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ミゼットとピアッジオ!日本とイタリアのオート三輪の古今

ダイハツ・ミゼットから降車する女性

1950年代から1970年くらいまでの日本を象徴するの風景の一つにオート三輪があった。国産ではダイハツ・ミゼットやエレクトライク。そして、イタリア産のものまであった。幾つか例を挙げつつ、オート三輪の昨今をご紹介したい。

2018年3月29日:用字用語の整理。

戦前・戦後の国産オート三輪

斜め前方から見た電動オート三輪のエレクトライク

「オート三輪*1」とは通常三輪トラックの総称であり、日本では1930年代から1950年代に最も需要があった。前一輪、後二輪の構成は見ての通り安定性があまり良くない。特にハンドルを切った状態で、強いブレーキ*2をかけると横転にもつながる。それでも、オート三輪が当時の物流の主役となったのは大東亜戦争前までは無免許でも運転できたためである。また、構造的に四輪車よりも安価につくることができ、小回りも効くなどの利点も多かった。

国産オート三輪の代名詞的存在ともいえるダイハツ・ミゼットは1957年に登場し、1972年まで生産・販売された。初代はDK / DS型と呼ばれ、一つ目ヘッドライト*3、ドア無し、オートバイ*4のようなバー*5ハンドル*6が特徴である。2代目MP型ミゼットは約2年後の1959年に発売され、代表的なミゼットと評された。二つ目ヘッドライト、ドア付き、円形ハンドルなどが初代から大きく変わっている。

ミゼットが発売される以前の1954年には軽自動車は360ccまでの規格となったが、2代目ミゼットはそれよりも小さい305cc空冷2サイクル*7単気筒エンジンを搭載する。今の軽自動車よりも180ミリも狭い1295ミリの車幅だが、2名乗車が可能だ。そして、その膝元にエンジンが鎮座する格好になる。

当時の国産オート三輪はミゼットだけでなく、多種多様であった。戦前には東洋工業(現マツダ)、発動機製造(現ダイハツ)、日本内燃機製造が3大製造元であったそうだ。敗戦直後はGHQ*8による国内での自動車製造禁止令が出されたが、オート三輪はそこに含まれなかった。そのため、国内自動車メーカー*9が多く参入した背景がある。

国産オート三輪で最も車格の大きかったのはマツダのT2000である。こちらは1985cc水冷4サイクル4気筒エンジンに6080ミリ × 1840ミリという現在の2トンロングトラック*10級の外寸を持っていた。最高速度はミゼットが時速60キロ~時速70キロのところ、T2000は時速100キロを可能としていた。

1972年にミゼットが生産を終了した。その2年後にはT2000も生産終了となり、国産オート三輪の時代はここで幕を下ろした。

近年になって1996年から2001年には四輪になったダイハツ・ミゼットⅡが製造・販売された。スペアタイヤ*11を車体前面に載せ、カエル*12のようなヘッドライトは愛嬌があり、話題性も高かった。しかし、残念ながら5年ほどで途絶えてしまっている。

2015年には神奈川*13県川崎*14市のベンチャー企業*15「日本エレクトライク」が、電動で走るオート三輪「エレクトライク」を発売した。これはインド*16製の車体を電動化したもので、外観は旧来のオート三輪そのものである。普通免許で運転ができ、最高速度は時速50キロ、1回の充電による走行可能距離は30キロもしくは60キロの2種類あるようだ。転倒しにくいように、ハンドルのだ角により左右後輪の駆動力調整も行われるようになっている。

イタリア発の最新型オート三輪Piaggio(ピアッジオ)「Ape(エイプ)」

斜め前方から見た赤色のPiaggio・Ape 50

日本では時流とともに少数派となってしまったオート三輪である。しかし、イタリア*17では現在もオート三輪が製造・販売されている。その製造元はオートバイ製造元として欧州で第一番のPiaggio(ピアッジオ)である。発音に基づいて「ピアジオ」や「ピアッジョ」と表記されることもある。1884年に船舶用部品メーカーとして誕生した。Piaggioは七つのブランドを展開しつつ、オートバイを製造・販売している。アプリリア(Aprilia)やベスパ(Vespa)の名称を聞けば、オートバイ好きでなくともご存じではないだろうか。

