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野球の常識が覆される!フライボール革命とは?

投球を打ち上げた右打者

球界を震撼(しんかん)させる変革が起きている。「ゴロを転がせ」は少年野球から教えられる打撃の大鉄則だった。しかし、大リーグでは「ゴロは打つな。フライを打て」が当たり前になりつつある。これまでの指導法を劇的に変える「フライボール革命」とは。

フライボール革命の第2弾記事はこちら
大リーグの「フライボール革命」に起きた次なる進化とは?

2018年3月23日:用字用語の整理。

ホームランが急増している大リーグ

今季の大リーグ*1の総本塁打数は、史上最多の6105本であった。これまでの最多は2000年の5693本だから、400本以上の急増となっている。2000年といえば、筋肉増強剤であるステロイド*2の使用が騒がれていた年である。近年は検査が厳格になったにもかかわらず、悠々とその記録を上回っているのだ。

一部からは「ボールの飛び過ぎ」に起因するとした意見も聞かれるようだが、決してそうではないのだ。なぜなら、大リーグの打者たちは今までの既成概念をひっくりかえす改新を起こしていたからだ。

ゴロよりフライの方がヒットの確率が高い

大リーグの公式の専門家が打球速度と角度を分析したところ、打者が好成績を残している「バレルゾーン(Barrel Zone)」の存在を発見した。それによれば打球速度が158キロ以上、角度が30度前後の打球は8割がヒット、その多くがホームランになっているそうだ。

さらに、統計学に基づくセイバーメトリクス*3によれば、フライ*4よりもゴロ*5の方が、アウト*6になる確率が高いことが立証されたというのだ。実際に2013年の日本プロ野球のデータ*7を見ると、ゴロによるアウトの確率が77%に対し、フライは63%。ゴロかフライかによって14%の違いが生まれているのだ。

日本プロ野球におけるゴロとフライの打球の結果(2013年)

  アウトになる確率 ヒットになる確率
ゴロ 77% 23%
フライ 63% 37%

大リーグでは各打者の打球方向のデータから、日本よりも大胆なシフト*8を敷くのが当然になっている。つまり、いい当たりのゴロやライナーを打ったとしても、アウトになる可能性が高くなっているのだ。

そのような一聴すると打者不利と思われる状況下もバレルゾーンの認知を後押ししたはずだ。ゴロよりフライを打って、ヒットを増やす論理が普及してきたのだ。

フライを上げる練習に取り組む大リーガー

この理論に従い、大リーガーたちはバレルゾーンを意識してフライを打つ練習に取り組むようになっている。長らく野球の常識となっていた、ボールを上からたたく、俗にいう「大根切り」でゴロやライナーを打つ練習ではなく、ボールの下面を打ちフライを打ち上げる練習だ。

今季の大リーグにおけるアメリカンリーグ*9でホームラン王となったニューヨーク・ヤンキースのアーロン・ジャッジ選手は、フライを打つ練習に取り組んでいる選手の一人だ。ボールを時計に見立て、ボールの下面左側である7時を指す部分にバットが当たるように意識してバッティング練習を行っているそうだ。意図的に打球が上がる確率を高めるためだ。結果はホームラン52本。打率は2割8分4厘であるが、彼はまだ大リーグ1年目である。だから、伸び代を加味すれば、来季以降の活躍が非常に楽しみだ。

また、このフライボール革命をチーム全体で取り組んでいる球団がある。チーム打率・総得点・長打率が大リーグ首位。総本塁打数は首位と3本差の2位。打撃において群を抜く結果を残した。ワールドシリーズ*10でダルビッシュ有投手や前田健太投手が手痛い一発を浴びた記憶も新しいのではないだろうか。そう、今季のワールドチャンピオン*11、ヒューストン・アストロズだ。

日本でも広まりつつある革命

このフライボール革命は日本プロ野球でも徐々に広がりを見せている。ここ最近の好例を挙げれば、福岡ソフトバンクホークスの柳田悠岐選手だ。柳田選手は今季序盤は不調に陥り、2割台の打率をなかなか抜け出せない状態が続いていた。

人工芝の張り替えが本拠地のヤフオクドームあったため、ゴロの勢いが芝に吸収されやすくなり、柳田選手の豪快な一振りを持ってしても打球が内野の間を抜けづらくなったことも要因の一つであるようだ。

その不振からの脱却のきっかけとなったのが、大リーグから今年ソフトバンクに復帰した川崎宗則選手の言葉だった。「ゴロは打つな。フライを打て」

大リーグでフライボール革命を目の当たりにしてきた川崎選手の一言を境に、柳田選手は目の前の霧が晴れたかのように見事に打ち出した。打球の傾向を見ると昨季はゴロは138、フライが62。それに対して、今年はゴロは93、フライが100。内容が変わっているのは一目瞭然だ。今季の打撃成績は打率3割1分、本塁打31本、打点99と日本一奪還に大きく貢献している。

