野球がベースボールに勝つために、あの投手が意識したこと
WBCことワールドベースボールクラシックでは過去2大会で連覇を経験。しかし、第4回は健闘もむなしく2大会連続の4位で敗退した。2020年には東京五輪を控え、選手たちは日本が再浮上するために始動している。今回はその課題にスポットライトを当ててみた。
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2017年10月24日:用字用語の整理。
第4回WBCの敗因は「打てなかったこと」
WBC元日本代表監督の小久保裕紀氏は準決勝敗退後に次のように述べた。
「動くボール主体で、スピード、動き幅だったり(はすごかった)。打線の状態は非常によかったが、ほとんど芯にあたらず1試合終わった。打線は1点差以上の差を感じた」
(引用:産経新聞社)
米国と対戦する準決勝までは、140キロを超えるツーシームやカットボールを投じる投手はいなかった。そのレベルであれば、日本の打者は対戦を通して対応することができた。しかし、準決勝ではメジャー*1でも活躍する投手陣である。150キロ近いスピードで動き、さらに丁寧に低めに集められていた。
まさに「バットの芯で捉えることができない」難儀するボールであった。小久保氏はそのてこずった動く速球について次のようにコメントを残した。
「(メジャーリーグは)動くボールが主体ですけど、日本球界はフォーシーム主体なので。そこを改善していくのは難しい」
(引用:日本通運株式会社)
日本の投手陣は、福岡ソフトバンクホークス千賀滉大投手がベストナインに選出されたように、世界にも十分通用していた。制球力の精度はもちろん、どの球種においても高い水準にあったことが要因と言えるだろう。
しかし、世界大会で勝ち進み対戦するのは、日本が打ち崩せなかった米国の投手のように、動く速球を駆使する投手陣だろう。WBCで対戦した大リーガー*2の投球を体感することはできた。しかし、それを打つための試行錯誤が日本の投手相手にできないことに、焦燥感を覚える選手も多いのではないだろうか。
日本の課題を意識し、試合に臨んでいる鉄腕投手
「WBCで明確になったわけですから。動くボールに対応できなかった。もちろん基本が直球という考えは変わらないですが、そういう意識を持たないと、いつまでたっても日本の野球のレベルが上がらない。次は東京五輪がある。そういう考え方を世界に発信していかないといけないなと」
(引用:スポーツ報知)
時には154キロにも達するワンシームを操り、バットの真芯を外し凡打の山を築いていく読売ジャイアンツのエース、菅野智之投手である。ワンシームとは右打者の膝元、左打者の外角へ高速で沈むのが特徴だ。WBCで日本の打者が四苦八苦した、あの「速くて動くボール」である。
「ワンシームはファストボール。変化球じゃないし、かわす球でもない。自分が良くなったのもこの球のおかげ。今やっていることを成熟させることが将来につながるし、年を取ってからではできないと思っています」
(引用:スポーツ報知)
日本の打者が「世界標準」に磨きをかけている菅野投手を完全攻略できているとは言い難い。つまり、日本は依然として世界一の壁を突破できていないと換言できる。
山田哲人選手ですらも打ちあぐねる
プロ野球史上初の2年連続トリプルスリーの偉業を達成した東京ヤクルトスワローズの山田選手。第4回WBCにレギュラーとして出場した。
しかし、準決勝米国戦では、1死球・1バント*3とチームには貢献したが、2打数ノーヒットとバットから快音は聞かれず辛酸をなめた。
準決勝前に練習試合で対戦したシカゴ・カブスのマドン監督は、日本の打者の足を上げるバッティングフォームについて、動く速球への対応が難しいことを予見していたのだ。
実際に、準決勝では散発の4安打に終わっている。日本のプロ野球でも、ツーシームやカットボールなど打者の手元で動くボールを球種の一つとする投手は増加傾向だ。だが、それがメジャーリーグに匹敵するかと言われれば残念ながら首を横に振らなければならない。
ここで前述した小久保氏が米国代表と同水準の「速くて動くボール」を会得した投手がいないことへの危惧についてつながってくる。
メジャー級の「速くて動くボール」との対戦が少ない以上、日本の打者は、今のバッティングフォームを手放せないのかもしれない。結果を残している選手であれば、なおさらである。オリックス・バファローズのT-岡田選手のように怪力であれば、すり足打法で勝負するのもいいだろう。
気掛かりなのは菅野投手との対戦を通じて、世界を意識した選手がいるのかである。
まとめ
日本の「野球」が「ベースボール」を打ち破る。それを達成するには、選手たちの水準を高めることが最優先だろう。そして、いつも選手の障壁になってしまう使用球の問題を改善すべく、思い切って国際球を導入してはどうだろうか。また、NPB*4の後押し在りきで日本のプロ野球の日程調整も必須であろう。
だが、忘れてはいけないのが、その過程において野球ファンも含まれていることだ。日本の「野球」が再び頂点に登り詰めるところを目にしたい。そんなファンが世論を動かし、NPBが動かざるを得なくなるのが正道ではないだろうか。菅野投手は日本の野球を憂うからこそ、自らの投球で発信している。それは選手たちだけでなく、われわれプロ野球ファンにも向けられているはずである。
来る2020年、動いているのはボールなどではない。歓喜に包まれた野球場で、侍ジャパンをたたえる無数の日の丸である。
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