全面改良の新型ジムニーが見せてくれる温故知新を読み解く
現行スズキ・ジムニーが1998年以来のフルモデルチェンジに踏み切ると話題沸騰中だ。ジムニーは初代誕生からの47年間で、たった2度の全面改良しか行われていない。いわば「異端児」への「3度目」はどうなるのか。ジムニー乗りの視点から考察してみたい。
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全面改良の新型ジムニーを評価!正当な着眼点で見極める
2017年10月24日:用字用語の整理。
正しいジムニーの評価方法
自動車の販売店でお目当ての車を始めて目前にしたとき、最初に何に着眼するだろうか。大半の方が見た目から入り、室内の広さや使い勝手、装備品といった具合に評価がなされるはずだ。家族のための車なら実に賢明な判断だ。
だが、趣味を交えた車選びなら少々勝手が違ってくる。ぜひ一等最初に下回りやエンジンをのぞきのぞき込んでいただきたいのだ。ジムニーの場合、特に下回りの構成にこそ、その価値を見出だすことができるからだ。
新型のジムニーの登場に伴い、スクープ*1写真があちこちで取り上げられている。それに対し、「角ばった原点回帰のデザイン」や「燃費向上装備や予防安全装備の追加」に着目する評価が見受けられるが、それは必ずしも的を射ていない。
ジムニーは以前から車好きや四駆好きから愛されてきた車種である。そういった愛好者たちの新型ジムニー対する一番の関心事は、前後車軸式サスペンション*2の継続の可否ではないだろうか。
1枚のスクープ写真が真実を物語っている。上に掲載した写真に目を凝らすと、前後輪から車体中心に向かって棒のようなものがある。これはコイル*3スプリング*4を支えるサスペンションアーム*5で、前後車軸式サスペンションであることを断定できる。それでは、なぜ前後車軸式を度外視できないのか。次の項で詳しく触れていきたい。
前後車軸式こそ四駆の原点
ジムニーは1970年に登場した。ジムニーの起こりがホープスター・ON360型であるのをご存じだろうか。これも含めた全ての原点は先の大東亜戦争で生まれた米国のジープであった。大戦中の1942年から大量生産が始まったジープことウィリス・MBとフォード・GPWである。戦争での実績を賛美する気持ちは毛頭ないが、ジープはここで類まれな走破性・耐久性を見せ付けたのだ。ジープは開発時に車載工具だけで全て修理ができることも要求されていたそうである。
これらの走破性・耐久性を両立させるのがラダー*6フレーム*7構成であり、前後車軸式サスペンションだ。走破性を生み出すのは、前後車軸式の特徴でもある長いサスペンションストローク*8であり、構造の簡易さから耐久性にも非常に優れている。
さらに、この形式は荒れた路面でも常に車体を極力水平に保ってくれる作用がある。ジープやジムニーでいうところの走破性とは道無き道をはうように進める性能のことである。
一方、この前後車軸式の欠点は路面追従性に優れず、乗り心地が悪い。そのため、より大型のトヨタ・ランドクルーザーや三菱・パジェロなどは、前輪サスペンションを乗り心地と舗装路での性能を優先した独立式に改変したことで退化してしまった。
従来ジムニーの「ばね」における仕組みは、馬車のようなリーフスプリングを採用していた。しかし、これは乗り心地をひどくしてしまう。SJ30と呼ばれた1987年までの2ストローク*9ジムニーまでが該当するが、車全体でぴょんぴょん跳ねるような乗り心地であった。
1986年以降の4ストロークターボ*10エンジンになったジムニーJA71以降は、リーフスプリングに柔軟性を持たせ、横揺れはスタビライザー*11で抑える手法を取った。さらなる改善策として、ジムニーが最大限に譲歩したのが、現行ジムニーの四輪車軸式コイルスプリングのサスペンションである。コイルスプリングは乗り具合が改善される反面、リーフスプリングに対して少々構造が複雑化する欠点がある。
新型ジムニーに望むその他の事項
生まれ変わるに当たり、「ジムニーらしさ」を堅持するには「幾つかの関門」を通過しなければならないだろう。まずは前述したラダーフレーム、前後車軸式サスペンションがあってこそ成り立つ。その上で必要なのは高低2段切替トランスファー*12とMT*13である。
ジムニーの兄貴分的存在だったスズキ・エスクードが2015年で4代目になり、1・4Lターボが追加されて盛り上がった。エスクードも先代まではラダーフレームと高低2段切替トランスファーとマニュアルトランスミッションを備えていたが、現行モデルではどれも切り捨ててしまった。
あまり触れられてはいないが、現行のエスクードはエンジンも横置きとなり、完全にその面影を失ってしまった。無論優れた部分もあるのだが、「関所の番人」としては名前のみを受け継ぐ車と判断せざるを得ない。
新型ジムニーのエンジンは現在主流のR06A型インタークーラー*14付きターボが搭載されるだろうが、これに懸念事項は皆無である。なぜなら、ジムニーは1987年にJA71がF5A型インタークーラ付きターボエンジンになった際、高回転域だけ出力が盛り上がる「ドッカンターボ」となったことがある。これにより、悪路を勢いで乗り切れる「暴れ馬」のような時代もあった。R06A型なら、そんな心配も消え去るだろう。
