人生は旅だ

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岐路に立つ藤浪晋太郎投手と大谷翔平選手の二つの未来

野球場の土と芝生

日本球界屈指の投手である阪神タイガースの藤浪投手と日本ハムファイターズの大谷選手。今年は両雄ともに不調や故障に苦しみ辛酸をなめている。かつて甲子園を熱狂させた1994年生まれの二人。「人生の地図」における現在地と、さらなる高みを目指す姿を追う。

2017年10月24日:用字用語の整理。

阪神・藤浪投手がスランプから脱出する日

新人の年から3年連続で2桁勝利。4年目こそ7勝に留まったものの、阪神のエースと呼ばれるに足る成績を残してきた藤浪投手。制球力の不安はありながらも、角度のある最速160キロのストレートと曲がりの鋭いカットボールで、プロの打者を抑え込んできた。しかし、今年は制球難がひどく、5月にはけが以外では初の二軍落ちを経験した。自らの死球が発端で乱闘騒ぎになる場面が続いており、自身を喪失してしまったようにも映る。

WBCの影響で見失った投球フォーム?

藤浪投手は昨季から投球フォームが定まらず、試行錯誤を繰り返しながら登板を続けてきた。結局納得がいく形に行き着くことはできず7勝に終わり、入団以来続いていた2桁勝利も途切れてしまうこととなる。

2017年のシーズン*1は改めて自分の投球フォームを固め、再出発する必要があった。そこで一つの試練が訪れる。WBC*2代表選出である。もちろん野球選手冥利(みょうり)に尽きる名誉ではあるはずだ。また、選出自体を非難する意図は全くない。ただし、実力を十分に発揮するのを阻む障壁が高かった。

かねて投球フォームに不安を抱えており、追い打ちを掛けるように異なるWBCのボールやマウンド。その状況下での調整は苦難を強いられたのだろう。当然のごとく思うような結果を残せず、登板機会も逸してしまう。そのため投げ込みもろくにできないままセ・リーグの公式戦に突入してしまう。日本プロ野球のボールに戻ったが、感覚をつかみきれず制球難となり悪循環に陥ってしまった。

評価されたからこその不運だ。その結果、投手の生命線である投球フォームを崩してしまうこととなる。「己のため」の調整に時間を割くことができなかったのだ。

優勝争いを演じてきたチーム故の苦悶(くもん)

藤浪投手は自身の不調の原因をしっかり把握できているようだ。イップス*3や精神面での問題を指摘するOB*4や野球解説者が多い中、次のように自らの課題に対して言及している。

メンタルどうこうより、フォーム的におかしくなったところを、自分で直せないことが第一。

(引用:株式会社デイリースポーツ

つまり、藤浪投手に一番必要なのはWBC参加によって失われた「時間」なのである。今季は序盤からの不振のため、5月27日に無期限の二軍での調整を命じられた。3カ月を経て一軍に復帰するが、制球難からの自滅で二軍にとんぼ返りした。

阪神は、クライマックスシリーズ*5への進出を懸けた争いの真っただ中だった。勝ち頭であるランディ・メッセンジャー投手が故障で離脱しているさなか、藤浪投手の復活はチームの「命の綱」となった。「来季に雪辱を期す」と悠長に構えることが許されない現状となったのだ。その過度な期待と焦燥感が復活を邪魔したことは否めない。

また、藤浪投手を巡る阪神首脳陣に対する否定的な意見も散見されるようだ。ただ、日本には「かわいい子には旅をさせよ」や「叱咤(しった)激励」という素晴らしい言葉がある。金本知憲監督は現役時代に鳴かず飛ばずの二軍時代を経験している。そのときの血と汗の結晶で「鉄人」と呼ばれる不動の地位を築いたのだ。藤浪投手の二軍行きの決断は苦渋の選択だったはずだが、一皮も二皮もむけてたくましくなってはい上がってくる姿を自身にダブらせているのかもしれない。

日本を代表する投手だからこそ、この状況がよみがえるための血となり肉となることを信じたい。彼こそが大谷選手が抜けた日本球界の穴を埋める、名実相伴う「野球人」なのだから。

ついに海を渡る大谷選手

夢であった大リーグへの挑戦を球団に認められ、ポスティングシステム*6での移籍が決まった大谷選手。昨季は打者と投手の「二刀流」を物の見事にやってのけ、パ・リーグのMVP*7に選出される活躍をみせた。

しかし、今季は昨年の終盤に痛めた右足首のけがが完治せず、投打ともに精彩を欠いている。シーズンオフ*8には足首の手術も検討されており、プレーへの悪影響を不安視されている。

完治しない右足首の手術

昨年の野球日本代表である侍ジャパン強化試合で負傷した足首のけがは、一度は回復に向かったが春のキャンプで再発。WBCに不参加、パ・リーグの公式戦でも長期離脱を余儀なくされてしまう。「手術して完治を目指すべき」と将来を不安視する声も多い中、それを選ばなかった大谷選手は「痛さをこらえてやりたい」と述べている。