オートバイ製造元として有名なPiaggioであるが、四輪商用車やオート三輪の製造・販売も行なっている。Piaggioの製造するオート三輪は「Ape(エイプ)」と名付けられ、初代が誕生したのはミゼットよりも古い1948年のことであった。こちらも発音によっては「アペ」と記されることがある。

エイプは当時からの骨董(こっとう)品をつくり続けているわけではなく、しっかりと時代の傾向に合わせて改良されながら現在に至っている。しかも、排気量と大きさの異なる複数の系列が存在している。

「エイプ 50」は50cc空冷2サイクルエンジン、「Ape TM(エイプ ティーエム)」は218cc空冷2サイクルエンジン、「Ape Classic(エイプ クラシック*18)」は435cc空冷ディーゼルエンジン*19、「Ape Calessino(エイプ クラッシーノ)」は荷台を乗用向けにした系列で197cc空冷4サイクルエンジンをそれぞれ搭載する。

さらっとApeのエンジンについて触れてみたが、2サイクルエンジンや435ccの小排気量にかかわらず空冷ディーゼルエンジンなのが感心させられる。どちらも日本の自動車には皆無だ。

エンジンオイル*20をシリンダー*21に注入しながら一緒に燃やし、動弁機構も持たない2ストロークエンジンは「現在の厳しい排気ガス規制には不適合」として公道走行可能な国産車では二輪・四輪共に絶滅してしまった構造である。しかし、このApeでは欧州EURO4排気ガス規制にもしっかり適合できている。

Piaggio Apeの諸元詳細

斜め前方から見た白色のPiaggio・Ape Classic

Apeについて前項でご紹介してきたが、もう少し詳しい諸元を見ていきたい。諸元はApe 50、Ape Classicの2種類に絞るが、比較対象として、1960年~1962年式となるミゼットMP4型も参考のために掲載した。

  Ape 50
(ショート*22デッキ*23
Ape Classic ミゼットMP4型
全長 × 全幅 × 全高(mm) 2,660 × 1,260 ×1,550 3,145 × 1,465 × 1,635 2,885 × 1,296 × 1,510
ホイールベース(mm) 1,590 2,100 1,810
車両重量 510kg 475kg 415kg(MP5型)
最大積載量 205kg 650kg 350kg
エンジン 50cc空冷単気筒2ストロークガソリン 243cc強制空冷2バルブ直噴ディーゼル 305cc強制空冷単気筒2ストロークガソリン
最大出力 1.8kW*24 / 5,500rpm*25 5.75kW / 3,400rpm 12PS*26(8.83kW)
最大トルク 3.3Nm / 4,250rpm 20Nm/2,200rpm -
最高速度 38km / h 45km / h 70km / h前後
タイヤサイズ 100 / 90-10 61J 4.50 - 10 8PR 5.00 - 9

Ape 50は日本の原付1種のようなエンジンを搭載した車種である。屋根の付いた原付程度かと思いきや、最大積載量は205キロとなっている。この最大積載量はダイハツ・ウェイクをベース*27とした軽商用車であるハイゼットキャディーの150キロよりもさらに実用的かもしれない。

Ape Classicは前述したように、435ccという小排気量でのディーゼルエンジンが特徴的だ。ディーゼルエンジンは熱効率の問題から、あまり小排気量には適さないとされてきた。しかし、2015年にスズキが0・8Lの乗用車用として世界最小を開発した。さらに半分の排気量のものがApe Classicには搭載されており、非常に興味をそそられる。

