タイの仕事の仕方変革「八つのエッチ」が目指すものは?
「ハッピーエイト」は2003年にタイ政府が働き方を見直す一環で開発し、各企業へ取り組みを推進してきた。特に費用対効果が表れそうな大企業で積極的に取り入れられているが、いまだ大衆化はしていない。その中身とは一体どういうものなのだろうか。
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2017年10月24日:用字用語の整理。
タイ王国のHappy8(ハッピーエイト)とは?
ここ数年で日本においてもタイの働き方改革ハッピー8に類似した改善案を実践している企業が増えてきている。果たしてどのような内容なのだろうか。まず簡略な解説をしたい。
元々タイでの働き方改革ハッピー8は、心身の健康を促進して業績を上げるものだった。その名称も「Healthy*1 Workplace*2 Program*3」で発足したが、今では頭文字のHもHealthyからHappy*4に置き替えられている。いかにも自由の国タイらしいといえる。
つまり、ハッピー8は社員の幸福度が上がることによって、企業業績も上昇させることが狙いなのである。それではハッピー8の「エッチ」を一つずつ取り上げていきたい。
Happy Body(ハッピーボディー)
心身ともに健康な身体をつくる。
これにより物事を行うための動機や意欲を高める。朝寝坊が原因か否かは多分に疑わしい点があるが、タイの会社では病欠も少なくない。だから、この取り組みによって欠勤率を下げたい思惑もあるようだ。
社内に運動のできる施設や運動場などの設置とともに体調管理の指導者を駐在させていることもある。また、カロリー計算や安全な食材を使用した健康的な食事を提供する社員食堂を併設している会社もあるようだ。
Happy Relax(ハッピーリラックス)
精神や肉体の緊張をほぐして、くつろげる時間を持つ。
事務所を一般的な事務机だけの配置にはせず、雑談しながら仕事のできる配列にしたり、マッサージや瞑想(めいそう)や娯楽に没頭できる部屋を設置したりして、ゆったりできる環境を整える。
Happy Heart(ハッピーハート)
思いやりを持つ心を育む。
これにより社員の協力体制を確立する。会社の近所にタイ赤十字社の献血車が定期的に停車しているので、社員そろって協力することも多いようだ。
また、地域社会に寄与するために、会社近隣の美化運動に参加することもあるようだ。
Happy Soul(ハッピーソウル)
道徳心を養う。
僧侶が定期的に企業を訪問し、社員にお布施の機会を与えている。仏教の教えとともに道徳心をつくり上げて、善行を積むことができる。
最近ではイスラム教徒の社員のために、祈念室を設けている会社や公共施設である官庁・大学なども増えてきている。
Happy Brain(ハッピーブレイン)
生涯学習の推進。
これにより個人の頭脳水準を上げて、企業の売り上げに貢献してもらう。例えば語学教室の運営をしたり、分野別の講師を招請したりしている。
ただし、タイ人は自らの商品価値が上がると、より好条件を求めて転職する傾向が強いので、経営者は悩ましいところであろう。また、タイ社会においても職業を頻繁に変えることがあしきとは捉えられていないようだ。
Happy Money(ハッピーマネー)
妥当な金銭の管理術を学ぶ。
タイの若年層が借金する比率は右肩上がりというニュースも頻繁に流れている。さらに、タイ人は「宵越しの銭は持たぬ」という江戸っ子ですらも顔負けの気質なので、この取り組みは力点をおいてやっていくべきだと思われる。その証拠にタイの一般的な給料日である月末には、ATM*5の前に長蛇の列ができあがっている。
無駄遣いの抑止だけでなく、資金の運用方法や副業の知識についても無料の書籍や講師によって学ぶ機会を与える企業も存在している。
Happy Family(ハッピーファミリー)
社員の家族にとっても幸福な環境整備。
タイでは以前から一時的な出家*6休暇を有給・無休にかかわらず設けている会社が多い。ただし、出家休暇はタイ労働者保護法の規定ではないのだ。親のための出家でもあるため、家族にとっては一生に一度の大切な儀式である。だから、会社側も信仰心のあつい社員に対して一定の理解を示してあげる必要があるのだろう。
社員の家族が参加・利用できるさまざまな試みが行われている。日帰りの催しを開催したり、保育所の代替となる場所を設置したり、学費の負担をしたりして親睦を深めているようだ。
Happy Society(ハッピーソサエティー)
豊かな社会を現実化し、周囲に優しく接する。
収益を社会事業や救済運動に寄付する目的で行う慈善活動も行われている。
また、年長者の社員が退職した後に活躍できる場を、会社側が模索する動きもあるようだ。
ハッピー8はタイ王国に浸透しているのか?
外資系企業も一部では導入しているものの、正直なところ「ハッピー8」には程遠く、「ハッピー3」くらいではないだろうか。また、居心地のいい会社だとしても、待遇面で不満な要素があれば、転々と職を変えるのがタイの通例である。だから、特に中小企業に至っては、費用対効果の側面からも積極的にハッピー8を採用できない実情があるはずだ。
まとめ
派遣会社などの批評によれば、タイ人は業務を遂行する能力は高いが、自己の業務にのみ集中しがちだそうだ。今後、これらの気質をハッピー8によって、どれだけ統制できるであろうか。特にバンコクの交通渋滞と肩を並べる「給料日のATM渋滞」がどうなるか見ものである。
日本の企業もタイのハッピー8を参考にする余地はありそうだ。ただ、タイの文化的な背景が色濃く反映されている項目もあるので、日本とタイの「日泰折衷型」が理想かもしれない。そして、いつしか改善が得意な日本人によって編み出された「改良版ハッピー8」がタイに逆輸入される日が来るやもしれない。
ちなみに、バンコクの「ハッピーアワー*7」は、だいたい17時からなのでお忘れなく。
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*1:健康に気を使うさま。健康的であるさま。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)
*2:仕事場, 職場, 作業場/出典:ウィズダム英和辞典 第三版(三省堂 2013年)
*3:物事の予定。行事の進行についての計画。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)
*4:幸福であるさま。しあわせ。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)
*5:【automated-teller machine】カード・通帳を用いて,現金の払い出し・預け入れ,また振り込みなどを行う装置。現金自動預け入れ払い機。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)
*6:【仏】家庭などとの関係を切り,世俗を離れ,戒を受けて僧になること。また,その人。現代では,各宗派の定めにしたがって,僧としての資格を得ること。僧侶。僧。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)
*7:【happy hour】バーやパブ,レストランなどで,平日の夕方などに設定される割引サービスの時間帯。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)