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「5ナンバー」という日本が誇る乗用車の復権を望む!

斜め前方から見た白色の2代目トヨタ・ソアラ

「5ナンバー」は「軽自動車」と同様に日本独自の自動車規格である。その車幅が日本の道路事情にぴったり合った規格であることは大っぴらに宣伝こそしないが、自動車会社も認めるところだ。年々減少の一途をたどる5ナンバー車に、復権はもうないのだろうか。

2018年2月17日:用字用語の整理。

国産5ナンバー車の歴史

トヨタ自動車における年別自動車登録台数

「5ナンバー」の定義については方々で語られているので、ここでは簡単にご紹介したい。5ナンバー車とは車幅が1700mm以下の乗用車であると捉えて差し支えないだろう。

かつては国内を走る乗用車のほとんどが5ナンバー車であった。しかし、1989年を境に、より車幅の広い「3ナンバー」車が急速に増えていき、今では「コンパクトカー*1」に分類されるが、3ナンバー規格のものすらある。

1960年に道路運送車両法*2で現在に至る車両区分が定められたころ、日本は高度成長*3の真っただ中であった。1980年代に入ると、日本の車は小型で燃費も良く耐久性にも優れるとされ、海外の自動車にも比肩するほどに成長した。

5ナンバー車の場合は外寸の制約に加え、ガソリン*4車の排気量も2000ccまでと規定されている。そのため、もっと大きな米国や欧州の車種は、この規格に当てはまるものが少なかった。海外では販売台数を伸ばし、逆に国内で販売される外車が売れない。このような状況が大きな貿易摩擦を生んでいったのだ。

かつて3ナンバー車が日本で売れなかったのは、車体の大きな普通乗用車を「ぜいたく品」と見なし、税金も倍以上に跳ね上がるためであった。この税制が改定されたのが1989年である。3ナンバー車もぜいたく品ではなくなり、日本は名実ともに先進国の仲間入りとなった証の一つとも見て取れた。

上の画像はトヨタの年別の自動車登録台数の表である。1990年にトヨタは自動車の国内販売台数250万台を達成して、頂点を迎えた。しかし、くしくも「ぜいたく品」の枠が撤廃されたこの時期にバブル*5がはじけ、以降現在に至るまで、減産が続いてしまっている。2011年には150万台弱となっており、これは1975年前後と同等の台数である。

一度緩和された税制がそのまま引き継がれ、日本経済は決して好景気ではなかったが、車だけはどんどん大きくなっていった。ただし、これは日本市場を標的として起こった現象ではなく、日本での販売台数減を海外市場で補う方策へ打って出た結果である。

ミニバン*6は海外ではあまり人気がなく、トヨタ・ノア、日産・セレナに代表されるような車種は国内が主市場なので、5ナンバー規格が多い。そして、タクシーも国内の道路事情に合わせるべく5ナンバーだ。先日トヨタから「ジャパンタクシー」なる、見慣れない乗り物もやはり同規格で発売された。

5ナンバー車にも見られる矛盾

側方から見た水色の3代目日産・フェアレディZ

ぜいたく品ではない5ナンバー車であるが、1989年の法律改正前は明確なすみ分けがなされていた。

1000cc~1300ccのエンジンを搭載していたコンパクトカーではトヨタ・スターレット、日産マーチ、ホンダ・シティ、スバル・ジャスティ、ダイハツ・シャレード、スズキ・カルタス、マツダはFord(フォード)名義でフェスティバを出していた。

1500ccが一般的な家族向けともいうべき種別で、トヨタ・カローラ、日産サニー、ホンダ・シビック、三菱・ミラージュ、いすゞ・ジェミニなどがあった。ちなみに、この車体に税金の少々上がる1600ccを積んだ車種は小柄で扱いやすいスポーツカー*7として人気を博した。

2000ccになると3ナンバーほどの高い税金を払わずに乗ることができる、これはこれでぜいたくな車種が出そろっていた。高級車としてはトヨタ・クラウン、日産セドリック、ホンダ・レジェンドなどである。

さらに個人志向の高級車としてはトヨタ・ソアラ、日産・レパード。そして、スポーツカーも充実しており、トヨタ・セリカ、日産・フェアレディZ、日産・スカイライン、ホンダ・プレリュード、三菱・スタリオン、いすゞ・ピアッツァなどがめじろ押しであった。

今となっては5ナンバーで高級志向の国産車は皆無に等しい状態である。「5ナンバー」の響きはミニバンかコンパクトカーの印象を抱かせるものとなった。

コンパクトカーはエコロジー*8保全に直結している。しかし、コンパクトカーとは吹聴しつつも、衝突安全対応などで車幅は限りなく1700mmぎりぎりとなり、外観のデザインも室内空間を稼ぐために太りに太ったようなあんばいである。体積が大きくなった車には小さなタイヤは似合わず、昔の175/70R13くらいの採用などあり得ないこととなってしまった。

