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高校野球の連投はやめるべき?未来のためにできること!

高校野球の小柄な右投手

高校野球ではエースが1人でマウンドを守り、何百球も投げることがある。その姿は賞賛される一方、肩や肘を壊し、将来を嘱望される才能が開花せずに終わってしまうことさえある。選手や監督をはじめとして、関わる人たちはこの問題とどう向き合うべきなのか。

エース依存から「継投」への変化

投手酷使の問題は甲子園での大会が始まると毎年議論される題目でもある。これだけ関心を寄せておきながらも解決できないのはなぜだろうか。それはマウンド*1に立ち続けたい投手ならではの意気地もある。また、水準の高い投手を何枚もそろえるのが難しいことなど、複雑な問題が絡み合っているからだろう。

しかし、ここ数年の傾向として、甲子園大会の投手継投数平均は上昇傾向にある。5年間の推移を見ていくと、2013年の春の選抜大会では1試合平均0・70であったのが、2017年には0・90に上がっている。さらに、夏の選手権大会を見ると、2013年には平均0・81であったのが2017年には1・24にまで大きく変化している。

各大会における平均継投数の推移

  2013年 2017年
春の大会 0.70 0.90
夏の大会 0.81 1.24

(出典:HSBB 高校野球データベース

これらの背景には各高校の体調管理への理解がある。そして、身体の消耗により才能を失ってしまうことを監督が回避できるかが重要である。

この投手の酷使について考えさせられた試合がある。2017年の春の選抜大会、「滋賀学園」対「福岡大大濠高校」戦だ。福岡大大濠はエースの三浦銀二投手が先発した。熱戦の末、三浦投手は延長15回196球を投げるも引き分け再試合となり、中1日で臨んだ再試合も先発して9回を完投。130球を投げて勝利するが、3日間で326球を投げることとなった。

三浦投手は翌日の準々決勝も「投げたい」と話し、トレーナー*2も100球前後までなら登板可能と判断したが、福岡大大濠の八木啓伸監督は準々決勝での三浦投手の登板回避を決断する。

福岡大大濠はエースである三浦投手の他に3人の控え投手を登録させていた。しかし、公式戦は全て三浦投手が登板しており、他の投手の経験不足は明白であった。それでも、八木監督は準々決勝を公式戦初登板の投手3人による継投で戦うことを選んだのだ。

そして、臨んだ準々決勝の報徳学園戦は健闘及ばず3対8で敗れてしまう。八木監督は試合後、三浦投手の登板回避について優勝するためと語った。

三浦投手の肉体疲労を最優先に気遣ったのは言をまたないが、それを感じさせない大義を掲げ、エースの将来を守ったことは意義深い。監督にとっては苦渋の選択だったはずだ。試合後、三浦投手は自らが「敗戦投手」になれない歯がゆさを包み隠さずに語った。

八木監督は夏の大会であれば采配が変わった可能性も示唆している。もし最後の夏に同じような場面で、エースから「どうしても投げたい」と直訴されたら、より苦しい決断になっただろう。

難しい開催日程の調整

特に夏の選手権大会における炎天下での試合は球児にとって壮絶な戦いとなる。観客でさえ熱中症になる中、全身全霊をささげ、試合に挑めば身体の負担は極限に達する。

さらに、過密な日程となれば、プロスポーツでも類がない過酷な条件だ。日程の問題は近隣の球場や京セラドームを併用すれば解決の道はある。しかし、伝統と歴史のある甲子園でプレー*3したい球児の気持ちを考慮すれば、なかなか踏み切れないだろう。

開催期間をもっと延ばす検討も有効手段のように思われるが、選手・応援団の滞在費の問題や甲子園球場を本拠地とする阪神タイガースとの調整には困難を極めそうだ。そうなると選手の負担を減らすにはベンチ*4入りの上限を増やしたり、投手の球数を制限したりしかなくなってくる。