Ape 50とApe Classicのちょうど中間的な存在となるミゼットである。しかし、最高出力や最高速ではApeを大きく上回っている。安全性は運転手が十分に気を付ける必要はあるが、ミゼットなら郊外までも行けそうな頼もしさを感じる。

Apeの生産はインドの大手自動車会社「バジャージ・オート(Bajaj Auto)」で行われている。先にご紹介した「エレクトライク」の車体もこのバジャージ・オートから供給を受けているので、実はこの2社の関係性は大きい。

まとめ

斜め前方から見た白色のPiaggio・Ape Clessinoと空を眺める女性

今回はPiaggio Apeについてご紹介してきた。今日の日本では安全性能が重視され過ぎていて、Apeのような車種は一般には受け入れられないだろう。しかし、現在の日本人が標準的・常識的としているものを、時には違う目線からも観察してみたい。他国ではイタリアのApeのようにオート三輪が生活に密着した乗り物になっている。

2ストロークエンジンは同じ排気量の4ストロークエンジンと比較すると、より出力が高く、高回転で特にその傾向が強くなる。いわゆる「危なっかしくも面白い」特徴を持っていた。環境性能上適さないとして日本では嫌えんされたため、それを味わう機会も失ってしまった。

もう一つ例を挙げると、スバル・インプレッサなどが搭載する水平対向エンジンは「どろどろ」といった表現が似つかわしく、独特のエンジン音を元々持っていた。しかし、「うるさい」と評する消費者が少なくなかったことから、スバルが対応を実施した。これにより水平対向エンジンではあるものの、エンジン音を楽しめる本来の個性を失う結果となってしまった。

「没個性化」された自動車は面白みを失墜させてはいないだろうか。新しい世代が見向きもしなくなることに無関係だとは思えないからだ。そのため、国内需要が見込めなくなり、新型車は国内事情を無視して肥満化したグローバル*28モデル一辺倒となってしまっている。

