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FIAT 500の長所と短所!一味違う切り口で見極めたい

斜め前方から見た銀色の米国版FIAT 500

今年で誕生から10年を迎えたFIAT 500。魅力的で楽しい車だけに、諸種の切り口で試乗報告や感想などがウェブサイト上にはわんさとある。今回はそれらと一線を画して、独自の視点を織り交ぜつつ、FIAT 500の「長短」について改めて触れてみたい。

2018年3月29日:用字用語の整理。

先代NUOVA 500とスバル・360

若草色と白色のNUOVA 500と二人の女性

FIAT 500は先代NUOVA(ヌォーヴァ)500の誕生から50周年を記念して、FIATが発売した車種である。NUOVA 500自体がイタリアの庶民の足として開発された。当時のNUOVAは最初のうち、水冷4気筒の600ccエンジンを搭載していたが、それをダウンサイジング*1して空冷2気筒500ccに生まれ変わったのがNUOVA 500である。

NUOVA 500は戦後イタリアの復興や車社会の進展に大きく寄与した。この偉業は日本のスバル・360とも似ている。スバル・360も大人4人がゆったり乗車できて最高速80km/hだ。しかも、庶民に手が届く価格の実現のため、細部にもこだわる徹底した設計がなされた。NUOVA 500の誕生は1957年、スバル・360は1958年なので、国こそ異なるが同様の時代背景を持って生まれた車である。

その時代から半世紀が経ち、内燃機関を用いた自動車も円熟の境に入る。小型乗用車も当時とは比類を見ないほど安全かつ操作が簡便になり、快適さに磨きをかけた。しかし、国産車の場合、生真面目に完成度を高めすぎた車種が大半である。完成度が高くなったが故に、主眼は「経済性の高さ」「環境性能」「安全性能の向上」に推移している。そんなさなか、イタリア生まれのFIAT 500は、外観の魅力と操ることの愉悦さをしっかり残している。

FIAT 500の長所

FIATのツインエアエンジン

FIAT 500の最大の長所は、何と言ってもあのデザインである。NUOVA 500の特徴を忠実に生かした秀逸さが、世界中でFIAT 500が人気となっている第一の要因である。

2011年から追加された0・9Lツインエアエンジンも、このFIAT 500だからこその話題性であり、日本でも高評価を受ける源になったと言える。0・9LエンジンはFIATの新型エンジンで、市販型が2010年にジュネーブ*2・モーターショー*3で登場した。そして、その直後にFIAT 500に搭載されることになった。

0・9Lツインエアエンジンを要略すると「インタークーラー*4付きターボ*52気筒OHCエンジン」である。日本においても、かつてこの規格に類似したエンジンがあったが、貧素な音や回転感覚に嫌気を起こされ、昭和の時代に廃れた「負の遺物」となってしまった。そして、日本のメーカーがこの規格の復活に尽力するとは到底思えないエンジンである。

しかし、古臭いと思われがちだが、実は秀英なエンジンである。吸気バルブ*6の頃合いとリフト量が気筒ごとに細かく電子制御される。これは国産車でVVTや可変バルブタイミングと呼ばれるシステムである。この自然吸気状態だと、0・9ツインエアは出力60PS*7・トルク*888 N*9·m*10を発揮するとのことだ。

FIAT 500に搭載される0・9Lツインエアは、インタークーラー付きターボが装着され、出力63kw*11(85PS)/ 5500rpm*12・トルク145Nm(14.8kgm*13)/ 1900rpmまで向上させている。1・2Lエンジンに比べ、15%の燃費と25%の出力の向上を果たした。

また、2気筒の利点は、4気筒と比較して、23%短く、10%軽くなる。さらに、部品点数削減や整備性も向上することである。これにより空いた場所にモーターを取り付け、2019年にはハイブリッドカー*14の生産も視野に入れられている。

FIAT 500には、現在0・9Lツインエアと1・2Lエンジンの2種類が設定されているが、標準車は0・9Lツインエア1本に絞ってもいいのではないかと思う。1・2Lエンジンは通称FIREエンジンと呼ばれ、1985年に登場した基本設計の古いものだ。

