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セ・リーグにも指名打者制を採用すべし?両リーグの実力差

高めのボール気味の球を強振する左打者

セ・リーグがDH制こと指名打者制の導入を検討している。セ・リーグのオーナー会議において複数球団から導入の希望があり、理事会でも本格的に検討を進めていくことが決まった。パ・リーグと相拮抗(きっこう)する力を持たせることが大義名分のようだ。

DH制がもたらす両リーグの実力差

今年の日本シリーズ*1は絶対的な不利が予想されていた横浜DeNAベイスターズが大いに善戦したものの、下馬評通り福岡ソフトバンクホークスが優勝旗を手にした。これにより直近10年間の日本シリーズ対戦成績はパ・リーグ*2の8勝2敗となった。さらに、セパ交流戦*3では2005年に開始して以来、セ・リーグが勝ち越したのはたったの一度のみ。しかも僅差ではなく、完膚なきまでに勝ち越しを許した年が目立っている。

セ・リーグのオーナー*4たちは「雲泥の差」の要因をDH*5制に見いだしている。制度を導入しているパ・リーグとは選手起用・育成、さらにはドラフト戦略の点で不公平を巻き起こしている。それらが「あしき結果」に結び付いていると考えているのだ。

DH制は選手を育てる環境をつくり出す

DH制は投手に代わって打撃専門の選手を起用できるルール*6だ。守備に難があっても打撃の優秀な選手を起用したり、守備の負担を軽減するためにベテラン*7を据えたりもできる。しかも、打者を1人多く起用でき、選手の出場機会を増やすことができるため、育成面でも効果が認められている。

投手は打席に立たない。そのため、セ・リーグでよく見られる相手チームに得点を先行されている場面で、代打で交代されることがない。すなわち、投球に専念でき、打席に立つ負担が無くなる。長いイニング*8を投げられることによって十分な経験を積むことができ、投手の成長にもつながっている。全体的な投手の水準が上がれば、好投手を打つべく必然的に打者の水準も呼応するように磨きがかかる。こうした「好循環」がもたらすDH制の副産物は選手育成において高い優位性を持っているはずだ。

ドラフト戦略にも影響が大きい

DH制の有無はドラフト*9で選手を指名する際にも有利に作用している。セ・リーグはDH制がないため、当然のことながら守備が重視される。守りがある程度安定している選手でなければ、試合に出場させづらい傾向にある。対してパ・リーグは「打力大なり守備力」の選手であっても、DHに入れる選択肢も生まれるため、指名の幅が広がる。

最近の好例で言えば、埼玉西武ライオンズの山川穂高選手であろう。打撃はぴか一だが守備と足はいまひとつ。このような評価から、セ・リーグは獲得にあたって二の足を踏んでいたが、西武はドラフト2位で指名している。

DH制の利点を生かして試合出場の機会が徐々に与えられた。そして、今年は4番に座り、打率.293・本塁打23本の好成績を残している。また、大リーグ*10に挑戦することになった北海道日本ハムファイターズの大谷翔平選手もDH制が無ければここまで大成し、二刀流を実現できていただろうか。

「野球は9人でするもの」は時代錯誤か?

セ・リーグがパ・リーグに追随してDH制の導入を検討していることに対し、否定派は「投手も打席に入るべき」「9人でするスポーツ」と難色を示している。ただ、DH制の利点は前述したような理論であり、事実、パ・リーグがその成果を実力でまざまざと見せつけている。

そのため、否定派の意見は「野球の伝統や醍醐味(だいごみ)」が失われるといった保守的なものになりがちだ。しかし、それを「古い考え方」と切り捨てるのは、あまりにも短絡的ではないだろうか。

野球の源流である駆け引きの面白さ

セ・リーグにおいては、投手が打席に立つことは試合の局面で実に重要な意味を持っている。攻撃側の代打・代走を出すタイミング*11や人選などもそうである。一方、守備側も窮地に立つ場面で前の打者を敬遠して次の打者である投手と勝負をしたり、次の攻撃の打順を意識した投手交代を計ったりする。いずれも、試合の生死を分ける要素になり得るのである。

