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難解タイ語の輪郭に触れてみる!言葉を学んで文化を知る?

青空教室で点呼を取る女性教師

タイ語といえば世界三大スープの「トムヤムクン」や魚醬(ぎょしょう)のナンプラーくらいしかなじみがないはず。独特な文字と鼻声で歌っているかのような節回しに尻込みしがちだ。そこで、今回はタイ文化の入り口ともなるタイ語の概要をお伝えしたい。

タイ語習得は至難の業?

タイの輸送車に記載されたタイ語

日本の情報誌やウェブサイトではタイ語*1の習得が5段階で4ほどの難しさと記されていることが多い。一方、調査対象を全世界に向ければ、中国語*2を身に付けるのが「難しさの最高峰」となるようだ。なぜなら、なじみのない漢字を1000文字以上も覚える必要がある上、後述する「声調*3」言語のため、発音も併せて学習しなければならないからだ。

しかし、日本人にとっては漢字を学ぶ点で有利な立場にあり、中国語が最高難度の言語にはならない。また、本稿の主役であるタイ語も練り上げられたカリキュラム*4に沿ってタイ文字から学習を進めていけば、効率的に習得できるので臆する必要はない。

英語社会から見たアジア言語

世界人口は74億人を超え、各地でさまざまな言葉が使用されている。英語を公用語とする国は58カ国以上あるといわれ、その発祥地の英国からヨーロッパ*5をはじめ、アメリカ*6大陸やオーストラリアの住人となり、広く分布していった。そして、周辺地域の言語にもローマ字*7の影響が及び、成り立ちに深い関係性を示している。

アフリカ*8の国々では欧米各国による植民地支配の歴史がある。そのため、現地語以外にも英語が主要言語として使用されている。彼らにとってローマ字表記をしない日本語やタイ語が難解なのは無理もない。

タイ語の概略

タイ語で書かれた交通標識

元々言語学的にシナ・チベット語族の分類であったが、現在では「独立した語族」とするのが主流になっている。インド*9のサンスクリット語*10やパーリ語*11からの借用語*12が多い。独自の文字が使用され、母音・子音・発音記号などが記される。

ラオス*13語やカンボジア語*14に近い言語とされている。そのため、ラオス語のアルファベット*15の見た目はタイ語と酷似しており、タイ語学習者なら容易に類推できるはずだ。また、タイ語の「元気です」がラオス語の「こんにちは」を意味するなど両語のつながりは非常に強い。さらに、イサーン(タイ東北部)で話されているイサーン方言だが、言語学上もタイ語ではなく、ラオス語に属している。

音の高低を表す声調の他にも気息*16を伴う発音の「有気音*17」と気息を伴わない発音の「無気音」の区別や末子音など、日本語では意味の違いが生じない複雑な発声規則が存在する。

驚くべきタイ語の母音と子音の数

目標にもよるのだが、一般的に文字から覚えるのが効率的だ。ところが、母音の数は日本語の5個に対し、タイ語は32個もある。また、子音の数は日本語の13個に対し、タイ語は44個にも及ぶ。

  母音の数 子音の数
日本語 5個 13個
タイ語 32個 44個

母音や子音の種類が多いため、発音の数が必然的に増える。例えば日本語の母音「う」に相当するタイ語の母音は6音もある。つまり、正しく使い分けて発音しないと、意思疎通がうまくできないのだ。

5種類ある声調言語

タイ語は声調言語である。声調とは日本語にはない概念で、各音節*18に決められた音の高低や上がり下がりの発音を指す。タイ語の節回しがまるで歌のように聞こえるのもそのためだ。

タイ語の声調

  1. 平声
  2. 低声
  3. 下声
  4. 高声
  5. 上声

本動画でも説明されているように、声調を正確に発音しないと「近い」と「遠い」の意味が入れ替わってしまうような情報伝達に支障を来す。日本語会話なら音の高低を意識しないが、声調言語のタイ語では無視できない重要な要素となる。