しかし、このFIREエンジンは中身の異なる769cc~1368ccまでの5種類の仕様が存在し、FIAT 500Xをはじめとする様々な車種にも使用されている主力エンジンでもある。

また、高性能車に改良するには0・9Lツインエアよりも相性がよく、FIATアバルトもこのFIREエンジンを基にしている。いずれにせよ、FIAT 500の懐旧的な外観と、一見古めかしくも力強い0・9Lツインエアの組合せが、最上の長所となっているのである。

FIAT 500の短所

FIATのモジュラープラットフォーム

FIAT 500の短所としてよく並べ立てられるのが、シート調整がダイヤル式で面倒だとか、ドリンクホルダー*15がイタリアサイズなどだ。しかし、これらは凝った造形の内装や、出来栄えがいいシートによって不問に付される感がある。

ここでは、欠点としてシャシー*16についてお話したい。正しくは「願望」かもしれないが、少々お付き合い願いたい。

FIAT 500はコンパクトな外寸法も好印象だ。同系の普遍的な車種の復活モデルとしては、フォルクスワーゲン・ザ・ビートルやBMW・MINI(ミニ)などがある。これらは全幅が1700mmを超える3ナンバー寸法となってしまっているので、1625mmであるFIAT 500の律儀さが一層引き立つ形となっている。

FIAT 500を支えるシャシーは「FIAT Mini Platform」と名付けられ、現在のグローバル化*17に欠かすことができない「一つのシャシーから複数の車種を生産」という計画に基づいている。

「FIAT Mini Platform」は、FIATグループの小型車向けのシャシーとして開発され、2300mmのホイールベース*18を持ったFF*19レイアウトのシャシーである。また、4WD*20化にも対応可能で、4WDモデルだとホイールベースは5mm伸長することになる。

この「FIAT Mini Platform」を初採用した車種は、先代の2代目FIAT Panda(パンダ)であった。続いてFIAT 500となり、その後に2代目フォード・Ka、3代目ランチア・イプシロン、3代目の現行FIAT Pandaへも拡大された。既知の事実として、FIATブランド以外にも使用されているのだ。

本項の冒頭で、このシャシーを名指しで短所としたのには理由がある。FIAT 500はNUOVA 500の再来として開発されたはずだ。それ故、FIAT 500にはぜひNUOVA 500と同型のRR*21レイアウトが最適だと感じるのである。現在では世界的に小型車の99%がFFベースの構造になっているため、RR車を発見することすらまれで実現性の低い話になってしまうのだが。

まとめ

夜の町を疾走する銀色の米国版FIAT 500

FIAT 500の外観からは、どこか憎めない愛嬌(あいきょう)を、普遍性のある形状からは、全ての色がなじむ「柔軟さ」を感じさせられるのだ。これにRRレイアウトが加われば、車好きの玄人たちをますます夢中にさせるに違いない。

冒頭でNUOVA 500と同時にスバル・360を例に引いたが、どちらもRRレイアウトが採用されていた。なぜなら、この時代はFF車を造る際に不可欠なドライブシャフト*22の等速ジョイント*23の技術が、実用化できていなかったことに起因する。

等速ジョイントが実用化されると、室内をエンジン空間確保の犠牲にしなくて済むことや、冷却にも優れていること、エアコンなどの補機類もフロントに設置したいことなどから、小型車は猫もしゃくしもFFになってしまった。国産車としてRRとして生き残っていたのは、何を隠そうスバル・サンバーである。しかし、残念ながらスバルの軽自動車製造から撤退と同時にこれも消滅した。

本筋を外れるが10年ほど前、日本国内で本物のNUOVA 500の車体に、このスバル・サンバーのSOHC4気筒658ccエンジンを移植したものが販売されていたことがある。その車名は「FIAT 500 マキナ」で、チンクエチェント博物館とオートバックス社の共同開発品だった。

現在、乗用車でRRレイアウトを採用しているのは、ポルシェ911系、それにsmart(スマート)forfour(フォーフォー)とRENAULT(ルノー)とTWINGO(トゥインゴ)の兄弟くらいであろうか。

