アバルト 595 コンペティツィオーネの立ち位置とは?
2017年2月の変更で、アバルト 500からアバルト 595へと呼称が変更され、全て「アバルト 595」に一本化された。FIAT 500との差別化がより鮮明になったが、その中でも最も人気のアバルト 595 コンペティツィオーネについて、個人的な見解を述べてみたい。
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2018年3月29日:用字用語の整理。
ABARTH(アバルト)の基本姿勢
「アバルト」というと、最近ではマツダ・ロードスターの車体をどだいにFIAT製1・4Lターボ*1エンジンを搭載したアバルト 124 spider(スパイダー)の話題が記憶に新しい。NUOVA(ヌォーヴァ)500をどだいにした「アバルト 695」などの印象がいまだに強く、アバルトは硬派な車を製作する心象を持っている。
元々FIATの車種を改造してレースに参戦したり、部品や改造車の販売を行なっていたりしたアバルト社である。その改造車によって好成績をもたらした場合には、FIAT社から報酬が支払われる。このような契約が締結されていたことから、アバルトとFIATの「きずな」はとても深いものだった。
こんな逸話を聞くと、アバルト 695などを目にして感じた「強硬な主張・主義を持つ」心象は決して的を外していなかったはずだ。1971年にアバルト社をFIAT社が買収。2007年にFIAT傘下でアバルト社が復活。翌年2008年に現行FIAT 500をどだいにしたアバルト 500が誕生した経緯となっている。
かつて、NUOVA 500は庶民的な小型車であり、お財布にも優しい車であった。当時の車好きは、そんなNUOVA 500を改良して速くしたいと思ったことだろう。グループA全日本ツーリングカー選手権で活躍したトヨタ・AE86 レビン、カローラFX、ホンダ・シビックなど、町中でよく見掛ける車種が活躍している様子に、羨望(せんぼう)のまなざしを送ったものである。
そして、自身がやっとこさ買った愛車も、より楽しいマシン*2にすべく、油まみれになって改造したものだ。アバルトも間違いなく、イタリアにおいてそんな存在であったはずだ。
アバルト 595 コンペティツィオーネの諸元
アバルト 595 コンペティツィオーネは、595シリーズの中で最高峰に位置付けられたモデルである。標準車のアバルト 595、航続性能を強化したアバルト 595 ツーリズモ、アバルト 595C ツーリズモと比較しても、走行性能を強化する装備が満載だ。その筆頭は通常の日本IHI社製タービン*3に変わって装着されている、より大径の米国ギャレット社製タービン、それにより1・4Lエンジンながら180PS*4を発生する。
そのエンジン性能を最大限に活かすべき補機類や、大パワーを支える足回りには、通常オプション扱いとなっている以下のような部品を標準装備にしている。
- KONI社製FSDショックアブソーバー
- ハイパフォーマンス仕様コイルスプリング
- ブレンボ社製4ポッドキャリパー
- フロントドリルドベンチレーティッドディスク
- リアドリルドディスク
- レコードモンツァ・マフラー
- サベルト社と共同開発のアバルトコルサシート
- BMC製ハイパフォーマンスエアクリーナー
このうち、KONI社製FSDショックアブソーバーが随分優れもので、減衰力調整を機械式に自動調整してくれるものになっている。通常のショックアブソーバー*5は、本体に付いているダイヤルを回して調整したり、車内から電気式に調整したりする。それをこのFSDは路面からの入力状況によって、バルブ*6自体が減衰力を判断・調整する仕組みだ。装着されるタイヤサイズも、アバルト 595よりも、一回り大きく扁平(へんぺい)率の非常に低い205 / 40R17になる。それを10ミリ車高の下がる、強化コイルスプリングで締め上げる形になっている。
アバルト 595 コンペティツィオーネの立ち位置
前項でご紹介したような「てんこ盛り」とも言える数々の装備が施された「アバルト 595 コンペティツィオーネ」である。4種類用意されたアバルト 595シリーズの中でも、一番の売れ筋だそうだ。
国産車でも、かつてトヨタ・スターレットGTターボ、日産・マーチスーパーターボ、ダイハツ・シャレードGTtiなど、アバルト 595シリーズに比肩する、鋭角的な小型車のホットハッチがたくさん存在していた。現在、新車で買える国産車のホットハッチでは、マツダ・デミオ15MB、ホンダ・フィットRSなどがある。しかし、どれもおとなしくなってしまった感がある。
