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プロ野球の「先発投手予告」における長所と短所

投球途中の左投手

日本のプロ野球では翌日の先発投手を事前に発表する「予告先発制」が採用されている。レギュラーシーズンでは全試合発表されているが、日本シリーズでは未適用など、ばらつきがある。議論の余地がある本制度の是非を改めて考えていきたい。

2018年2月4日:用字用語の整理。

先発投手をあらかじめ発表することの意義とは?

予告先発制度は、1985年よりパシフィックリーグ*1の毎週日曜日の試合を対象に、観客動員数の減少の改善策として、野球ファンの歓心を得ることを目的に導入されている。

1994年からはレギュラーシーズン全試合で実施されるようになり、その一定の成果を見届けてから、セントラルリーグ*2も、2012年のレギュラーシーズンより全試合で予告先発制度を導入している。

導入の際には、「打高投低になる」「手の内を明かすに等しい」「予想する楽しみを奪う」など、野球ファンや采配に定評のある元監督の野村克也氏、落合博満氏、岡田彰布氏などからも否定的な意見が多く見られた。

大リーグ*3では、日本より先に予告先発を行っている。日本では翌日のみ先発投手を発表しているのに対し、3、4試合まとめて発表する。この部分に関しては戦略的な要素を一切合切排除しており、あくまでも野球ファンのため、観客動員のためと割り切っている点が興味深い。

予告先発の功績

試合前に一番気になるのは、先発投手ではないだろうか。ひいきチームと相手チームの先発投手を見比べて、試合結果をあれやこれやと展望し、球場に足を運ぶのも野球の楽しみ方の一つだろう。また、応援しているチームの有無にかかわらず、菅野智之投手や千賀滉大投手などの人気投手が先発と分かれば、それ目当ての観客も呼び込めるだろう。

相手投手をあらかじめ知ってから、スターティングメンバー*4を決めることができる。そのため、「分がいい」選手を起用したり、左投げに対しては右打者をそろえたりするなど、やや打撃有利に傾く。それにより乱打戦を誘発する一因にもなるため、多くのファンは「湿っぽい」投手戦よりも好むはずだ。

これらの観点から先発投手を予告することは、ファンに対して一定の「楽しみ」とチケット購入時の「安心感」を同時に与えている。さらに球団運営側からも、有力選手の出場による集客を逃さないという好影響がある。

しかし、有力投手が先発するなら良いが、ローテーション*5の谷間で力量が落ちる投手の場合、事前に判明することにより、集客に露骨な差が生じてしまうだろう。

「先発の読み」から生まれる駆け引きの妙味

古くからの野球ファンを中心に否定的な意見も多い。彼らは試合開始直前の両軍監督がメンバー交換するまで「先発が分からないからこそ面白い」と断言する。

投手起用の駆け引きも監督の重要な役目の一つであった。数え切れない「戦略・戦術」の中からほんの一握りをご紹介しよう。

  • 連戦の初戦、相手チームのエース*6が1戦目に先発予想されているが、あえて自軍のエースを外し、2、3戦目に投入することで勝率を上げる。
  • 勝負を懸けたカード*7であれば、先発ローテーションを崩して、3連戦全てに実績のある投手をつぎ込む。
  • マスコミに右投手の練習模様などを露出させ、次の試合に先発する空気を醸成させる。ところが、ふたを開けてみれば奇襲戦法で左投手が先発する。
  • 偵察メンバーをスターティングメンバー*8に入れておき、相手チームの先発投手が発表後、対戦成績などから適任の選手と交代させる。

いずれにしても相手チームをうまく欺き、戦局が優勢に転じると、監督はほくそ笑みはずだ。

予告先発されることで、監督による当意即妙な「投手起用」の機会が奪われ、ファンの「選手起用の驚き」や「戦術の楽しさ」が損失していることは否めない。

予想だにしない投手起用を、試合開始前のメンバー発表でびっくり仰天とともに目の当たりにする。そして、先発オーダーが1番から球場アナウンスで発表され、ピッチャーが発表された瞬間、血がたぎり一気に試合にのめり込んでいく。これが旧来の野球観戦における醍醐味(だいごみ)と感じる野球ファンも少なくないだろう。

まとめ

多くの子どもや女性ファンは、事前に先発投手が分かれば、お目当ての選手が確実に見物できる。だから、サービスの一環としては評価できる。一方で、虚を衝いた先発投手の抜てきで、快勝に導く試合も期待されており、全てのファンが納得する着地点はないのかもしれない。

だからこそ、日本シリーズ*9やセ・リーグのクライマックスシリーズ*10では採用されないようだ。つまり、いまだ検討の余地を残した制度となっているのだろう。日本シリーズでも、開催前に監督間の話し合いにより、予告先発を採用する事例が増えている。しかし、最終決戦こそ、選手起用の妙や監督の采配が生かされる舞台を用意することが、全ての野球ファンが楽しめる日本独自の予告先発制度になるのではないだろうか。

そしてもう一つ、ビールの売り子さんの予告先発制を、ぜひとも検討してもらいたいのだ。

*1:【Pacific League】日本のプロ野球リーグの一。1949年(昭和24)結成。六球団が所属する。パ-リーグ。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*2:〔和製語 Central League〕日本のプロ野球リーグの一。1949年(昭和24)結成。六球団が所属する。セ-リーグ。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*3:アメリカのプロ野球で,最上位の連盟。ナショナル-リーグとアメリカン-リーグの二つがある。メジャー-リーグ。ビッグ-リーグ。MLB。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*4:〔和製語 starting+member〕試合開始時の出場選手。先発メンバー。スタ-メン。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*5:【rotation】野球で,先発投手が登板する順序。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*6:【ace】野球で,主戦投手。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*7:【card】試合の組み合わせ。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*8:〔和製語 starting+member〕試合開始時の出場選手。先発メンバー。スタ-メン。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*9:日本のプロ野球のセントラル・パシフィック両リーグのその年度の優勝球団が,選手権をかけて争う試合。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*10:〔和製語 climax+series〕プロ野球セパ両リーグで行う,日本シリーズ出場権を争う試合。ペナント戦の上位 3 球団が出場して,2 位・3 位球団が 3 回戦制で対戦,その勝者と 1 位球団(アドバンテージ 1 勝)が 6 回戦制で対戦する。ただし両リーグの優勝球団はペナント戦の勝率 1 位の球団とする。2007 年(平成 19)より実施。CS。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)