セ・リーグの台風の目?東京ヤクルトスワローズの逆襲!
圧倒的な打撃でセ・リーグを制した2015年から一転し、2年連続でBクラスと低迷が続くスワローズ。今季も打線は他チームに引けは取らないものの、投手陣が踏ん張りきれず最下位に甘んじている。しかし、混セを面白くする「つばめ返し」から目が離せそうにない。
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課題の投手力に光明を見いだす
優勝した2015年はリーグ4位のチーム防御率3・31と健闘したヤクルト。今季は開幕して2カ月足らずではあるが、4・54とセ・リーグ最下位に沈んでいる。特に先発陣が壊滅的で、デビッド・ブキャナン投手こそ4勝3敗、防御率3・12とそこそこ安定しているが、後続の先発が軒並み総崩れとなっている。
東京ヤクルトスワローズの先発投手陣の成績(2018年5月28日現在)
投手名 | 勝敗 | 防御率 |
---|---|---|
石川雅規 | 2勝1敗 | 5.11 |
館山昌平 | 0勝3敗 | 6.43 |
原樹理 | 0勝5敗 | 6.09 |
デーブ・ハフ | 1勝3敗 | 4.17 |
由規 | 1勝2敗 | 4.55 |
石川投手や館山投手といったベテラン*1勢の巻き返しを期待したいところだが、立て直しが急務なのは疑う余地なしだ。一方、明るい材料となり得るのが小川泰弘投手の復活だ。
昨季は右肘の疲労骨折により離脱していたが、5月13日に先発に戦線復帰している。球数制限を課せられており、4回途中まで投げて5失点と本調子ではない。しかし、5月27日には今季初めての勝ち星を挙げ、反攻に転ずる準備を着々と整えつつある状態だ。
リリーフ陣に目を向けると、抑えとして期待していたマット・カラシティー投手が不調で二軍落ち。実績のある秋吉亮投手が代役を務めたいところだが、昨年参加したWBC*2の燃え尽き症候群*3もあるのだろうか、不振を脱しきれていない。
東京ヤクルトスワローズのリリーフ陣の成績(2018年5月28日現在)
投手名 | 勝敗 | ホールド*4 | 防御率 |
---|---|---|---|
マット・カラシティー | 1勝2敗 | 1 | 3.00 |
秋吉亮 | 1勝2敗 | 6 | 4.50 |
救援陣も台所事情が苦しい中、一筋の光明は差している。それは中尾輝投手や風張蓮投手の若手の台頭である。打ち込まれる試合はあるものの、昨季からは大きく成長し、一軍のブルペン*5に定着している。抑えには石山泰稚投手が収まりそうだ。そこを近藤一樹投手や松岡健一投手といった場数を踏んでいるベテランが支えれば、ある程度のめどが立つはずだ。
東京ヤクルトスワローズのリリーフ陣の成績(2018年5月28日現在)
投手名 | 勝敗 | ホールド | 防御率 |
---|---|---|---|
中尾輝 | 3勝1敗 | 3 | 2.78 |
風張蓮 | 1勝1敗 | 0 | 4.57 |
石山泰稚 | 1勝0敗 | 6 | 1.17 |
近藤一樹 | 0勝2敗 | 10 | 1.99 |
松岡健一 | 1勝0敗 | 0 | 4.35 |
加えて、期待したいのが故障からの調整組である。昨年4勝を挙げた星知弥投手や福岡ソフトバンクホークスから移籍して調整が遅れの山田大樹投手も5月に入り、三軍での実戦登板を果たしている。
この2人に負けていられないのが活躍を期待されながらも、二軍で伸び悩む高橋奎二投手や寺島成輝投手などの若手投手たちだ。もし一軍の中継ぎや先発にこの辺りの新星が食い込んでくるようなら、夏場の逆襲劇も十二分にあり得るはずだ。
他球団にも勝る攻撃力の死角とは?