30年前から実践していた日本人選手がいた

大リーグでこの理論が確立される前から、既に自らの打撃に取り入れ実践している選手が日本球界にいた。3度の三冠王を達成した落合博満氏だ。

練習で行うトスバッティング*12は通常はボールの芯を打ち抜くことにより、投球に対して打つべき一点の確認を行うのが主な目的である。

一方、落合氏のトスバッティングはボールの下方を叩き、回転を掛けてフライを打つ練習として行っていた。フリーバッティング*13でも、打撃投手に遅いボールを投げさせて、ひたすらにフライを打つ練習をしていたのだ。

落合氏のバッティングを専門家が解説するときに「バットにボールを乗せる」という表現が決まり文句のように用いられていたが、これこそが落合流「フライボール革命」であったはずだ。

当時は「オレ流」などと独自の練習方法をやゆする嫌いもあった。しかし、時を経て、データという裏付けとともに戻ってきた「オレ流の理論」は全盛期を迎えようとしている。己の道をひた信じて、結果も出してきた落合氏。やはり「努力と天才の人」であったと言わざるを得ないのだ。

まとめ

この「フライボール革命」は特に若い選手の間で、浸透しつつあるようだ。今年のワールドベースボールクラシック*14において、読売ジャイアンツの坂本勇人選手が他球団の打者たちに打撃理論を聞いたところ、大部分の選手がアッパー*15スイング*16を意識していることに衝撃を受けたようだ。

埼玉西武ライオンズの秋山翔吾選手もボールを下から打ちにいく心象を持ってから打撃が向上したと語っている。これまで長打が少なく、高い打率を維持する打者だった秋山選手が本塁打数を昨季の11本から今季は25本と倍増させている。加えて、打率も2割9分6厘から3割2分2厘に上がっていることは非常に興味深い。

来季以降に「フライボール革命」がプロ野球を席巻すればどうなるだろうか。少年野球からプロ野球までの練習方法ががらりと様変わりする契機となるかもしれない。

さぼりは必ず「ばれる」ものだからご注意を。

*1:アメリカのプロ野球で,最上位の連盟。ナショナル-リーグとアメリカン-リーグの二つがある。メジャー-リーグ。ビッグ-リーグ。MLB。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*2:【steroid】炭素六原子から成る環状構造三個と,炭素五原子から成る環状構造一個とを含む構造(化学式 C17H28)を基本骨格にもつ一群の有機化合物の総称。ステロイド誘導体には各種のホルモンとしてのはたらきをはじめ,さまざまな生理作用・薬理作用をもつものが多い。動植物体に広く分布するほか,天然にないものも多数人工合成されている。性ホルモン・副腎皮質ホルモンなどのホルモン,ステロール・胆汁酸・エクジソンなどがこれに属する。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*3:【sabermetrics】野球データを統計的に分析し,選手の評価や戦略の立案などを行う手法の一。野球の伝統的戦略に新しい価値(犠牲バント・盗塁の効力は小さいなど)を与えたほか,選手の過去の成績から将来の成績を予測する手法も開発された。大リーグでは近年,これを実戦に採り入れるチームも登場している。〔アメリカ野球学会(Society for American Baseball Research)の略である SABR と,metrics(測定基準)からの造語〕/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*4:【fly】野球で,打者が打ち上げた球。また,それを守備側の選手が直接捕球したもの。飛球。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*5:〔grounder からか〕野球で,地面をころがるか,バウンドしていく打球。グラウンダー。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*6:【out】野球で,打者または走者が攻撃の資格を失うこと。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*7:【data】判断や立論のもとになる資料・情報・事実。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*8:【shift】野球で,相手の攻撃に対して野手が通常の守備位置とは異なる守備態勢をとること。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*9:【American League】アメリカのプロ野球の二大リーグの一。1900年結成。98年以降,一四チームが所属。ア-リーグ。AL。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*10:【World Series】アメリカのプロ野球選手権試合。毎年,ナショナル・アメリカン両リーグの優勝チームの間で行われ,七回戦中,四回先勝したほうを勝ちとする。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*11:【champion】選手権保持者。優勝者。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*12:〔和製語 toss+batting〕野球で,近い所から投げられた緩い球を軽く打って,正確にバットの芯に当てる練習。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*13:〔和製語 free+batting〕野球で,打者の望む球を投げさせて打つ打撃練習。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*14:【World Baseball Classic】アメリカの大リーグ機構と選手会が主催する,野球の国別対抗戦。第 1 回大会は,北米・南米・アジア・ヨーロッパなどから 16 の国・地域が参加し,2006 年 3 月に開催され,日本が優勝した。WBC。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*15:【upper】他の外来語の上に付いて「上層の」の意を表す。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*16:【swing】〔スウィングとも〕バットやクラブなどを振ること。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)