まとめ
新型ジムニーについて、通常とは異なる側面から評価を行なってみた。ジムニーは海外でも好評を博している車種で、場合によっては非常に過酷な使い方もされている。「小さくとも頼もしい」走りこそがジムニーの真髄であろう。
時代的に新型ジムニーには、スズキが得意とするマイルドハイブリッド*15やデュアルセンサーブレーキサポート*16といった装備も不可欠になってくると予想される。
しかし、ぜひとも最低限の装備だけのグレードも設定してほしいところである。また、国内仕様の現行ジムニーでは遂に登場しなかった「幌仕様」の復活を待ち望む声も聞かれる。先代のジムニーまで設定されていた幌は非常に出来栄えがよく、ものの10分もあれば一人で脱着できる。そして、幌を外して走行した際の開放感は格別だ。
新型ジムニーには原点回帰のデザインにふさわしい、操る楽しさを存分に味わえる機械であることを熱望したい。東京モーターショー2017の10月25日に行われるプレスデーこと報道関係者招待日に発表される予測が主流だった。しかし、9月22日に発表された出品車両の中に新型ジムニーはなかったことから年末年始にずれ込む公算が大きくなった。いずれにしても新旧共存する「新生ジムニー」の発表が待ち遠しい。
意表を突いて「新型ジム」を発表しても、世間の話題をさらえそうなのだが。
(出典:スズキ株式会社/Ford Motor Company)
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*1:【scoop】〔スコップですくいとる意〕報道記者が,他の記者の知らぬうちに重大ニュースをさぐり出して報道すること。また,その記事。特種(とくだね)。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)
*2:【suspension】自動車などで,車輪と車体をつなぎ,路面からの衝撃や振動が車室に伝わるのを防ぐ装置。懸架装置。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)
*3:【coil】線を円形または円筒形に巻いたもの。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)
*4:【spring】ばね。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)
*5:【arm】腕。また,本体から腕状に出ている部分。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)
*6:【ladder】はしご。/出典:ウィズダム英和辞典 第三版(三省堂 2013年)
*7:【frame】自転車・自動車などの車体枠。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)
*8:【stroke】往復機関で,シリンダー内をピストンが一端から他端まで動く距離。ストローク。衝程。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)
*9:【stroke】往復機関で,シリンダー内をピストンが一端から他端まで動く距離。衝程。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)
*10:【turbo】排ガスを利用してタービンを回し,混合気を強制的にシリンダー内に送り込んで圧力を高める,エンジンの補助装置。出力・トルクを高め,併せて燃費向上に役立つ。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)
*11:【stabilizer】自動車のローリングを抑えて安定をはかる装置。ロール-スタビライザー・アンチ-ロール-バーをさす。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)
*12:【transfer】移行。移転。転移。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)
*13:【manual transmission】 自動車の手動変速機。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)
*14:【intercooler】中間冷却器。流体を加熱する過程で冷却する装置。特に,気体の連続圧縮過程の冷却装置。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)
*15:減速時のエネルギーを利用して発電し、加速時には、その電力を活かしてエンジンをアシストすることで さらなる燃費の向上を実現するハイブリッドシステムです。/出典:スズキ株式会社
*16:単眼カメラ+レーザーレーダーの強みを活かして危険を回避する/出典:スズキ株式会社