RR車は別段運転の難易度が高くはないが、後部にどっしりとエンジンが搭載されているので、FFとは違う操作感を味わえる。しかも、バックグラウンドミュージック*24に「ぽこぽこ」と2気筒の0・9Lツインエアが流れた暁には、いつもの景色だって「浮き浮き」に塗り替えられるかもしれない。

ただ、あまり調子に乗ると「ぼこぼこ」の「ぼきぼき」になるから要注意。

(出典:Fiat Chrysler Automobiles

*1:【downsizing】機器などを,従来のものより小型にすること。特に,大型の汎用コンピューターに代えて,ワーク-ステーションやパソコンを採用すること。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*2:【Genève】スイス西端部,レマン湖に臨む国際都市。観光地。国際赤十字本部および各種の国際機関がある。精密機械工業が発達。〔「寿府」とも当てた〕/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*3:【motor show】メーカー各社の新型自動車などを集めて催す展示会。自動車ショー。オート-ショー。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*4:【intercooler】中間冷却器。流体を加熱する過程で冷却する装置。特に,気体の連続圧縮過程の冷却装置。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*5:【turbo】排ガスを利用してタービンを回し,混合気を強制的にシリンダー内に送り込んで圧力を高める,エンジンの補助装置。出力・トルクを高め,併せて燃費向上に役立つ。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*6:【valve】弁。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*7:【ドイツ Pferdestärke】馬力を表す記号。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*8:【torque】回転軸のまわりの,力のモーメント。棒をよじる力や原動機の回転による駆動力を示すのに用いる。ねじりモーメント。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*9:【newton】〔 I =ニュートンにちなむ〕力の大きさの SI 単位。1キログラムの質量をもつ物体に1メートル 毎秒毎秒の加速度を生じさせる力の大きさを一ニュートンとする。ダインの10万倍。記号 N/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*10:【フランス mètre】メートル法・ SI (国際単位系)の長さの基本単位。光が真空中を,1秒の2億9979万2458分の1の時間に進む長さを1メートルとする。1875年にパリを通過する地球子午線全周の4千万分の1と定義され,ついで89年に国際メートル原器によって,さらに1960年にクリプトン86の発する光の波長によって定義されたが,83年から現在のように改められた。メーター。記号 m 〔「米」とも書く〕/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*11:【kilowatt】仕事率・電力の単位キロワットを表す記号。103W。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*12:〔revolutions per minute〕エンジンやタービンなどの毎分回転数。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*13:【フランスkilogrammètre】エネルギー・仕事の重力単位。物体に1キログラム 重の力が働いてその力の方向に1メートル 動かしたときのエネルギー。9.80665ジュールに相当。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*14:【hybrid car】複数の動力源を用いて走行する自動車。排気ガス規制地域を電気で,規制緩和地域をガソリン-エンジンで走る自動車など。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*15:【drink holder】自動車内で飲料がこぼれないよう,その容器を固定する道具。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*16:【chassis】〔シャーシー・シャーシとも〕自動車・電車などの車台。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*17:世界的規模に広がること。政治・経済・文化などの諸領域の仕組みや制度が,国を越えて地球規模で拡大することをいう。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*18:【wheelbase】車軸間の距離。特に,自動車の前輪の軸と後輪の軸との間の距離。軸距。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*19:【和製語 front-engine, front-drive】自動車のエンジンの動力が,後輪にではなく前輪に伝わる方式。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*20:〔four-wheel drive〕自動車で,前後の四つの車輪すべてに駆動力を伝える方式。4WD 。四駆。全輪駆動。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*21:【和製語rear-engine, rear-drive】後部エンジン後輪駆動。自動車の後部に搭載したエンジンによる後輪駆動方式。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*22:【shaft】動力を伝達するための回転軸。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*23:【joint】継ぎ手/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*24:【background music】テレビ・ラジオ・映画などで背景として流す音楽。また,喫茶店・職場・病院などで,気分を和らげるなどの効果をねらって流す音楽。BGM。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)