人生は旅だ

よもやま話に花が咲く

タイのバンコクにある路上屋台は一掃されてしまうのか?

バンコク・チャイナタウンにある屋台

タイ旅行中に屋台で食事をする方も多いはずだ。ところが、2017年4月に「バンコクの屋台を2017年内に路上から一掃する」というニュースが報道された。思い出のあるタイファンからは動揺の声が一様に漏れたはずだ。果たして屋台は消え去ってしまうのだろうか。

2017年10月28日:用字用語の整理。

タイ暫定政府のプラユット・チャンオチャ首相が打ち出したThailand4・0政策

重ねられた白色の資料

その目標はタイ王国を他の先進国と同様の国家にするよう経済・交通・衛生面で発展させると明記されている。暫定政府はタイの屋台が食品業界の売り上げの圧迫・交通の妨げ・不衛生の温床になっていると指摘し、2017年4月に「屋台を2017年中に路上から一掃する」と声明を出した。

観光業が国内産業の大部分を占めるタイにとって、この政策は国民にどのように映るのか注目である。

タイ国民の意見と暫定政府のもくろみ

タイの市場にある通り

タイは2014年のクーデター*1により軍事暫定政府が治める軍政国家となっている。「自由の国」といわれるタイの心象とは掛け離れる「軍政国家」という統治形態なのである。

ただ、「暫定」にもかかわらず3年も続いているのがいかにもタイらしい。民主的に選出されていない首相が治める以上、以前の政府のように「つうと言えばかあ」の袖下を使う付き合い方とは相違がある。これがタイ人の一般的な認識のようだ。

社会通念に照らすと当然と思える法令・規律の順守が、タイ国内で厳格化され始めている。その一つがThailand(タイランド)4・0に含まれている「バンコクの屋台の撤去」なのである。

現在まで撤去されなかった理由は?

実は以前より「屋台の撤去」は政府関係者や行政担当者から問題視されており、明文化もされていた。しかし、徹底はされなかった。なぜか。以前の政府ではタイ特有の「有用な方法」が横行していた。それはタイ語で「机の下」といわれる賄賂のことである。

その結果、あらゆる通りに屋台がひしめき合っているバンコクの騒がしさ、混沌(こんとん)とした状態が現在まで誰にも侵されることなく増殖していった。皮肉なことに、観光客にはそれらがタイの魅力の一つと認識されているのも事実である。しかし、現在の暫定政府はしがらみがないため、今まで誰もが不可侵であった「通りの屋台」が危機に直面することになってしまったのだ。

本当に屋台は撤去されるのか?

BBC*2のニュースでもタイの屋台撤去が報道されており、一部区間が撤去されている様子が映し出されていた。報道では屋台の店主が収入源を失ってしまう悲惨な現状を伝えていた。

しかし、彼らには裏の通りでさっさと屋台を再開するたくましさがあったのだ。また、それをとがめない警官の「タイらしさ」も印象的である。われわれが考える「敗者復活戦のない撤去劇」とは少々異なる様相を呈していたのだ。

別の現場では撤去の実行日前に事前通知され、屋台の店主たちが当日は休業にするなど対策を取っていたようである。功徳を重んじる国民性なのか、公益を優先したのかは不明だ。ただ、屋台の店主にとっても取り締まる側にとっても「けんか両成敗」となって安堵(あんど)のため息だろう。

なぜタイには路上屋台がたくさんあるのか?

タイ風ソーセージの露店

タイに旅行したことがある方は、所狭しと路上屋台が並んでいる光景を目にしたことがあるはずだ。何故こんなにも路上屋台がタイ人からも受け入れられ、職業選択の一種として浸透しているのだろうか。まず理由としていの一番に挙げられるのは「手軽さ」だろう。

タイでは店舗を開業して食品を扱う際に保健衛生に関する許可証や種々の免許などは不要だ。必要なのは開業届と納税義務のみである。路上屋台においても同様である。店主たちは高額の店舗を賃貸せずとも自分の店舗が運営できる路上屋台に走ることになる。路上に屋台を構える許可は軒先を提供することになる住人に許可を取ってしまえばいいのだ。

コンビニエンスストア*3の前に所有者の許可をもらって屋台販売を行っている様子もよく見受けられる。屋台の店主と住人の間の話し合いで幾らかの賃貸料の支払いや掃除・ごみ捨ての徹底を条件に出店しているのである。

さらには衛生許可届や免許が必要ないため、店主の希望でメニューも気軽に変更することができる。だから、鶏飯の屋台がタイ風ラーメンの屋台に早変わりしているなんてことも日常茶飯事なのである。余計な経費がかからず、安価な食事を提供できる点も消費者に重宝されている理由だ。 

まとめ

タイのするめの出店

観光立国でありながら暫定首相の号令の下に始まった屋台撤去政策は海外のニュースにもなった。国民は食事の調達を心配し、タイファンは独特の騒々しさが失われてしまうことを懸念した。規範を破る屋台の店主や客による不衛生・騒音も発生しているが、比較的少数であるから悪影響はなさそうだ。

結局は開業の安直さ・高い支持率・タイ人の気質を加味すると、屋台の撤去が駆け足で徹底されることはなさそうである。気軽に利用できる台所感覚の屋台店舗は、まだまだ存続しそうだ。

交通渋滞を尻目に屋台で飲む氷入りビールもたまには悪くないはずだ。

*1:【フランス coup d'État】既存の政治体制を構成する一部の勢力が,権力の全面的掌握または権力の拡大のために,非合法的に武力を行使すること。国家権力が一つの階級から他の階級に移行する革命とは区別される。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*2:【British Broadcasting Corporation】イギリス放送協会の略称。公共放送のための事業体。1922 年にBritish Broadcasting Company として設立。1927 年改称。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*3:【convenience store】早朝から深夜まで,あるいは無休で日常生活に必要な品を中心に扱う小型のスーパー-ストア。コンビニ。CS。CVS。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)