バブル*29崩壊以降、過去を懐かしむ傾向が見られる。オート三輪も例に漏れず、懐かしき日本の風景を彩る「立役者の一人」であった。

われわれがおおらかさを取り戻した時、ちょっぴり不器用なオート三輪が「すいすいくるくる」走るのを目にできると思うのだ。

(出典:ダイハツ工業株式会社株式会社日本エレクトライクピアッジオ グループ ジャパン 株式会社

*1:ガソリン-エンジンを備えた,前一輪後ろ二輪,または前二輪後ろ一輪の三輪自動車。多く貨物運搬用。1950年代まで日本の主力トラック。オート三輪車。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*2:【brake】車両その他機械装置の速度・回転速度などを抑えるための装置。手動ブレーキ・真空ブレーキ・空気ブレーキなどがある。制動機。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*3:【headlight】電車・自動車・艦船などの前部につけて前方を照らす明り。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*4:(和製語)発動機をそなえた二輪車。自動二輪車。単車。バイク。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*5:【bar】棒。横木。スポーツで、高跳びの横木やゴールポストの横木など。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*6:【handle】手で機械を操作するための握り。特に、自動車・自転車などの方向操縦用のもの。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*7:【cycle】周期。循環過程。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*8:特に、第二次大戦後に日本を占領した連合国総司令部。初代最高司令官(SCAP)はマッカーサー。占領政策を推進し、戦後改革を行なった。対日講和条約発効とともに廃止。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*9:【maker】製造者。特に、名の知られた製造業者。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*10:【truck】貨物自動車。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*11:【spare tire】自動車などの予備タイヤ。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*12:【蛙・蛤・蝦】カエル目(無尾類)の両生類の総称。変態し、幼生はオタマジャクシ。体は短く、胴と頭が直接つながり、尾はない。後肢は大きく、指に水かきをもち、跳躍や泳ぎに適する。体長は約1センチメートルから大きなものでは30センチメートルに達する。皮膚は湿り、色は多彩、種によっては変色する。生活はきわめて多様。鳴囊(めいのう)をもち、良い声で鳴くものもある。多くは肉食で、舌で小動物を捕食する。食用にし、また南米産の数種の皮膚からは矢毒をとる。世界に6400種以上が分布。古来、人間生活に近い存在で、田や雨の神とする地域もある。かわず。〈 春 〉。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*13:関東地方の県。武蔵国の一部及び相模国全部を管轄。県庁所在地は横浜市。面積2416平方キロメートル。人口912万6千。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*14:神奈川県北東部の市。政令指定都市の一つ。北は六郷川(多摩川)を隔てて東京都に、南西は横浜市に隣接。海岸に近い地区は京浜工業地帯の一部、内陸地区は住宅地。東海道五十三次の一つ。人口147万5千。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*15:【venture】新技術や高度な知識を軸に,大企業では実施しにくい創造的・革新的な経営を展開する小企業。VB。ベンチャー。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*16:【印度】(India)南アジア中央部の大半島。北はヒマラヤ山脈を境として中国と接する。古く前2300年頃からインダス流域に文明が栄え、前1500年頃からドラヴィダ人を圧迫してアーリア人が侵入、ヴェーダ文化を形成。前3世紀アショーカ王により仏教が興隆。11世紀以来イスラム教徒が侵入、16世紀ムガル帝国のアクバル帝が北インドの大部分を統一。一方、当時ヨーロッパ諸国も進出を図ったが、イギリスの支配権が次第に確立、1858年直轄地。第一次大戦後、ガンディーらの指導で民族運動が急激に高まり、1947年ヒンドゥー教徒を主とするインドとイスラム教徒を主とするパキスタンとに分かれて独立。古名、身毒・天竺。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*17:【Italia・伊太利】ヨーロッパの南部、地中海に突出した長靴形の半島およびシチリア・サルデーニャその他の諸島から成る共和国。面積30万2000平方キロメートル。人口5943万4千(2011)。ローマ時代以来、ギリシアとともに西洋文明の源流をなした。中世以降、諸州・諸都市が分立したが、1861年イタリア王国成立。1922年以後、ムッソリーニを首領とするファシスト党が独裁。36年エチオピア併合以来帝国と称し、ドイツ・日本と三国同盟を結んで第二次大戦に参加、43年降服、内戦とレジスタンスを経て46年より共和制。宗教は主にカトリック。首都ローマ。イタリー。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*18:【classic】古典的。古雅なさま。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*19:【diesel engine】内燃機関の一。1893年,ディーゼルがその理論的考察を発表。シリンダー内の高圧高温に圧縮された空気中に,燃料として重油または軽油を噴射して爆発させるもの。点火栓を用いないので構造が簡単で故障が少なく,熱効率がよい。また,安価な燃料を使用できる。大型機関に適し,船舶・鉄道車両・大型自動車・工業機械などに広く使われている。ディーゼル機関。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*20:【engine oil】エンジン内部を潤滑にしたり冷却したりするための油。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*21:【cylinder】往復運動機関の主要部分の一つ。鋼製または鋳鉄製の中空円筒状で、その内部をピストンが往復して所要の仕事を行う。気筒。シリンドル。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*22:【short】短いこと。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*23:【deck】車両の出入り口の床,また出入り口。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*24:【kilowatt】仕事率・電力の単位キロワットを表す記号。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*25:【revolutions per minute】エンジンやタービンなどの毎分回転数。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*26:(Pferdestärke(ドイツ))馬力。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*27:【base】土台。基礎。基本。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*28:【global】世界全体にわたるさま。世界的な。地球規模の。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*29:【bubble】泡沫的な投機現象。株や土地などの資産価格が,経済の基礎条件から想定される適正価格を大幅に上回る状況をさす。日本では特に,1986年(昭和61)以降の土地や株の高騰をバブルおよびバブル経済と呼び,90年(平成2)以降の地価・株価の急落をバブル崩壊と呼ぶ。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)