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大リーグ式「敬遠の申告制」導入で野球が変わってしまう?

高めに外れた球を捕球する捕手

大リーグでは、今季より敬遠こと故意四球の申告制が始まる。打者を敬遠する際に監督が審判に申告すれば、投手は四球を投げることなく打者を自動的に歩かせることができる。今後、日本でも採用されたとき、ルール変更が持つ意味を考えていきたい。

2018年2月7日:用字用語の整理。

投手が敬遠のために四球を投じることの意味

試合が進み1点を争う展開になったとき、特に敬遠の場面は生まれると言って良い。その際に監督が「敬遠する」と告げれば、当該打者は打席に着くことなく一塁に進めるようになるわけだ。

しかし、どこか味気ないと感じるファンの中には、過去のあの場面を思い出したのではないだろうか。

  • ウォーレン・クロマティ選手や新庄剛選手が敬遠球をさよなら打
  • 小林繁投手が敬遠球をさよなら暴投

敬遠は、その後に歓喜と悲哀のドラマを連れてくることがある。そして、その「たった四球」に何か起きるかもしれないと期待する観客もいるのだ。

敬遠球を「あわよくば捉えてやろう」としている打者に気付いた観客たちは、張り詰めた雰囲気になる。そして、その光景を球場で体感していると、敬遠の申告制は野球の楽しみの一つを奪ってしまうと感じるのである。

野球は「間」が大切なスポーツである

野球はサッカーなど他のスポーツと異なり、試合がイニング*1ごと、打者ごと、さらには投球ごとに「間」が存在する。

そこで、監督以下、コーチ、投手、捕手、野手、打者、走者たちが幾通りもの事例と特例を想定し、作戦を立てる。つまり、そこには心理戦も含めた駆け引きが存在していて「たかが敬遠」ではないのだ。

昨季の日本シリーズ第3戦、日本ハムファイターズの大谷翔平選手が敬遠され、次の打者である中田翔選手と勝負する場面があった。大谷選手が歩かされる様子を、ネクストバッターズサークル*2で見つめていた中田選手はこう語っている。「さすがに気合が入った。絶対に打ってやると思った」。

もし、敬遠の申告制で四球を投げている「間」がなく、即座に打席に立っていたら、同じ結果になっていただろうか。敬遠を申告制にすることは、単なるルール変更ではなく「野球の流れと結果」までも変えてしまう危険性があるのだ。

敬遠の申告制は、試合のスピードアップにつながる?

導入の主たる目的は、試合時間の短縮にある。結果が四球とわかっていれば、わざわざ投げる必要はなく一塁に進めた方が効率が良いというわけだ。

新ルールを導入する大リーグでは、敬遠の申告制だけではなく他のルールと組み合わせることで、さらなる試合のスピードアップを計画している。

その一つがWBC*3で日本代表が経験したタイブレーク制。その際は、延長11回から採用され、中田選手の決勝打でオランダ代表を下した。

大リーグでは10回以降の延長戦に入った場合に、このタイブレーク制の採用が検討されている。もう一つは投球間隔の20秒制限である。

日本野球機構*4はこれまでコリジョンルール、ビデオ判定と大リーグに右へ倣えで新ルールの導入を決定してきた。今回も先例通りに、敬遠の申告制を採用するだろう。

それぞれの是非は別の機会に譲るが、敬遠の申告制の導入は同時に、抱き合わせであるタイブレーク制、投球間隔の20秒制限の採用に直結することも踏まえて、よく議論を戦わせてほしい。

まとめ

野球では試合時間が決まっておらず、展開によっては4時間を超えることもある。せんだってのWBCでは試合が午前0時近くになり、終電車を逃すまいと泣く泣く試合途中で帰宅した観客もいたそうだ。

そこでも試合時間については論じられたが、結局のところ試合自体が白熱していたため、そこまで大きな問題には発展しなかったように思う。

プロ野球はファンのものである。この観点から語れば、敬遠の申告制は試合時間の短縮の利点よりも、野球の楽しみを失う欠点の方が多いのではないだろうか。

試合時間の短縮だけが話の争点になるのは本末転倒であり、肝心の試合の面白みが失われることが、ファン離れにつながることを決して忘れないでもらいたい。

試合の合間にかわいい売り子さんを探し、狙いを定めてビールを注文する「間」だけは短縮しないでもらいたい。

*1:【inning】野球で,両チームが攻撃と守備とを一度ずつ行う区分。インニング。回。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*2:【next batter's circle】野球で,次の打者が待機している場所。ホームベースの左右斜め後方に設けられた,半径約 1メートル の円の区域。ウエーティング-サークル。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*3:ワールド-ベースボール-クラシック【World Baseball Classic】アメリカの大リーグ機構と選手会が主催する,野球の国別対抗戦。第 1 回大会は,北米・南米・アジア・ヨーロッパなどから 16 の国・地域が参加し,2006 年 3 月に開催され,日本が優勝した。WBC。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*4:日本プロ野球組織を運営する社団法人。セントラル-リーグ,パシフィック-リーグおよびコミッショナー事務局から構成され,日本シリーズ・オールスター-ゲームを主催する。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)