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ジープの末裔(まつえい)レネゲードを掘り下げる

側方から見た黄色のジープ・レネゲードRenegade

「ジープ」は誰もが外観を想起できる普遍性を持っている。そのジープの子孫として「ジープ・レネゲード」が2015年7月、日本市場にも投入された。原点から70年以上を経た今、ジープがどのように息づいているのかに迫ってみたい。

2018年2月7日:用字用語の整理。

初代ジープからレネゲードに至るまでの道のり

斜め前方から見た青色のJeep・CJ-5

初代のJeep(ジープ)は大東亜戦争を背景として誕生した。MB・GPWが初代ジープの名称である。はしご型ラダー*1フレーム*2を軸として、車室に屋根がない簡略なオープンボディー、副変速機付きの4WD*3構造、板ばね式サスペンション*4を前後に備える。現在の国産新車で初代ジープの悪路走破性と同等の能力を有する車種は、スズキ・ジムニーくらいしか見当たらない。

軍用として誕生したジープは大東亜戦争が終結後の朝鮮戦争に投入された後継のM38型等を経て、より迫力のある外観を備えたHMMWV(ハンヴィー)に置き換えられた。湾岸戦争でのハンヴィーの雄姿を覚えている方も多いだろう。余談になるが、ハンヴィーの商品化を要望したのはアーノルド・シュワルツェネッガー氏だったのである。これによって生まれた民間向けハンヴィーが「HUMMER(ハマー)H1」である。

一方、ジープは大東亜戦争の末期頃から民間向けがCJという型式で登場した。CJとはシビリアン・ジープの略称で、その名の通り「民間向けジープ」であった。当時不整地用の自動車として、ジープは新しい境地を開拓した。自動車レースの技術がやがて一般車にも適用されていくように、ジープも一般向けに販売されるようになったのである。

ジープの商標は戦後にAMC(アメリカン・モーターズ)が保有、1987年にはクライスラー(CHRYSLER)がAMCを買収した。この頃に人気を博したのがクライスラー・ジープ・チェロキーである。

なお、国内においては当時のジープを模倣した末裔(まつえい)がトヨタ・ランドクルーザーであり、正式なライセンス生産の元に造られたのが三菱・ジープだ。初代三菱・ジープの誕生は戦後だったため、その最初の型式は「CJ-3A」である。

そして、三菱・ジープの同一性はパジェロに受け継がれる形となった。このように本家・分家ジープともに民間向けの車両となり、時代を経て舗装路での性能が強化されていった。本家から現代に登場したジープの派生車種がジープ・Renegade(レネゲード)というわけである。

クライスラー社は2009年に破綻、その再建にFIAT(フィアット)が絡んでおり、2014年にFIATがクライスラーを完全子会社化した。そこで誕生したのがフィアット・クライスラー・オートモービルズことFCAである。これらを背景として、レネゲードはFIAT 500 X(エックス)の姉妹車という間柄の上に誕生した。

レネゲードの構成

側方から見た砂上を走る青色のジープ・レネゲード

FIATの完全子会社となったFCAである。FIAT・クライスラーの協同開発車第1号がレネゲードとFIAT 500Xだ。例によってグローバル*5シャシー*6である「GM FIATスモール・プラットフォーム」がFIAT主導で開発され、これが両車に用いられている。

初代ジープや現行Wrangler(ラングラー)が伝統のはしご型ラダーフレームを採用しているのに対し、レネゲードはシャーシーを持たないモノコック*7構造を持つ。エンジン*8は横置き、前後ストラット*9式サスペンションである。要するに乗用車と同じ構成を持つことを示している。先日ターボ*10車が加わって話題となったスズキ・エスクードと酷似した構成である。レネゲード、FIAT 500Xには、この構成を生かしたFF*11モデルも実在する。

レネゲードの4WDは「セレクテレインシステム」と銘打った「AUTO*12」「SNOW*13」「SAND*14」「MUD*15」「ROCK*16」の各選択ができるものだ。「AUTO」では路面状況により自動でFFに切り替わり、燃費にも貢献するそうである。

