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FIAT 500の1・2Lエンジン搭載車は高速道路がつらい?

屋根が開いている白色のFIAT 500C

かわいくも格好いい、多彩な魅力のイタリアンスモールFIAT 500。日本の街を走るようになって、もう10年近くがたつ。いまだに色あせないが、果たしてその走りはどんなものか。「FIAT 500の1・2Lエンジンは高速道路がつらい」なるうわさも含め、検証してみる。

2018年3月29日:用字用語の整理。

現行FIAT 500は2種類のエンジンを搭載

背後から照明を受ける黒色のFIAT 500

FIAT 500の1・2L*1エンジンは、以前から姉妹車のPanda(パンダ)などにも使用されてきた基本的位置付けのエンジンである。FIAT 500においては、2008年の発売当初から継続して搭載されている「これ無しではFIAT 500は語れない」といったエンジンだ。

FIAT 500に搭載された1・2Lエンジンは最高出力69PS*2も上回る85PS / 5500rpm*3。そして、それ以外でFIAT 500に用意されたエンジンは、過去には100PSの4気筒DOHC*4 16バルブ*5 1・4Lがあったが、現行モデルでは85PSの2気筒8バルブの0・9Lツインエアエンジンに置き換わっている。

であるので、現行モデルのFIAT 500で選択できるのは、1・2Lエンジンか、0・9Lツインエアのどちらかである。マニュアル・トランス・ミッションは全車デュアロジックと呼ばれるAT*6モード付き5速シーケンシャル*7のオートマチックである。過去のエンジンも含めると、1・2L、1・4L、そして0・9Lツインエアの3機種が搭載されたことになる。

1・2Lが基本的なエンジン、1・4Lが余裕のある上級エンジン、そして排気量としては一番少量となる0・9Lツインエアは、インタークーラー*8付きターボ*9が装着されているので走りも格別、1・4Lと同等かそれ以上の上級エンジン扱いなのである。

FIAT 500の1・2Lエンジンをさらに解剖していく

後ろから見た白色のFIAT 500C

FIAT 500の1・2Lエンジンは、69PSを発生する水冷SOHC8バルブ4気筒である。通称FIREシリーズと呼ばれるエンジン。FIREは「Fully Integrated Robotized Engine」の頭文字を取ったもので、組み立てが完全ロボット化されたことから命名された。

FIREシリーズのエンジンがデビューしたのは1985年までさかのぼる。FIATとしてはUNO(ウーノ)やPanda、それ以外にもランチア、フォード、ジープブランドなど、名だたるモデルにも搭載されてきた。欧州ではとても有名なエンジンなので信用度は抜群に優れている。

FIAT 500に搭載されている1・2Lエンジンは、洗練されたFIREエンジンで、各気筒2バルブの標準的な構成ながら可変バルブタイミングを採用。圧縮比も9・8:1から11・1まで高められていて、69PS / 5500rpm*10、10・4kgm*11 / 3000rpmまで一層力を付けた。

70・8mm × 78・8mmのボア × ストロークは、ボアよりもストロークが長く、トルク*12重視のロング・ストローク・タイプである。69PSのごく標準的な仕様、4気筒が故の円滑さ、ダウンサイジング*13ではない大衆車エンジンの根本ともいうべきエンジンである。

FIAT 500の1・2Lエンジンで高速道路を走るとどうなるか?

港に停車するFIAT 500 RIVA

現行のFIAT 500は、ビートルやMINIなどと同じく、普遍的な名車を現代の科学技術で造り直した「復刻版」のような車種だ。年々車体が肥大化して、もはやミニと称することはできなくなってしまったMINIなどと比べて、「コンパクトカー」を守り続けていることは称賛に値する。

FIAT 500は、先代のNUOVA(ヌォーヴァ)500こと2代目FIAT 500がデザインの基にされている。だから、先代、現行モデルとともに、開発の意図は欧州の街並みに溶け込む大衆車を造ることであった。車体は大き過ぎず小さ過ぎずの適度な大きさ、おしゃれさは指折りである。これに1・2Lを組み合わせることで、完璧に近い大衆車が出来上がったのだ。

この1・2Lエンジンに組み合わされるオートマチック・トランス・ミッションは、少々特殊なものだ。デュアロジックと呼ばれるセミ・オートマチック・トランス・ミッションは、現行のスズキ・アルトなどが搭載しているオート・ギア・シフトことAGSと類似している。中身はマニュアル・トランス・ミッションなのだが、難しいクラッチ操作を機械が代行してくれるのである。