この駆け引きこそが野球の面白さであり、これが無くなれば野球が大きく変わり、その魅力を失うことになる。極論すれば、「打つだけ守るだけ」の野球に傾倒することになりかねないのだ。

確かにDH制を導入すれば打撃戦が増える。得点の機会が多くなり、それが魅力的だとする意見もあるだろう。ただ、それは野球の一部分に過ぎない。野球というスポーツの本質は心理戦も含めた采配や戦術の中で、「点を奪う」「失策を誘う」「守り抜く」その駆け引きにこそあるはずなのだ。

両リーグに違いがあるからこその面白さ

パ・リーグがDH制を導入したのは1975年。当時の観客動員数の減少を受けて、大リーグでの成功例を参考に開始された。導入によって観客動員数の増加には直結しなかった。しかし、パ・リーグの得点数は伸び、攻撃的な野球はファンの間で支持を得られ、現在まで継続されている。

ただし、それはDH制のない比較対象のセ・リーグの存在があるからこそ差異が明確になるのではないだろうか。セパ交流戦や日本シリーズで相まみえたとき、打席に立たない投手がバットを構えたり、代打の切り札がスターティングメンバー*12に名を連ねたりと「非日常」に見応えを覚えるはずなのだ。

両リーグが異なる形式だから、特徴が際立つことによって独自性が生まれる。もしセ・リーグもDH制を導入すれば、お互いの持ち味までも相殺してしまい、野球ファンに対して逆効果となってしまわないだろうか。

その観点から「野球ファンの興味」という意味において、DH制の目的は既に達成されているはずだ。なぜなら、こうして両リーグの違いについて野球ファンが熱心に議論しているのだから。

まとめ

セ・リーグのDH制導入は賛否両論で、着地点がなかなか見いだせない課題だ。 野球ファンの間ではパ・リーグの選手育成の優位性や戦力の充実さは実感している。一方、セ・リーグの不公平感や盛り上がりに関する議論には至っていないように感じる。

それよりも野球ファンは小手先のルール改正より、各チームが強く個性的であること。なおかつ魅力的な試合が見られることが切っての願いであり、そのための具体的な球団運営に期待しているのではないか。

もしセ・リーグのオーナーたちがセパ交流戦や日本シリーズの結果から、実力差を埋めるためだけにDH制に踏み切るのであれば、野球人気を衰退させかねない危険も踏まえておくべきだ。あくまでも野球ファンの立ち位置から、しっかり見極めた上での慎重な判断が求められているはずだ。

一人の野球ファンとして「おもてなしの精神」によって生まれた日本発の制度が、いつか海を渡り大リーグに採用される日を夢見ている。

*1:日本のプロ野球のセントラル・パシフィック両リーグのその年度の優勝球団が,選手権をかけて争う試合。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*2:パシフィック-リーグの略。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*3:日本のプロ野球で,セントラル-リーグとパシフィック-リーグの球団が対戦する試合のこと。プロ野球改革の一環として,2005 年(平成 17)から公式試合に取り入れられた。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*4:【owner】所有者。持ち主。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*5:〔designated hitter〕野球で,打順が投手のとき,投手に代わって打つように指名されている打撃専門の打者。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*6:【rule】規則。きまり。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*7:【veteran】ある事柄について豊富な経験を持ち,優れた技術を示す人。老練者。ふるつわもの。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*8:【inning】野球で,両チームが攻撃と守備とを一度ずつ行う区分。インニング。回。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*9:【draft】プロ野球で,新人選手に対する入団交渉権を,全球団で構成する選択会議で決めること。過当競争を避けるためのもの。また,その会議で選ばれて指名されること。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*10:アメリカのプロ野球で,最上位の連盟。ナショナル-リーグとアメリカン-リーグの二つがある。メジャー-リーグ。ビッグ-リーグ。MLB。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*11:【timing】物事をする時期。ころ合い。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*12:〔和製語 starting+member〕試合開始時の出場選手。先発メンバー。スタ-メン。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)