悪路を走ることに適したような外観を備え、セレクテレインシステムという先進機能も備えているレネゲードである。何となく不整地に強そうな印象を受けるが、本格的な悪路走破に不可欠な副変速機や、究極のデフロック*17走行には完全デフロックが適しているが、雪道走行などには速度感応式LSDが適しており、スポーツ走行にはアクセルワークによる応答性に優れることからトルク感応式LSDが適している。車両目的に合ったLSDの選択が必要である。/出典:大車林(三栄書房 2004年)))などは、レネゲードには備わっていない。レネゲードは流行しているクロスオーバー型のSUV*18であり、過度の悪路走破性を期待すると痛い目に合うことになる。

そもそも、初代ジープから時代とともに舗装路での走破性を高めていったのは、その走破性を発揮できる場所が先進国には皆無に等しいからである。日本においても通常の道路は99%舗装されているから、自ら踏み入る以外に目にする機会は少ないはずだ。日常性能に加え「冒険的な雰囲気」を兼備したのが、このレネゲードである。

レネゲードとFIAT 500Xの違い

前方から見た小川を走る赤色のFIAT 500 X

同じグローバルシャーシーを持つレネゲードとFIAT 500Xであるが、その「味付け」の差異は小さじ一杯程度ではないようだ。特に4WDではエンジンが異なっている。

日本仕様に限定して解説する。レネゲードはFFが1・4Lマルチ*19エア*20エンジンに、インタークーラー*21付きターボと6速デュアル*22クラッチ*23式オートマ*24の組み合わせだ。4WDでは2・4Lに9速オートマとなる。価格はFFが297万円から、4WDが345万円からである。

FIAT 500Xはというと、出力に違いを持たせているものの、FF、4WDともに1・4Lマルチエアエンジンに、インタークーラー付きターボだ。ただし、トランスミッション*25はFFが6速デュアルクラッチ式オートマ、4WDが9速オートマである。こちらの価格はFFが288万3600円から、4WDが339万1200円となっていて、レネゲードより安価な設定だ。

車体寸法もレネゲードの全長4260 × 全幅1805 × 全高1725mmに対し、FIAT 500Xは全長4270 × 全幅1795 × 全高1625mmで、ほんのわずかにFIAT 500Xの方が細く低い。

  レネゲード FIAT 500X
FF 4WD FF 4WD
総排気量 1.4L*26 2.4L 1.4L
エンジン マルチエアエンジン
+
インタークーラー付きターボ
マルチエアエンジン マルチエアエンジン
+
インタークーラー付きターボ
トランスミッション 6速デュアルクラッチ式オートマ 9速オートマ 6速デュアルクラッチ式オートマ 9速オートマ
価格(税込み) 2,883,600円 3,391,200円 2,883,600円 3,391,200円
車体寸法 全長4,260 × 全幅1,805 × 全高1,725 全長4,270 × 全幅1,795 × 全高1,625

まとめ

ジープ・レネゲードの装飾品

レネゲードはジープの血統を持つ車種の末弟として新たに加わった新型車だ。初代ジープの血脈を色濃く残しているのがラングラー、クロスオーバーSUVになったチェロキー。これらの下にレネゲードが加わった。ジープには例外的にオフロード性能を備えない車種のCompass(コンパス)もある。

「ジープ初の小型SUV」として誕生したレネゲードである。現在世界的にクロスオーバー型SUVが人気となっており、各社から様々な車種が登場している。現在新車で買える国産車で本格的SUVと言えるのはスズキ・ジムニーだけであり、百歩譲ってもトヨタ・ランドクルーザーがそれに追随している様相だ。

クロスオーバー型SUVの人気が沸騰している理由を探ってみると、「ちょっとしたぬかるみや雪道でも走ることができる」「力強い外観」「人と違った車種」が主立った意見らしい。確かに重量が重くなる本格的SUVは燃費も悪く、舗装路での操縦性も決して優秀とは言えない。

