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甲子園を目指す高校野球!果たして文武両道であるべきか?

晴天の甲子園球場

高校野球は甲子園を目標に、野球一筋に打ち込んで猛練習を重ねるのが自然な流れだ。一方、進学校でありながら勉強と野球を両立し、夢の大舞台に出場するチームも決して珍しくない。高校球児にとっての文武両道とは、今どんな意味を持っているのだろうか。

「武」を極める下関国際高校

昨夏と今春の連続で甲子園に出場した私立の下関国際高校・坂原秀尚監督は文武両道*1を真っ向から否定し、物議を醸した。東京大学を目指す生徒が2時間の勉強では合格できない。10時間勉強しても足りないのではないか。一つのものを極めるには他との両立は無理であり、「文武両道は逃げ」とする持論だ。

どこぞのマスコミ*2が政治家によくやるように、部分的な発言を抜粋をすると極論になってしまう。しかし、一つの目標を成し遂げるには、全てを断って打ち込むことも必要なのは確かだ。

坂原監督は自らのチームを弱者と捉え、どのように有力選手の集まる強豪校に対峙(たいじ)していくかを重視して強化に当たってきた。下関国際高校は朝練を5時から開始し、遅いときには夕練が23時まで及ぶ。また、坂原監督が半強制と表現する練習により、現代っ子特有の「希薄な連帯感」を強化したい思惑もあるようだ。

確かに高校野球にかけられる時間は多くはない。入学した1年春から3年の夏まで約2年半。全ての時間を野球に割けるわけではない。授業や学校行事もあり、当然テストもあるのだ。その制限のある時間内で甲子園出場を最大の目標とし、監督・コーチの意図する練習を「やらせる」。そして、力量に磨きをかけていくのも一つの手段であるはずだ。あえて自主性を排除する考え方も一考の余地はあるだろう。

結果がついてこなければ半強制の練習に球児たちが追従していくのは難しいはずだ。しかし、下関国際高校は夏春の甲子園連続出場を見事に果たし、結果を残している。

監督の統制主義に異を唱える大人も少なくない。自主性を重視する現代教育の潮流からすれば、むしろ違和感が際立つはずだ。しかし、一つのことに全身全霊をささげることは貴重な経験であるし、それができる何かを持っているのは幸せなことだと思う。高校生活を野球に懸け、甲子園を夢見る考え方もあってしかるべきだ。どの道をたどっていくかを選ぶのは球児に他ならない。

坂原監督は昨夏の甲子園で初勝利を逃して惜敗した試合後に、夢の大舞台に立てて感動したことを真っすぐに語った。そして、球児たちのプレー*3を褒めたたえのだ。試合中の球児たちからは自信がにじみ出ており、存分に力を発揮していた。日々の苦しい鍛錬が実を結ぶことで、何物にも代えがたい経験を得たに違いない。

文武両道を体現する彦根東高校

下関国際高校と同じく、昨夏と今春の連続で甲子園出場を果たしたのが、公立の彦根東高校だ。彦根東高校は滋賀県内有数の進学校である。野球部員も国公立大学に進学することは珍しくない。生徒たちは授業が開始する前の7時半に登校し、自主勉強する習慣がある。野球部員も例外ではなく、7時から勉強に時間を割く球児もいる。

彦根東高校には野球部専用のグラウンド*4はない。他の部活との併用でありながら、場所も狭い。そのため、打撃練習は学校ではできず、近隣のバッティングセンター*5で行なっているそうだ。さらに、ブルペン*6では本来の投球練習だけに終わらない。バッター*7が打席に立ち、ピッチャー*8が投げ込む球を打ち返す。バッテリー*9も真剣勝負をするため、効果的な実戦練習ができるわけだ。

彦根東高校の練習時間は3時間ほどしかなく、どれだけ効率よく練習をするか、至る所に工夫がされている。そういった環境が、球児たちの主体的に練習に取り組む風土を築きあげている。

進学校であるため、授業が7限目まであることも珍しくない。テスト期間となれば、練習時間はさらに制限される。勉強時間は毎日作らなければならず、練習も勉強も同じ姿勢で挑まなくてはならないのだ。彦根東の村中隆之監督は次のように語っている。

「それを“文武同道”と、私は呼んでいます。野球も勉強も、やることは同じ。そして限られな環境の中で、どれだけ効率よくやれるかだと思うんです。特にウチのような公立校は可能性のあることはどんどんやって準備をしておかないと戦っていけない。でも、それがうまくいった時ほど嬉しいことはないですね」

(出典:BIGLOBEニュース

公立高校でありながらの夏春連続出場はそれだけで快挙といっていい。文武両道の理想形を示した彦根東高校は、球児たちに「新しい道」を与えたと言っても過言ではない。

まとめ

高校野球の勝敗は時の運にも大きく左右される。球児のわずかな気持ちの変化、気まぐれな天候、観客の声援が試合の大局を一変させてしまうことさえある。時として努力は必ずしも皆にほほえまない。だからこそ球児たちが自分の選んだ道に後悔することなく、全力を出し切ったかどうかが大切だ。球児の数だけ選択肢は存在する。野球に対する考え方は多岐にわたっていいのだ。

今回ご紹介した2校の取り組み方は対照的だ。しかし、それぞれの考え方は違ったとしても、どちらも正しいはずだ。それは甲子園出場の夢を達成したことが、証明しているからだ。

忘れてはならないのが、どちらの道へ進むにしろ、球児たちが目指したい「多岐にわたる野球の選択項目」が存在していることだ。そして、球児たちが自発的に未来の道を決めてもらいたい。

なぜならば、その決断自体が文武両道の始まりかもしれないからだ。

*1:学術・文化面と武術・軍事面との両面。文武二道。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*2:マス‐コミュニケーションの略。ミニコミ。転じて、マス‐メディアやその業界の意にも用いる。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*3:【play】競技。また、競技での動作。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*4:【ground】運動場。野球などの競技場。グランド。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*5:(和製語 batting center)野球の打撃練習を楽しむ施設。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*6:【bullpen】(「牛の囲い場」の意)野球の試合中、投手が肩ならしをする、囲いのある投球練習所。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*7:【batter】野球で、打者(だしゃ)。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*8:【pitcher】野球で、打者にボールを投げる人。投手。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*9:【battery】野球で、投手と捕手との組合せ。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)