クリープ現象*14が無かったり、ギアチェンジのタイミングでアクセルをちょっと抜いてやると、より滑らかに走るなど、ドライバーへ協力を求めてくるところがあるデュアロジックだが、MT*15譲りの直接的な感覚が持ち味で、1・2Lエンジンの馬力を有効に引き出してくれる。

この一式によるFIAT 500の走りは、市街地では十分に活発で、運転の楽しさすら感じられるだろう。しかし、高速道路での性能は、69PSの性能からも想像されるように、100km/hでの走行は順調であるものの、そこからアクセルをさらに踏み込んだとしても、加速は鈍く、追い抜きをかけられる余裕はないのだ。高速道路や起伏のある山岳の道においては、過不足はないがそれ以上でもないと言わざるを得ない。

まとめ

FIAT 500 MareBlu

昔、トヨタの代表的な小型車に「スターレット」があった。これは1・3Lの排気量を持つFIAT 500に近い車種であったが、トヨタはそんなスターレットの「お買い物グレード」にも100PSの馬力を与えてしまったことがある。ここまでの馬力があると、足回り*16をいじるだけで走り屋仕様にもできてしまうのだ。大衆車に馬力を与え過ぎたことにトヨタも気付いたのか、次期モデルでは馬力を下げてきた。こんな小話もあったのだ。

FIAT 500には、アバルトを代表とする強烈にチューンナップ*17されたモデルも存在する。ごうごうたる爆音をあげての走行はそちらに任せるとして、FIATは1・2Lモデルを現代の交通事情にふさわしい69PSの「お買い物グレード」に仕立てたのだ。

とはいえ、造りはしっかりしていて輸入車だけに値段は少々張る。一番安いノーマルルーフのFIAT 500 POPが税込199万8000円、FIAT 500Cが252万7200円となる。なお、1・2Lエンジン搭載車は標準グレードのPOPだけで、上級グレードのLOUNGEはツインエアエンジンとなる。

おしゃれで走行性能もすらすらと滑らか、街走りと通勤用としては秀逸なFIATの1・2Lモデルは、スタイルに引かれた方へのお薦めモデルとしたい。

FIAT 500と聞いて即座にNUOVA 500を想起した方は、ツインエアを検討されたい。こちらはエンジンの感覚さえNUOVA 500をほうふつとさせる、運転好きにはより魅力的なモデルであるからだ。

普通のおっさん*18を高性能に改造することは、チューンナップではなく悪あがきというようで。

(出典:Fiat Chrysler Automobiles

*1:【フランス litre】体積の単位。1000立方センチメートルの呼称。1964年以前には,水1キログラムが一気圧のもとで最大密度を示すときの体積(1.000028立方デシメートル)を一リットルと呼んだ。リッター。記号 l〔「立」とも書く〕/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*2:【ドイツ Pferdestärke】馬力を表す記号。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*3:〔revolutions per minute〕エンジンやタービンなどの毎分回転数。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*4:【double overhead camshaft】バルブの開閉を行う二本のカムシャフトがシリンダーの上部に位置する構造のものをいう。ツイン-カム。DOHC/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*5:【valve】弁。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*6:【automatic transmission】自動車の自動変速装置。エンジン回転数,アクセル開度,車速によって自動的に変速装置の変速段数が選択される。ノー-クラッチ。AT 。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*7:【sequential】連続して起こること。逐次。順次。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*8:【intercooler】中間冷却器。流体を加熱する過程で冷却する装置。特に,気体の連続圧縮過程の冷却装置。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*9:【turbo】排ガスを利用してタービンを回し,混合気を強制的にシリンダー内に送り込んで圧力を高める,エンジンの補助装置。出力・トルクを高め,併せて燃費向上に役立つ。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*10:〔revolutions per minute〕エンジンやタービンなどの毎分回転数。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*11:【フランス kilogrammètre】エネルギーまたはトルクの重力単位キログラムメートルを表す記号。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*12:【torque】回転軸のまわりの,力のモーメント。棒をよじる力や原動機の回転による駆動力を示すのに用いる。ねじりモーメント。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*13:【downsizing】機器などを,従来のものより小型にすること。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*14:這い出し現象。オートマチック車で,ドライブ-レンジやリバース-レンジに入っているとき,アクセルペダルを踏まないのにエンジンのアイドリング回転がトルク-コンバーターに働いてゆっくり走り始める現象。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*15:手動で変速装置の操作を行う自動車。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*16:自動車などで,車輪とそれを取り付ける部分の全体。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*17:【tune-up】機械を良好に作動するように仕上げること。普通の乗用車を高性能車に改造すること/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*18:〔「おじ(小父)さん」の転〕中年の男性を呼ぶ語。元来は親しんでいう語。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)