クロスオーバー型SUVはフレームのないモノコックボディーを持つ。つまり、乗用車の最低地上高と背丈を大きくしたものである。本格的SUVよりも、がぜん舗装路での走りと燃費が良い。そして、乗用車より舗装路での走りと燃費の悪さがあるものの、少々の悪路なら走ることができる。

レネゲードは米国人の嗜好(しこう)にぴったりと合っているのか、初代ジープで使用していたジェリ感こと携帯燃料缶のデザインや、クモや未確認動物であるイエティの印など、変わり種がめじろ押しである。ジープという硬派な銘柄に対する印象をあえて崩したかのようだ。

「遊び心」と言えば聞こえはいいが、しっくりこないのも事実である。レネゲードは気軽に乗ることのできるジープとして魅力はあるが、全面改良された新型ラングラーも気になるところである。

日本の銀行のように合併が進み、これまであった特有の気風や傾向を失うのはもったいない。「見る影もない」とささやかれては本末転倒だからだ。どこか「先祖」をほうふつさせる、気位が高い車づくりを心待ちにしている。

(出典:Fiat Chrysler Automobiles

*1:【rudder】舵(かじ)。方向舵(だ)。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*2:【frame】自転車・自動車などの車体枠。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*3:【four-wheel drive】自動車で,前後の四つの車輪すべてに駆動力を伝える方式。四駆。全輪駆動。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*4:【suspension】自動車などで,車輪と車体をつなぎ,路面からの衝撃や振動が車室に伝わるのを防ぐ装置。懸架装置。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*5:【global】世界的な規模であるさま。国境を越えて,地球全体にかかわるさま。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*6:【chassis】〔シャーシ・シャーシーとも〕自動車・電車などの車台。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*7:【monocoque】自動車などで,車体とフレームが一体になった構造。単体構造。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*8:【engine】種々のエネルギーを機械的力または運動に変換する機械または装置。機関。発動機。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*9:【建】支柱, 筋(すじ)かい, 突っ張り./出典:ウィズダム英和辞典 第三版(三省堂 2013年)

*10:【turbo】排ガスを利用してタービンを回し,混合気を強制的にシリンダー内に送り込んで圧力を高める,エンジンの補助装置。出力・トルクを高め,併せて燃費向上に役立つ。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*11:【和製語 front-engine, front-drive】自動車のエンジンの動力が,後輪にではなく前輪に伝わる方式。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*12:【auto】〔「オートモビル(automobile)」の略〕自動車。他の語に付いて,「自動車の」「自動の」の意を表す。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*13:雪。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*14:砂。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*15:泥。泥土。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*16:岩。岩石。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*17:左右輪の差動運動をさせないように差動装置(デフ)を直結(ロック)にすることをいう。クルマが旋回するときには内輪と外輪の旋回半径の差があり、左右輪に回転差が必要で、左右輸の回転差を与えるのが差動装置である。しかしこの装置は、片輸が浮き上がった状態やスリップしやすい低μ路にあると、その車輪のトルクが抜けて(トルクがゼロで)、もう一方の車輪に駆動力が伝わらなくなり、これを防止するのがデフロックである。オフロード((【off-road】舗装されていない道。また,公道でない脇道。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*18:【sport utility vehicle】スポーツタイプ多目的車の総称。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*19:【multi-】「多数の」「多量の」「複数の」などの意を表す。多く他の語の上に付けて用いる。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*20:【air】〔エヤーとも〕(工業などで)圧縮空気。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*21:【intercooler】中間冷却器。流体を加熱する過程で冷却する装置。特に,気体の連続圧縮過程の冷却装置。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*22:【dual】二つ。二重。両面。他の外来語とともに複合語を作る。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*23:【clutch pedal】自動車などのクラッチを操作するペダル。踏み込むとクラッチは切れる。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*24:自動車の自動変速装置。エンジン回転数,アクセル開度,車速によって自動的に変速装置の変速段数が選択される。ノー-クラッチ。AT 。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*25:【transmission】自動車などの歯車式変速装置。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*26: 体積の単位リットル(フランス litre)を表す記号( l ・ l ・ L )。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)