2015年のセ・リーグ優勝における最大の要因は他チームをしのぐ抜群の得点力にあった。特に2番川端慎吾選手、3番山田哲人選手、4番畠山和洋選手、5番雄平選手と続く打線は申し分がない破壊力だった。やや力の落ちる投手陣を打撃陣が補う「勝ち方」が最大の特徴であった。
ところが、川端選手と畠山選手をけがで欠き、山田選手は死球がきっかけで極度のスランプ*6に陥り、本来の力を発揮できなかった。そのため、ヤクルト最大の武器であった「打線の破壊力」が崩壊し、低迷の主因となったのだ。
しかし、今季は大リーグ*7から青木宣親選手が電撃復帰し、山田選手も復調している。さらに、ベテランの坂口智隆選手の好調もあり、打線に再び勢いが戻りつつある。
昨季まではレギュラー*8が欠場した場合、戦力ががたっと落ち込む「選手層の薄さ」という死角を露呈してしまっていた。しかし、苦境に立ったときに我慢して起用してきた若手たちが着実に力を付けている。
その1人がショート*9で打撃開眼した感のある西浦直亨選手だ。昨季も開幕スタメンを手にしたが、打撃が振るわずに結果を残すことができなかった。今季は西浦選手がショートのレギュラーに定着し、青木選手と山田選手とともに野球の生命線といわれる「センターライン」をしっかり固定できれば、チームにとって大きな上積みとなる。
東京ヤクルトスワローズの西浦直亨選手の成績(2018年5月28日現在)
年度 | 打率 | 打点 | 出塁率 |
---|---|---|---|
2016年 | .255 | 28 | .317 |
2017年 | .208 | 8 | .288 |
2018年 | .286 | 14 | .389 |
キャッチャー*10も中村悠平捕手頼みであったが、競争を生むためにも若手の突き上げがほしいところだ。まだまだ粗削りだが、弱冠19歳の古賀優大捕手も今季の出場機会をつかみ取ってもらいたい。また、廣岡大志選手も「第二の山田哲人」を嘱望される若手内野手であり、いつ化けるか分からない逸材である。
ここに実績のある川端選手と畠山選手が打線の軸になれば、格段に攻撃力が増して選手層に厚みのある陣容が完成する。正念場の夏に向けて足並みがそろえば、2015年の優勝時に遜色のない打線が再生されそうだ。やはりヤクルトには反撃の能力が秘めていると判断せざるを得ない。
両コーチの指導が浸透?
今季広島東洋カープから加入した石井琢朗打撃コーチと河田雄祐守備走塁コーチの指導にも注目が集まっている。
打撃に関しては石井コーチが広島時代と変わらぬ奇抜な練習方法を取り入れている。また、各選手に目の行き届いた熱心な指導により、変革が必然となっている。春のキャンプ*11では広島でも行ってきた各打者が自らの改善点を意識して取り組む打撃練習を取り入れた。石井コーチ自らも打撃投手を務め、助言を送りながらの打ち込みなど「広島流」を早くも実践している。
昨季打撃不振に苦しんだ西浦選手や本来本調子になるのに時間のかかる坂口選手も序盤から好調だ。これは間違いなく石井コーチの影響も少なくないだろう。しかし、指導は始まったばかりで、来季以降に実を結ぶ選手もいるだろう。今や広島の打線の核である「タナキクマル」こと田中広輔選手、菊池涼介選手、丸佳浩選手のような将来をしょって立つ選手の発掘にも期待が高まる。
一方、河田コーチは走塁の意識改革に取り組んでいる。昨季優勝を果たした広島の盗塁数112に対してヤクルトは50と大きく差をつけられた。しかし、今季は盗塁数はセ・リーグ1位のDeNAの29に対し、27と肉薄している。また、特筆すべきはセ・リーグ1位の盗塁成功率である。2017年の4割8分から7割4分にまで飛躍的に上昇している。そのあらかた半分の13個は山田選手によるものだが、今季は足を使った攻撃が増えたのは確かだ。さらに、目に留まるのは一つでも先の塁を狙う積極的な走塁だ。
セ・リーグの盗塁(2018年5月28日現在)
チーム名 | 盗塁数 | 盗塁死 | 盗塁成功率 |
---|---|---|---|
広島東洋カープ | 26 | 13 | .500 |
阪神タイガース | 27 | 7 | .740 |
横浜DeNAベイスターズ | 29 | 13 | .551 |
読売ジャイアンツ | 21 | 10 | .523 |
中日ドラゴンズ | 28 | 10 | .642 |
東京ヤクルトスワローズ | 27 | 7 | .740 |
5月9日の中日対ヤクルト戦。2死一、二塁の場面で相手投手が暴投した。普通であれば走者がそれぞれ塁を進めて二、三塁というところだが、二塁走者の西浦選手は一気に本塁を陥れたのである。試合の行われていた石川県立野球場は他球場に比べてファウル*12ゾーン*13が非常に広かった。試合前から河田コーチは選手にファールゾーンに打球が転がった場合の指示を徹底しており、選手に積極的な走塁が意識されていたからこその得点であった。
また、5月6日の広島対ヤクルト戦。延長11回二死一塁から坂口選手がサヨナラ二塁打を放った場面だ。一塁走者の古賀選手はフルカウント*14だったため、バッター*15への投球と同時に自動的にスタート*16を切っていたが、通常の盗塁と寸分たがわない抜群の初動であった。古賀選手は投手の投球動作を頭に入れ、一歩踏み出す絶好の頃合いを図っていたのだ。
そこに坂口選手の二塁打が重なり、古賀選手は一気に本塁まで帰ってくることができたのだ。本塁に生還できるか憤死するかは紙一重だったので、殊更のこと古賀選手の一塁からの隙を見せない走塁が奏功した形となった。いわば走塁に対する意識が勝敗を分けたのだ。