国産の小型車が穏健で、でっかくなってしまったとろこに、外車ながら一石を投じてくれたのが、日本においてのアバルト 595シリーズである。そして、小型車本来の寸法でありながら、操ることの楽しさを存分に堪能させてくれるアバルト595シリーズは、希少価値の高い1台である。
アバルト 595 コンペティツィオーネにおいて、その「とんがり」はさらに磨きがかかり、強調されている。賛否両論あろうが、初代のスズキ・アルトワークスの「気魂」を感じさせてくれるのである。初代アルトワークスは1987年登場だが、リッター当たり117・86PSという、当時の上級車種でも達成し得なかった馬力を実現した。
そこにフルエアロパーツの装着、軽自動車では初となる13インチタイヤの採用、室内はピンク色の左右非対称シートのいでたちであった。さすがにピンク色のシートには、スズキ開発陣の半端ではない気合に消費者が付いてこられなかった。そして、間もなくシルバー色に改められたという小話もあったほどだ。
ちなみに、現在の64PS馬力規制も、この初代アルトワークスを契機に始まった。そんな初代アルトワークスの雄々しい姿が、アバルト 595 コンペティツィオーネと重なって見えてくるのである。
まとめ
車好きのことを英語の「エンスージアスト」もしくは「エンスー」と表現することがある。この「エンスー」という響きには、スーツでしゃれたた車を操るような、どこか敷居の高そうな先入観を覚えてしまう。
アバルト 595 コンペティツィオーネの各装備を「てんこ盛り」と表現したが、これらの装備がエンスー好みだと予想される。その理由は、最上級のイタリアのブレンボ社のブレーキ、米国ギャレット社のタービン、イタリアのサベルト社のシートなど、ブランドの強みが前面に押し出されているためだろうか。それとも高級感を醸出できる365万~381万円の価格のせいだろうか。
片一方から見れば、アバルト 595 コンペティツィオーネは、度が過ぎるとも換言できる。英国のレンジローバーを引き合いに出すと、初代モデルは飾りが一切なくとも、実に美麗な車種であった。ところが、その後は、豪華さを必要以上に追求し、目指すべき目的地がぼやけてしまい、根本的な魅力を失墜させてしまった。
冒頭に触れたNUOVA 500などをどだいにしたアバルトには、いい意味での「硬派」や「泥臭さ」がにじみ出ている。2017年2月にアバルト 595は、ベース車のシートの表皮やエアコンを手動のものに変更することで、約30万円を値下げしたそうだ。しかし、それでも293万~309万円と高額である。一層の事、「複雑」をそぎ落として、単純なアバルト 595の方が良い出来栄えだと感じるのである。
アバルト 595を油にまみれながら、「世界で一つ」を作り上げていく。これも高尚な「車好き」であろう。「土」が「油」に変わっても、夢中になったあの頃の情熱は燃え続けているはずだ。
(出典:Fiat Chrysler Automobiles/スズキ株式会社)
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*1:【turbo】排ガスを利用してタービンを回し,混合気を強制的にシリンダー内に送り込んで圧力を高める,エンジンの補助装置。出力・トルクを高め,併せて燃費向上に役立つ。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)
*2:【machine】〔マシーンとも〕機械。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)
*3:【turbine】流体を動翼に吹き付け,それによって軸を回転させて動力を得る原動機。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)
*4:【ドイツ Pferdestärke】馬力を表す記号。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)
*5:【shock absorber】自動車や火砲などの機械的・電気的な衝撃を緩和する装置。衝撃吸収器。緩衝器。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)
*6:【valve】 弁。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)