タイ語の学習方法

辞書の上に置かれた眼鏡

声調言語であるタイ語の学び方を考えてみたい。急がば回れで、まずはタイ文字をしっかり頭に入れておきたい。実際的でないようだが、タイ語が達者な日本人の大方がローマ字表記の学習に否定的である。

次に、山場の発音の練習が中心となるが、一難去ってまた一難といったところだろう。何しろ日本語にない音だらけで、発音するのもままならないはずだ。タイ語教師や音声ファイルに続いて復唱しようとするものの、口をどのように使って発声すべきかが分からずに難儀する。

そこで、焦る気持ちも当然なのだが、口腔(こうこう)*19断面図で日本語がどのように発音されているか学習するのを提案したい。「発声」を客観的に捉えられ、唇・歯・舌・声帯などの機能に意識を持っていけるはずだ。

後はスポーツさがらの猛烈な反復練習によって言い慣れることだろう。タイ語学習者が一度は通るいばらの道だろうから、さじを投げずに少しずつでも歩みを進めてもらいたい。

母国語の難しさはいかほど?

「一番難しい言語は何か」と世界中の人々に尋ねたら、「母国語」との答えが随分返ってくるそうだ。理由はずっと使い続けているにもかかわらず、誤用や不明な点がしょっちゅうあるかららしい。

確かにわれわれが知らない日本語は無限大にある。あなたも分厚い国語辞典をちらっと見て、きっとうなずいているはずだ。

まとめ

くちばしを開けている鶏

島国日本では標準語*20である日本語を当たり前に使って生活しているので、言語について掘り下げる機会は少ないかもしれない。しかし、自由旅行でタイを訪れたら、意思疎通ができずに面食らうこともあるはずだ。おまけに英語さえも通じず、目的地ではなくてタイ語の通訳がいる所へ躍起になって向かっているなんてことも。

裏を返せば現地語であるタイ語を少しでも話せれば、タイ人と接する機会が増える。それはタイ文化の一端に触れる契機にもなり、一層の好奇心にかられるはずだ。この好循環こそがタイ語を学ぶ上で最高の原動力となるのではないだろうか。

一方、日本語を話す外国人旅行者をわれわれはどう捉えるだろうか。文法や発音がおかしくても気にならない。むしろほほえましい気持ちにさせられるはずだ。なぜならば、その根底には「文化に対する敬意」が含まれているからだ。