ちなみに、タイヤであるが、これはいわゆる「ばね下重量」に当たり、ここが軽いほど乗り心地を良くしやすい。また、タイヤの幅が細ければ転がり抵抗も少ないため、高燃費を達成できる。こういった「鉄則」に反しながら「エコ」を語るのも、本末転倒のような気がしてならないのは私だけだろうか。

格好いい5ナンバー車の復権を期待

側方から見た黒色のトヨタ・ジャパンタクシー

1989年の法改正前後までの国産5ナンバーといえば、優れた外観の車種が実に豊富であったと思う。軽自動車の発展時期にも重複するが、何かの制約や目標を下に生み出された製品は、作り手の情熱が感じられて美しい。

例を挙げると、特に2代目トヨタ・ソアラは5ナンバーとは思えないほど高級感にあふれている。3代目のZ31こと日産・フェアレディZも有機的で秀逸だ。日産・スカイラインも、GT-R復活を前提に一回り小型化された8代目は韋駄天(いだてん)を思わせる。初代スバル・レガシィも洗練された見た目で爆発的に売れた。

これらの車種は皆3ナンバーへと行き着いてしまい、庶民の親近感がどんどん削がれていった。特に現在の日産・スカイラインなどは見る影もないのではないだろうか。5ナンバー車と結び付けられるのは先述の「ジャパンタクシー」のように「一目ぼれ」しにくいような類が増えたように映る。

3ナンバーならば、設計する側も制約が解かれるので、比較的自由に原案を練ることができるのだろう。しかし、今の国産車に「わくわく」させてくれる情熱を感じる車種はぱっと思い浮かばない。果たして数十年後も名車として語り継がれる国産車があるのだろうか。

日本初の規格である5ナンバーの魅力をEV*9などの先進技術と関連させながら、改めて世界に発信する手段はないのだろうか。全車種は到底無理だとしても、魅力的な5ナンバー車が一つくらい登場してほしいものだ。

まとめ

斜め前方から見た黒色の初代スバル・レガシィ

日本を代表する車種であるトヨタ・カローラであるが、新型はついに3ナンバーとなってしまった。カローラに限らず、「3ナンバーでも運転間隔は変わらない」と評するものも多く見受けるが、これは大きな間違いであると断言しておこう。

例えばスポーツタイプ多目的車(SUV)の3ナンバー車を街中で1日乗った後に、5ナンバーのコンパクトカーに乗り換えてみるといい。その小ささが持つ運転のしやすさに、驚嘆すること請け合いだ。特に狭い路地、駐車場、後退時に小さいことのありがたさを痛感し、疲れが半減すること必至だ。

また、小さな車は窮屈だと感じることがあるが、これはピラー*10の傾斜や窓の面積なども密接に関係している。近年国産車に限ったことではないが、衝突安全性向上のためか側面の窓が極端に小さくなっているのにお気づきだろうか。薄暗い車内では車内寸法をどれだけ広々とさせても圧迫感は解消できないはずだ。

海外での日本車人気の秘訣(ひけつ)は「小型で燃費も良く、優れた耐久性」であった。その特徴を時流に迎合し、肥大化させるばかりなのは見るに忍びない。むしろ日本が誇れる専売特許ともいえる技術力を世界に発信してもらいたいのだ。

そして、大柄でなくとも、機敏で打たれ強い車のことを尊崇して「サムライカー」と呼ぶことにしよう。

(出典:トヨタ自動車株式会社日産自動車株式会社株式会社SUBARU

*1:【compact car】小さなサイズの乗用車。アメリカでエンジンや車体を小さくした乗用車につけられた呼称。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*2:自動車・原動機付自転車・軽車両について,所有権の公証,安全性の確保,公害の防止,整備等に関し規定した法律。1951年(昭和26)制定。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*3:経済規模の急激で継続的な拡大。特に1950年代半ばから73年の石油ショックまでの間,日本の経済成長率が年平均10パーセントを超えていたことをいう。高度経済成長。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*4:【gasoline】比較的低沸点(摂氏30~200度)の炭化水素の混合物。ガソリン-エンジンの燃料などに使われる。揮発油。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*5:【bubble】泡沫的な投機現象。株や土地などの資産価格が,経済の基礎条件から想定される適正価格を大幅に上回る状況をさす。日本では特に,1986年(昭和61)以降の土地や株の高騰をバブルおよびバブル経済と呼び,90年(平成2)以降の地価・株価の急落をバブル崩壊と呼ぶ。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*6:【minivan】貨物兼用の箱型の乗用車。ステーション-ワゴンより少し大きなものをいう。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*7:【sports car】運転すること自体を楽しむために作られた車。実用車に比べ車高が低く,加速性能にすぐれている。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*8:【ecology】生態環境。自然環境。エコ。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*9:【electric vehicle】電気自動車。電池をエネルギー源とする車。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*10:【pillar】柱。支柱。また,柱状のもの。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)