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タイの洪水で逃げ出したワニ!「食べないで」と注意喚起?

タイの洪水と手作りの小舟に乗る少年たち

「耳を疑った」。ニュースが報じられた際の在留邦人の率直な反応である。2017年1月タイ南部を集中豪雨による洪水が襲った。その時にタイ警察よりタイ南部住民に対し「ワニを食べないで」と呼び掛けがなされた。一体どのような背景があったのだろうか。

タイ南部を襲った洪水

冠水した道路

熱帯モンスーン*1気候帯に属するタイは季節ごとに集中豪雨が発生する。日本でも気象の変化によって「ゲリラ豪雨*2」について報じられることが増えてきたが、タイでは熱帯特有の気候によって生じるスコール*3は決して珍しいことではない。

しかし、近年騒がれている世界的な気候変動はタイへの影響も皆無ではなさそうだ。通常であれば降水量が少ない「乾期」のはずの1月にも大雨が降るため、住民たちは季節外れの洪水に対峙(たいじ)しなくてはならなくなった。

タイで頻発する水害

国土が広く、起伏の少ないタイでは大雨が降った後に水が溜まりやすく、洪水が発生しやすい環境にあると言える。人々も洪水被害に慣れているのが現状であろう。

例えばタイの田舎の住居は高床式もたくさんあり、洪水による屋内への浸水を防いでいる。また、モルタル*4造りで、洪水の汚れを「丸洗い」できてしまうような建築様式もよく目にする。

洪水が起きても人々は水が引くまで何日も何週間もゆったりと待ち、その後家全体を掃除する。タイの人々に焦燥感はあまりないようで、日常茶飯で慣れっこになっている印象さえ受ける。

タイの洪水とマイペンライの精神

仏の心

高い所に避難するのが一般的である。先述した高床式の住居でなければ、住人は一階も住居として利用しているはずだ。相当な余裕がない限り、荷物を階上へ運びだすのは至難の業だ。

ただし、浸水で家財道具が損壊してしまわないか心配する必要はなさそうだ。なぜなら、タイ人は「乾くまで使えない」と答えることが多いからだ。タイ人の気質としてよく語られる「マイペンライ(なるようになるさ)」を体現する挿話でもある。タイ人の精神的なゆとりを感じさせるが、もしかしたら大自然に対する人間の無力さを達観しているのかもしれない。

洪水のときの避難

  1. 感電に注意する。
  2. 暗くなる夜間までに避難する。
  3. 冠水した箇所を通らない。
  4. 近隣の堅固な建物の高所に避難する。
  5. 川や用水路の様子を見に行かない。

浸水後の暮らし

タイ人は洪水に慣れているのだろうか。はたまた、日本人とは異なる気立てなのだろうか。大部分の人々に悲壮感が漂っているようには見えない。事実被災すると、必須の対応やら失う財産やらで途方に暮れる側面もあるはずだ。

しかし、それも一段落すると、釣りざおやとあみを持ち出す。洪水によって魚が家の近所までやって来るからだ。冠水してしまった市中を背景に「今晩は魚だ」と満面の笑みでインタビュー*5に応じるご老人が印象的だった。被災者は遠出することもままならない缶詰め状態になり、手持ち無沙汰に陥るはずだ。

「ワニを食べないで」

ワニを持ち上げるワニ園の従業員

脱線してしまったが、今こそタイ南部で生じた出来事に対する考察を得ることができる。ワニ*6園から洪水によって逃走したワニを住人が捕獲して食べてしまったのだ。そして、タイ警察から発表されたのは「飼育用だから食べないで」であった。

相手は人をも襲うワニである。捕まえるのに危険を伴うだろう。イサーン(タイ東北部)では爬虫(はちゅう)類や昆虫を食べることがあるが、決して一般的ではなく、誰もが口にするわけではない。

では、なぜワニは食べられてしまったのだろうか。答えは暇を持て余したからに他ならない。洪水のせいでやることもなく、魚釣りにも飽きてきたのだろう。

その絶好の頃合いでワニ脱走を知ったのだろう。ワニ園の所有者も飼育していたワニがタイ人に危害を加えなかったのは安堵(あんど)のため息だったに違いない。しかし、被災者の胃袋を満たしたとあっては心中複雑なはずだ。

まとめ

手をつないでいるように見える二匹のワニ

猛獣が逃げ出したニュース*7に対するとっぴな注意喚起が「ワニを食べないで」であった。ワニは人間に危害を加える危険生物である。そのことが一切触れられていないのには失笑を禁じ得なかった。

一方、洪水の際には「コンセント*8に触らないように」「電線に注意」などは繰り返し警告されている。

所変われば品変わる。タイは今日も平和なはずだ。

*1:【monsoon】(アラビア語 mausim(季節)に由来)広い範囲にわたって、約半年ごとに風向が変わる風。冬と夏とで風向がほぼ反対になる。東アジア・インド洋地域に著しい。季節風。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*2:局地的・短時間に降る突発的な豪雨。局地的大雨。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*3:【squall】急激におこる強風。一般に数分間続き突然止み、降水や雷雨を伴う。日本では特に熱帯地方の驟雨(しゅうう)をいう。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*4:【mortar】セメントまたは石灰に砂を混ぜて水で練ったもの。煉瓦積みのつなぎや壁・天井・床などの仕上げに用いる。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*5:【interview】取材のために人に会って話を聞くこと。また、それをまとめた記事や放送。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*6:【鰐】ワニ目の爬虫(はちゅう)類の総称。現存するのはアリゲーター・クロコダイル・ガビアルの3科25種。東南アジア・インド・アフリカ・中国・アメリカ・オーストラリアに分布。爬虫類中最も高等な体制で、形はトカゲに似て長大、8メートルに達するものもあるが2メートルもないものもある。体は角質の鱗でおおわれ、尾は側扁し、水中進行に用いるとともに武器となる。あしゆびは前肢に5本、後肢には4本で蹼(みずかき)がある。皮は種々に利用。古代エジプトをはじめ世界各地で神聖化される。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*7:【news】新しい出来事。また、その知らせ。報道。報知。特に新聞・ラジオ・テレビによる報道。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*8:(和製語)電気配線から電流を取るためプラグを差し込む器具。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)