だから、タイ語の巧拙など気にせずに、タイ人にどんどん話しかけてもらいたい。

その英断が後悔ではなく、「鶏」になることをお約束したい。

(出典:YouTube

*1:(Thai)タイ王国の公用語。カダイ語族タイ語派に属する。文字はクメール文字の系統に属する独自の体系。シャム語。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*2:(Chinese)漢民族の言語。シナ‐チベット語族のシナ語派に属する。形態は孤立語。北方(北京語など)・呉(上海語など)・閩(びん)(廈門語など)・粤(えつ)(広東語など)・客家(ハッカ)・湘(しょう)(湖南語など)・贛(かん)(南昌の方言など)の7大方言があり、北京語の発音と北方方言の文法・語彙を基礎とする共通語(普通話)が広く用いられる。シナ語。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*3:音節の構成要素である高低昇降のアクセント。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*4:【curriculum】(ラテン語 cursus(競走路)から)広義には、学習者の学習経路を枠付ける教育内容の系列。狭義には、学校教育の内容を発達段階や学習目標に応じて系統的に配列した教育課程。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*5:【Europa(ポルトガル)・(オランダ)・欧羅巴】(ギリシア語の Eurōpē から)六大州の一つ。ユーラシア大陸の西部をなす半島状の部分と、それに付属する諸島とから成り、面積約1050万平方キロメートル。人口約7億3800万(2015)。北は北極海、西は大西洋に臨み、南は地中海を距ててアフリカ大陸に対し、アジアとは東はウラル山脈、南東はカフカス山脈・黒海・カスピ海で境を接する。ギリシア・ローマの高度古代文明を経て、中世の約千年間キリスト教的統一文明圏を形成。イギリス・ドイツ・フランス・イタリア・ロシアなど約40の独立国に分かれる。エウロパ。欧州。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*6:【America・亜米利加】北アメリカと南アメリカの総称。コロンブスより少し遅れて渡航したイタリアの航海者アメリゴ=ヴェスプッチの名に因んだ呼称。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*7:ラテン語を表記するのに用いる文字。音素文字の一つ。エトルリア文字を元にしたもの。今日では世界中でひろく用いられる。英語では26文字。ラテン文字。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*8:【Africa・阿弗利加】(ローマ人がカルタゴ隣接地方を呼んだ語。のち南方の大陸全土を指した)六大州の一つ。ヨーロッパの南方に位置する大陸。かつて暗黒大陸といわれ、ヨーロッパ列強の植民地であったが、第二次大戦後急速に独立国が生まれ、その数は周辺の島嶼国も含めて約55。イスラム世界の北アフリカとサハラ以南アフリカとに大別される。面積3031万平方キロメートル。人口11億9千万(2015)。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*9:【印度】(India)南アジア中央部の大半島。北はヒマラヤ山脈を境として中国と接する。古く前2300年頃からインダス流域に文明が栄え、前1500年頃からドラヴィダ人を圧迫してアーリア人が侵入、ヴェーダ文化を形成。前3世紀アショーカ王により仏教が興隆。11世紀以来イスラム教徒が侵入、16世紀ムガル帝国のアクバル帝が北インドの大部分を統一。一方、当時ヨーロッパ諸国も進出を図ったが、イギリスの支配権が次第に確立、1858年直轄地。第一次大戦後、ガンディーらの指導で民族運動が急激に高まり、1947年ヒンドゥー教徒を主とするインドとイスラム教徒を主とするパキスタンとに分かれて独立。古名、身毒・天竺。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*10:【サンスクリット語】(Sanskrit は、完成された言語、すなわち雅語の意)インド‐ヨーロッパ語族のインド‐アーリア語派に属する言語。複雑な語尾変化・活用を有する。梵語(ぼんご)。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*11:(Pāli(パーリ) 線・規範の義から法典の意)スリランカ・ミャンマー・タイなどで仏典に用いた言語。プラークリットの一つ。インド‐ヨーロッパ語族のインド‐アーリア語派に属する。巴利語。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*12:(Lehnwort(ドイツ))ある言語体系から別の言語体系へ取り入れられ、日常的に使われる外国語・古語・方言など。外来語と同義にも用いる。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*13:【Laos・老檛】インドシナ半島中央部、メコン川中流域を占める人民民主共和国。1353年にランサン王朝が興起。1893年以来フランスの保護領。1945年独立。主要民族はラオ人で仏教徒。山岳・高原地帯には多くの少数民族が住む。言語はラオ語。面積23万6800平方キロメートル。人口649万2千(2015)。首都ヴィエンチャン。ラオ。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*14:(Cambodian)カンボジアの公用語。クメール語ともいい、オーストロ‐アジア語族のモン‐クメール語派に属する。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*15:【alphabet】文字が音素を表す文字体系の総称。ラテン文字・ヘブライ文字・アラビア文字など。ギリシア文字の初めの2字α(アルファ)とβ(ベータ)とを合わせて呼んだことに基づく。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*16:いき。息づかい。呼吸。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*17:(aspirate)無声破裂音(p, t, k)で、破裂後しばらく声門が無声の状態(開放状態)となり、母音の発音の前に気息を伴う音。帯気音。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*18:(syllable)一まとまりに発音される最小の単位。ふつう、核となる母音があり、その前後に子音を伴う。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*19:口の中の腔所で咽頭につながる部分。食物の摂取・咀嚼(そしゃく)・消化および味覚の場であるとともに、発声器の一部をなす。医学ではコウクウという。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*20:一国の規範となる言語として、公用文や学校・放送・新聞などで広く用いられるもの。日本語では、おおむね東京の中流階級の使う山の手言葉に基づくものとされ、上方方言をはじめとする諸方言や文章語の影響を受けつつ明治20年代に形を整えた。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)