河田コーチは「走塁で点を取る」意識を常々話をしているそうだ。その浸透しつつある意識改革が早くも結果として現れている。復活の兆しを見せる打線に、広島仕込みの走塁が加わる。これもヤクルト逆襲を予感させる理由の一つだ。
まとめ
2015年の優勝から主力選手のけがや助っ人外国人の退団などで戦力を著しく落としたヤクルト。また、薄っぺらい選手層が浮き彫りになり、若手を起用せざるを得ない戦況にも追い込まれた。しかし、半ば強制的に新戦力の育成をしたことが芽を出して花となり結実しようとしている。
まず先発ローテーション*17の再編成を急務とし、優勝経験のある主力打者がけん引すれば、最下位からの下克上すら夢ではないはずだ。元々伸び伸びとした明るい野球が取りえであるヤクルトだけに、一度火が付いたら手が付けられない。他チームは3年前にまざまざと思い知らされているから、不気味な存在であるに違いない。
どうやら今季は「メークミルミル」と鳴くツバメの季節がまだまだ続きそうだ。
そして、まな弟子たちが小川淳司監督への恩返しに燃えたとき、神の宮に奇跡の風が吹く。
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*1:【veteran(イギリス)・vétéran(フランス)】その方面について経験豊富な人。老練な人。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*2:【World Baseball Classic】野球で、国または地域の代表チームが世界一を争う国際大会。主催はアメリカのメジャー‐リーグ機構と選手会。2006年に始まる。WBC/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*3:(burnout syndrome)仕事・学習などに熱心に打ち込んだ後、突然、意欲の喪失、無気力・無感動、自責の念にかられるなどの症状を呈すること。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*4:中継ぎに登板して好投し、勝利投手・敗戦投手・セーブ投手にならなかった投手。一定の条件を満たした際にホールドを記録する。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*5:【bullpen】(「牛の囲い場」の意)野球の試合中、投手が肩ならしをする、囲いのある投球練習所。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*6:【slump】心身の調子が一時的に出なくなる状態。不調。不振。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*7:(major league)アメリカ二大プロ野球リーグのこと。アメリカン‐リーグとナショナル‐リーグで構成。メジャー‐リーグ。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*8:【regular】正式なさま。規則正しいさま。正規。通常。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*9:(shortstop)野球で、二塁と三塁との間を守る内野手。ショート‐ストップ。遊撃手。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*10:【catcher】野球で、本塁の後方にいて、投手の投球を受け、また本塁の守備に当たる人。捕手。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*11:【camp】スポーツ選手などの練習のための合宿。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*12:【foul】野球で、ファウル‐ラインの外方へ打球が出ること。また、その球。ファウル‐ボール。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*13:【zone】地帯。区域。区画。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*14:【full count】野球で、打者のボール‐カウントがスリー‐ボール、ツー‐ストライクとなった状態のこと。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*15:【batter】野球で、打者(だしゃ)。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*16:【start】動き出すこと。始まること。出発。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)
*17:【rotation】(回転・循環の意)野球で、先発投手の順番を決めて起用すること。また、その順序。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)