大リーグだけに照準を合わせるのであれば、すぐに手術すれば盤石の状態で米国に勝負できる。しかし、大谷選手はファンに重きを置いたのである。

栗山英樹監督は無理な起用に対する批判も幾度となく浴びせられてきたが、大谷選手の心意気をくみ取り、現状における最善の起用法を模索してきたことがうかがい知れる。

二刀流を見たい気持ちとは相反して、選手生命を大切にしてほしい気持ちがファンの大部分を占めるはずだ。ただ、洋を渡り世界に名を馳せる前に、最後の勇姿を目に焼き付けておきたい思いがないといえばうそになる。

期待が膨らむ大リーグでの活躍

球団がポスティングでの大リーグ挑戦を容認したことで、早くもスカウト*9合戦は加熱している。まだシーズン中のため、大谷選手が希望する条件は明らかになっていない。恐らく二刀流に重点が置かれるであろうが、その他の要望については判明していない。大リーグスカウト陣がこの上なく食指を動かす情報だろう。

一つ確定的なのは「金銭面」ではないことだ。大リーグは昨年の労使交渉で25歳未満の海外選手を獲得する場合、契約金は575万ドル(約6億3000万円)までに制限されることに決まった。もし大谷選手が25歳に移籍すれば上限が撤廃されるため、契約金は総額2億ドル(約220億円)に上るとも予想されている。23歳の大谷選手はその好条件を待つことを選ばなかった。だから、金銭面を重視する姿勢に転じることは考えにくい。

住環境やワールドシリーズ*10を制覇できそうなチームや自身の出場機会などは交渉のテーブルに並べられるかもしれない。

これまでの大谷選手のストイック*11な姿勢から逆算すれば、自らの成長のために最も負荷がかかる環境を選択するのではないだろうか。世間からの注目の的でメディア*12やファンからの容赦ない嘲罵を浴びせられる。加えて、激しいチーム内競争で毎年のように優勝候補に挙がるチームといえば一つしかない。ニューヨーク・ヤンキースである。

あの元祖二刀流であるベーブ・ルース選手が所属していたチームと表現すれば、何かの因果を感じずにいられない。その彼の記録を大谷選手が塗り替えていく。いささか空想が過ぎるだろうか。

まとめ

2012年の甲子園を沸かせた二人の高校球児。それぞれが苦境を迎えてはいるが、日本を代表する選手であることになんの疑いもない。

藤浪投手は日本プロ野球を支える投手となり、大谷選手は大リーグ挑戦する。甲子園では春夏連覇を成し遂げて活躍をした藤浪投手が、再び脚光を浴びる球界を代表する一人にのし上がっていくのか。二刀流で新しい歴史を切り開いた大谷選手が、ベーブ・ルースをほうふつとさせる活躍を見せてくれるのか。二人の明るい未来を期待せずにいられない。

二人は時の「大選手」と称された誰しもがスランプ*13にもがき苦しみ、それを乗り越えてきた事実を忘れないでもらいたい。

*1:【season】ある物事をするのによい時期。また,盛んに行われる時期。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*2:【World Baseball Classic】アメリカの大リーグ機構と選手会が主催する,野球の国別対抗戦。第 1 回大会は,北米・南米・アジア・ヨーロッパなどから 16 の国・地域が参加し,2006 年 3 月に開催され,日本が優勝した。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*3: 【yips】俗に,スポーツ(特にゴルフ)の集中すべき局面において極度に緊張すること。また,そのために震えや硬直を起こすこと。イップス病。〔「子犬が吠える」意味の yip が語源〕/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*4:【old boy】(男性の)卒業生,先輩。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*5:〔和製語 climax+series〕プロ野球セパ両リーグで行う,日本シリーズ出場権を争う試合。ペナント戦の上位 3 球団が出場して,2 位・3 位球団が 3 回戦制で対戦,その勝者と 1 位球団(アドバンテージ 1 勝)が 6 回戦制で対戦する。ただし両リーグの優勝球団はペナント戦の勝率 1 位の球団とする。2007 年(平成 19)より実施。CS。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*6:【posting system】アメリカの大リーグ球団が,移籍を希望する日本のプロ野球選手との独占交渉権を獲得するために行う入札制度。落札した球団は,選手が所属する球団へ落札額(移籍金)を支払う。1998年,日米間選手契約協定に盛り込まれた。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*7:【most valuable player】スポーツ競技で最も優れた活躍をした選手。最優秀選手。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*8:〔和製語 season+off〕物事が盛んに行われる時期以外の時。季節はずれ。オフ-シーズン。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*9:【scout】有能な人材を探し出し,誘って引き入れること。また,それを仕事とする人。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*10:【World Series】アメリカのプロ野球選手権試合。毎年,ナショナル・アメリカン両リーグの優勝チームの間で行われ,七回戦中,四回先勝したほうを勝ちとする。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*11:【stoic】〔ストア哲学の信奉者の意から〕禁欲的に厳しく身を持するさま。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*12:【media】手段。方法。媒体。特に,新聞・テレビ・ラジオなどの情報媒体。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*13:【slump】気力や体調が一時的に衰え気味で,仕事の能率や成績が落ちる状態。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)