タイの不敬罪とプーミポン前国王が愛されたお犬様
2016年に崩御されたタイ王国のプーミポン・アドゥンヤデート前国王が比類なく愛された雌の雑種犬トーンデーンをご存じだろうか。たとえ動物であっても国王がお世話をなされば「王室」と同等に扱う必要がある。このことを決して忘れるべきではなさそうだ。
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2017年10月24日:用字用語の整理。
タイの不敬罪とは?
タイには「不敬罪」なる刑罰が存在している。不敬罪とは王室に対して敬意を払わず、礼節を失する行為をした場合に問われる罪のことだ。
国王、王妃、王位継承者あるいは摂政に対して中傷する、侮辱するあるいは敵意をあらわにする者は、何人も三年から十五年の禁固刑に処するものとする。(刑法 第112条)
日本をはじめとして廃止されている国が多いが、イスラム圏やタイなどは、いまだに不敬罪が存続している希少な国だ。ちなみに、わが国では戦後の昭和22年に廃止されている。
タイで不敬罪が言い渡されると、最大で禁錮15年に処されるほど厳しいものだ。これは、日本の殺人罪にも匹敵する重い罪科となっている。
タイ国民の王室への思い
タイ国民による「王室への敬愛」は日本人が想像しているよりも、ずばぬけていると理解していた方が賢明だ。
朝方8時と夕方6時に駅や公園などの公共の場においてタイ国歌が毎日流される。その国歌が終わるまでは、直立不動の姿勢を維持しなくては、不敬罪の対象となる。また、映画館でも上映前に国王賛歌が流されるが同様である。
もちろん外国人であっても不敬罪の対象となり得るから心しよう。ただ、仮に外国人が法律に抵触してしまっても、厳格に運用されることは、余程なことがない限りないだろう。しかし、王室の名誉を損なう行為は慎まなければならない。
少々脱線するが、2012年にイタリアのミルコ・デムーロ騎手が天覧競馬として行われた天皇賞で優勝した際の出来事を振り返りたい。デムーロ騎手は天皇、皇后両陛下に対して下馬し、脱帽し、地面に片膝を突いて深々と最敬礼したのである。ニュースでこの一場面を目にしたとき、日本人として心を打たれた。
つまり、タイを旅行する際、タイの思想や習わしを尊重すべきだ。「郷に入っては郷に従え」を丁重に実践している外国人に嫌悪感を覚えることは少ないはずだ。
愛犬トーンデーンまつわる不敬罪
2016年に崩御されたプーミポン前国王はバンコクの病院に公務で訪れた際に住民が世話していた野良犬が処分されると聞き、国王の勅命で中止させた。
その後、前国王の命令で一命を取り留めた野良犬の子犬を引き取り、「トーンデーン」と名付けた。トーンデーンとは、タイ語で赤銅という意味になる。恐らく、体毛が赤褐色だったからだろう。前国王は甚だかわいがれたそうだ。前国王と共にタイのカレンダーやポスターに写るトーンデーンが印象的だ。
「トーンデーン」は2015年12月に体調を崩して、17年の生涯に幕を閉じた。前国王から愛情を注がれて、幸せな「人生」ならぬ「犬生」だったに違いない。そんな中、インターネット上に前国王とトーンデーンを風刺する意見を掲載したとして、男性が逮捕されたのだ。
日本だと「たかだか犬」と軽んじがちだが、「されど犬」なのである。これがタイ王国の不敬罪だと肝に銘じてもらいたい。
軍事政権下で厳格化?
軍事政権下では、国王やその親族を批判したり、侮辱したりする行為に対して、次から次へと不敬の罪で逮捕者が出ている。日本では「微罪」でまかり通ってしまうような行為でも、タイの不敬罪なら数十年になることも日常茶飯事だ。インターネット上の書き込みも一段と検査体制を強化しているようなので、注意するようにしよう。
まとめ
日本では今でこそ忘れ去られた感のある不敬罪だが、タイでは厳罰に処される。さらに、軍事政権下では摘発を強化する兆しが見られる。
冗談のつもりの一言が命取りになりかねない。そして、それはタイ王室とゆかりのある動物に対しても適用された前例があることを記憶に焼き付けておいてほしい。
逮捕されてから異議をとなえても時既に遅し。「犬が西向きゃ尾は東」と一蹴されるだけだろう。
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