルbossa nova】〔「新しい感覚」の意〕サンバにジャズの要素を加え都会的に洗練させた音楽。1950年代末,ブラジルに興った。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)
*12:【スペインpaso doble】スペイン起源の闘牛士の行進音楽。のちには舞踊音楽ともなり,また歌曲ともなった。二拍子ないし三拍子。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)