しかし、いずれの案もエース級の投手を何人もそろえられる環境にある私立強豪校が絶対的有利となってしまう。公立高校の甲子園出場はより遠のくばかりとなってしまうだろう。

その観点からだと導入が決まった延長戦でのタイブレーク*5制は全てのチームも同じ条件で戦うことができる。そして、選手の負担の軽減ができるものとして有効かもしれない。

どの対策を講ずるにしても最も大切なのは当事者の意見だ。「現場」を置き去りにした大人たちの議論より、彼らの意思を尊重した結論が何よりも重要なはずだ。もしなんらかのルール*6が制定されても、懸命に野球と向かい合う球児たちが納得しなくては意味がないと思うのだ。

出場したい選手の気持ちを止めるべきなのか?

甲子園だけでなく最後の夏の大会ともなれば、肩や肘に多少の痛みや違和感があったとしても、「試合に出たい」と思うのは当然であろう。高校野球を最後に野球から離れる者もいるだろう。たとえ選手寿命が断たれるとしても、苦楽をともに汗を流してきた仲間たちと、完全燃焼するまで戦い抜くことを選ぶのも理解できる。

将来のある球児たちを止められるのは監督しかいない。そして、情けを尽くしてスターティングメンバー*7から外し、矢面に立つことができるのも監督だけなのだ。

だからこそ、そこには並々ならぬ洞察力と決断力が問われる。前述した福岡大大濠の八木監督が苦心して出した答えに対し、「投げ過ぎだ」だの「休ませろ」だのあほうの一つ覚えのようにしゃしゃり出てくるやからがいる。それは大いなる間違いだ。

なぜなら、球児たちが夢の舞台である甲子園にたどり着くまでに、どれ程の努力を重ね、どれ程の辛酸をなめてきたか。そして、性格と技量を熟知した監督の判断こそ、この場面においては唯一の正解だと言えるからだ。

では、三浦投手の投げないで負ける方が悔しいの言葉はどうなるのだろうか。結果として八木監督は彼の心意気を裏切ってしまったのだろうか。

福岡大大濠には再び奮起できる材料の「次の夏」があった。また、並外れた投球ができる三浦投手の野球人生を、もっと長い目で見たはずなのだ。

まとめ

高校野球は人々を引き付ける魅力的なスポーツだ。甲子園は全ての球児にとって夢の場所であり、そこに至るまでの地方予選の試合にも万感こもごも至る。

球場では全力を尽くし、応援団や観客は一つ一つのプレーに惜しみない拍手と哀歓の声援を送る。そして、力の限り戦い抜いた後、余韻が残る球場でいつもたどり着く思いは勝ち負けよりも、彼らに悔いが残らないかどうかだ。

全力でプレーする球児たちを守るために、球数制限や連投禁止などが検討されている。しかし、それらは完全燃焼を妨げる側面もあるのが事実だ。従って、数々の障壁はあるにしても、やはり理想は日程に余裕を持つことだ。試合の間隔を空け、疲労蓄積が増えるばかりの状態で試合に臨むべきではない。

高野連は机上の空論ではなく、球児たちの「肉声」をくみ上げて解決を図ってもらいたい。 球場で人生を懸けて戦うのは紛れもなく選手たちだからだ。

ブレーキ*8を踏む勇気は愛情である。球児たちの輝かしい未来のために。

*1:【mound】野球で、投手が投球を行う場所。土を盛って高くしてある。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*2:【trainer】競技などで、練習や体調管理の指導者。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*3:【play】競技。また、競技での動作。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*4:【bench】野球場やサッカー場などで、監督・選手の座る控え席。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*5:【tie break】試合が長引くのを防ぐための方法。テニスやソフトボール,バレーボール,野球などで導入されている。ソフトボールではタイブレーカーともいう。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*6:【rule】規則。通則。準則。例規。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*7:【starting member】試合開始時の出場選手。先発メンバー。スタ‐メン。スターティング‐ライン‐アップ。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*8:【brake】転じて、物事の進展・進行をさまたげたり抑制したりするもの。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)